よいちゅうぶ

うるおいアーカイブス。

2013年06月

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某先輩に習い(遅まきながら)'10年より自分が行ったライヴのデータを記録するようにしていますが、毎年「今年最も回数観た個別アーティスト」部門の1位は、ドラマー芳垣安洋氏になってしまいます。そんな芳垣さん(どんな芳垣さん?)仕切りの恒例ピットイン4daysの3日目、ヴィンセント・アトミクス、ちょうど2年ぶりのライヴでした。芳垣安洋(dr,per)岡部洋一(per)高良久美子(vib,per)松本治(tb)青木タイセイ(tb)太田惠資(vl)勝井祐二(vl)水谷浩章(b)の忙しすぎる8人で組閣されているため、気付くと普通にライヴのインターバルが2年も空く難儀なバンド。冒頭、控えからメンバー登場→バンマス芳垣さん挨拶兼メンバー紹介→芳垣「vib高良久美...」→高良「ちょ待て...忘れ物取ってくる」→客(譜面?)→紹介続行→高良(大量のマレットを持ち)帰還→客(え?)→芳垣「え?忘れ物ってソレ?」→高良(てへ)→芳垣「この2年でずいぶん遠い地点まで来ましたね...」→一同(苦笑爆笑)...のっけから商売道具をお忘れになろうと、高良女史及びヴィンセントの素晴らしさは揺るぎないです。



まあ真面目な話2年ぶりの全員集合ということで、芳垣さん始めメンバーそれぞれがリハから難儀で素晴らしい曲の再確認作業にご腐心だった模様です。しかし「我々が初めて演った曲ですが、未だにコレが一番難しい」と言いながらも、アタマの"眠れぬ夜のために"(1stの1曲目)からもうバッチリ。バッチリどころか、リスナーとして何度聴いても新たな発見と悦びに満ち溢れるアレンジ。この日は(予想に反し)1stから3曲、2ndから4曲とセトリ的には懐かしいものもありましたが、曲の賞味期限など存在しないかのような新鮮なアプローチでの熱演でした。このバンドも見ようによってはROVOのメンバーが3人、ボンデージ・フルーツから3人、元ONJOだと4人、元DCPRG・元ティポグラフィカでそれぞれ2人ずつ...各方面でメンバーが激しく交錯していますが、個人的にインストゥルメンタルバンドとしてはヴィンセントが最も好き。ベースが水谷さんだからかもな...水谷さんによるサッカーにおけるボランチばりの屋台骨グルーヴ抜きに、ヴィンセントならではの「揺らぎ」もまたあり得ません。あと「無国籍ミニマルファンク」といえば耳触りはいいですが、単純にダンスミュージックとして痛快なだけでなく、ヴィンセントの場合はアティテュードというか精神面での「逸脱」と「遊び心」が顕著なのも特筆すべきでしょう。芳垣さんがレスター・ボウイに捧ぐ"Lester B"って曲があるくらいだし、もはや別名「Art Ensemble of Yoshigaki」でもいい。AEOC魂の継承者、そう考えると楽しさ倍増です。



ちなみにAEOC、楽しさ倍増なのはいいんですが、あまりに楽しすぎて滅多と聴けないのは困り者。

setlist.
[1st] 1.眠れぬ夜のために(Yoshigaki) 2.MBIR-VA(Yoshigaki) 3.?(「ブラジルっぽいやつ」by芳垣) 4.Eatborfa(Yoshigaki) [2nd] 1.くつわむし(Aoki) 2.OFERERE/AZOTH(Yoshigaki) 3.大建設(Kido) 4.☆☆○~道化師のレクイエムとメリーゴーランド(Aoki) [Ec] ムギの踊り(Yoshigaki)

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寡聞にして知りませんでしたが、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」、なんとこれで"5回目"の映画化(テレビ含む)だそうで。向こうでは高校の必読書にもなってるらしく、我々からすると「米国人、どんだけギャツビー好き!?」って感じですが、今回は豪州人のバズ・ラーマンまでもが話に感動して製作・監督・脚本してしまいました。今次5度目の映画化にあたって、私もお約束的に原作を(初めて村上訳版で)再読してみたのですが、翻訳の機微までよく分からんけどやっぱこれ超名作ですね!! ほんと沁みるわ。我が国でも、教科書でどんどん高校生に読ませたらいいんじゃないでしょうかね。「諸君、アレな女性(異性)に全力で執着し続けると人生破滅するよ」とか、何かと目覚めていく時期に学べて大いに有益だと思います。で、そんな世界基準での人生のありがたいバイブルをラーマンとデカプ、「ロミオ&ジュリエット」以来17年ぶりのタッグによる再現ですが、これ大成功で感動しました。



映画「華麗なるギャツビー」としては74年のレッドフォード版を考えないようにするのは無理なので、今回のデカプ版を観て「そもそも原作にどこまで忠実なのか、あるいは意図的に変えてるのか」「レッドフォード版からの違和感あんのか、それとも新たな感動とか生まれてんのか」etc...諸々潜在意識で比べてしまうのは致し方ないです。当然「グレート・ギャツビー」読んでなくても、74年の「華麗なるギャツビー」観てなくても、一つの波乱万丈物語として全然楽しめます(というか、むしろその方がよりピュアに堪能できるかも)。というわけで、ここではあえて主演陣の印象だけを。ギャツビー役のレオナルド・ディカプリオ、顔がますます弁当箱化してるのは気になりますが、素晴らしいギャツビーです。弁当箱顔のおかげで、レッドフォードよりもいい意味での荒々しさと迫力をギャツビーに注入。問題はデイジー役のキャリー・マリガンで、まず正直に言いますけど私、キャリー・マリガンってあまり好きじゃないんです...なんかあの容姿も演技もわざとハッキリさせないでうだうだしてる感じが...(ファンの方に土下座)。ギャツビーが人生を賭けて愛し求め続ける高嶺の花デイジーなのに、キャリーだとどうも「令嬢」感が薄い。単なる「可愛い田舎娘」風情というか。そこら辺、逆に74年版のミア・ファローはもう絶妙でした。なので観始めてからずっと「デイジーが残念...」と怒ってたんですが、話が進むに連れ(男性は特に?)「デイジーふざけんな」状態になってくると、前述したキャリー特有の「ハッキリさせないうだうだ感」が神懸かったレベルでデイジーに相応しくなってきて...キャリーごめんなさい、君こそが真のデイジーです。フィッツジェラルド同様、確かに自分もデイジーに実嫁ゼルダが見えちゃったし...



フィッツジェラルドもきっと、ゼルダの心に潜む阿修羅にやられてしまったんでしょう...お疲れさまでした。

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実は昨年、チケット発券後の公演中止が個人的に4件もあって泣いたり怒ったり呆れたり...いろいろ大変だったんです。まず、一番泣いたのは3月のフー・ファイターズ(デイヴ喉痛で直前に来日中止)。グラミーも席巻し、名実ともに全米トップバンドとなったフーファイの全盛ライヴを逃したのはマジ痛。で、泣いたというより真剣に心配したのが11月のヴァン・ヘイレン(こちらはデイヴじゃなくてエディが重篤な病)。デイヴ版VHとして35年弱ぶりの奇跡の再来日が一瞬にして流れたこの衝撃。それも「やっぱりデイヴと兄弟が大喧嘩」とかならまだ笑えましたが、ただでさえこれまでも癌闘病で不憫なエディがなんでまた...という感じで、当時はひたすら快復だけを涙目で念じました。しかし、エディは頑張ってくれた。デイヴも上機嫌らしい、喧嘩もしてない。「治ったら必ず行くからチケットはそのまま持っててくれ」の言葉を信じ続けた結果、遂にエディ・ヴァン・ヘイレン(弟)アレックス・ヴァン・ヘイレン(兄)ウルフギャング・ヴァン・ヘイレン(息子,甥)デイヴ・リー・ロス(芸人)の4人によるVHを観ることができました。なので正確に言うと、「中止」ではなく「延期」ですね。ちゃんと来てくれてありがとなー!!!!



東京ドームも先般の武道館に負けず劣らず超久しぶり、こちらは10年前のストーンズ以来ですな。「と、とりあえず、生800円って高くね?」とぶつぶつ言いながら、1塁側(エディ側)スタンド1階7列目着席。うむ、ほぼアリーナレベルで満足。しかしお隣の男性始め、客のオサーン臭がハンパない...ま、これは自分もそうだから仕方ないか。この日はバンドサイドからの要望で、(個人向けなら)写真・動画は撮影フリー。なんかものすごいレンズを構えてる人もいましたが、公式の許可ならこういうのもたまには楽しい。ビール飲んで、自分もカメラとオペラグラスを準備してたらあっという間に開演予定19:00を回り、客電落ちないから「さすがにもうちょいじらすだろ」思ってたらいきなり明るいままドラムがズンドコ鳴り出して...「つかあれ叩いてんのアレックスじゃん!?」とビビった瞬間、"Unchained"に突入してました。何という非演出、笑っちゃうけどカッコよすぎ。後はもう、興奮でよく覚えてないです。



さすがのデイヴも昔みたいな大開脚ジャンプはやれなかったが、でも全然元気でしたよ。声もすごくよく出ていて驚きました。セトリはデイヴ盤過去6枚から満遍なくピックアップされた名曲群と、デイヴ復帰後の最新作「A Different Kind of Truth」収録曲が何の違和感もなく一体化した神レベル。同行した音楽の師匠は「新しいの超絶的名作だよね」と仰っていましたが、ハイ、全くその通りです。



"(Oh) Pretty Woman"なんかはもう...爆笑しつつも(感動&思い入れで)泣けて泣けて。「ちょ、何この大名曲は!? さすがVH!!」って万歳するも、これこそ他人の曲。だけどロイもさぞお喜びでしょう、この曲が2013年にドームで演奏されてるだなんて。心配された病み上がりエディは、かなり太ってしまって一段とヨッちゃん化が進行。いや、「エディがヨッちゃん化」してるのか「ヨッちゃんがエディ化」してるのかすらよくわからん状況でしたが、プレイと笑顔はキレキレでまた泣けました。「今更じいさん達なんか観て幻滅するかも?」とか一瞬でも迷ってゴメン、実物を観られてほんと幸せでした。一切の思想と批評を拒否する、どこにもない高純度な音楽。それがヴァン・ヘイレン。(VHでオチがない件)

setlist.
1.Unchained 2.Runnin' With the Devil 3.She's the Woman 4.I'm the One 5.Tattoo 6.Everybody Wants Some!! 7.Somebody Get Me a Doctor 8.China Town 9.Hear About It Later 10.(Oh) Pretty Woman [Drum Solo] 11.You Really Got Me 12.Dance the Night Away 13.I'll Wait 14.And the Cradle Will Rock... 15.Hot for Teacher 16.Women In Love 17.Romeo Delight 18.Mean Street 19.Beautiful Girls [Dave's Short Film "Tokyo Story 外人任侠伝"] 20.Ice Cream Man 21.Panama [Guitar Solo] 22.Ain't Talkin' 'bout Love 23.Jump

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(それでも恋する)バルセロナ→(恋の)ロンドン(狂騒曲)→(ミッドナイト・イン・)パリ...と周って今度はローマ(でアモーレ)にやってきました、ウディ・アレン翁の欧州転戦シリーズ。とは言っても私、「バルセロナ」だけは辛うじて愛しのスカヨハさま目視のためTVで事後的に観たものの、「ロンドン」も「パリ」もスルーです。というかウディ・アレン、「ギター弾きの恋」(99年)を最後に今世紀入って観てない...てか正直に告白するとウディ・アレン、個人的には映画界最大の食わず嫌いかもしれない。この人は結局「アニー・ホール」(77年)だけあればいい...みたいな。何の根拠もありませんが、自分の中では長年そういうことになってきたんです。なのでアレンが結構前から映画作りの拠点をヨーロッパに移してたり、今作まで6年間もキャストに名を連ねてなかったこととかもよく知りませんでした。で、お前は一体何で今回「ローマ」は観たんだ? ということですが、何故なら私はローマに行ったことがないからです。ええ行ってみたいんですよ、ローマ。「あのアレンがローマでのびのび楽しそうに楽しそうなことやってるらしい」と聞いて、悔しさのあまりつい劇場へ。すると何の皮肉も嫌味もスノッブもない、軽妙洒脱なエピソード4つが同時進行する魅惑のローマを体感できて大満足でした。勝手にずっと避けてきてすまんウディ・アレン、これからちゃんと毎作「アモーレ・カンターレ・マンジャーレ!」するから許せ。



うっかり「何の皮肉もない」と言いましたが、「冷笑しないウディ・アレン」など、それはもうウディ・アレンではないわけで。このローマでも「名声を得ること」や「芸術の価値」や「教養を持つこと」等について、アレンならではのシニカル目線で我々に問いかけてきます。でも今回のはずいぶん軽いんですよ。あっさりしてるから嫌味じゃないし、「そんなことよりこんな素敵な街にみんなも恋しましょう」って自ら先陣切って能天気モードなので、翁の小言も素直なウィットにしか感じません。全部だとおそらく膨大な数に上るであろうキャスト陣も、アレック・ボールドウィンやロベルト・ベニーニやペネロペ・クルスetc芸達者からジェシー・アイゼンバーグやエレン・ペイジetc若手まで、全員とても生き生きと清々しい。ジェシーがまたもや「ソーシャル・ネットワーク」ばりの早口まくし立てキャラなのは、地なんですかね?



ウディ・アレンも今年で78。楽しい欧州歴訪の次は、いよいよ「リオでアモール」がラストヘブンだな。オリンピックもあることだし、うん、マチガイない。ま、オリンピックとか一番興味なさそうな人だけど...

stoker03
タイトルが「イノセント・ガーデン」と聞いて「今回(こそ)はシンプルにオリジナルまんまなのな」思って観始めたら、開始ものの3分で原題は「Stoker」だったのねと(またしても)判明した件。うむ、これは最近だとトムの原題:「Jack Reacher」→邦題:「アウトロー」変換と同じパターンですな。当時「邦題『ジャック・リーチャー』でいいじゃんか」言いましたし、今回も気持ちは「そのまま『ストーカー』でしょ?」なんですが...「ストーカーっていいよね」「ストーカー最高だった」「近頃ストーカーにハマってる」etc...さすがにちょっと感想の音響的にアウトですね。それ以外でも「ストーカー」だと強力な眠剤か何かと勘違いされかねませんし、今次邦題変換やむなしでしょうか。ちなみにこの"ストーカー"はインディアという主人公のファミリーネーム(Stoker)からで、唾棄すべき犯罪者とはもちろんスペル違いです。



ミア・"アリス・イン・ワンダーランド"・ワシコウスカ演じる主人公のインディア・ストーカーは超センシティブな女の子で、18歳の誕生日に父親が謎の死を遂げる。心の全く通わない母親エヴィ・ストーカー(ニコール・キッドマン)と大邸宅に2人取り残されたところに、ずっと行方不明だったこれまた謎すぎる叔父チャーリー・ストーカー(マシュー・グード)が突如現れていよいよ雲行きが...というストーカー3名のお話。18歳の少女がいろいろと「目覚めていく」過程での美的狂気を捉えたサスペンススリラーとでもいえましょうか。なんかこう短く簡単に言ってしまうと本当に薄っぺらく感じますが、実際のところこの映画に特段の「主張」や「深み」は全く求めなくていい気がします。貶してるわけではない、むしろ観終わってすごく満足です。非常によく練られたキャラ設定や最後の最後まで惹き付けられるストーリー展開、そしてパク・チャヌク監督ならではのフェティッシュな映像美"のみ"が本当に見事で、役者の素晴らしい演技もあって娯楽作としてかなりの水準だと感心しました。「少女開花」とか「性と暴力」とかのお題目はあくまで二の次にしといた方がいいかも。真剣に取り合うには話があまりに突飛すぎます。それより、インディアとチャーリーがピアノ連弾する場面があって、当然ピアノ弾いてるだけなんですがそれがもうこの上なく美しく官能的で...「うわ何このエロ名曲&名シーンは!?」と悶絶してたら、なんでも監督がわざわざフィリップ・グラス大先生に作っていただいたとのこと。なるほどこの映画はテーマ性なんかより、こういう極められた外形的造形美こそ満喫するのが肝。もはや本作もある種の「グラスワーク」ですし、反復して細部を愛でるのが礼儀かと。監督からしてミニマル好きなんだしさ。



それにしても、旦那を亡くした悲しみに暮れる間もなく男にうつつを抜かすダメな母親を見事に演じるニコール・キッドマン。「悲劇的で複雑な母親役は念願だった」って...この人自ら好んでラース・フォン・トリアーに追い込まれたりしてたし、実はドMなんですかね。大女優として最高の資質だと思います。

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