『篁物語』の電子テキストを公開しました。

宮内庁書陵部本『篁物語』:やたナビTEXT


底本は、宮内庁書陵部本です。いつもどおり、翻刻部分はパブリックドメインで、校訂本文部分はクリエイティブ・コモンズライセンス 表示 - 継承(CC BY-SA 4.0)で公開します。

一年半ほど前『醒睡笑』を始めた時に読み始めましたが、すぐに面倒くさくなってしまい「準備中」のままサスペンド、今日まで来てしまいました。いつまでも準備中というのもいかがなものかということで、夏休み中に一気にやってしまおうと思った次第。意外と面白くて、すっかりハマってしまいました。

写本は流麗な字でとても読みやすいのですが、一部色付きの紙に書かれていて、モノクロ画像では真っ黒になってしまいます。また、誤写に起因すると思われる意味の分からない言葉がけっこうあります。そのへんでつまづいて、面倒くさくなったというわけです。

さて、主人公は言うまでもなく小野篁です。篁の説話というと、バイトで閻魔大王の補佐官をしていた(『今昔物語集』20-45)とか、嵯峨天皇とトンチ比べで勝った(『宇治拾遺物語』49)とか、その類まれな学才を描く説話で知られ、色気のあるイメージはありません。

ですが『篁物語』は恋愛物で、しかも相手は腹違いの妹です。妹萌えの元祖ですな。

女の親は娘に教育を受けさせるため、腹違いの兄である篁に家庭教師をさせます。勉強しながら歌のやりとりをし、次第に二人はうちとけてゆきます。そうこうしているうちに深い関係になり、女は妊娠してしまいます。

1-9 かく夢のごとある人は孕みにけり・・・
かく夢のごとある人は、孕みにけり。書読む心地もなし。「例のさはりせず」など、うたてある気色を見て、この兄も「いとほし」とおしみて、人々、春のことにやありけん、物も食はで、花柑子・橘をなん願ひける。知らぬほどは、親求めて食はす。兄、大学のあるじするに、「みな取らまほし」と思ひけれど、二・三ばかり畳紙(たたうがみ)に入れて取らす。
「花柑子・橘をなん願ひける」とは妊娠して酸っぱいものを食べたがるという意味です。この時点では親はまだ気づいていませんが、すぐに妊娠はバレて女は母親によって部屋に幽閉されてしまいます。

1-10 かかることを母おとど聞き給ひて・・・
いよいよ鍵の穴に土塗りて、「大学のぬしをば、家の中にな入れそ」とて追ひければ、曹司にこもりゐて泣きけり。
妹のこもりたる所に行きて見れば、壁の穴のいささかありけるをくじりて、「ここもとに寄り給へ」と呼び寄せて、物語して、泣きをりて、出でなまほしく思へども、またいと若うて、ねたりたへき人もなく、わびければ、ともかくもえせで、いといみじく思ひて語らひをるほどに、夜明けぬべし。
「鍵の穴に土塗りて」は鍵穴に土を詰めて開けられないようにしたということですが、どう考えてもナニかの暗喩です。篁が「壁の穴のいささかありけるをくじり」ったというのも同じでしょう。

やがて女は死んでしまいますが、幽霊になって篁のもとに現れます。最初は頻繁に現れていたのが、時が経つのにつれて少なくなっていきます。その間、篁は結婚することはありませんでした。

と、ここまでが、ここまでが物語の主要部、やたナビTEXTでは第一部としました。第二部では篁は「時の右大臣の女」と結婚します。ここからあとは、読んでみてください。二部はあっという間に終わっちゃうけど。