黄色いパーカー3980円

ヤマハSR400というバイクは、クラシックな外観から連想する通りのクラシックな性能で、特に優れたスペックはないのだけれど、乗るととても気持ちいい乗り物なのである。
今ここにも一台のSR400が夕陽に照らされ影を伸ばした街路樹が美しい市道を走っている。
シートとマフラーだけをいじったライトカスタムマシンは、乾いた排気音をリズミカルに鳴らして駆け抜ける。少しばかり制限速度を超過していたが、それは珍しくもないありふれたスピードで、青年はただ快適にSRの感触を楽しんでいた。


 桂木香奈恵はこの春から地元の食品会社の事務員として働きだした20歳である。
自宅から3㎞の道のりをかなえは歩いて通っていた。
今日は工場主任から包装間違いで不良品になった梅ゼリーを沢山もらってご機嫌の帰り道だった。
「ゼリー♪ゼリー♪梅ゼリー♪」
歩道を歩く香奈恵の目に、一台のバイクが写る。
「あ、オートバイだ。いいなーオートバイ。気持ちよさそうで」
羨望の眼差しで見つめる香奈恵に、SRのライダーは気がついた。
「何見てんだ、あの子。ガン見じゃねーか。ってか可愛くね?いや可愛いわ、うっわ、好みー!」
脇見運転のSRの前に、横道から一台の乗用車が顔を出した。
街路樹が邪魔してバイクを見落とした乗用車と、前を見ていないバイクが出会うということは、事故が起きるという事だ。

「あ」

ドカンという音と共にSRは乗用車の右側面に突っ込み、ライダーは宙を舞った。人間ってあんなに飛べるんだーと思うほど飛んでいた。
やがてライダーはアスファルトに叩きつけられ、2~3回バウンドしてゴロゴロ転がって、最後は歩道の縁石に頭をぶつけて止まった。ぴくりとも動かなかった。
乗用車を運転していたご婦人は動転して車の中で頭を抱えていた。
全てを見ていた香奈恵は、目の前の花屋の店員に救急車を呼ぶよう伝え、乗用車の婦人に車から降りて夫を呼ぶように伝え、ライダーのところへ駆けていった。
その青年は意識を失いぐったりとしたままで、香奈恵の呼びかけには反応しなかった。
二重事故を防ごうと青年の傍に立ち救急車を待った。
救急車とパトカーが同時に到着し、香奈恵は救急車に同乗させられ行ってしまった。
「この方のご家族ですか!?」
「違います」
「ではお友達かなにか」
「赤の他人です」
「さ、災難でしたね」
「はい」
救急車の中は、妙に気まずい雰囲気だった。

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