東寺観智院本『僧妙達蘇生注記』の電子テキストを公開しました。


東寺観智院本『僧妙達蘇生注記』:やたナビTEXT

底本は東寺観智院本『三宝絵詞(三宝絵)』の中巻の末尾に入っているものです。『三宝絵詞』とは全く関係ない作品なので、ページを分けました。「妙達和尚の入定して蘇りたる記」がそのタイトルですが、続々群書類従第16部雑部の「僧妙達蘇生注記」の異本なのでこちらにタイトルを合わせました。いつもどおり、翻刻部分はパブリックドメインで、校訂本文部分はクリエイティブ・コモンズライセンス 表示 - 継承(CC BY-SA 4.0)で公開します。

内容は出羽国龍華寺の僧妙達が突然入定(死亡する)、冥界で閻魔大王に会って、亡くなった人が来世でどうしているかを聞き蘇生するという話です。形式的には、「○○(人名)は生前○○をしたため、現在○○に生まれ変わってどうなった」という話が続きます。

問題はこの人名で、妙達の檀越だった藤原忠平や、なぜか贔屓される平将門、将門を調伏した尊意増命など有名人も出てくるのですが、ほとんどは聞いたことない人ばかりです。カナで書かれていて表記が分からない人もかなりいます。

そんな中で個人的に気になったのは、いくえのよつねです。


越前国にありし、いくえのよつねと云ひし者は、一生の間、人に物を取らせむと思ふ心深し。常に法師・尼を供養しき。法華経八部、大般若経二部、書き供養し、破れたる寺をつくろひき。この功徳によりて、けうしら国の第一の人となれり。
これだけの内容なのですが、『今昔物語集』17-47に国と名前が全く同じ人物がでてきます。

『今昔物語集』巻17第47話 生江世経仕吉祥天女得富語 第四十七


しかし、共通点は越前国と名前だけで、内容は吉祥天女のご利益で生江世経が富貴を得たという話で、まったく関係ありません。しかもややこしいことに、『古本説話集』61『宇治拾遺物語』192に類話があり、こちらでは、越前国の伊良縁世恒(いらえのよつね)になっています。何か関連があるんだろうと思いますが、今のところ何も思いつきません。

正直言って面白い作品ではありませんが、奇書であることは間違いないでしょう。