【第966回】 奇跡の一本松【第968回】 政党のあるべき姿は

2013年03月13日

【第967回】 絵本『サルと人と森』

岩手町のMさんから素敵なプレゼントが届いた。

石川啄木が「盛岡中学校校友会雑誌」第十号(明治40920日)に投稿した「林中の譚(たん)」を、石川啄木記念館学芸員の山本玲子さんが現代文に訳した『サルと人と森』という絵本である。私はこのような文章を啄木が発表していたなんて初めて知った。

その「林中の譚」の書き出しはこうだ。 

《左に林中の譚を記さむ。人あり、ひとり林中を行く。樹上幾十尺の枝に一疋の猿あり、下瞰して人に問ふて曰く、人よ、我は汝等の祖先なるに、汝等何故今我が族を嘲るや。

人の曰く、愚かなるかな汝、我等文明の人類にして若し汝等猿族の子孫なりとせば、かくいふ我が子孫に古人の如き大英雄の現はれやすらむ。これ想ふべからざる事也。

猿の曰く、噫、人間は憐むべきかな。汝等は既に過去を忘れたり。過去を忘れたるものには、将来に対する信仰あることなし。憐れなる人間よ、滅亡の時早晩汝等の上に来らむ。汝等は進み来たりし事と共に、更に進みゆくべき事をも忘れたるなれば、今日かくあるが如くにして、遂に死するの外あらじ。

これを絵本で山本玲子さんは次のように訳されている。

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林の中へひとりの人が入って行きました。

高い木の枝にいる一匹のサルが人に問いかけました。

 おれたちは人間の祖先なのに、

 どうして人間たちはサルをばかにするのだろう。

それに人が答えました。

 おれたち人間は、サルと違って頭がいいんだ。

 若し、人間がサルの子孫だとしたなら、

 どうして人間から大英雄が現われただろうか。

サルが言いました。

 人間はなんてかわいそうな生き物なんだろう。

 人間はすでに過去を忘れてしまったのだな。

 今ここにこうして生きているのは、

 おれたちと同じ祖先がいたからではないか。

 過去を忘れた者には未来はないだろう。

 今がいちばん素晴らしく、

人間がいちばん賢いと思い上がっていると、

 これからの人間には進歩も、幸せもないだろう。 

 かわいそうな人間たちだ。

 人間滅亡のときが近いうちにやって来るだろう。

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石川啄木は、この「林中の譚」で、ほんとうの「豊かさ」とは何なのか、ほんとうの「幸せ」はどこにあるのか、を問いたかったように思われる。

サルが人間にこのようなことを言うのだ。

「人は豊かさ、便利さを求めて、どんどん退化してしまった。怠けてしまったからだ」と。ー

地球温暖化や環境破壊を考えると、それはまさに人類に対する痛烈な一言になっている。驚くべき先見性である。石川啄木は今から105年も前に人間中心の世界に警鐘を鳴らしていたのである。 

 この絵本の《発行》は植林活動のNPO法人「森びとプロジェクト委員会」だ。定価は不明だが、委員会の電話とFAXは03-5692-4900だ。

第1刷が1231日で月には第14刷になっているからかなり売れているようだ。「絵」は鷲見春佳さんである。

付記】歌集『一握の砂』の中に「林中の譚」を想起させる《啄木、「森」を詠める歌》という詩がある。(詩の行間を詰めて紹介する)

  森の奥より銃声聞ゆ

  あはれあはれ

  自ら死ぬる音のよろしさ

  時雨降るごとき音して

  木伝ひぬ

  人によく似し森の猿ども

  森の奥

  遠きひびきす

  木のうろに臼ひく侏儒の国にかも来し

  世のはじめ

  まづ森ありて

  半神の人そが中に火や守りけむ

  遠くより

  笛ながながとひびかせて

  汽車今とある森林に入る







 


 


 


 


 


 


 


 




 


 



yasumasasugawara at 02:30│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by T .T.   2013年03月13日 10:45
 驚嘆の一語に尽きる!石川啄木がこんなに明確に人智優位の人社会に警鐘を鳴らしていたとは!
「啄木≪森を詠める歌≫」も初めてだ。

 最近、痛切に感ずる。「無理が通れば道理引っ込む」の日本の状況に、怒りがこみ上げる。不合理・非道の「無理」を押さえ込むのは、国民が声をそろえていっせいに叫びを挙げるしかない。倦まずたゆまず「叫ぶ人」を増やしていく他は無いと!

 チャップリンの『独裁者』の最後演説の言葉を思い出す。
 『・・・私たちは互いに助け合いたいと望んでいる。人間とはそういうものだ。・・・世界には全人類を養う富がある。・・・貪欲が人類を害し、憎悪をもたらし・・・・・・。    ・・・・・・・・・・・・・・・
 人々よ、失望してはならない。貪欲は姿を消し、独裁者は死に絶える。大衆は再び権力を取り戻し、
    ・・・・・・・・・・・・・・・』

 人類はあらゆる動植物とともに正しく生きてゆく道を見つけ出すに違いない。そのためにもまず日本でも、一部の「貪欲」を押さえ込む一斉の声が湧き上でねば!

 目を上げたら、まどの向こうで、カラスがの大きなカラマツの枝にとまって、なにやら一生懸命工夫している。彼らだってちゃんと考え感じながら生きている!
2. Posted by T .T. 3月14日に   2013年03月14日 16:03
 一昨日のコメントにご返事を頂いているのを発見しました。遅ればせですが、有り難くお礼申し上げます。
 トンチンカンなコメントばかりで申し訳ありません。それに打ち込みのミスばかり多くて・・・。

 時々休みを入れるようになって良かったなと思っています。

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