今年の3月から始めた、やたナビTEXTの『とはずがたり』が、やっと巻二まで完了した。



『とはずがたり』が難しいのは分かっていたが、写本の文字そのものはそれほど難しくはないし、一度は読んでいるので、そこまで手間がかかるとは思っていなかった。実際やってみると、今までのものとは段違いの難しさである。では、どこが難しいか。

1.主語が分からない
『とはずがたり』は後深草院二条の日記なので、自分は当然省略される。後深草院もいるのが当たり前だからよく省略される。関係した男たちは、はっきりかくとヤバいから省略される。なんだか暗闇の中で会話を聞いている感じだ。

主語が分からないというのは、僕の読解力のせいだけではない。現在でも説が分かれているものがたくさんあるのだ。

2.やたら詳しいファッション描写
書いているのが女性だからだろうか、ファッションの描写がやたらと詳しい。
樺桜七つ・裏山吹の表着・青色唐衣・紅の打衣・生絹の袴にてあり。浮き織物の紅梅の匂ひの三小袖、唐綾の二小袖なり。(『とはずがたり』巻1-7)
そう書かれても、どんな服を着ていたのかイマイチピンとこないが、実際の表記はこんな感じだからもう何が何やら。
かはさくら七うら山ふきのうはきあを色から花くれなゐのうちきぬすすしのはかまにてありうきをり物のこうはいのにほひの三小袖からあやの二小袖なり

3.平仮名で書かれた仏教語
『とはずがたり』の前に『沙石集』をやったから、仏教語にはかなり詳しくなったつもりだが、平仮名で書かれるとこれがまた何が何やら。
御けんしやせうくうか命にかはりける本そんにやゑさうのふとう御前にかけてふししゆ行者ゆ如はかほんつちひみつしゆ生々にかことてすすをしすりて・・・
こんなの分からん。答えは次の通り。
御験者、証空が命に代はりける本尊にや、絵像の不動御前にかけて、「奉仕修行者、猶如薄伽梵、一持秘密呪、生々而加護」とて数珠押しすりて・・・

4.やたらと多い誤写
誤写が多いのは有名なので、最初から覚悟していたが、なにをどう間違ったのか分からない誤写が多い。なにしろ天下の孤本なので対校することもできない。さらに上の1〜3が加わるので、文脈の想定ができなくなり、さっぱり読めなくなってしまう。

これだけ誤写が多いということは、おそらく書写者も読めていなかったのだろう。ここで「読めていない」というのは解釈できていないということだ。読めなければまともな写本は作れない―翻刻も同じ―という好例である。僕の師匠はこの作品の初期の訳注(角川文庫)を作った人だが、よくもまあ三十代後半でこんなのできたものだと感心する。

そんなこんなで、師匠のを始めいくつもの注釈書を参照して本文を作っている。本来、やたナビTEXTではあまり注釈を入れない方針だが、読みやすさを考えると、いつもよりも増やさざるをえない。

そんなわけで、いつもより時間がかかってしまうのだが、時間がかかってしまうのには、もう一つ大きな理由がある。

5.いろいろキモい。
つまらないわけではない。むしろ面白いのだが、キモい。特に登場人物がキモい。
光源氏気取りの後深草院もキモいし、有明の月自身も、有明の月が送った手紙もキモい。その他二条と関係する男がことごとくキモい。雪の曙はまだましな方だが、それでも妊娠中の二条と関係するとか、やっぱりキモい。誰がどう見てもすごい作品なんだけど、どうも苦手なんだよなー。

あと3巻、まだまだ続きますので、一つよろしくお願いします。