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2015年04月

腕立て伏せ ~できないものはできない~

僕のブログの読者ならば、人生で行った腕立て伏せの回数は何百、何千、何万に上ると思うんです。つまり、かなりやりなれていると思います。そして、指導した経験もある方も多いと思います。
考えてみると、S&Cプロフェッショナルやパーソナルトレーナーで、この運動を教えたことがない人がいないほどの、世界的に知られているスゴイ運動です。

それでも、これをまともに指導できない人がいるんですね。
わけわからない指示を出して指導対象者を困惑させてしまう指導者がいるんです。
そんな光景を先日目撃したので、これは記事にする価値があると思って、今回は自体重上半身運動の腕立て伏せに関して書くことにしました。

まず、腕立て伏せってこういう運動です。

手幅は下の写真2つが一般的です。
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image2

そして一番下に降りたとき(胸が地面に着くとき)に、掌底が乳首のラインに来るように置きます。また、そのボトムポジションではひじは手首の真上(辺り)です。
胸がつくほど下げるのは可動域の可能性を無駄にしたくないから。掌底を乳首のラインに置くのは上半身の重さがくれる負荷を十分に腕にかけたいから。肘を手首の真上にするのはシアロードが起こるのを防ぎたいから。

そして、下の3つのビデオは、腕立て伏せ中に起こりうる現象です。



まず上の2つは、手を顔の前に置くことで、腕が支え起こさなければならない上半身からの負荷が小さくなるため、筋力がない人は、腕立て伏せの「下がって上がってくる」という指導者から指示されたタスクをこなすためにこれでやろうとします。そして、1つ目のビデオのようなフォームで開始して、だんだん2のようなフォームになります。これらのフォームになるのを防ぐために、指導者が体と手のポジションと動作時の姿勢を指定したうえで腕立て伏せをやらすと、筋力のない人は3つ目のビデオのフォームになります。肩を先に挙げてその後他の体の部位を挙げたほうが、腕にかかる負荷が少ないからです。この3つ目のフォームを見て、フォームを理想的なものに戻すために「あぁじゃない、そうじゃない、こうやるんだ」といい続けても無駄です。筋力がない人は、その体と手のポジションではどうしたって指定された姿勢をキープできないのです。つまり、それらのセリフはクレームです。指導ではありません。膝を曲げて地面につけることで腕にかかる負荷を減少させる(筋力がなければこのポジションですら3番目のビデオと同じように起き上がってきます)、指導者が動作中に胸横辺りを保持して持ち上げる、または胸周りにタオルを通してそれを持ち上げてサポートしてあげるなどの工夫をしてあげなければなりません。さもければ、理想的なフォームでなくても、とりあえず起き上がる、ことで妥協をして、その後の筋力向上とともにフォームを正していけばいいのです。そのできない瞬間にとやかく言われたって、言われている方は困惑し云われの知らぬ罪悪感に襲われるだけです。

腕立て伏せのような超一般的な運動でさえ教えられない指導者に、スクワットやデッドリフト等のより複雑な動作を教えることができるのでしょうか?
僕に言わせれば無理です。教えていたとしても、応用力のない、型にはまった指導しかできていないはずです。

「指導する自分」「スペシャリストに見られている自分」に悦に入っている場合ではないのです。
指導者の能力不足は、必ず指導対象者の体に負の力を持って還っていきます。
指導者が高レベルの知識、技術を持っているというのは、非常に重要なことなのです。

体重増加は選手寿命を縮めるのか?

イチロー選手の持論では、日本人選手には運動選手としての適正体重があり、体重を増やすということが障害発生の原因となり、選手生命を短くすることにつながるということです。彼もメジャーのパワーに対抗するために一度は3㎏増量したが、それが自分のパフォーマンスには合わなかったとビデオ内で述べています。


言わんとしていることはわかります。適正体重という考え方に一理あるといえば一理あります。ただ、それが正論とは言い難いので、少し意見します。

例えばマイケル・ジョーダン、スコッティー・ピッペン、カール・マローン、デニス・ロッドマン、カル・リプケンJr、デレク・ジーターなどの、各リーグで20年程度活躍した選手たちのルーキー時代とリーグで最盛期を迎えたころの顔写真を見ても、確実に増量をしていることは見て取れます。(下にはイチロー選手と同じメジャーリーガーとして活躍した選手2人の写真を載せます)
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これを言うと、イチローも高卒ルーキー時代は体も小さかった、でも一流になるときにかけて少し増量しているという事実もある。だから、この写真の提示自体がフェアではないといいたい人もいると思いますが、それならば、上に挙げたバスケットボール選手たちの、プロとして4・5年経った時の写真と、リーグでトップ選手となって久しい10年目以降の写真を提示することもできるので、必要があればご自分でググってみてください。しかも、彼は石井元選手に入団時の体重とメジャーに来た時の体重を聞いています。つまり、やはり彼は、入団時の体を維持することを述べているんです。
僕自身がバスケットボールが好きなので、結局このスポーツに関する話になりますが、バスケットボールは野球よりも心肺機能にも、骨・関節・筋肉に対するストレス面でも厳しいスポーツです。だからこそ選手として活躍するためには、野球選手よりもフィットな体を維持する必要があります。それでも、リーグに入ってから数年たつと、他選手とのあたり負けを防ぐためや、自分の健康を維持するためにも、体をゴツくする必要があるため、少なからず体重を増加させます。しかし、丁寧にプログラムされたトレーニングを日常化して懸命に取り組んだ選手は、かなり長い年月を一流選手として過ごし、20年ほどのキャリアを経て引退をします。それらの選手には確かにデブはいません。しかし、日本人が判断するところの”マッチョ”はいます。

またイチロー選手がこのビデオ内で述べているように、「日本人は」となると僕のここまでの文章での立場は弱くなります。ただ、日本にも中日の山本昌選手がいるので、彼の若いころの写真も一応載せておきます。
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要は、どのように体重を増やすかということが大事なのであって、端的に体重を増やすことがいいとか、逆に増やさないことがいいとか、そういった話ではないということです。

優秀なS&C専門家の下でのトレーニングを習慣化さえすれば、選手としての寿命だけではなく、自分の最盛期のパフォーマンスのレベルも、そしてそれを継続できる年月も伸ばすことができます。
長い間選手として活躍したいという方、まずは私にご一報ください。お助けします。

*注
あくまで、イチロー選手のコメントに対するS&C専門家としての意見であり、彼をディスリスペクトするための意見ではありません。
イチロー選手には、新天地で大活躍をしていただきたいと思っています。
あしからず。

指導者の鏡は指導対象者

運動指導をするならば、まず指導者の頭の中に理想のフォームが確固たる理由とともに存在するべきです。そして指導時は、指導対象者にその理想のフォームで運動を実践させるために、フォームを伝えるためのキーとなるポイントを必ず抑えながら、そしてそのポイントを指導対象者が理解していることを確認しながら、徐々にそのフォームを指導対象者の体に埋め込んでいかなければいけません。そうすれば、どんな重量の重りを持とうが、基礎段階で教え込んだそのフォームを使ってその運動を行ってくれるので、ウェイトトレーニング中のそしてスポーツ競技中の傷害の発生率を最小限に抑えることができます。

では、それがうまくいかない、どれだけやっても指導対象者のフォームがよくならない、という状況に陥った場合、下のような要因が考えらえるので、自分がどこに当てはまるのか考えつつ、改善に向けて努力してみてください。

1.自分自身が正しいフォームを習得できていない。だから正しいデモンストレーションができず、指導対象者が正しいイメージでそのフォームを理解できていない。結果、正しいフォームを体得させることができない。
2.自分自身がフォームの背景にある指導ポイントを理解できていない。だから、どこにどう気を配れば正しいフォームでその運動が実施できるかわかっていない。結果、指導時に正しいキューを指導対象者に伝えることができない。
3.動きを見て、全体的な把握をする指導能力がない。つまり、正しいフォームかどうかを理解するために必要な”動きをみる専門家としての目”を持っていない。結果、一部は修正できるけれど全体的な修正に至らず、総合的には正しいフォームを作り出せない。
4.3.と同じ要素が入りますが、体に正しいフォームが埋め込まれていない段階で負荷を上げてしまい、結果、正しいフォームよりも、その重りを挙げるためのフォームでその運動を行うことが多くなり、理想的ではないフォームが体に埋め込まれてしまった。
5.単純に、指導対象者の筋力や柔軟性が、その運動をするためのレベルに達していない。

自分自身に確実なフォームで行うデモンストレーション能力がなければ、他者にその動きを説明するときの説得力に欠けます。そして先述したように、指導対象者に正しいフォームのイメージを与えることもできません。だからこその、日常的な正しいフォームを用いた運動習慣が指導者には必要なのです。ただ、指導者はそれでは足りません。そこで足りてしまっては、正しいウェイトトレーニングを経験したことのある運動選手のほとんどが優秀な運動指導の専門家になってしまいます。我々が運動指導の専門家でいられるかどうかは、その運動動作の背景にある理由とそれを他者に伝えるときのわかりやすい説明方法を理解しているか否かによります。

ここからは私見ですが、運動を他人に伝えるときに必要なのは、どれだけ人の立場になってその運動のすべてを考慮できるかによります。つまり、自分がその運動を行う中で経験してきたことだけではなく、その運動動作を行おうと試みる全ての人の体に起こりうる間違いとその間違いの原因の理解を深めることが、どれだけわかりやすくその動作を他者に伝えられるかにつながると思っています。やはりこれにはできるだけ多くの体を見て、常に”WHY”を頭に置いて運動動作と向き合う必要があります。
運動指導者はジコチューではなれないということですね・・・
冗談でも何でもなく、エゴが先行した指導は迷惑でしかありません。運動プログラムのプログレッションもエゴが先行すれば、できもしない運動を取り入れて「なんでこの人、この運動にこんなに難しそうに取り組んでるんだろう…」って悩むことになります。それも全部指導者のせいです。その運動ができない体にその運動動作を取り入れても、できるわけがありません。運動指導の専門家であるならば、その運動動作ができる体を作ってから、その運動をプログラムに取り入れればいいのです。
例えば、僕のプログラムの場合、自体重でのリバースランジができなければ重りを肩に担いだリバースランジはできません。ある程度の重りを肩に担いでリバースランジができなければ、自体重でのスクワットを行うことはできません。自体重でのスクワットができなければフロントスクワットはできません。たた、正しいフォームでフロントスクワットを行うことができれば、バックスクワットを教えるのは非常に簡単です。また、リバースランジができず、RDLも十分な可動域をもって行わえなければ、デッドリフトを教えても下のポジションを取ることはできないし、万が一取れたとしても、デッドリフトはケツが上がって肩が上がる、といったフォームになってしまいます。ただ、正しいフォームでRDLもデッドリフトも実施できて、そのうえスクワットでもある程度の重りを扱えるようになれば、クリーン動作を教えるのも容易になります。当然スナッチの導入も同様です。
全て正しいフォームで運動を確実に伝えつつ行えば、丁寧に順序立てたプログラムの下では、次に導入したい動作の指導自体が容易になり、指導時の手間も省けるということになります。
そしてこのようなプログラムであれば、指導対象者も「この人の言っていることがわからない。この”わからない”のは自分のせいなのか?自分に理解力がないのか…」という不安を持つこともないし、「この指導者の言ってることわけわかんない…トレーニングやめよう!」にも至る可能性を減少させます。
1対1の指導で、指導者の理想通りに指導対象者が運動のフォームもそのフォームを取り入れるためのキューを理解をすることもできずにいて、結果運動のフォームがいつまでたっても改善に至らない場合は、確実に指導者が悪いです。1対1であれば、指導者が考慮しなければならないのはたった1人ですし、その指導対象者に合った運動とプログレッションの選択と指導内容の説明ができなければ専門家とは呼べません。ですから、1対1または1対数名での指導で指導対象者が自分の思うように理解を見せずに改善していかない場合は、相手ではなく自分の落ち度です。
20名程度の複数指導時の場合、おおよそが正しいフォームを習得できている中で、ほんの数名が自分の理想的なフォームを得ることができずにいる場合は、あなたの指導は正しいです。ただ、半数に近い人数が理想的でないフォームの場合、指導に難があると考えてください。

運動指導している場合、指導対象者の運動フォームは指導者の指導力の鏡です。
できないことを要求し続けるのではなく、なぜできないのか、何が足りないのか、そしてどのような順序を踏めばできるようになるのかなど、いろいろ考えてください。
とにかく"WHY"の徹底をすることが、あなたのクライアントの本当の役に立つための基本姿勢です。
プロフィール

加賀 洋平

カリフォルニア州立大学ロングビーチ校キネシオロジー学科大学院プログラム終了
ロングビーチにおいてストレングス&コンディショニング(S&C)の世界的権威であるDr. John Garhammerを師事し、S&Cコーチとして経験と知識を積む。
日米両国で様々なレベルのアスリート指導経験があり、現在は仙台大学において、日本においては稀有な大学レベルでのS&Cプログラムを主催・運営している。

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