伝説の日中文化サロン上海・内山書店 (平凡社新書)を読んだ。

内山書店といえば、神保町の内山書店である。

今はどうか分からないが、学生時代、ここの二階で本を探していると、何故かかならずお茶が出た。お茶が出る古本屋というのはいくつかあったが、それもなじみ客がイスに座ったときぐらいで、買おうが買うまいが誰彼なくお茶を出していたのはこの店ぐらいだろう。

立って片手に本持っているときでもお茶を入れてくれるので、こぼしたらどうしようと冷や冷やしたものだ。

当時お茶を出してくれたのは、かなり高齢のおばあちゃんだった。この方、実は内山完造の養女で、東京内山書店創業者にして完造の弟、内山嘉吉の奥さんなのだが、そのときはそんなことは知らなかった。

あるとき、いつもお茶を出してもらって悪いので本を買った。何を買ったかは覚えていない。お金を払うと、おばあちゃん、レジのボタンを押した。すると、

チーン!

という音ともに、おばあちゃんが転んでしまった。一瞬何が起こったかわからなかったが、よく見るとあの引き出しみたいな部分が、社長のお腹に当たったのである。あわてて助け起こしたのを覚えている。

さて、この本によると上海内山書店では、奥にお茶が飲めるスペースがあり、そこに多くの文人・文化人・学生が集まったという。やはり誰彼となくお茶を出していたそうで、あのお茶はその名残だったらしい。

僕はこの本を読むまで、漠然と上海内山書店が日中文人の交流の場だったということしか知らなかった。上海の内山書店跡にも行ったことがあるが、銀行の壁にプレートが貼られているだけなので、ああここかという程度のものだった。

しかし、実際にはそんな生易しいものではなかったのである。この本には「伝説の日中文化サロン」などと暢気な題名が付いているが、革命家、スパイ、軍隊が跋扈する、魔都上海を舞台にしたノンフィクションサスペンスである。

それにしても、ここに描かれる内山完造の人物像は魅力的である。内山完造は、よく日中友好の架け橋などといわれるが、そんな安直な言葉では表せない。この時代に、こんな芯の通った日本人がいたとは、溜飲が下がる思いである。

分かりやすく言うと、ゴルゴ13的なかっこよさ。あ、よけい分かりにくかったか?すみません。