5月のある日のこと、通勤で駅に向かう途中にこんなのを見つけた。
物件情報
都内ではこんなのをよく見かける。どう見ても道交法違反だし怪しい。こんなのを見て買う客がいるのかと思ったが、同じ地域でもっといい家に住みたいという需要は多く、意外と効果があるらしい。

それはともかく、こんなのはあちこちにある。だから普通は見つけてもスルーしてしまうのだが、これは横断歩道の前にあったので、信号待ちの間につい見てしまった。で、気づいた。

あ、これ前に住んでた部屋だ。

角部屋、L字バルコニーはもちろんのこと、写真は見慣れた景色である。間取りは違っているが、リフォームしたのだろう。僕たちが住んでいたころはいかにも昭和という風情の、3Kというナゾの間取りだった。それにしても築50年近いくせに高い。

こうなると、住んでいた部屋がどうなったかが気になってくる。売っているのだから、部屋の様子はSUUMOやホームズなどの不動産紹介サイトを見れば分かる。さっそく見てみると、僕たちが住んでいたころの昭和感はまったくなく、間取りはもちろんのこと、畳の部屋はフローリングに変わり、風呂もトイレもきれいになった写真が出てきた。かろうじてL字バルコニーとそこからの景色だけが変わらない。販売会とやらを申し込んでみたくなったが、隣のオッサンだの管理人だのに見つかったら恥ずかしいのでやめた。

それから一月ほどして不動産紹介サイトを確認すると情報が消えていた。この物件は売れたらしい。二年間空室だったが、ようやく住む人が決まったのである。

このマンションは16年も住んでいたので思い出も多く感慨深い。「草の戸も住み替わる代ぞ雛の家」と詠んだ芭蕉の気持ちが分かった。