『平中物語』の電子テキストを公開しました。

静嘉堂文庫本『平中物語』:やたナビTEXT

底本は静嘉堂文庫本(孤本)です。例によって、翻刻部分はパブリックドメインで、校訂本文部分はクリエイティブ・コモンズライセンス 表示 - 継承(CC BY-SA 4.0)で公開します。

影印本は『校注平中物語』(山田巌 水野清 木村晟・洛文社・昭和45年5月)を使用しました。前にも書いたように、印刷はあまりよくないのですが、非常に読みやすく書かれているので、翻刻そのものは気持よくできました。

ところが、本文が難しいのです。難解な語ばかりでてくるわけではありませんが、主語がころころ入れ替わったり、難解な単語や言い回しがあったり、誤写があったりして、校訂本文を作成する方が苦労しました。『校注平中物語』と『平中全講』(萩谷朴・同朋舎・1959年10月20日初版 1978年11月復刊第一刷)がなければ、どうにもならなかったと思います。

『平中物語』はその名の通り、平中(平貞文)を主役とした歌物語です。平中というと、中世説話文学の世界では、完全なお笑いキャラクターとされています。しかし、この作品では、お笑いキャラクターになる以前の平中が見られます。

例えば、平中が本院侍従に、「ただ『見つ』とだけでも、返事をください」と手紙を出し、本院侍従は、平中の手紙から「見つ」と書かれている部分を破いて送り返したという有名な話があります。(『今昔物語集』30-1『宇治拾遺物語』50『世継物語』54)。ちなみに、これがホンモノです(ウソ。僕が書きました)。
みつ

この話の原型が、『平中物語』にあります。
『平中物語』第二段:やたナビTEXT
また、この男の懲りずまに、言ひみ言はずみある人ぞありける。それぞ、かれを「にくし」とは思ひはてぬものから、返り事もせざりければ、「この奉る文(ふみ)を見給ふものならば、給はずとも、ただ『見つ』とばかりはのたまへ」とぞ、言ひやりける。
されば、「見つ」とぞ、言ひやりける
ここでは、平中に言われた通り「見つ」と書いて送ったとだけあります。また、本院侍従とも書いてありません。

これでは、まだ冷たくあしらわれた以上の意味を持っていません。これが『今昔物語集』のように、破られた自分の手紙が返ってくると、話の方向が笑いへとシフトしていきます。『平中物語』は純粋な恋愛譚がほとんどですが、後にお笑いキャラクターへ成長していく萌芽を見ることができます。

そのような後の影響を考えなくても、現代の恋愛小説やラブコメに繋がるものがたくさん見られます。人間なんて千年やそこらでは変わらないものだと痛感しました。

注釈がないと、なかなか読むのが難しい作品ですが、なるべく読みやすいように本文を作成しましたので、是非ご一読ください。