2018年06月

今月の中頃、書写検定があった。僕は検定対策の授業を担当しているが、正直いって6月の検定は受けてほしくない。十分に授業ができないからである。

しかし、次の検定は11月だ。3年生にとっては、ここで受けておかないと、調査書などに記入できなくなる。受講者のほとんどは3年生なので、受験者が一番多い(今年は35人)のが6月の検定である。

申し込みと受験料の入金をして、試験を実施、解答をまとめて返送、これをすべて一人でやるのは面倒くさい仕事だが、もう10年やっているので、手順は完全にマニュアル化されている。

ところが、今年度から、申し込みから試験の方法までが一新された。簡単に言うと、ハイテク化されたのである。

これまでは、受験者の名簿を手書きで作って、検定協会に送っていた。ボールペンでカーボン紙の付いた二枚複写の表に、一人一人名前を書いていた。支払いは振り込み用紙に記入して郵便局へ、受験票も僕が(手書きではないが)作っていた。さすがは書写検定である。やたらと手で書くことが多かった。

これが今年からは、ネットで登録できるようになった。しかも、同時にクレジットカードで決済できる。受験票も、すでに名前と受験番号を印刷したものが送られてきた。試験そのものも一部マークシート式になった。

どこからどう考えても僕の負担は減っているのだが、実際にやるとなると話は別だ。

まず、申し込みの時の名簿は、これまでもエクセル(のようなもの)で作って、それを手書きにして提出していた。今回はそれをcsvファイルにしてアップロードすればいいかと思ったら、検定協会指定の形式と違っていた。しかも、なぜか今時シフトJISで、そのままでは字化けしてしまう。これらは大した手間ではないが、こういう細かいところがイラっとする。

実際の試験はもっと大変だった。試験の内容そのものはあまり変わっていないのだが、方法が変わったから、説明する内容が微妙に違う。それに合わせて、生徒のやるボケも変わった。

なにしろ10年やっているから、僕の生徒がどんなボケをやらかすか、それをどう予防・対応すればいいか、だいたい分かっている。しかし今回は、試験の形態が変わってしまったので、思いもよらないボケが出た(どんなボケかはあえて言わない)。

返送も、これまでは買い置きしてあるレターパックに突っ込んで、ポストに投函して終了だったが、綴じ方が変わったのと、マークシートの厚みのせいで、箱に入れて送らなければならなくなった。普段は段ボール箱やガムテープを使わないので、これを用意するだけで面倒だ。発送を終えたとき、どっと疲れが出た。

一瞬、前のままの方が楽だなと思ったが、それは間違っていることに気づいた。ストレスがかかるのは、今までのマニュアルが通用しなくなったからである。マニュアル化してしまえば、今までよりはずっと簡単にできるだろう。

だんだん年をとると、新しいマニュアルを作るのも、それを実行するのも面倒くさくなる。新しくすれば効率が良くなると分かっていても、それに対応するのが面倒だから、つい非効率な古いマニュアルを使ってしまう。かくして立派な老害の誕生となる。僕の場合、一人だから誰にも迷惑はかけないけど。

さて、話は変わるが、明日から7月。毎年恒例のブログ強化月間になります。
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やたナビTEXTは基本的にCC BYーSAライセンスで公開している。CCとはクリエイティブ・コモンズのことで、BYーSAは、著作権者を明記することと、すべて同じライセンスで公開することを条件に、複製・配布・改変が自由にできるという意味である。

逆に言えば、それが著作権で保護される著作物でなければ、CCライセンスを付与することはできない。やたナビTEXTの場合、翻刻以外の校訂本文及び全体のページには著作権が発生すると考えて、〈基本的に〉CC BYーSAライセンスとしている。

前置きが長くなったが、東京大学附属図書館の画像データ利用条件のページを読んで、面白いことに気づいた。

利用条件:画像データ等の利用について:東京大学附属図書館
東京大学総合図書館が公開する、著作権の保護対象ではない総合図書館所蔵資料の画像データ、それに関連するメタデータ等(以下「画像データ等」といいます。)の利用条件は、以下のとおりです。
はて、面妖な。著作権の保護対象ではないデータに条件をかけるとは。

どういうわけだろうと思って、その条件を見ると・・・。
利用条件
配布が入っていないのが気になるが、条件はないも同然。著作権の保護対象ではないのだから、本来書く必要すらないのだが、もし書くとするならこんな感じだろう。

さらに読み進めていくと・・・。
※この利用条件は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの「CC BY」(クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際ライセンス)相当の条件です。
一瞬、「え?CCライセンス?著作権の保護対象じゃないのにダメじゃん」と思ったが、よく見ると「相当」と書いてある。

これはうまい。「CCライセンス」ではなく、あくまで「CCライセンスのようなもの」になっているのだ。たしかに、どこにもクリエイティブ・コモンズのマークがない。これでは文句はいえない。

こういうデータベースでは、資料を利用した場合、その成果を提出するように求められる場合が多い。法律的には、所蔵者にそんなものを求める権利はないのだが、どういうわけかさも強制力があるように書かれることが多い。しかし、東大図書館の場合は、これもよくできている。
成果物提供のお願い
・この画像データ等を利用して、図書や論文、資料などを作成された場合は、是非それを当館にご提供ください。
・ご提供いただいた資料は、当館所蔵資料として利用に供する場合がありますので、予めご了承ください。
・提供が難しい場合は、利用実績を電子メールでご報告いただくだけでも結構です。
うまいと思ったのは、太字にした「是非それを」である。これがないと、ありもしない権利を主張していることになる。

わずか五文字を付け加えることで、ありもしない権利の主張から、「提出しなくてもいいけど、できたらしてほしいなー」という、穏便なお願いに変えてしまったのである。さすがは東京大学の図書館というほかない。
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『打聞集』の電子テキストを公開しました。例によって、翻刻部分はパブリックドメイン(CC0)で、校訂本文部分はクリエイティブ・コモンズライセンス 表示 - 継承(CC BY-SA 4.0)で公開します。

打聞集:やたナビTEXT

『打聞集』は大正時代に山口光円により、金剛輪寺で発見された仏教説話集です。現在は京都国立博物館の所蔵ですが、昭和2年に古典保存会により複製が作られ、国立国会図書館デジタルコレクションに入っています。やたナビTEXTはこれを底本に作成しました。

打聞集:国立国会図書館デジタルコレクション

内容的には、『今昔物語集』・『宇治拾遺物語』・『古本説話集』・『日本霊異記』に見られる説話ですが、同文性はそれほど高くありません。ほとんどがそれらの説話よりも簡略化されていますが、単純な簡略化ともいえず、なかにはちょっと凝った構成になっていたり、簡略にもほどがある程度に短いものもあります。

最後に付いている巻末文書も重要です。巻末文書には、『大鏡』と『大和物語』の本文が含まれます。いずれも短いものですが、古態を示しているといわれます。

つかみ所のない、ナゾの仏教説話集ですが、それぞれの説話集の関係を考える上では、欠かせない資料となっています。
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春秋か暮秋か:2018年05月25日の続き。

詳しくは上の記事を読んでいただきたいが、このとき、烏丸光広本の『徒然草』第7段「かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。」の「春秋」を「暮秋」と読むべきではないかと書いた。

結論からいうと、これは「春秋」で問題なかった。

『徒然草』は現在24段まで翻刻したが、すでに全く同じ字形が二度(7段も含めると三回)出てきた。そして、それは「春」以外に読みようがないものだった。
春秋・春めきて・春日
左・・・最初の記事で書いた第7段「夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし」
中・・・第19段「鳥の声なども事の外に春めきて
右・・・第24段「ことにをかしきは、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・・・」

というわけで、お騒がせしました。
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