僕は外国へ行った時、かならずテレビを見る。もちろん、何を言っているのか分からない。それでも、外国のテレビを見るのは楽しい。

アメリカへ行った時は、古いサバンナRX-7にV8エンジンを載せる方法を懇切丁寧に教える番組をやっていた。いかにもアメリカっぽいが、コンパクトなRX-7にでかいエンジンを載せる意味がわからなかった。

イギリスでは、どっきりカメラみたいなのをやっていたが、番組の変わり目に突然乳首が喋り出した。何を言っているのかわからねーと思うが、乳首(女性の)が大写しになったと思ったら、突然目鼻がついて喋り出したのである。何を言っているかは分からないが、乳首がしゃべるとキモいということだけは分かった。

テレビがありがたいのは、言語が不自由でも、ある程度画像で分かることだ。しかし、そこは多分に誤解を含んでいるはずだ。それでは、外国人になったつもり―日本語が一切できない設定ーで、最近のニュース番組を見てみよう。

交通事故だの犯罪だの、どこの国でもやっているニュースの後、何やら会議室の映像が映しだされた。しかし、メンバーが何だかヘンだ。男ばかり、それも全員中年のオッサンである。みんなスーツを着ているが、サラリーマンのスーツとは違い、どこか違和感がある。

「何の会議だろう?日本の政治家は男性が多いと聞くから、政治家だろうか?」

どいつもこいつも、政治家にしては恰幅がいい。ただのデブではない。ガッシリとしていて、どこか殺気を感じる。中でも真ん中あたりに座っているオールバックの男が、若そうに見えるにもかかわらず、席にふんぞり返って偉そうに見える。

画像が変わり、大きな黒い車が映る。中からさっきの偉そうなオールバック男が出てきた。ここで、僕(日本語ができない外国人)はすべてを理解した。

「分かった!こいつら、ジャパニーズギャングだ。日本にはヤクザという組織があると聞く。これは、ヤクザの跡目争いの会議で、ふんぞり返っている男が跡目の候補者だろう」

そう思って見ていると、テレビのアナウンサーらしき人が、解説をしている。もちろん日本語だから何を言っているか分からないが、ギャングの顔写真と派閥を書いているらしいボードを出している。話題の中心が例のオールバック男であることも何となく分かる。もう間違いない。

さて、よく分からないヤクザのニュースを見ていてもしょうがないので、僕はチャンネルを変えた。

ところが・・・、どのチャンネルも同じような時間に、同じヤクザのニュースを流している。日本人にとって、ヤクザの跡目争いは、国民的なニュースだと知った。

かくして、僕は帰国後、友人にみやげ話をするのである。

「日本、やべぇよ。ヤクザの跡目争いがトップニュースなんだぜ!どのチャンネルでも同じ時間にそれを流してるんだぜ!」