ハルビン市には松花江という大河が流れている。現代の日本人にはあまり馴染みがないかもしれないが、僕にとって中国の川といえば長江・黄河についで身近な名前だ。それには二つ理由がある。

一つは松花江緑石硯。その名の通り緑色の硯で、松花江の上流に産した。満州族である清朝が威信をかけて探し求めた石だが、嘉慶帝のころにはすでに産出されなくなった珍品だ。何度か現物を見たことがあるが、緑端渓などのニセモノも多いようなので、僕が見たのが本物だったかどうかはわからない。

もう一つは祖父から聞いた話。祖父は戦争中、兵隊としてハルビンにいた。ハルビンの冬は寒く、広大な松花江は凍りつき、そこでアイススケートをやったという。

そんな祖父の遺品に、満州の写真集があった。一冊は『最新哈爾濱の展望』というもので、ハルビンのガイドブックみたいなもの。ほぼ全編モノクロ写真。
最新哈爾濱の展望
もう一冊は『満洲大観写真帖』。お土産用だろうこちらは絵葉書ぐらいの大きさの小冊子。「原色版」とあるようにカラーだが、絵にしか見えないものも多い。
満洲大観写真帖
以下、この二冊の写真と今の風景を比較してみよう。

市内中心部から松花江に向かうと、川の手前に兆麟公園という大きな公園がある。かつてはプリスタン公園とか埠頭公園と呼ばれたらしい。旧満州国時代、このあたりは日本人の多く住む地域で、憩いの場だった。下の写真は『哈爾濱の展望』より。
プリスタン公園の風致
こちらは『満洲大観』。どう見ても絵だけど。
ハルビン埠頭公園夜景
ほぼ同じ位置から写真を撮ってみた。どうにも狭く見えるし、どう考えても右側の亭子が低いが、この橋が見えるのはここしかない。
現在の兆麟公園
『哈爾濱の展望』には橋のアップもあった。よほど愛された風景なのだろう。兆麟公園には5つ橋があるが、すべて形が違う。この橋は跨虹橋という。
昔の跨虹橋
現在。手すりは変わっているが、下部のトラス構造は同じようだ。
跨虹橋
跨虹橋(反対側)
樹木が豊かで花もきれいに咲いている。なかなかいい雰囲気の公園だが、なぜかところどころに遊園地みたいな遊具がある。ちょっと野暮ったい井の頭公園みたいな感じだ。
兆麟公園の遊具
メリーゴーランドも・・・ん?よく見るとヘンな絵が。
メリーゴーランド
拡大。江口寿史先生のトーマス兄弟!でも三人だっけ?後ろの人は誰?
メリーゴーランドの絵
最後に、名前の由来になった李兆麟の墓。抗日戦争の英雄だそうだ。
李兆麟の墓
かつて、日本人の憩いの場だった公園は、抗日戦争の英雄の名を冠する中国人民の憩いの場になった。諸行無常、驕れる者は久しからずである。

その2へ続く。