『今昔物語集』巻28-36が、すごく面白かったのでご紹介。
比叡山の無動寺の僧、義清阿闍梨は比叡山でも指折りの徳の高い僧だった。しかし、彼には嗚呼絵の名手というもうひとつの顔があり、世間にはそっちのほうが知られていた。
嗚呼絵が何かは、今ひとつ分かっていない。「嗚呼」とは「可笑しい」ということだから、まず漫画のようなものだと思えばよい。おそらく、『鳥獣人物戯画』みたようなものだろう。
義清阿闍梨はちょっとした変人で、依頼主が何枚も継いだ長い紙を持ってくると、物を小さく一つだけ描く。人を描いてくれと頼むと、端の方に弓を射る人の姿を描いて、反対の端に的を描く。人と的の間には、矢の飛んだ跡の細い筋だけ長々と描いてある。なにしろ、紙が貴重な時代だから、依頼した人は「あのヤロー、紙を無駄にしやがって」と怒る怒る。でも、義清はそんなことは気にしない。
あるとき事件が起きた。修正会が終わった時、義清阿闍梨が供物の餅を寺の僧侶に分けることになった。その僧侶の中に、慶範という、時の座主に寵愛されて、調子ぶっこいている僧がいた。この慶範が自分の餅が少ないと怒りだしたのである。調子に乗ったガキほどたちの悪いものはない。
「なぜあの阿闍梨は、ボクに餅を少なくよこしたんだ。妙なことをする阿闍梨だな。年だけ取って、墓場をしらない狐とはこのことを言うのだな。バカな坊主だ。この坊主に詫び状を書かせよう。こういう老いぼれは、こうして懲らしめてやらなきゃ。他の人にも見せしめにしよう」
これを伝え聞いた義清阿闍梨、これはまずいと、言われる前に詫び状を書いた。紙を四枚も取り出して、なにやらさらさらと書き、仰々しく包んで、慶範のもとへ詫び状を送ったのだが・・・。
なにしろ、義清阿闍梨は嗚呼絵の名手である。その上、相当なひねくれもの。ただの詫び状なはずがない。これは期待が持てますな。
オチはあえてここには書かないので、原文を読んでほしい。なに、そんなに難しくはない。『今昔物語集』の文章はちょっと読みにくいが、このオチは小学生でも読めると思う。短いし。
それではどうぞ。
『今昔物語集』巻28-36 比叡山無動寺義清阿闍梨嗚呼絵語 第卅六:やたナビTEXT
比叡山の無動寺の僧、義清阿闍梨は比叡山でも指折りの徳の高い僧だった。しかし、彼には嗚呼絵の名手というもうひとつの顔があり、世間にはそっちのほうが知られていた。
嗚呼絵が何かは、今ひとつ分かっていない。「嗚呼」とは「可笑しい」ということだから、まず漫画のようなものだと思えばよい。おそらく、『鳥獣人物戯画』みたようなものだろう。
義清阿闍梨はちょっとした変人で、依頼主が何枚も継いだ長い紙を持ってくると、物を小さく一つだけ描く。人を描いてくれと頼むと、端の方に弓を射る人の姿を描いて、反対の端に的を描く。人と的の間には、矢の飛んだ跡の細い筋だけ長々と描いてある。なにしろ、紙が貴重な時代だから、依頼した人は「あのヤロー、紙を無駄にしやがって」と怒る怒る。でも、義清はそんなことは気にしない。
あるとき事件が起きた。修正会が終わった時、義清阿闍梨が供物の餅を寺の僧侶に分けることになった。その僧侶の中に、慶範という、時の座主に寵愛されて、調子ぶっこいている僧がいた。この慶範が自分の餅が少ないと怒りだしたのである。調子に乗ったガキほどたちの悪いものはない。
「なぜあの阿闍梨は、ボクに餅を少なくよこしたんだ。妙なことをする阿闍梨だな。年だけ取って、墓場をしらない狐とはこのことを言うのだな。バカな坊主だ。この坊主に詫び状を書かせよう。こういう老いぼれは、こうして懲らしめてやらなきゃ。他の人にも見せしめにしよう」
これを伝え聞いた義清阿闍梨、これはまずいと、言われる前に詫び状を書いた。紙を四枚も取り出して、なにやらさらさらと書き、仰々しく包んで、慶範のもとへ詫び状を送ったのだが・・・。
なにしろ、義清阿闍梨は嗚呼絵の名手である。その上、相当なひねくれもの。ただの詫び状なはずがない。これは期待が持てますな。
オチはあえてここには書かないので、原文を読んでほしい。なに、そんなに難しくはない。『今昔物語集』の文章はちょっと読みにくいが、このオチは小学生でも読めると思う。短いし。
それではどうぞ。
『今昔物語集』巻28-36 比叡山無動寺義清阿闍梨嗚呼絵語 第卅六:やたナビTEXT