l_k-1-world-grand-prix1993 3準決勝第一試合 
佐竹雅昭(27/日本) vs ブランコ・シカティック(38/クロアチア)

一回戦を共にKOで突破した両雄。怪物空手家・佐竹の強烈な蹴りか!?ムエタイ王者を粉砕したシカティックの石の拳か!?まさに、潰し合い!KO必至の準決勝!1R 静かな立ち上がり。途中、レフェリーから「注意」が入る程、両者共に手数が少ない。互いに一回戦で見せ付けられた相手の「一発」を警戒しているのか、あるいは、虎視眈々と逆にその「一発」を狙っている為か!?ラウンド半分を過ぎたところで、佐竹が首相撲から懸命に膝を繰り出し始める。当たりはいずれも浅いが、これで均衡が崩れた。また組み付こうとする佐竹を強引にシカティックが引き剥がすと、強烈なバックキック(後ろ回し蹴り)!そして、驚く佐竹の顔面に右ストレート!たまらず組み付こうとする佐竹!それを突き飛ばし、佐竹をリングに転倒させるシカティック!立ち上がった佐竹にまたもシカティックが強烈な右ストレート!当たってはいないものの、圧力に押されてバランスを崩し、ロープまで押し込まれる佐竹!シカティックが決めにきている!シカティックの再三に渡る右ストレート!側頭部にもらって崩れ落ちる佐竹!しかし、ややスリップ気味だったのと、佐竹がすぐに立ち上がった為、レフェリーは「ダウン」を取らない。立ち上がった佐竹に、シカティックがまたもバックキック!佐竹が組み付こうとしても、それをさせないシカティックの体幹の強さと、堅実なテクニック!1Rは、シカティックが取った!2R 1Rに攻め込まれただけに、流れを変えようと、開始早々果敢に攻めてゆく佐竹!しかし、シカティックのカウンターの左フックを顎にもらい、後退してしまう!距離が離れれば、バックキック、近づけば右ストレートと左フック!佐竹も懸命に打ち返してはいるものの、試合は、完全にシカティックのペース!3R 明らかに劣勢に立たされた佐竹に対し、会場からは大きな「佐竹コール」が沸き起こる!もう後が無い佐竹、挽回なるか!?場内の声援に応えるように、果敢に前に出て攻めてゆくのは佐竹!しかし!それこそをシカティックは待っていた!まるで、獲物を仕留めるハンターの如き冷静さでシカティックが攻めてくる佐竹のパンチにカウンターの左フック一閃!!苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちる佐竹!5カウントで立ち上がれず!ノックアウト!日本代表・佐竹雅昭、準決勝で無念の敗退!ブランコ・シカティック強し!!

準決勝第二試合 
モーリス・スミス(31/アメリカ) vs アーネスト・ホースト(27/オランダ)

一回戦を順当に勝ち上がったスミスと、大番狂わせを起こしたホーストのテクニシャン対決!場内で観戦するファンや、あるいはスミスも、「まぐれは二度は続かない」と、思っていたかもしれない。が、1Rが始まるや、その褐色の肉体を躍動させながらスピーディーで華麗なコンビネーションを繰り出してゆくのは、ホーストだ!「世界最高峰のテクニック」と謳われたスミスのお株を奪うかのようなホーストの攻撃!しかも、ホーストのそれはスミスよりも、明らかにスピードの面では凌駕しているのだ!スミスもペースを持っていかれまいと要所要所に打ち返すが、スミスの1発に対して、ホーストが3発4発と矢継ぎ早にコンビネーションを繰り出してくる為、攻撃が続かない。にわかに、場内がざわめいてくる。2Rも、攻めるのはホースト!スミスは受けに回るのが精一杯で、手が出ない!パンチもさることながら、コンビネーションの最後に放たれる鞭のような右のロー・キックがスミスにダメージを与えている!ピーター・アーツの鉈で折るようなロー・キックと、空手家特有の刀で切るような下段蹴りの両要素を併せ持ったホーストの芸術的なまでのキックである。そして迎えた3R セコンドに激を入れられたスミスが今まで以上に果敢に攻めてゆく!「キックの帝王」の名に懸けて、このままでは終われない!スミスの右ストレートがホーストの顔面を捕らえる!そして、さらに踏み込むスミス!両者の体が接近し、ややもつれる。―――と、その離れ際!ホーストの左足が鮮やかな弧を描いてスミスの後頭部付近へ伸びてゆく!完全な死角から伸びてくるそれに、スミスは全く気が付いていない!ホーストの左ハイキックがスミスの後頭部にクリーンヒット!まるで後ろから不意打ちでも食らったかのようなスミスが、豪快にリング上に崩れ落ち、大の字になる!立てる筈も無い!ノックアウト!またしても優勝候補が轟沈!しかし、これはもう「番狂わせ」などではない!恐るべし、アーネスト・ホースト!この男、いったいどこまで強いんだ!!

決勝戦 
ブランコ・シカティック(38/クロアチア) vs アーネスト・ホースト(27/オランダ)

いったい誰がこの決勝戦を予想出来たというのかッ!?大会前の関係者及び、ファン投票での優勝者予想は、圧倒的1位にピーターアーツ、次いで、モーリス・スミスと佐竹雅昭、ダークホースとしてチャンプア・ゲッソンリットが挙げられていたのである。しかし、現実はこれだ!上記した世界の強豪達は全員、決勝戦に上がってきたこの両雄のどちらかによって撃沈されてしまったのである!さあ、ついに「打撃系格闘技世界最強の男」が、決定する!1R 開始早々から両者が積極的に攻撃をしかけてゆくが、やはり目立つのは、ホーストの槍のように真っ直ぐ伸びてくるノーモーションの速い左ジャブだ。おそらく、並みの世界ランカークラスなら、この左一本で制圧してしまうのではないかと思わせるような左。シカティックも、ホーストに調子付かせまいと得意の右ストレート、左フック、さらにはバックキックを繰り出そうと試みるが、いかんせんホーストの動きが速く、シカティックが攻撃をする頃には、もう射程圏内からエスケープしてしまっているのである。そして、動きが止まれば、また矢継ぎ早に左ジャブからのパンチのコンビネーションで、シカティックを脅かす。1分過ぎ、体全体で思い切り踏み込むシカティックの右を軽く左の頬に当てられたホーストがロープまで押される。すかさずシカティック追撃も、ホーストはすぐにクリンチで誤魔化してしまう。シカティックの打ち終わりを狙ったホーストの左ジャブと左ローキックが鮮やかにヒットする。2分過ぎ、ホーストの右ローキックに体制を崩すシカティック。ここまでいいようにやられ続けて少しムッとしたのか、負けん気で強引に打ち返そうとするシカティックだが、そこを逆に「待ってました」とばかりの速いパンチのコンビネーションを華麗にヒットさせる冷静沈着なホースト。アーツ、スミス、という優勝候補二人を立て続けに破ってきたこの男のテクニックは、やはり尋常なものではない。動きの止まったシカティックをパンチのコンビネーションでロープまで追い詰めるホースト。ホーストの鋭い左ジャブ二連発が、シカティックの顔をまるでピンボールのように跳ね上げる。そして、強引に踏み込んできたシカティックの左フックに、狙いすましたホーストの左フックがカウンターでヒット!またシカティックの顔が跳ね上がった!―――のだが、シカティックの強引な踏み込みは、そこで止まらなかった!左フックを顔面にもらいながらも、まるで「お構い無し」と言わんばかりに、そこからさらにシカティックが前へ出る!そして、全体重を乗せた右フック一閃!巧く左のカウンターを当てただけに、まさかそこから反撃がくるとは夢にも思っていないホースト!ホーストの左の拳は、まだフックを放った余韻のまま、自分の顔の位置へ戻ってすらいないのだ!唸りを上げて迫ってくるシカティックの右のパンチを、ホーストは避けられるはずもない!シカティックの強烈な石の拳をまともにテンプルにもらうホースト!まるでマネキンのように真後ろに吹っ飛んでダウン!完全に失神している!カウントをとる必要も無い!あまりにも完璧なノックアウト!壮絶な結末!ブランコ・シカティック、全試合KO勝ちで「K-1 GP 初代王者」すなわち「打撃系格闘技世界最強の男」に決定!!

―――はい、というわけで、今から二十年前に開催されたK-1 GPの記念すべき第一回大会を観戦記という形で振り返ってみました。僕の文章でその臨場感が伝わった方もいまいちピンとこなかった方にも、改めて一言だけ言わせて頂きたいと思います。「本当に、凄い闘いでした!」世界最高峰の8名による過酷なワンデイトーナメント。解説を務めた谷川貞治氏も語っていましたが、この大会、勝つ事に慣れたベテラン、テクニシャンが多かっただけに、玄人好みの微妙な判定が続くのではないかと予想する声が、開催前では多数あったようなのです。しかし、実際に闘いが始まってみると、これが逆転に次ぐ逆転!番狂わせの連続!スーパー・ヘビー級の怪物達によるド派手なKOの連発!主催者である正道会館館長・石井和義氏自身が「ここまでの盛り上がりをみせるとは・・・」と、驚いてしまう程の嬉しい誤算!K-1が生まれた1993年は、今なお続いている総合格闘技のメジャー・イベント「UFC」がアメリカで誕生した年でもあり、世界の格闘技史において一つの転換期であったと思います。それまで漫画やゲームの世界でしか有り得なかった単純明快な構図である「ボクシングvs柔道」、「空手vsレスリング」、「世界王者vs世界王者」、「強いもんvs強いもん」、ガチで闘ったら、お前らいったい誰が一番強いんだよッ!?という、ファンの誰しもが一度は疑問にし、時には論争にまで発展する机上の格闘、ドリーム・マッチがついに具現化したわけです。それまで、格闘技といえば、オリンピック競技であるレスリング、ボクシング、そしてプロ興行であればボクシングのみが唯一メジャーとして認知され、それ以外はマイナー扱いされていました。そこに、異種格闘技戦という突飛な構想、そして素人でも解りやすいド派手なKO劇という強烈なスパイスが加わる事によって、新ジャンルが確立した瞬間でした。そして、この後の十数年間、2000年代後半にかけて、K-1をはじめとする格闘技界は、まさに全盛期を迎えることになるのです。続く。