(場違いな内容となるかもしれません。ご了承ください。)
さあ、今日も部活動へ行こうかと思い、立ち上がろうとしたとき、ジェニファー(隣の校長先生の奥さん)が突然、焦った口調で話しかけてきました。
「近所の人が死んだ・・・。」
「誰が?いつ?どこで?」
「ユウスケがこの前展示場の企画で話をして写真を撮ったあの人だ。今、亡くなったことが確認されて家に運ばれている。村の人は棺をみんなで作っている・・・」
「えっ・・・・」
1000枚以上の村人の写真や子どもたちの作品でいっぱいになる展示場のプロジェクトを一緒に立ち上げようとした人物が今日亡くなりました。
村の役所の役人で、村の水や畑の管理を担当をされていました。
2日前くらいに、仕事終わりにトランプをしているのを見たのに・・・・
死因は「マラリア」です。
村人の話によると、マラリアの症状はあったが、2日ほど病院に行く機会が得られずに、コアテム(マラリアの薬)を処方するのが遅れたそうです。
その間に原虫が脳に達し、この方を死に至らしめたそうです。
途上国の現実・・・
唖然としながらも、必死に正気を取り戻し、アンダーソン(校長)と一緒に、亡くなった方の遺体をおさめる棺を一緒に作るために家に向かいました。
家の前では村人が、寄せ集めた木材とのこぎりと金槌で手際よく協力しながら棺を作っている光景がありました。恐る恐るではありますが、許可を得て写真を撮らせていただきました。非常識覚悟で現実を届けたいと思いシャッターを押しました。
しかし、驚いたことにその棺を作る雰囲気も、周りに集まる人々の様子も日本のお葬式の雰囲気とは少し異なり、感じたままに言うと「いつものことだ」というようなものです。
明るい雰囲気とは言えませんが、淡々とことを行う印象を受けました。
自分はものすごく信じられず、先日あった人が亡くったことでものすごく悲しく感じていましたが、周りの大人たちと話しているとそんなに重大なことと受け止めていないような。
自分も冷静になり、「死」についてどう考えているのか気になり、役所関係の方に聞いてみました。
すると、こんな返答が帰ってきました。
「人が死ぬことは悲しくて寂しい思いをするものだ。でも、それ以上に子どもが生まれているのも現実。日本では病院も薬も救急車もあり、すぐに治療が受けられるだろう。ソロモンではそういうことはない。それをみんな理解しているんだ。だから、人が死ぬことはよくあることだと受け止められる。」
「・・・・」
だから前向きに、子どもが新たに生まれることで輪廻転生のように、命が復活する感覚なのかもしれません。
「これから、この棺に遺体を入れ、実家(ワントーク)がある隣の島へボートで運ぶ。この村のわずかではあるが、親切心によってそうするんだ。」
さすがに、遺体のある家の中では女性が泣き叫んでいるのが聞こえていました。
棺を作る大人の周りにも、遺体のある家の周りにも子どもたちが呆然と、その一部始終を見ています。子どもたちには尋ねませんでしたが、“生と死”についてどんな感覚を持っているのかものすごく気になりました。
大昔のこの地は”人食い族”が住み、その風習はキリスト教の伝来と共に徐々になくなってきた歴史があります。また、ジェラミー(牧師兼教師)の話では、今でもこの島の奥地に行けば、収穫時期に生贄を神に捧げる習慣が残る部族がいると言っていました。
素直に感じたことですが、この地の人々は、「生」と「死」の間隔をものすごく近いものとして考えているように思います。それは死を軽く見ているということではなく、
「人間はそうして生きたり死んだりする生物だ」
と理解しているような。
ただ、友達がいなくなる、家族がいなくなる、人がいなくなるということ程悲しい現実はありません。人間にはそう感じる感情がもともと備わっています。だからこそ、キリスト教がこの地を救うために現れたのでしょう。
ならば、今できる正しいことは、子どもたちに本当の意味での「生きるということ、生き方、生きるために必要なこと」を教えるべきだと思います。
できる限り、健康、医療、薬物、環境の分野まで手を伸ばし、どのようにして命を守っていくのかについ教育していきたいと今は強く思っています。
怖い話ですが、自分の中で、ものすごく死というものが近いものとして捉えられるようになった出来事でした。
明日死ぬかもしれない。
そう考えると、生きるために必死にやっておくことがあるだろうと考えられます。
それには、死なないために最大限の努力をする、という現実的なこともこの地では含まれています。
最終的には、やっぱり、命を守るということでしょうね。死んだら何もなりませんから。「生きてもらう」ということに尽きるんですよね。いろいろなやり方があっても、それが大事なことだと思います。それが人道支援の一番の根幹にあるんだと思う。(共の生きるということbe humane:元国連難民高等弁務官事務官 緒方貞子著)