『醒睡笑』の電子テキストを公開しました。


内閣文庫本『醒睡笑』:やたナビTEXT

底本は内閣文庫本です。いつもどおり、翻刻部分はパブリックドメインで、校訂本文部分はクリエイティブ・コモンズライセンス 表示 - 継承(CC BY-SA 4.0)で公開します。

『醒睡笑』は寛永五年(1628)京都所司代板倉重宗の依頼により安楽庵策伝が書いた笑話集です。短い話が千話余りもあります。ほとんどが名も無き人の話ですが、その中に戦国大名のエピソードが入っており、戦国時代・安土桃山時代の風俗・習慣などの資料にもなるでしょう。

俗に「落語の祖」などと言われますが、たしかに落語のような最後にオチを付けるタイプの話が多く見られます。これは中世の説話ではまずありません。しかし、では面白いかと言われると、ちょっと躊躇します。

直感的に分かる中世の説話と違い、当時の言葉や習慣の知識がないと理解できないものや、いわゆる考え落ちが多く、よく読んでやっと理解できるものが多いのです。考えないと笑えないというのは、考えて分かった時点で笑えなくなります。そこで今回の校訂本文はいつもよりも多めに注を付けておきました。

『醒睡笑』は作者の気合の入り具合が半端ではありません。笑い話を千個集めるだけでもすごいのですが、笑話を分類した上で、ちょっと感動する話もまぜるなど、構成もよく考えられているようです。

極めつけは上戸の最初にある策伝による長文の随筆です。


酒飲みの俗と酒に否定的な僧が、それぞれ酒の効能と害悪について、衒学的な論戦をします。引用される仏典や漢籍を見ると、策伝の教養の深さに驚かされます。が、漢文で書かれているため、翻刻にはかなり手こずりました。

この作品は近世文学に属するものの、書かれている内容は中世末期ですから、中世を専門とする僕としてはそれほど難しくはないと思っていたのですが、中世と近世の感覚の違いを改めて思い知らされました。