夜思比売の栞

だいたい読書日記。 ときどきSound Horizonのことなども。

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 青崎有吾




風ヶ丘高校の学食の人気メニュー、二色丼。好きな丼ものを2つ選べるという画期的なメニューだが、その食器が外に放置されていた。

持ち出し可ではあるものの、風ヶ丘高校の学食では、使った食器は必ず戻すことと厳命されている。そのルールを破れば、持ち出しは禁止となってしまう。

たまたま居合わせた柚乃と早苗は、同じくたまたま居合わせた裏染に、食券二十枚をちらつかせて、事件を解決するように挑発する。(「もう一色選べる丼」)



館シリーズというと違うシリーズを思い浮かべてしまうが、このシリーズにタイトルあったっけ?とちょっと自信がない。若き平成のエラリィ・クイーンと言われる著者の、連作短編集。

体育館、水族館では殺人事件が起こっているが、こちらは学校を舞台にした日常の謎ものであり、柚乃や裏染のキャラクターを活かした日常バージョンのような感じがして読みやすい。

まあ人が死んでる方でも、他人事感があって、あまりドラマティックな陰惨さを感じさせない作風ではある。

逆に日常の謎ものは、当事者が高校の同級生であり、フィールドが日々の生活の場であり、この後も続いていく日常を思うと、こちらの方が重々しいとすら感じられるから不思議だ。


食堂の食器を放置していった犯人を、食べ残しや人的ネットワークで特定する速さ。ある意味、学校というクローズドサークルだからこそ可能なスピード解決にしびれた。

祭りの夜店の釣り銭が、なぜか五十円玉ばかりで帰ってくる「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」も、風情はあるし裁くこともできないが、なんとなく嫌な気持ちが割り切れなく残る。夜店の描写というか説明に、すごくそそられてお腹がすいてきた。


「針宮恵理子のサードインパクト」は人の無邪気な悪意をあぶり出すのかと思いきや、フツーにいい話だった。さわやか。

「天使たちの残暑見舞い」は謎のサービス話で、「その花瓶にご注意を」は裏染の妹、鏡華の性癖が明らかになる百合話。

まあ、おまけの裏染と謎の男がサウナで会う話は、舞台裏というかなんというか、裏染にそんなシリアスな秘密が無さそうなことが明らかになるので、あ、やっぱり気楽に読んでいいんだという気持ちになれた。

キャラに愛着を持てるけれど、そこに重い過去やドラマがないというのも、ミステリを軽快に楽しめて良いものだなと思う。

蘭の館 上下 ルシンダ・ライリー

蘭の館 (セブン・シスターズ)〈上〉 (創元推理文庫)
ルシンダ・ライリー
東京創元社
2017-07-20



蘭の館 (セブン・シスターズ)〈下〉 (創元推理文庫)
ルシンダ・ライリー
東京創元社
2017-07-20



ジュネーブの湖のほとりに暮らすマイア達六人の姉妹は、裕福な養父に世界中から集められた養女だった。プレアデス星団の星の名前をつけられた六人は、それぞれの才能を活かし、ほとんどが自立のために出ていった。マイア以外は。

あるとき、養父が亡くなり、娘たちが揃う前に葬儀も済まされていたことにショックを受けるマイア達。遺されていたのは、それぞれへの手紙と格言、そして座標だった。

その座標が、自分たちが生まれたところに縁があるらしいと知り、マイアはリオデジャネイロへと向かう。



個性豊かで、仲が良かったり悪かったりする組み合わせもある六人姉妹。(プレアデス星団の星は7つだが、七人目の姉妹はいない、ということになっている。)

突然の養父の死からして謎めいていて、一体養父は何者だったのか、何をして収入を得ていたのか、何故プレアデス星団の星の名前をつけたのか、それぞれへの格言の意味は等々、疑問がつきない。

読んでいくとどうやら、そういう謎解きはお預けで、姉妹それぞれの出生の秘密が語られていくので、世界中を視野に入れた壮大なシリーズになるようだった。


今回は長女のマイア編。語学の才能に恵まれ翻訳家をしているマイアは、自分の座標、リオデジャネイロで蘭の館と呼ばれる屋敷へと向かう。しかしそこに住んでいた老いた貴婦人はマイアに冷たく接し、マイアと話すことを拒む。

老婦人の母親とそっくりだったマイアは、メイドから古い手紙を託され、その話を読んでいくうちに、自分にとっては曽祖母にあたるイザベラの悲恋の物語を知るのだった。


裕福なイザベラと没落貴族の冴えない男との愛のない婚約、結婚前の最後の自由であるヨーロッパ旅行、そこで出会った若き彫刻家…という、いかにもなメロドラマが展開されるのだが、翻訳に癖がないからか、とてもスムーズに読める。

愛のない結婚と恋人と、互いの親に色々言われたりすること、密会のスリル、そして不義の子、などなど、ドラマティックなのは言うまでもない。

マイアからすると少し遠い感じがするが、遠いからこそ受け入れるのが楽ということもあるかもしれない。

マイア自身の母親も悲惨だが、その辺の事情は事実のみといったところで衝撃は少ない。

まあ、マイアのルーツは分かった、曽祖母の生き様も分かった、じゃあマイアはどうする?と歴史の物語からパスが回ってくるのが、清々しい。


ドラマティックで波乱万丈で、そしてまだ分からない謎も残っていて、ただひたすら面白く読めた。

これを七人姉妹分読みたいかというと微妙だが、七人姉妹を通して謎の人である養父の人生も明らかになっていくのだろう。

クオ・ワディス 上中下 シェンキェーヴィチ

クオ・ワディス〈上〉 (岩波文庫)
シェンキェーヴィチ
岩波書店
1995-03-16



クオ・ワディス〈中〉 (岩波文庫)
シェンキェーヴィチ
岩波書店
1995-03-16


クオ・ワディス〈下〉 (岩波文庫)
シェンキェーヴィチ
岩波書店
1995-03-16




ネロ皇帝時代のローマ。

軍団将校のウィニキウスは、滞在先の屋敷にいたリギ族の王の娘で人質のリギアに一目惚れし、リギアを得るために、叔父でネロの側近でもあるペトロニウスに相談を持ちかける。

ネロを言い含め、リギアを宮廷に引き取ったのちにウィニキウスに与えるつもりだったが、敬虔なキリスト教徒だったリギアは、ウィニキウスの振る舞いを拒絶し宮廷から逃げ出してしまう。

気も狂わんばかりになってリギアを探し求めたウィニキウスは、リギアを匿い、守るキリスト教徒たちの教えに触れることで、暴力的に奪おうとする劣情から、魂の結びつきを尊ぶ精神的な愛に目覚めていく。

しかし幸福な時間は続かず、ネロは己の芸術のためにローマに火を放たせる。

大火の悲惨さから、市民は怒りのはけ口を求め、やがてそれはキリスト教徒達に向かっていくのだった。



若くて美しい青年のウィニキウスだが、全編を読むと、主人公はウィニキウスではなくペトロニウスやキロンやペテロだ、と思わされるくらい、多くの人物達が実にいきいきと生きていた。

様々な人種や言葉、物の溢れる市場の様子や、貴族の退廃した食欲や肉欲がうんざりするほど並べられた宴、その中にあって趣味人と言われたペトロニウスの現世の楽しみ方など、繁栄していた時代のローマを目の当たりにするようで、素直で少し頼りないウィニキウスの身体を通して、ローマを生きているような気がした。

小説らしい小説を楽しんだという気がする。


性急な情欲でリギアを求めたウィニキウスだが、リギアの優しさ、リギアに愛されている喜びを知り、リギアを通してキリスト教の教えを知り、その性格は少しずつ変わっていく。

知性を発展させたギリシアの文化、そして肉体美や欲望の素晴らしさを花開かせたローマの文化、その後に、無私の愛と許しのキリストの教えによる精神の発見が待っていた。

一人の女を愛するだけのことが、相手を尊敬し、尊重するだけのことが、こんなに幸福で満たされるものなのかということは、実際それを感じてみないと分からないのかもしれない。ただ、ウィニキウスの変化は感動的で、同じ人間として憧れる。


ウィニキウスがキリスト教徒になるかどうかを迷っている間に、キリスト教徒の迫害が始まり、見世物として競技場で獣をけしかけられたり、十字架にかけられたりの大量虐殺が始まる。リギアも捉えられているため、ウィニキウスはリギアを脱出させるために奔走するが、次第に二人はキリストのそばに迎えられる死を待ち望むようになっていく。

その清浄な気持ちの中にあっても、やはりリギアが苦しむのは耐えられない、何か奇跡が起こってリギアが救われるのではという、都合のよい考えがウィニキウスのなかで相克する。

葛藤をいくつも乗り越え、迷いに打ち勝って、さらなる高みへと上がっていく。

ウィニキウスにはウィニキウスの、ペテロにはペテロの試練があり、苦しみに耐えることが愛されることであり、愛することなのだという、信仰の中心に触れるような気がした。


とはいえ、キリスト教の教えを聞きつつも、それには習わず、自分らしい美を愛する生き方を貫いたペトロニウスが最後までかっこよかった。


図書館は、いつも静かに騒がしい 端島凛




就職活動に失敗した麻衣は、半年の引きこもりの後に区立図書館の求人に応募する。あっさりと採用された麻衣だったが、同僚となる図書館員達は個性豊かな面々ばかりで不安を隠せない。

たまたま勤めることになっただけで、図書館のことも本のこともよく知らない麻衣が、利用者へのリファレンスや問題利用者への応対、児童への読み聞かせなどをこなしていくうちに、自分のやりたい事に気付き始めていく。




可もなく不可もなくやってきて、普通に就職したいだけなのにできない、というすごく共感できる設定の主人公。

普通で目立たない人間が、普通の企業で普通の職につけないというのがもうおかしいというか、世の中回っていかない理由がそこにある気がして仕方ないのだがそれはさておき。

就職活動に失敗した麻衣が主人公だが、そこまで切羽詰まった風に書かれておらず、精神を病んでいるわけでもないので、基本的にお気楽である。ルームシェアしてる女友達も優しいし、親にやいやい言われる訳でもないし、食うのに困ってない感じなので、共感しすぎるとその辺が逆にむかつく。


無資格で図書館のことも本のことも特に詳しい訳ではない麻衣が、個性豊かな同僚と過ごしていくうちに、図書館の仕事や役割、やりがいを知っていくというお仕事小説で、元図書館員が書いているというだけあって図書館のいい勉強になるかも。

返却を二度がけするとか(仮返却とかではないようだった)、返却された館の蔵書になるという所蔵館方式とか知らなかったので、へぇ〜という感じ。

無資格で働いている職員も結構いて、もちろん正社員、正職員ではないのだけれど、趣味と実益を兼ねて働いているという納得済みの働き方なので、その点でも気楽。

ただ、麻衣が本当に図書館で働いて食っていけるようになりたいと思うようになったら、やりがいにしがみついて低所得に甘んじられるのかという、また別の問題が出てくるだろう。なので、麻衣が真剣に図書館職員を目指そうとするのは読みたくないなと思ってしまった。

資格なくても、数ヶ月でそこそこ働けるなら、やはり大変な仕事じゃないんじゃないのと思われそうだけど。


個性豊かではあるものの、あまりそれぞれ掘り下げられてないので、図書館のメンバーの存在感が薄いのが残念。


強き者の島 マビノギオン物語4 エヴァンジェリン・ウォルトン

強き者の島 (マビノギオン物語4) (創元推理文庫)
エヴァンジェリン・ウォルトン
東京創元社
2017-06-21



ドーンの息子にしてグウィネズ王マースの甥グウィディオンは、才能ある魔術師だったが、己の知恵を頼みにしすぎるところもある青年だった。

ある時、弟のギルヴァエスウィがマース王の「足持ち乙女」であるゴエウィンに恋をした。思いを遂げようと思うものの、「足持ち乙女」は名誉ある処女じゃなければならない。

弟のためにグウィディオンは策略を用いて、ダヴェドにのみ存在する美味であるという豚を盗んで来ようとする。

その思いつきは、やがてダヴェドとグウィネズの戦にまで発展する。



旧き民は生命の神秘を知らず、なぜ子供ができるのかが分からない。それは自然と女の大いなる力の領分であるということになっており、婚姻関係などはなく、自由恋愛の習わしが残っている。

ところが新しき民が入ってきて、結婚や貞節という風習が定着しつつあった。そのため、ダヴェドに染まった者達や若者達は結婚をするようになり、妻の産んだ子供を自分の跡継ぎとすることができるようになったのだった。


ちょうどその過渡期を描くような時代で、ゴエウィンは自らの役割の誇りのためにギルヴァエスウィを拒む。しかし、力づくで犯されてしまい、そのことを決して許さない。

そのため、罰としてグウィディオンとギルヴァエスウィは獣に変えられて、山野を放浪するという目に遭うのだが、自然の魔力や神に近い存在であるマースの治世ならではの、罰だったのだろう。

魔術師でありながら、新しい考え方にも興味があり、そちらを採っていきたいと考えるグウィディオン。それなのに自分の妻は持たず、あくまで姉妹の息子という世襲にこだわり、更に策略を用いて妹のアリアンロドに無理やり子供を生ませてしまう。

そのアリアンロドの怒りと屈辱が、何度も何度もかけられる呪いや、最終的に井戸の封印を解いてしまうという愚かな振る舞いに結びつき、グウィディオンの英雄譚でもあるから、グウィディオンの勝ちで話が終わるのは当然だけれども、やはりなんとも言えない腹立たしさのようなものが残った。


生身の女に触れることができない呪いを母アリアンロドにかけられたスェウのため、グウィディオンとマースは花から美しい乙女を作ってやる。美しいだけで、中身がからっぽの幼稚で優しい女ブロダイウェズだ。

やがてそのブロダイウェズが恋に落ち、夫を嵌めて殺してしまうのも、結局は婚姻制度のためで、別の男が好きになったのにそちらに走れないのはなぜなのか、なぜ男に縛られなくてはならないのだという怒りが、不憫だった。

ただフェミニズム的におかしいというより、自然を調教していく科学、そのために不幸になっていく自然の中にいた生き物としての人間という構図の方を、強く読み取れるかもしれない。


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