男臭いバイオレンスでおなじみの『水滸伝』だが、意外にも書道も関係がある。

梁山泊一味の宿敵、奸臣の一人が蔡京である。梁山泊の宿敵になるぐらいだから、史実の蔡京もあまり評判がよろしくなく、『宋書』では列伝231奸臣2に入っている。正史で奸臣に入るのだから、相当なものだ。

その蔡京は、宋の四大家(蘇軾・黄庭堅・米芾・蔡襄)の一人、蔡襄(洛陽橋(万安橋)に行ってきた続 洛陽橋(万安橋)に行ってきた参照)の甥で、自身も能書家として知られている。

『水滸伝』には、蔡京が能書家であることをうまく利用したエピソードがある。

『水滸伝』第三十九回で、潯陽樓の壁に反乱の詩を書いた罪で囚われた宋江を梁山泊一味が救助するため、蔡京からの手紙を偽造する場面がある。作戦の発案者呉用の言葉に宋の四大家が出てくる。
如今天下盛行四家字体、是蘇東坡・黄魯直・米元章・蔡太師四家字体。蘇・黄・米・蔡宋朝四絶。

講談社文庫『水滸伝』(駒田信二訳)による和訳は次の通り。
いま天下にもてはやされているのは四家の書体、すなはち蘇東坡・黄魯直・米元章・蔡京の四家の書体で、蘇・黄・米・蔡といって宋朝の四絶と称されております。

呉用は書の達人蕭譲と彫刻の達人金大堅をむりくり仲間に引き入れて、蔡京の書と印を偽造させる。蔡京の書と印は、当時流行の書として、法帖(お手本)が出回っていたので、上手い人なら簡単に偽造することができたというわけだ。古い印をお手本にしたため、文書偽造がバレるという落ちがつくのだが、108人の好漢の中に書家と篆刻家(のようなもの)が入っているというのが面白い。

それにしても、呉用の言う宋朝四絶は現行の宋の四大家と違う。蘇東坡・黄魯直・米元章は、それぞれ蘇軾・黄庭堅・米芾だから問題ないが、蔡襄であるべきところが蔡京になっている。

『水滸伝』が書かれた明代では蔡京だったのか、あるいは、作品中で辻褄を合わせるために蔡京にしたのか。蔡京が奸臣だから蔡襄にしたというのは一応説得力はあるが、『水滸伝』の書かれた明代よりあとに、奸臣だからといって蔡襄にするのはちょっと遅すぎる気もする。