ヨーク社株式会社の社長が時々書いています。
ぼくにも駆け出しの頃があったから、独立するまでは、いろんな先輩からさまざまなことを学んできた。最初に入った会社でお世話になったのが安藤さん。谷町6丁目にあったその会社は、エレベーターのない古い鉛筆ビルの3階と5階を借りていて、3階がデザイン室兼経理室、5階が写植室兼暗室だった。安藤さんはそのビルの最上階ともなる5階で、まるでそのビルの主のように、朝早くから夜遅くまで写植を打っていた。縦の歯送りも横の歯送りもQ数チェンジもすべてがマニュアルの「万能機」という名前の写植機の前に座って、現像するまで見ることのできない印画紙上に、印字を繰り返しながら組版していく安藤さんはまるで魔法使いだった。縦横混在だって表組だってへっちゃら、印画紙に収まるサイズならトンボ付きの版下だって写植だけで作り上げてしまう。その魔法に魅せられたぼくは、お昼の休憩時間や紙焼きで暗室に入るときに、5階で油を売っては、安藤さんから少しずつ魔法を学んだ。

まず基本は、歯送りの計算。当時の写植機は歯車の歯1つ分(0.25mm)が移動の最小単位で、それを歯送りと呼んでいた。「写研とモリサワでは文字の中心の位置が違うから、歯送りの計算方法も違ってくるんよ。文字盤の配列も全然違うしねぇ。ややこしいねぇ。」と、安藤さんはニコニコしながら教えてくれた。「簡単なロゴやマークならリス撮りして、文字盤に貼りつけて一緒に印字してしまうといい。でもリスフィルムの時はちょっとだけ露光のボルト上げてやってね。位置調整?それは、ほらフィルムを押さえながら指先で…」と、離れ業も見せてくれた。安藤さんが前に座ると、その写植機は本当に万能になったのだ。

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安藤さんが、そんな調子だから、ぼくらデザイナーは、ほとんど写植の切り貼りをする必要がなかった。詰め打ち用の仮名文字盤なんて、その会社にはまだなかったし、当時はまだまだベタ打ちの方が多かったけど、安藤さんに頼むとちゃんときれいな詰め打ちが上がってきた。それがどんなに凄いことだったか。ぼくは転職後に思い知ることになる。
あのときに、ぼくが教わった魔法は、安藤さんの持っている魔法の1万分の1にも満たないかもしれないけれど、ぼくはリスフィルムで自分専用の仮名文字盤を作って、それをあの万能機にセットして、自分で考えたコピーを打たせてもらった。現像した印画紙を安藤さんに見せに行ったら、「ほ~う、これはうまいことできたね。かっこいいねぇ。」と、目を細めて褒めてくれた。
写植の時代が終わってDTPが主流になってから久しい。DTPの世界にもきっと魔法はあるのだと思うけど、あの時の安藤さんみたいな魔法使いには、まだ出会えていない。

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