2008年05月10日

宮本研作『美しきものの伝説』の上演をテレビで見た。
大杉栄、堺利彦を軸に、演劇運動、女性解放運動が描かれ、大逆事件直後からはじまり関東大震災時の大杉の虐殺直前までがあざやかに活写される。
大杉はクロポトキン経由のアナキストなので、(堺のつくった出版社はあるにせよ)そこにプルードン流の産業民主主義の視点はない。したがってアナキズムは現実ではなく伝説のままだし、島村抱月の「二元の道」(商業と芸術etc)は着地点を見出せないまま終わる。
それでも大杉と堺との間におこるアナボル論争(実際には大杉と山川均との論争が紙面で繰り広げられた)はしがない出版社*を舞台にコミカルに描かれ飽きさせないし、恋愛論や芸術論を闘わせる若者の姿は今日的で共感できる。作者の宮本研は、ユーモアの感覚にすぐれるとともに、相当まじめな人物と思われる(今村昌平の『ええじゃないか』の脚本も書いている)。
『真田風雲録』の福田善之など(加藤泰による映画化がある)、この時期の新劇の作家の仕事は見直す必要があるかもしれない。

「芸術などいらない、広場に花を一輪飾ればいい、そこに民衆を呼べばいい」といった意味のセリフが印象的だ。

映像は堺と大杉の出版社*における論争部分。


*売文社
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%B2%E6%96%87%E7%A4%BE

売文社(ばいぶんしゃ、1910年12月31日 - 1919年3月)は、赤旗事件の刑期を終えて出獄した堺利彦が、大逆事件(幸徳事件)後の「社会主義冬の時代」に生活費を稼ぎ、同時に、全国の社会主義者間の連絡を維持・確保するために設立した、代筆・文章代理を業とする団体。

大杉栄・荒畑寒村・高畠素之・山川均・橋浦時雄・和田久太郎などが参加した。

(12:34)

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