羅針

楡周平の『羅針』です。最後まで飽きずには読めたのですが、何か不満の残る作品でした。帯には、この作品について2つの事が記されています。1つは、

北洋でサケマスを追い、南氷洋で鯨を狙う。荒ぶる昭和の海に生きた男の物語。

そしてもう1つは、

生きて帰れ。そして息子の羅針となれ。
親子の絆を問う、楡周平の新境地!

というもの。どちらかと言うと、最初の方の「荒ぶる昭和の海に生きた男の物語」という方がしっくりはします。主人公の関本源蔵は、11才の時に、日本の戦況悪化に伴い、サイパンを離れ、仙台にいる親戚の元に身を寄せ、苦学の末に商船学校を卒業し、幹部船員として「富国水産」で働きます。この作品の大半が、機関士としての源蔵の航海の描写に費やされています。北洋でのサケマス漁や南氷洋での捕鯨の様子が分かりやすく描かれていて、僕的にあまり興味のあるジャンルではないのですが、どんどん惹き込まれていきました。でも、源蔵は幹部船員なので、漁の最前線にいる訳ではないからかどうか分からないのですが、リアリティがないというか、緊張感までは伝わってこないのが残念でした。
 という理由で、「荒ぶる昭和の海に生きた男の物語」と言うのには少し物足りなさを感じてしまいます。

もう1つの「親子の絆を問う」という事に関してですが、源蔵は二人の男の子がいるのですが、その長男が思春期となり、航海に出たら半年は家を空ける源蔵と長男が疎遠になっていくんですね。そして、対立が起きてしまい、関係が悪くなる・・・。そういった誰でも経験するであろう父親の悩みみたいなものも、物語に織り込まれています。そして、とある事件をきっかけに再び父子の関係が修復されるのですが、ネタばらしちゃいますと、源蔵が遭難しちゃうんですね。三日間程。それがきっかけで、息子が素直になるというか、心を開くと言いますか、このパターンには少し不満が残りました。思春期の息子との対立を、正攻法な、対話や行動で、心を開かせるなら、また違った感想になったと思いますが、

「流石に、生きるか死ぬかの場面になれば、そりゃあ心も開くだろう」

と思っちゃったんですね。参考にならんというか、それが「羅針」か?と思っちゃったんですね。

この作品の最後の締めとして、

親の生き様から何を学ぶかが重要なのだ。そう、親は子の羅針となればそれでいいのだ。

なんて言葉で締められてますが、遭難しなければ、そんな展開になれたか?遭難しなかったら、どうやった方法で、そんなに早く息子の心を開かせた?なんて逆に「楡周平」に問いたくなりました。変り映えのしない日々の日常生活を送りながらでは、いくら親の生き様を見せようが、ある程度の時間の経過が必要なのが、一般的な親子の関係だと思うんですよね。「羅針」となるという事の答えは、この作品にはなかった気がします。とにかく【絆を問う】という程ではなかった気がしました。

意味不明かもしれないですが、という理由で中途半端な読後感でした。( -д-)ノ