2006年11月30日

サービスbox01. カシータ(リゾートレストラン)〜2

マジック・テクニック

最初にオープンし現在は閉店した六本木店時代に、私はよくカシータを利用していた。1週間で4日通ったこともあり、6時に入店してから3時まで過ごしたこともある。会社のミーティングはなるべくカシータで行うようにし、スタッフ全員にカシータのサービスを経験する機会を持たせたこともあった。青山店がオープンしたときにはキッチンを覗き、麻布十番店もオープン間もない頃から利用している。最近では仕事内容が変化したため頻度は低下したものの、たまに犬を連れて1人で利用している。

01六本木店(写真は六本木店時代のベジタブルバー)
六本木店を利用していたある日、コンシェルジュの中尾さんが私と友人で食事をするテーブルにやってきておもむろに「松原様、本日別のテーブルに高橋麻希子様が誕生日のお祝いにお見えになっていますが、花束など用意されますか?」と言った。
高橋さんは以前に私の秘書としてサポートしてくれたことがあったのだが、お互いが顔見知りであることを中尾さんが知っているということにまず驚きを覚えた。最終的に数千円の、しかし見た目豪華な花束が用意された。私はその花束を用意するために何の行動も行わなかった。用意されたキレイな花束を持って高橋麻希子さんの席に案内してもらい、それを手渡すだけでよかった。
別のある日、新年が明けてからはじめて訪れたカシータに、今では何の理由があったのかは忘れてしまったが、私を含めた4人はお祝い事で訪れた。いつもどおりテラスに先に通される。そして少し時間を贅沢に使った後にテーブル席に通されると、そこには正月に撮った私の写真、別の女性の大阪での写真、また別の女性の子供写真がフレームに入って飾られていた。最後の1名の写真は入手できなかったのか置かれていなかった。しかし、こういった写真を一体どうやって手に入れることができたのか?
謎は最後まで明かされなかった。

サプライズには人を感動させる力がある。
人が感動する心理には「サプライズ」と「ストーリー」の2種類があるが、よりビックリするのは「サプライズ」であることに反対の人はいないだろう。私には未だに、どうして私が高橋麻希子さんと知り合いだということがわかったのか、3枚の写真を手に入れることができたのか、あらゆる可能性を考えてみても答えが見つからない。
しかし、私の経験ではカシータの素晴らしさの本質はサプライズにあるのではない。感動は人に大きな喜びと、相手に対する信頼のステップを刻んでくれる。しかし、喜びと信頼を継続させてくれはしない。喜びと信頼を生みだす方法と継続させる方法は異なる。




空気と水になる接客がサービスを支える

01テーブル私が青山店を訪れると、よく担当についてくれる佐藤さんという女性がいる。現在のカシータでは古参に入り、実際に気配りに長けている。テーブルによっては担当に一度もなったことがない人もいるが、彼らの中にも素晴らしい接客を行うと評判の人はいる。
佐藤さんの接客は地味だ。少なくともコンサルティング部門であり、接客の責任者でもある雨宮龍氏が1度のオーダーで立ち位置を4回変えるようなことはしない。オーダーには親身に答えてくれるが、それは他のスタッフと変わらないカシータ気質でもある。彼女の素晴らしさは、単に気がつくとか心配りができるということではなく、例えて言えば「空気を吸わせてくれる」「水を飲ませてくれる」ということと変わりない。つまり、快適に継続してサービスを受け続けることに対して長けている。ビッグサプライズやテクニカルな接客をしない代わりに、相手に安心感を与える。
私が犬を連れて来店すると、しゃがみこんで一緒に遊んでくれる。うちの犬が彼女の手や顔を舐めているのを見て、こちらが心配になってしまう。座っていていいんだろうか。料理に悪影響はないんだろうか、と。
しかし、はっきり言ってしまえばそんなことは彼女も十分にわかっていることであって、楽しみながら必ず普通の仕事を行う姿は卓越している。

私たちはよく間違えがちだが、サービスというのはお客に継続して空気を吸ってもらい、水を飲んでもらうような、普通を続けることで成り立っている。感動や満足は実はそれほど大切ではない。それは自分がレストランや交通機関を利用しているときの気分を考えてみればよくわかる。
あるいは、接客の仕事をしたことがある人であれば、相手にどんなに尽くしても満足や感動は10%も生まれないということを知っているはずだ。
カシータでは佐藤さんのようなスタッフが何名かいる。スペシャルでもなんでもなく、普通にカシータを利用できる状態を作り出す接客者がいることが、カシータを支える価値である。
そうでなければ、サービスは驚かせたもの勝ちになってしまう。そのようなサービスを安心して受けることのできる人は、いるにしてもよほどの変わり者だろう。

接客に対して私は、全てのお客の中でもかなり観察をした方だと思う。その中ではっきりと評価でき、言えることは2つある。
1つはお客をサービスへ導入するための感動や満足の喚起がうまいということ。もう1つはそれを維持するために様々なタイプの接客者が共存しているということであり、しかも佐藤さんのようなどちらかといえば地味でありながら正しい仕事をしている人が、ちゃんと評価されていることである。
どちらかを持つサービスはレストランにも多い。たとえば権八、ラ・ボエムなどを展開するグローバルダイニングは前者で、スターバックスは後者に当たる。しかし、どちらも持つサービスは存外少ない。




メニューを注文することがほとんどない

私がカシータを利用するとき、ほとんどの場合メニューにある料理を食べない。そのときに食べたいものを食べるようにしている。
幸いカシータにはそのシステムが整っている。
メニューにない料理を作るためには、料理人の腕がいいだけでは成り立たない。接客者が料理人の腕と今日冷蔵庫に何が眠っているかということを知らなくてはならないし、サービス全体としては原材料費から価格を導くようしくみがなくてはならない。
特に接客者に必要とされるのは「なんとなくこういうものが食べたい」というお客のニーズを最終的な料理という画一的な「物」に変換することで、それには提案をしなくてはならないが、料理の知識がなくては提案することができない。
逆に料理人もお客の気持ちを汲み取る力がなければ自分本位のものを作ってしまって不満足を与えることになるし、「できる範囲で一生懸命やったベスト」程度の料理を出してしまってはサービスの信用に関わる。
たとえば、以前私はよく丼物を注文していたし、最近ではカレーを注文する。無茶は言わないができるとわかっているもので料理人の腕を問うような注文をするようにしている。前は値段を見ずに支払いをしていたが、最近では料金を見て、オリジナル料理の価格への反映がうまくいっているのかどうかに注意を払う。




「金は払わん」事件

01ヴーヴクリコ私自身の経験の中から、分析的に書いたつもりだが、最後にこういったこととは全く反対の経験も書いておこうと思う。
それは青山店がオープンした初日に起こった。そのころになると私はカシータの主要スタッフに確実に名前を覚えてもらえるようになっていた。混んでいることがわかっていたので、行くつもりがなかったのだが、会社の人たちと結局食事はカシータでしようという話になった。青山店を見てみたいという者もいて結局7人で9時過ぎごろに訪れた。
バタバタという表現が正しくないほどに店は混乱している中、それでもベテランのスタッフは席を用意してくれた。しかし、どんなに待っても料理が出てこないばかりか、担当スタッフが現状の説明もしに来ない。誰も一言も声をかけないために私は不機嫌になり、その雰囲気がスタッフにも伝播して騒がしいレストランの中で私たちのテーブルだけが無人島のようになっていた。

確かに混乱もある。そのためにパニックになっているのもわかる。
しかし料理を出さない、出ない理由を説明しないのはレストラン失格だ。私は席を立って新しく店長に就いた柳沼氏を探して捕まえ、状態を説明した後に「今日はお金払いません」と言った。後にも先にもカシータで支払いをしないという暴挙に出たのは私だけではないだろうか。
しかしそれほどその日はひどかった。カシータレベルのサービスはもちろん、通常のレストランのレベルさえも維持できていなかった。その後そのような状態は改善されて現在に至っている。

トータルで考えてみると、東京中のレストランを渡り歩いても(実際に渡り歩いた)カシータレベルのレストランは2つとない。個人的にというのであれば、私はこれからもカシータを利用し続けるだろう。
しかし同時にこのレベルの、違う毛色のレストランが生まれてほしいとも思う。日本のサービスは悪いというようなコンサルタントもいるが、そんなものは嘘だ。世界中のレストランを経験したことのある人であれば、日本のサービスは異常にいいということがわかる。最高級の頂点ではないかもしれない。しかし平均をはるかに超えている。その中でもさらにカシータのようなサービスが増えれば、それは誰にとってもうれしいことになるのではないだろうか。
コンサルティング部門の雨宮龍氏は、レストランの立ち上げをサポートすることもある。より完璧なサービスの飲食店を展開したいのであれば、実績を出したプロの手を借りることも考えてみたいところだ。

ym_produced



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サービス理論を学べるサイト
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もっとカシータを良く知るために
【カシータのHPと本】

01カシータHPカシータホームページ



I am a man.
オーナー高橋滋氏が六本木店時代に書いた著作。カシータを作り上げるまでのストーリーを読むことができます。
(クリックすればアマゾンで購入できます)

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【このブログについて】

奇跡のレストラン"カシータ"やラグジュアリーホテル"リッツ・カールトン"などをはじめ、box.01〜26まで"サービス分析をわかりやすく解説"しています。

box.27からは、読み物としても楽しめる"サービス心理学"を連載中!!

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松原 靖樹 プロフィール詳細
1973年奈良県生まれ
趣味は読書とピアノ

サービスに携わる様々な経験と共に、3年間の研究期間で理論を体系化しました。このブログでは実サービスを分析して、ありのままのサービスの姿を明らかにし理論を解説します。
取り上げるサービスは私自身が経験し、深く調べたサービスばかりです。
超客観的な視点で見るので、高い評価も厳しい意見も率直に書きますが、悪意のある中傷は行いません。

表面上に見えるサービスの裏側、本質や楽しさを見出してもらえればうれしく思います。

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