馬上駿平『重箱の隅から読む名場面』(新典社)を入手したのは、今年の1月。今ごろこれを書いているのは、なかなか読めなかったからである。

新書版で全127ページ。全然長くない。それでも、これを読むのに時間がかかったのは、この本がスルメ本だからである。スルメ本とは、スルメイカのように、噛めば噛むほど味がでる本のことで、こういう本は繰り返し読まないと理解できないし、自然と繰り返し読んでしまう。だから、薄い本でも読むのに時間がかかるのだ。

といっても、文章が難しいわけではない。文章はむしろ平易で読みやすい。しかし、扱っているテーマが「重箱の隅」である。「重箱の隅から読む」とは筆者によると、重箱の隅=「一見何でもなさそうなさりげない言葉」で、それを読む=解釈することだという。だから、この本の読者もざっと読んで分かった気になってはいけない。

対象は近代文学で、向田邦子『思い出トランプ』・志賀直哉『暗夜行路』・夏目漱石『道草』・芥川龍之介『猿』の「さりげない言葉」を題材に、そこに隠された表現・情報を読み取っていく。

重箱の隅に隠された情報は、その読みが合っているかどうかは別にして、古典だとわりと気づきやすい。現代の文章と違うから、おのずと気をつけて読むからである。

近代文学の場合、容易に意味が取れるからついスルーしてしまうものだ。例えば、この本で扱っている『暗夜行路』の「淋しい気がされた」などという言葉は、一瞬「アレ?」とは思うけど、「まあ大正時代はそんな言い方だったんだろう」ぐらいで済ませてしまうだろう。

最初に「スルメ本」などと書いたが、よくよく考えれば、名作と言われる作品はすべてスルメ本である。プロットや名場面だけ理解して読んだつもりになっていたら、もったいないことだ。そういう読み方を、この本は指南してくれる。


こちらも同じ著者による『文法で味わう名文』。こちらは文法なので、さらに読むのに時間がかかって、紹介する機会を逸してしまった。


『文豪たちの「?」な言葉』は、以前このブログで紹介(馬上駿兵『文豪たちの「?」な言葉』を読んだ)した。