ヤッスングダグダレビュー

ゆるーく映画などの感想を書いていくブログ。よかったらどうぞ。

どうも。ヤッスンです。

映画『小さな恋のうた』の感想です。
ネタバレは後半からです。
言わずと知れたMONGOL800(モンパチ)の名曲から着想を得た青春バンド映画。



実は私、本作はほぼ予備知識ナシで劇場に向かいました。
主題になっている曲も、学生時代文化祭で毎年どっかのコピーバンドがやってたなあくらいの印象で、モンパチのこともほとんど知らない。映画のことも、予告さえ見てませんでした。
映画『ミスミソウ』の山田杏奈さんをスクリーンで観たい!というなんとも雑な理由で鑑賞を開始。
もう勝手に「なんかあるあるラブコメで最後にこの歌で告白とかする話だろう」等と予想してました。

結果。

そんなことはなかった…!!!

もう本当に最高に大好きで、本年度マイベスト10入りは固い大傑作でした。

観る前に勘違いしていたことがいくつもあって。
まず1つ
ただの恋愛ムービーではなかった!!
米軍基地のある沖縄で日常をすごす少年少女の、沖縄の夏よりずっとアツい青春音楽ムービーでした。

バンドと、友情と、ほんの少しの恋。泥臭ささえある高校生たちの青春の一コマと、
沖縄での日常を舞台にする意義まで詰まった傑作です。
「アメリカ」と「日本」が同居する小さな島の、小さな物語。
沖縄での米軍基地まわりの問題は、県外でも日本国民ならたびたび目にするニュースですが、
実際そこで暮らす人々はどんな生活で、どんな想いなのか?そこまで知る機会は少ないです。
そんなデリケートな問題へのひとつの答えが絶妙なバランスで描かれており、いち青春ものに収まらない大きなテーマを感じることができました。

そして2つ
モンパチの誕生秘話とかそういうやつでもなかった!!
有名曲をモチーフにした作品ということで、「実際の楽曲誕生秘話」だったり「その曲のコピーバンドのお話」とかを想像していましたが
本作は「モンパチがおそらく存在しない世界で、沖縄の少年少女が生み出す曲がたまたまモンパチの曲」
というもの。
実際に沖縄出身のモンパチメンバーですが、彼らが伝えたかったかもしれない想いや願いが、劇中の高校生たちを通して再構築されていくのです。それがこの映画で描かれる大きなポイントとも合致するので、演奏シーンでこのうえない感動と興奮に襲われるのです。

音楽映画は、だいたいクライマックスで最高なライブシーンをやっていればおのずと傑作になるといっても過言ではありません。本作ももちろん例外ではないのですが、それは決して予想していた「愛の告白!ヒューくっついた!!」「音楽パワーでゴリ押し!」的な盛り上がりではなく、2時間かけて紡がれる様々な物語が、終盤の演奏シーンで大爆発する激エモ構成
まんまと私は号泣し、可能なら一緒に映画館で叫んで歌いたい!という衝動を抑えるのに必死になりました。
さらに傑作音楽映画に欠かせない「バンドとしての魅力」ですが、これが本当に良い!
ベースボーカルの佐野勇人さんは実際に音楽活動をやっているぶん歌唱力が流石。ただこれまでクールキャラやスカシキャラの多かった彼とは逆の「やんちゃでよく怒られるけど生徒の人望は抜群」な元気なキャラ。実はこれがすごくハマってるんです。今まで見たことないはずの役なのに、「もうこういうキャラは定番の役者」くらいの自然さと魅力に満ちていました。
森永悠希さんも、盛り上げ上手で良いヤツなキャラがとてもハマってますし、別作品でも披露されていたドラムも慣れた雰囲気。
そして何より!!!何よりですよ山田杏奈さんの歌唱力!存在感!!
暗い雰囲気の登場でしたが、ギターを抱え歌を歌い始めたときのカッコよさ!可愛さ!透明感のある歌声!!最高!!!
物語においてかなり重要なポジションの彼女ですが、無表情な場面と演奏シーン、感情が吐露されるシーンの演じ分け・ギャップも見事でもう釘付けでした。

バンドメンバーがあまりに魅力的すぎて、もう本当にこのままデビューしてほしいなというくらい。
上手すぎず、下手すぎない。このバランスが高校生バンドらしさの魅力で満ちていました。




というわけで個人的には嫌だった要素はほぼない、むしろ最高ポイント多すぎて書ききれない!というぐらいの作品でした。
調べてみると興収はあまりよくないようで、「絶対自分のように勘違いしたまま観てない人がいっぱいいる!」という事実がとても悔しいと同時に、どうにか口コミで売れてくれないか、と願ってやまない作品となりました。


さて、ある部分を中心にネタバレ込みで書きたい部分もありますので、
ここから下は鑑賞済みの方向けにネタバレありでの感想になります。
下にスワイプする時間があるなら劇場へ向かってください!!!!











◆驚愕の作品構成:序盤30分のカラクリ
なんの知識もなかった身として、序盤の展開は正直「んん…?」でした。
「主人公たちが軌道に乗ってきた段階で交通事故!」→「記憶喪失!」
という展開は正直手垢でベッタベタの作品ですが、中途半端に冒頭でやることではないよな…と。

映画や漫画での主人公の記憶喪失のタイミングは個人的には主に2パターンで
1つ→一番最初。過去の自分が一切分からない状況からスタートするので主人公と一緒に謎を解いたりできる。
2つ→後半。そこまで描いてきた物語をいったん全部忘れさせることで、主人公の身の回りの人物と一緒にやるせない気持ちを共有する。

しかし本作は、多少日常を描いたうえでの事故。
映画の上映開始から10分程度での「記憶喪失」はあまり効果的ではない気がしたのです。
「意味わかんねえ」という主人公と「なんで忘れるんだよ!」と叫ぶバンド仲間。正直どっちにも感情移入するには描写が中途半端なのです。さらに言ってしまえば、リアル路線で開始した映画の中に突如コメディやSFならではの展開である記憶喪失なんて都合の良い展開、なんじゃそりゃと。
これまでの彼らの物語をメタ的に説明させるため?この物語は一体どこへ向かうの?まさか思い出させるために歌わせるとか…とか邪推してたところに、まさかの衝撃展開。

今主人公に向かって必死に思い出せと言っていたバンド仲間が、同じ事故で亡くなっていた、という展開。よく観ていれば気づける作り方でしたが、思いっきりミスリードの罠にハマってしまいました。
「交通事故で起きたのは主人公の記憶喪失だけ」と納得させるだけの十分な尺を使い、本来亡くなったシンジらとの思い出を描く。こんな構成の作り方、少なくとも私は初めて観ました。

「序盤で大事な人が亡くなる」「亡くなった友人との対話」「実は目の前の人が亡くなっている」という展開も実際よくあるものですが、これを全て混ぜて主人公のショックによる一時的な記憶喪失と被せることで、その辛さややるせなさを倍増していたのです。
まんまと私は真実に気づいた主人公リョータと同じようにショックを抱え、登場してたった20分程度の人物の死を心から嘆くことができました。

正直この異質ながら発明とも呼べる驚愕展開だけで、一気に作品にのめり込むことができました
さらに物語がこの「ショック」を乗り越え、彼の遺した想いを歌に込めて届ける作品へと路線がハッキリすることで、もうこれは傑作以外の何物でもないなと確信できました。


◆沖縄の日常:誰も悪くない線引き
その交通事故をきっかけに、日本人と米軍基地の溝が浮き彫りになっていく本作。
これが安易にどちらかを悪者にするものや国を責めるものになっていないバランスが良いんですよね。
ぶつける先のない感情でイライラする人や、抗議活動を行う人、様々な形で沖縄の今の人々が描かれますが、この誰をも責めることはできません。
主人公たちは、基地がありアメリカ人が出入りする生活が日常になっていた立場。それがひとつの事件をキッカケにこの大きな問題に巻き込まれてしまったことで、それが自分たちを左右することになりました。

◆フェンス超しの友情:あなたに届け!
本作で最も象徴的な場面といえば、フェンスで隔てられたリサとの交流でしょう。
沖縄に駐屯する米兵の娘リサとの交流。彼女との間には分かりやすい「フェンス」という壁があります。
シンジは生前、フェンスの隙間からイヤホンを片方渡し、音楽を通して繋がっていました。
「それ国境超えてるじゃん!(笑)」という何気ないやりとりがありますが、この序盤のやりとりこそが作品の真骨頂ですよね。彼らの友情の間には国境はないのです。彼らが紡いだ想いが音楽を通してフェンスを越え、言語の違うリサに届く。
学祭ライブで歌を届けることこそ叶いませんでしたが、最後にフェンスの前に立って3人で歌を届ける場面。演奏するのは3人ですが、間違いなくそこには亡くなってしまったシンジの想いも籠っている。フェンスが消え、そこにシンジの姿を重ねる場面は、分かりきっていた演出とはいえ涙が溢れて止まりませんでした。

終盤のライブシーンは、先生に秘密で勝手に行ったり、許可を得ずに道端でかき鳴らしたり、彼らが届けるためにそういう「縛り」を取っ払ったものでした。
親や教師の目から社会的な問題まで、そういうものすべてを取り払い、彼らが伝えたい気持ちを響かせていたのです。
だからこそ真っすぐでこちらにも響くのだと思います。

というわけで、とにかく想像していたのと全く違う大傑作だった映画でした。
願わくばこれからどんどん口コミで広まってほしいなと切に思います。

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