ヤッスングダグダレビュー

ゆるーく映画などの感想を書いていくブログ。よかったらどうぞ。

どうも。ヤッスンです。

前回の記事からブログ本格復帰ということで、短くともちょこちょこ映画の感想なりを投稿できればと。
その最初の記事といきます。映画『ムーンライト』の感想です。

画 ムーンライト


本作は88回アカデミー賞にて作品賞を受賞した作品です。本来ならば日本公開は数ヶ月前でしたが、私の住んでいる地域では遅れて上映されたため、つい先日鑑賞してきました。



さて本作は決して良い環境とはいえない家庭で育ったゲイの黒人少年シャロンの半生を、3部構成にして描いた作品です。
正直、この情報だけであれば、自分は劇場に足を運ぼうなどと思わなかったでしょう。ミーハー心とでも言いましょうか、アカデミー賞効果で鑑賞を決めました。
というのも、明らかに題材が自分の苦手とするものなのです。主人公の立場の紹介を読んだだけで辛くなってしまいます。誤解を恐れずに言うならば、社会的に良く思われない要素を詰め込んだような主人公です。マイノリティとして苦しんでいくばかりの作品なのではないかと思い、鑑賞には抵抗がありました。

しかし鑑賞後、そう思って蓋をしようとしていた自分をぶっ叩きたい気分になりました。
本作は、そのマイノリティとしての主人公の単純な葛藤だけではなく、その自分のアイデンティティと向き合い、進んでいく姿を、実に美しく描いた傑作だったのです。他人と自分を比べて苦しむ経験が一度もない人なんていないでしょう。自己への葛藤の根本はまるで同じ。
私は黒人でもないし家庭環境は悪くないしゲイでもありません。シャロンとの共通点なんてほとんどありません。しかしながら、どんどん彼という人物に引き込まれ、心に響いていきました。不器用なまでの葛藤はとても切なく、美しい表現をされていたのです。
映像面に関してもそれは同じで、月明かりに淡く照らされる姿、街頭の色が濃く感じられる姿、、など、照明効果が素晴らしい。登場人物には黒人しかいませんが、黒人ならではの美しい色合いの画面に仕上がっていました。
ただ苦しむだけ苦しんで鑑賞者に何かを感じさせる作品ではなく、この苦しい中での彼の生き様に心揺さぶられる作品でした。

全体を通して、まるでシャロンの人生の転換期を切り取ったような作品で、大きな盛り上がりはありません。その淡々とした演出こそ本作の良さでもありますが、正直分かりやすいエンターテインメントのほうが好きな身としては、好きかどうかは微妙なところです。



以下、ネタバレ込みで少々感想の補足。


先に「人生を切り取ったような作品」と述べましたが
フアンやケヴィンとの思い出の象徴となる海や、母親との関係、様々な要素が一貫して描かれており、構成力は抜群です。その中でとても重要だと感じたのが「食事」のシーンです。個人的に映像作品での食事シーンは注目してしまう癖があるためか、シャロンを取り巻く人間関係を絶妙に表現していたと感じます。
彼の父親的な立場として現れるフアンはまず飲食店で御馳走し、フアンの恋人テレサは手料理を振る舞ってくれます。シャロンと互いに心を開いた証として食事というキーワードが取り込まれていたように感じます。
3部構成でいう第1部は特にその食事シーンは印象的ですし、心に大きなショックを受けることとなる第2部では独りで食事しているシーンなんかもありました。ケヴィンとの肉体的な繋がりができるのは第2部ですが、真につながることの叶わなかったこの時には、食事というパーツで彼らが表現されることはありません。
第3部で料理人となったケヴィンが飲食店で手料理をシャロンに振る舞うことになるのですが、まさにテレサとフアンの2人の要素を盛り込んでいると感じました。環境により様々な苦痛を感じていたシャロンが、ついに報われることになるこの場面。大きく純粋で不器用な愛を確かに感じました。


共通点の少ない人にここまで引き込まれ、その美しさを感じることができる映画体験となりました。単純な好き嫌いでいえば好きだと言い切れる作品ではありませんが、非常に完成度の高い、今観るべき作品といえそうですね。


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