海外進出企業の【税務会計】虎の巻

税理士法人名南経営 安田昌泰 公式ブログ

 国内親会社が、海外子会社を新設する場合、3年間は事業が軌道にのらない場合が多く、
支出が先行し、あっという間に出資分は使い果たし、貸付をすることが多いと思います。
 得意先の要請でやむなく海外に進出した場合、海外子会社管理に苦手意識を国内親会社
がもってしまい、現地への出向者からの財務報告も遅れがちになります。もともと財務に
長けた出向者は少ない傾向が多く、営業に長けた出向者を赴任させる場合が多いというこ
とも影響しています。
 気づいた時には、海外子会社の試算表が恒常的に遅延し、資金要請のみが先行し、貸付
金の増大、未収利息の増加、結果、親会社の資金繰り悪化、悪循環、悪影響が生じます。
 国内に関係会社が多い場合、グループの決算書は、社内資料として、連結ベースで合算
し、全体像を把握することが多いのですが、なぜか、海外子会社は別扱いとしている場合
が散見されます。一度、国内外を合算し、海外子会社を含めた中期計画の構築と検証が必
要です。
 海外子会社に対する過大な貸付等があり、中期に改善見込みがないならば、すみやかに
撤退も検討すべきでしょう。また、毎期、有税による貸倒引当金の積み増し、撤退時の損失
に備えての損失等引当金の有税繰入、子会社貸付金利の軽減検討も必要でしょう。 
 放置が続くと、親会社のメインバンクの融資姿勢は必ず厳しくなります。国内外の関係会
社で取引を複雑にして債権債務をわかりにくくしている場合、真の国内外のグループ全体の
財務状況の把握が不可欠です。

  国内親会社で自己資金で事業を営んでいる場合、国内子会社と海外子会社へ貸付をする
とき、次のように留意点が異なります。
 1)100%所有の国内子会社への低利貸付 ⇒ 寄付金の問題は生じない。
   グループ法人税制の導入後、調査で否認されるような指摘はほぼ皆無。
 2)100%所有の海外子会社への低利貸付 ⇒ 国外関連者の寄付金又は移転価格が懸念。
 移転価格事務運営要領「第2章 調査」(金銭の貸借取引)で調査を行う場合の留意点が公表
されていますが、2-7(独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の
検討)では、たとえば、「国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取
引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろ
う利率」とあります。
 調査では低利融資の場合、差率分が否認される懸念があります。国内親会社の調達金利が
例えば、ゼロで、海外子会社の現地調達金利が一般的に高い場合、親会社が子会社に対して、
ある程度の金利を、付しておかないと必ず調査で指摘されるでしょう。
 何%が妥当か?が問題になります。海外現地の基準金利では相対的に高い場合があります
が、カントリーリスクのある海外事業での貸倒懸念を考慮すれば、理想的には高めの金利設定
が必要と考えられますが、親子関係がある関係では、低めになるのが実情でしょう。
 融資額が大きく、金利設定が高い場合、海外子会社新設から相当期間は、資金繰りが厳しく、
業績も芳しくないことが想定されますから、その場合は、貸付元本の回収はままならず、金利も
必然的に未回収が継続します。結果、不良債権が増加するでしょう。
 それでは、どこかで金利を軽減して、たとえば0~3%の間に設定した場合、移転価格事務運
営要領「第2章調査」(金銭の貸借取引)の記載事項を根拠に、調査で指摘を受ける可能性があ
ります。
 金利設定は悩ましい問題ですが、親子間の貸付の実情を御理解いただき、低利に設定してい
ても、理解ある調査での指摘にとどめていただき、移転価格の指摘又は国外関連者への寄付
金などの課税がないことを期待したいところです。

 

 平成28年度税制改正で移転価格の文書化について、「マスターファイル」「国別報告書」
の作成及び提出が義務付けられました。
 平成22年以降、国外関連取引を有する納税者は「ローカルファイル」の文書化はすでに
義務付けられており、移転価格の税務調査では、移転価格に関する書類の提出が求めら
れています。
 「ローカルファイル」はマスターファイルを補完する役割を持ち、特定の国外関連者間取
引に係る詳細情報を記載します。作成の際、「移転価格事務運営要領」「実態調査表記
入要領等」の内容をベースに作成は可能です。
 ローカルファイルの記載内容は、①事業の状況、②関連者間取引、③財務情報です。
 多くの中小企業で海外進出をしていても未着手と思いますが、今後、作成する企業が
増加するかどうかは税務調査の実情次第かもしれません。
 

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