夜思比売の栞

だいたい読書日記。 ときどきSound Horizonのことなども。

腐男子先生!!!!! 瀧ことは




普通の腐女子朱葉のスペースに、BLのカップリング本を買いに来たのはぼさっとした見た目の冴えない男。朱葉のファンだというその男は、容姿だけならイケメンの、朱葉の通う高校の生物教師桐生だった。

先生と生徒という関係を隠しながら、オタトークに花が咲き、オタ活動に邁進する二人。

神絵師への好意をこれでもかと見せてくる桐生に、時々朱葉も思うことはあるようだが……。



ごく普通の腐女子ってなんたろう、ごく普通の腐男子ってなんだろうとあらすじを読んで思ってしまったが、きっとこれがごく普通の腐女子腐男子のやりとりなんだろう。やばい面白い。

オタクじゃないけど、オタウォッチが好きなので、そういう方向で楽しめた。


好みの絵師を見つけて特攻したら教え子で、しかも身バレして、二重にやばいと思いきや、身バレしてもイラリク聞いてもらえたら神かよってなっちゃう辺り、桐生先生の方が最初からぶっ飛んでいる。

朱葉に大人の財力を見せつけゲームのイベントを走り、CDは大人買いしライブのチケットは抑え、イケメンだからこんな彼氏欲しいという一般的な欲望をクリアしつつ、財力のあるオタって素敵!オタクの彼氏欲しい!という欲望をも掻き立てる。ある意味、オタクの理想の彼氏なのでは?というエピソードが延々と続く。


具合が悪くなった朱葉を保健室に連れていくイベントや、風邪をひいた桐生を朱葉が見舞うという、いかにも恋愛ちっくなイベントが毎回発生するのだが、必ずオチがオタなものになる。

けれど、二人の関係が進んでいないかといえば、まあ進んではいないんだけど、気持ち的な意味ではいつのまにかしっかり相思相愛的な? 互いへの気持ちに気づいていくので、そこらへんに萌える。

まあ一応先生と生徒という禁断の関係のストッパーがあるので、なしくずしに関係が進むこともなく、いやでももう少し進展あってもいいんじゃないか、いや、いやいや……みたいな謎の悶えを味合わされる本だった。


人を好きになるのもコンテンツに課金するのも、推しに生活を捧げるのも、覚悟が必要なわけで。

自分の「好き」にどのくらい責任と矜持を持てるか、オタクは試されるのだ……。

霖雨 葉室麟


霖雨 (PHP文芸文庫)
葉室 麟
PHP研究所
2014-11-10



豊後の日田で私塾・咸宜園を開いた広瀬淡窓は、咸宜園の運営を弟子に任せ、詩作に励む日々を送りたいと思っていた。しかし、代官の塩谷は、親類の後押しのために、咸宜園の運営にやかましく口を出してくる。

「官府の難」とひたすら耐える淡窓と、弟で商家の跡を継いだ久兵衛だったが、そこに曰くありげな姉弟が入塾したいとやってくる。

やがてその姉弟の存在が、咸宜園に降りかかる面倒ごとの始まりとなっていくのだった。



全然知らなかったが、実在した儒学者・広瀬淡窓の史実を基にした物語らしい。

身体が弱く、気候のいろいろが堪える淡窓は、子供の頃から麒麟児との評判が高く、やがて望み通りの学業で生活していけるようになった。それは弟の久兵衛や、父親や、妻の、さりげない助けがあったからである。

おかげで、咸宜園は名の知れた私塾となり、塾生を多く抱えるようになった。

そんな淡窓だが、塾生の評価や講義の仕方に、代官からあれやこれやと横槍を入れられて、難儀していた。人の心がない無体な振る舞いや、権力を押し通そうとする塩谷との関係は、よくも悪くもならず、じめじめと淡窓を煩わせるのだった。


咸宜園の規模をよく知らないので、この官府の難がどのくらいの面倒ごとなのかが、よく分からなかった。学校の運営に地方の役人があれこれ言ってきている、というだけでは、そんな大変なことなんだろうかとすら思ってしまう。

それが大塩平八郎のように、政府に楯突く知識人が現れることで、国中がぴりぴりしてくる。そのことから、政府の警戒と、世の中を良くするためにはどうしたらいいのかと思う淡窓の間にある、今の言葉でいうところの「教育」に鮮やかに光が当たっていくように感じられたのが、清冽だった。


淡窓の、行動を起こさず、思考を深め、それを広めようとする態度にも感じ入るが、久兵衛のしっかりと頼れる男という有様にも惚れ惚れする。

千世が惚れるのも無理はない。

突然やってきた姉弟が、また突然去っていく。そういう、必ずしも幸福そうなだけの終わり方ではないが、降り続く雨が恵みの雨になることを信じ、耐えること。生き方を伝えるという意味で、教えというのは千世の中にも残っているのだろうと思えた。

異類婚姻譚 本谷有希子

異類婚姻譚
本谷 有希子
講談社
2016-01-21



マンションに持ち家のある夫と結婚し、無理して働かなくてもいいと言われ専業主婦をするサンちゃん。子供もおらず、特になにかしなければならないということもなく日々を送っていたが、ある時、自分と夫の顔が似てきていることに気がつく。

注意して見るようにすると、夫の顔の輪郭は崩れ、夫の顔というものがだんだん分からなくなってくる。二人の境界が溶け合い、一体化していくことに、恐れを感じつつも抵抗しきれないものをサンちゃんは感じるのだった。



異類婚姻譚というと、始めから別の種族のものが人間のふりをして婚姻関係を結び、そのことがルールはあるものの一応福をもたらすという話なのかと思っていた。

なので、はじめから一応人間同士のサンちゃん夫婦がなんで異類婚姻譚なんだろうみたいなことを考え続けてしまって、よく分からないまま読了。


まず、働かなくてもいい、子供いないけどそのことで特に悩んでるわけでもなさそうだし、なんか羨ましい暮らしだな、と思ってしまう。しかし夫が、暴力をふるうわけではないが、幼稚で常識のないタイプで、他人と一緒に暮らせるような人ではないことが分かってくる。

島本理生や辻村深月なら、暴力の方向でとことん嫌な男になっていくだろう。

しかしこの小説では、えっ、こんな男ダメじゃない?という読者のドン引きもなんのその、緩やかに気持ち悪く夫が変質していくだけだ。夫がどうなろうと、サンちゃんには影響がない、とまでは言い切れないはずなのに。

夫イコールサンちゃんが進行しすぎているからか、流されるまま、引きずられるままの変容には、なるようにしかならない楽観すら感じる。


一緒に住んでいて、同じものを食べ、同じ生き物のようになっていても、相手のことを理解できているわけではない。同化に抵抗がなくなっていたサンちゃんだが、夫に冷静に批判され、相手への拒絶が沸き起こる。

女が、一緒に堕ちよう、面倒見ようと覚悟しても、結局突き放すのは男だよなという気がした。

結局、夫がなりたかった姿というのも突拍子がなさすぎて、男女の相互理解の難しさ、ということなのかなという感想。


「藁の夫」などの気味の悪さも、夫婦が理解しあえないことを、種族が違うから仕方ないのだというベースを敷いているものの、それでもやはり嫌な気持ちになるので、結婚前の人は読まない方がいい本かもしれない。

カーネーション いとうみく

カーネーション (くもんの児童文学)
いとう みく
くもん出版
2017-05-11



日和は母親の愛子を慕うものの、愛子は決して日和を普通の母娘のように愛することができない。妹の紅子のことは、甘やかし過ぎるくらいにかわいがるのというのに。

よくできた娘と、厳しい母親という役割でごまかしてきたが、やがてそれが通用しなくなる時がくる。

父親の慎弥も家族をなんとか立て直そうとするが……。



理由もなく娘を愛せない母親と、母親に嫌われ続けることに苦しみ続ける少女の話で、読んでいてとても辛かったのだが、そういうことも絶対あるのだから、こういう話が書かれていないといけないみたいな気持ちになった。


育てやすく、良い子の日和が愛子は気に入らず、お手伝いをしても、いじらしく母親の愛情を求めても、愛子は冷たく接することしかできない。

長じて、日和も母親に嫌われていることに気がつき、ただ愛子の目に留まらないよう、どんどん萎縮していく。

当然、日和に罪などあるはずもなく、日和がかわいそうでならないが、愛子が苦しんでいるのも分かる。父親の慎弥が、察していながら何もしないのは罪だが、それでも誠実な父親で夫であるのも分かる。

誰が特別悪いわけではないから、解決しようがないのが、また辛い。

しかし、妹の紅子に注がれる甘やかしは、紅子にとっても虐待になり得るだろう。

家族なんて、及第点くらいでちょうどいいのではないか。

過剰に家族の効用を言い立てれば、こういう家族の機能不全はこれから目立つようになるのかもしれない。


愛子が娘を愛せない理由に、子供の頃の妹の事故死のエピソードが出てくるが、結局それが主たる原因なのだとはっきりすることはない。その点がまず良かった。そういう「理由」が用意されてしまうと、理由がない人をさらに苦しめるだろうから。

あと、限界がきて家を飛び出した日和を、宥めて家に連れ戻して、元どおりの家族で頑張って暮らすということにならなかったのも良かった。そういう大人目線、社会目線のハッピーエンドの形で、現実に誰かが救われることもないだろう。


直接母の日が出てくるわけではないが、カーネーションという題、その花言葉などが意味深である。

機龍警察 自爆条項 月村了衛




日本国内に大量の機甲兵装が持ち込まれた形跡が発見され、色めき立つ特捜部。調査を進めていくうちに、北アイルランドのテロ組織であるIRFによる、イギリスの高官暗殺の計画が浮かび上がってくる。

操作を進めたい特捜部に対し、外務省や首相官邸からのストップがかかり、また中国の黒社会とのかかわりもあって、事態は複雑さを増していく。

そんな中、元IRFの処刑人だったライザの元に、かつての仲間であるキリアン・クインが現れ宣戦布告をしていく。ライザの過去が明かされるシリーズ第2作。



現在の東京で起こる不穏な事件と、相変わらず警視庁のなかで仲間はずれにされ続ける特捜部。外務省やら首相官邸やらの外交問題も、テロリズムも、やたら大きくて詳細を知る人がごくごく限られていて、という点では同じなのではないかと思わせるような、パワーゲームが描かれる。

一方、現場は現場で、かつての警察の同僚仲間に非難されるという、個人レベルでの嫌がらせもあり、実際働く人間の辛さも描かれる。

大きな視野と、末端の人間の細部。

その辺りに、否応無しに惹きつけられて、組織や兵器に興味がなくてもぐいぐい読み進められてしまう話だった。


今回は機龍兵の搭乗者の1人、ライザの過去が間間に挿入され、物語として一層読み応えのあるものとなっている。

裏切り者の血筋と言われ、卑屈で愚痴っぽい家族と暮らしていたライザ。その彼女が可愛がっていた妹。そこに起こった歴史的なテロリズム。

そこからなぜライザがIRFに身を投じたのかというのも、簡単に語れるようなことではない。

名を成すような人間じゃない、小さな人間の存在が、いろんな人たちの人生の進路に少しずつ影響を与える。書かれた書物、偶然の類似が、ことさらドラマティックに取り上げられるわけではないが、じんわりと効いてくる。

しかし、ちょっとした運命を感じるような出来事、報われたと感じられる達成感も、またすぐに容赦なく破壊され尽くしてしまう。

そういう重苦しい虚しさや恐怖と、日常の小さな幸せ。

やはり、どちらにも完全には寄りきれない気持ちになった。


機龍兵装に搭乗する人間に課せられた自爆条項から、傭兵を雇わなければならなかった特捜部の事情が明らかになる。

これだけ費用や時間をかけてまで、法整備やパワーゲームを繰り広げてまででないと、平穏に暮らせない時代というのは本当に平穏なんだろうかという気がする。

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