2016年09月20日 鍼灸 鍼灸師の裏話

■ゴルゴ13でもスコープなしでは200mが限界


なんとなく、前回の「鍼灸の国際規格を巡る闘争」の続きです。購入した『特集 ゴルゴ13シリーズ No.193』の鍼灸業界の闇を描いた「未病」の他にも、男心をくすぐる話が収録されています。

3話目の「スナイパーたち」は狙撃手同士の争いです。コードネーム「ゴルゴ13」、デューク東郷は、3人のスナイパーに狙われることになります。しかし、ゴルゴはその罠をかいくぐり、最後にはとっさの判断で仕掛けた罠で相手の弾道をそらします。


ゴルゴ13とM16


ゴルゴ13は途中、銃のスコープを壊されてしまいます。スコープは望遠鏡で的を狙うわけですから、これがないと遠方の的を正確に狙うことはできません。ゴルゴ13を狙うスナイパーは、スコープを失ったゴルゴ13に対して、次のように分析しています。

「※アイアンサイトでは、いかにお前といえど、有効照準距離は、200mでしかない!!

※アイアンサイト=銃身前方の照星と後方の照門を合わせて狙う照準器

ゴルゴ13自身も、

目視では、200mが限界……400m離れた相手から狙われたら、勝ち目はない……

と全く同じ分析をしています。この描写が物語るのは「武器の性能を才能や努力で越えることは難しい」ということです。重要なのは、武器の選び方。そして、その武器を最高の状態に仕上げ、それを使う機を逃さないように事前準備を万全にすることです。

これは、鍼灸師にとっても同じ。鍼灸師にとって、どんな鍼を選ぶかで勝敗が決まる時があります。才能や努力ではどうにもならない壁があるのです。


■メーカーに特注したい鍼がある


鍼灸の世界に入って18年になりました。しかし、これまで満足できるディスポーザブル鍼(使い捨て鍼)には出会っていません。このまま満足できない鍼を使い続けて鍼灸師人生を終えるのかと思うと、じっとしてはいられません。

不満があるのは鍼管です。

鍼管というのは、鍼を無痛もしくは微痛で刺すことができる日本独自の道具です。最近の鍼はディスポーザブル(使い捨て)が多いので、鍼管もプラスチックで出来ていて、1回使えば捨ててしまいます。


鍼灸用の鍼


鍼灸師が鍼をする時に、ツボに鍼管をセットします。当然、ツボの真ん中に鍼管を置くわけですが、鍼管が太ければ太いほど精度が下がります。ツボの大きさが1センチもあれば、鍼管の太さなど気になりませんが、1ミリのツボを狙うには、鍼管の太さが命取りになります。

太い鍼管では、いかにゴルゴ13といえど、最小照準サイズは、3ミリで限界!!

1ミリを狙うには、鍼管を使わずに刺すしかありません。上手に刺せば痛くありませんが、鍼管のように安定した無痛・微痛とはいきません。鍼管の効果は絶大なのです。

日本の鍼灸が細くて痛みが少ないことは世界の誇れることです。しかし、精度に課題が残ります。さらに大きな課題は、精度の課題があることを問題にしない業界です。鍼メーカーも、名のある鍼灸師が指摘しない限り、精度の高い鍼管に着手することはしないでしょう。

事情がどうであれ、私は精度の高い鍼管がほしいのでメーカーに働きかけます。もし、痛くなく、精度が高い刺入(正確には、切皮=せっぴ)が出来る鍼があったら世界一は間違いありません。国際規格を狙えます(笑)

もともと日本の鍼は細いのが特徴です。繊細さをさらに強調することができれば、日本鍼灸の存在感を世界に示すことができます。


■こんなに違う、鍼管の外径と内径


私が行っている整動鍼の勉強会では、受講者の鍼灸師に普段使っている鍼を持参して頂き、その鍼を練習で使っています。

受講者の方が使っている鍼は片っ端からチェックしています。見慣れない鍼があると、駆け寄って「それどこの鍼ですか?」と嗅ぎ回っています。そうやって自分の技術の特性にもっとも適した鍼をいつも探しているのですが、未だに出会うことができません。

とりあえず、手元にある鍼を並べてみました。


各メーカーの鍼を並べてみた


サイズの雰囲気が分かるように、一番左には爪楊枝を。色は別として鍼管の形状には個性があります。パイプをカットした形状ですが、その縁の研磨の状態も違います。丁寧に仕上げてあるメーカーもあれば「切りっぱなし?」と思えるようなメーカーも。

切りっぱなしだと、ケバが皮膚に触れるとチクッとします。鍼する前にチクッとしてしまうと、患者さんがビックリします。だから、できるだけ角を丸くしてある鍼管を選びたいです。鍼管の当たりはよいのに、鍼先がそれほどでもないパターンもあって、鍼を選ぶのはなかなか大変です。

お次は、外径と内径を比較してみます。左側の爪楊枝と比較すると、だいたいの大きさがイメージできると思います。左側の2つは爪楊枝がスッポリ入り入りそうです。


各メーカーの鍼の外径と内径を並べて比較


やってみたら、本当に入ってしまいました(^_^;)


鍼管に爪楊枝を入れてみた(入った!)


爪楊枝が入る内径で、精度の高い鍼ができるわけがありません。しかしながら、このことを問題にする鍼灸師があまりにも少ないのです。有名な先生が、メーカーに要求するのを待っているのですが、そうした動きがいっこうに見えないので、自ら動くしかありません。

日本鍼灸の特徴である鍼管。
日本の鍼灸師が鍼管にこだわらずして、どうするのか・・・と思います。



■鍼管の理想イメージ


実際に使っている鍼管を調べてみました(その時の様子はカポスの坂口が記事にしています)。その結果、もっともベターなもので内径が1.5mmでした。


鍼灸の鍼管 内経1.5ミリ


1.5mあるということは、鍼の先がこの径の中で動くわけですから、刺入点が最大1.5mmズレるということです。3mmのツボのど真ん中を狙っても、時に外れてしまうということです。これが、この鍼管の性能の限界です。言っておくと、この鍼管が私が知る限り、もっとも精度が高いです。つまり、これが日本の鍼の限界値です。

私はもっと内径と外径を細くすることができると思っています。0.2〜0.3mmでも細くなったら嬉しいのです。この違いは大きな効果を生みます。

仮に0.3mmでも内径が小さいと、1.5-0.3=1.2mm。この数字がズレ幅の最大値。これが半径になるわけですから、狙えるツボの大きさは2.4mmです。

内径を小さくすると、問題も起こります。

問題1)挿管がしづらくなる

鍼管に鍼をセットする時に、内径が小さいほど難しくなります。これまでサクッと出来ていた片手挿管でまごつく可能性が出てきます。しかし、そこは練習でなんとかなります。精度を犠牲にしてまで挿管しやすくする意味はないと私は思います。

▼片手挿管



問題2)切皮(鍼が皮膚を貫く瞬間)が痛くなる

鍼管の目的は、切皮痛を最小にするところにあります。鍼管を使うことで、患者さんの精神的な負担は大幅に軽減します。

鍼管のおかげで、患者さんは「あれっ、全然痛くない〜」や「思ったより痛くなーい」と感じるのです。鍼管の圧によって、痛みが軽減しているので、内径を細くしたり、外径を細くするために管の厚みを削れば、その分だけ痛みが増してしまう可能性があります。とはいえ、「ないより断然痛くないだろう」というのが私の考えです。


■ミリ単位の精度にこだわる鍼灸師が増えている


私は「整動鍼」なるものを手がけています。従来の鍼灸は、体内の「流れ」に重点をおいたものです。内外の「出入り」に重点をおくと主張する鍼灸師もいるかもしれません。私は、これだけでは足りないと考え、「動き」に重点をおいた鍼灸理論を提唱しています。それが「整動鍼」です。

筋肉のコンディションをダイレクトに整えることができるので、筋肉痛や関節痛が瞬時に変化します。肩こりにも使えますし、肩こりと深く関わる頭痛や突発性難聴や耳鳴りにも効果的です。他にもいろいろ。過敏性腸症候群のような症状も得意としています(筋肉も関わっているという証拠)。

整動鍼 四肢編セミナーの写真


そんな整動鍼のセミナーには、全国から鍼灸師が集います。「鍼をしたら効果がすぐ分かる」という即効性が評価されていると自分では分析しています。動きで効果を判定できるので、患者さんにとっても、鍼灸師にとっても分かりやすい治療となります。こうした「ツボで動きを整える治療」は、ありそうでなかったのです。

この整動鍼を支えているのが取穴(ツボ探し)の技術です。ツボの効果には再現性があります。ただし、再現するには刺鍼の精度が必要です。一般の人が考える以上にツボは小さな反応です。プロの鍼灸師も整動鍼のツボの細かさを知ると唖然とします。そして、精度の高いツボから生まれる即効性と再現性に驚きます。

先日の懇親会では「理想の鍼」について意見が交わされました。

もっと細い鍼管を知ってる?
作ってくれるメーカーってあるの?
活法研究会で整動鍼用の規格を作れないだろうか…

と盛り上がりました。

あったら買います!

という声で一致したので、これは本格的に検討しようと思って動きはじめました。興味のあるメーカーさんは早めに声をかけてください。ノウハウと開発費の部分で協力させて頂きますから。

極細鍼管の鍼があったら買いたいと思った鍼灸師は、このブログに「欲しい」とコメントください。お願いします。

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2016年09月19日 鍼灸 東洋医学(中国医学)

■ゴルゴ13に狙われた鍼灸業界の大物


あの『ゴルゴ13』に、鍼灸業界の利権闘争が描かれていることをご存じですか? 「ゴルゴ13」というコードネームを持つデューク東郷は、言わずと知れた世界ナンバーワンのスナイパー。そんな彼に鍼灸業界の大物が狙撃されてしまいます。


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舞台は世界です。中国と韓国が鍼灸の国際規格、国際基準を作ろうと争っています。そこに、日本は入っていません。その理由は、日本の協会代表(もちろん架空)の言葉に集約されています。

「政府にまったく危機感がないですから」

必死に中国と韓国が利権を争っていても、のんきにしている日本政府。作者にもそう見えているのですね。話の中で「誰がゴルゴ13に仕事(殺人)を依頼したのか」と推測する場面があります。その時の台詞です。

「日本の協会に、それだけの資金はあるか?」

想像されている通り、ゴルゴ13を動かせるお金が日本の鍼灸界にあるとは思えません。世界で起きている利権闘争に参加すらしていない日本。鍼灸師が個人個人で必死にやっていても、単なる個人事業の一つでしかありません。世界に売れる技術、サービスがあるという認識はないのだろうと思います。

業界の上層部が世界の市場を独占しようと争う光景は羨ましく感じます。この話はフィクションですが、鍼灸師から見て、各国の立場や温度感の描き方が気持ち悪いほど正確です。


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■国際規格は必要か


鍼灸の国際規格は必要なのでしょうか。鍼などの器具は統一されていた方がよいのでしょうか。現役鍼灸師の立場から言えば、国際規格は大迷惑です。おそらく、誰も望んではいないでしょう。


1.誰でもできる水準に設定しなければならない

規格を統一するということは、(その気になれば)誰でもその規格に従って業を行えることが条件です。技能が追い付かずに脱落する者がいたとしても、割合が過半数を超えたとしたら大混乱を招きます。

つまり、自ずと下のレベルに揃えることになります。何の世界でもそうですが、上の方のやり方は非常識だったり型破りだったりします。そういう独自の工夫を否定して、ルール破りのレッテルを貼ることは、発展を妨げるどころか後退します。


2.多様性こそ鍼灸の魅力

クルマに置き換えてみると理解しやすいです。もし、クルマの車体を統一したり、エンジンを統一したら、どうなるでしょうか。諸々のニーズに応えられなくなるのは間違いありません。自家用車だけ考えてみても、家族構成や用途で候補は異なります。セダンにするのかワゴンにするのか、SUVにするのか、などなど。

鍼も相手(患者)に合わせて使うものです。日本には日本人に合った鍼がいろいろ開発され、中国は中国人にあった鍼が、韓国には韓国人にあった鍼が・・・というように、それぞれの国や地域でバリエーションが存在します。

もし、中国の鍼が使いたければ、中国から取り寄せて使うという手があります。今のままで何も問題ありません。


3.そもそも誰のため?

『ゴルゴ13』に描かれていたように、規格統一は誰かの都合によって行われるものです。昔あったVHS(日本ビクター)とベータマックス(ソニー)のビデオ規格の争いのように、統一された方が便利な場合もあります。ただ、よく言われるのが「ベータマックスの方が性能的には上だったが政治的に負けた」という話です。

規格闘争において、良いモノが必ずしも勝利するとは限りません。政治的に強い者(国)が規格闘争の覇者になる場合が多方で起こっているわけです。都合の悪い人間が金の力(=ゴルゴ13の射撃)で消されて、規格が決まってしまう。本当にそんなことが起きたら大変です。

なんとなく次回につづく…

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活法研究会

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2016年09月01日 鍼灸 

■経絡で動きは整えられない


活法研究会(鍼灸師と柔道整復師のための勉強会)には、「活法(古武術整体)」と「整動鍼®」を学びに全国から集まっています。今回は整動鍼の事を話します。

整動鍼セミナーの受講者の集合写真(2016年7月25日)


「整動鍼」は、私が提唱している鍼灸理論です。活法(古武術整体)の影響を受けて生まれた理論なので、当初は「古武術鍼法」と呼んでいました。この名前はかっこいいと思っていたのですが、古武術をやりながら鍼をするわけではないこと、古武術に興味がない人でも同じく使えることから、昨年「整動鍼」と改名しました。

「整動」という概念がポイントです。従来の鍼灸には「動きを整える」という発想がなかったのです。いっぽう、私が習得している活法は、動きを整える技のオンパレードです。「動きを整える」とはどういうことなのか、活法を学びながら自分の体で感じ、頭で考えました。その結果、「人体の動きは軸と張力で調整されている」という結論に至り、ツボで整えることにしたのです。

簡単に言えば過剰な張力をキャンセルすることが整動鍼の目的です。触れてわかる過剰な張力もあります。具体的には、張り感や圧痛(押して痛い)です。ただ、闇雲にやっても軸は整いません。また、体に触れながらツボを探す、行き当たりばったりの治療になってしまいます。

整動鍼は、痛みの位置、痛みの出る動き、痛みの出る状況から、最適なツボの位置を割り出します。ですから、同じ情報を得れば、同じツボにたどり着くことができます。


整動鍼のセミナー風景(2016年7月24日)


その結果、高い再現性を得られます。そして、直後に変化がわかる即効性。理論は原始的でシンプルです。

整動鍼は私の鍼灸術を「流派」にまとめたものではありません。経絡をはじめとする鍼灸理論をいったん白紙に戻し、刺鍼の反応をつぶさに観察し、ツボ刺鍼によって起こる反応を整理したものです。

理論にはできるだけ個人的な趣向を入れてないようにしています。分析や結果に客観性を持たせるため、観察可能な「動き」にフォーカスしています。


■見えないことを信じる必要などない


整動鍼が追究しているのは、人体の構造と法則です。解剖学や従来の運動学ではわからない構造があります。意識構造が実際の肉体とどのように繋がっているのか、ツボという視点から見ると気づく構造があります。

こうした試みは、鍼を使える鍼灸師にしかできない仕事です。一部のツボは指で似たような作用を出せますが、鍼を使わないと本当にツボの効果は引き出せないからです。

経絡というフィルターを取り除くことで、いろいろなことが見えてきます。鍼灸は経絡と気を信じなければ始まらないと強制されることがあります。しかし、経絡と気を無視しても治療は十分に行えます。大事なことは、見えないことを信じることではなく、見えることを素直に受け入れることです。

整動鍼は、いったんは経絡と無関係なのですが、最終的には合流します。整動という概念だけで全てを調整するのは無理があります。血管・リンパ系の流れを整える考えも必要です。そこで、従来型の経絡に基づく鍼灸を「整流」と定義しました(勝手に)。

ツボの作用に整動と整流があると定義するなら、従来の鍼灸は整流のみに言及したものだと言えます。鍼灸の本領を発揮させるなら、整動という概念が必要だと気が付きました。


■経絡は人体構造を表現したデザイン


整動鍼から見ると、経絡は応用的なものです。とても難しく感じます。なぜなら、見えず触れることができない内臓をツボで調整しようとする理論だからです。

その経絡を運動器疾患に使おうとすると無理が生じます。でも、これまでは経絡しかないので、経絡を無理矢理使ってきました。経絡で運動器の調整をすることは、整動鍼の立場からすると成り立っていません。うまく行くときもあればうまく行かない時もあり、結果が不安定になります。

経絡は縦に走るシステムを横帯で縛って安定させている構造です。こういう構造があると仮定することで成り立つ治療システムです。見えるものではありません。複雑な人体構造を単純化させ可視化させるために作られたデザインだと私は考えています。

経絡があるとかないとか、そういう議論には意味がなくて、人体上に描かれたデザインです。だから人工的なものです。複雑な人体の構造と機能を単純化させ、問題点を絞り込むのです。体の不調を経絡の問題に置き換えることで、治療の切り口を作るのです。そういうものがなければ、鍼があってもお灸があっても、どこから手を付けるべきわかりません。つまり、経絡は鍼灸において、診断と治療のガイドラインとして機能しています。


■経絡は“ひねり”に対応できない


経絡では「縦方向(長軸方向)」の調整ができます。

関節が動く時、伸びる方と縮む方があります。伸びる方に問題があれば、「つっぱる・つれる」系の違和感や痛み、縮む側に問題があれば、「つまる」系の違和感や痛みが出現します。ただし、経絡で調整できるのは伸張する側のみです。表と裏の関係から、二次的に短縮側が調整される場合があります。

たとえば、頚の後ろが痛い時、下を向くときの「つっぱり感」は簡単に取れても、上を向いた時に「つまり感」は簡単に取れないのです。これは腰でも同じことが言えます。前屈の方が取れやすく後屈の方が取れにくいのです。これは、人体の構造から来る得手不得手ではなく、治療システムの問題です。ここをクリアしない限り、鍼灸師は運動器疾患の技術に足止めがかかります。

動いて「つまる」ところは、折れ目の内側にあたります。この時の動きを円運動で考えると、回転軸に相当します。整動鍼は、この軸を整えることを得意としています。


経絡はひねりの問題に対応できない


他にも問題になることがあります。経絡では「捻る」動きを調整できなことです。人体の動きは単なる伸び縮みではありません。何をするにしても捻るという動きが入ります。脊柱(背骨)の構造一つとっても、捻りに対応していることがわかります。肩や股関節は捻りの代名詞。肘や膝も捻ることができる構造です。

人体は常に「捻りながら伸び縮みする」ものです。だから、捻りが制限されていると正常な動きができません。捻りの重要性は、活法を学んで気が付きました。私の中で革命が起こりました。「捻りながら伸び縮みする」ことを一言で表現するならば螺旋(らせん)です。人体は常に螺旋状に動いていることを前提に整動鍼はツボ選びをします。

たとえば立ち上げる時。脚を内捻りもしくは外捻りをしています。こういう体の仕組みを上手に利用するのが整動鍼です。

2年以上前ですが、こんな動画を撮影しました。膝下をどちらかに捻ると立ちやすく、逆に捻ると立ちにくくなります。ぜひ、誰かにやってみてください。捻りがどれだけ動きに関係しているのか実感できます。






■運動器疾患にはどう対処したらよいのか


発想が経絡に縛られている限り、運動器への対処は苦手なままになります。これは鍼灸師の技量とは関係ありません。経絡で運動器を調整しようとすることが、そもそも向いていないのです。経絡はあくまでも内臓調整のためにデザインされたシステムだからです。

この現実を突きつけられた鍼灸師は、運動器疾患では他の方法(発想)に頼らざるを得ません。たとえば、痛いところを直接刺激するような局所の鍼や、「トリガーポイント」と言われる方法です。こうした方法で鎮痛効果を期待します。

ただ、整動鍼の立場から見ると原因にアプローチできているか不明です。「痛みをごまかしている間に本当の原因が消えるのを待つ」というのが真実だったりします。

鍼灸に限界を感じる人は整体に…という流れもあります。3年をかけて免許を取ったと言うのに、鍼灸に可能性を見出せず鍼灸を捨てる鍼灸師がいるのは残念です。活法研究会にも、そういう鍼灸師が訪れますが、整動鍼を知って、鍼灸への気持ちが再燃する方が何人もいらっしゃいます。限界だと思うラインを目の前で突破されたら、鍼灸から心が離れるわけがありません。


■鍼灸で捻挫の治療はできるのか


事は7月にさかのぼります。

整動鍼セミナー(7月24〜25日)の時です。受講者の富田さん(鍼灸師・柔道整復師)が2日目の朝、片足を引きずって現れたのです。訊いてみると、転倒し不運にも足首を捻挫してしまったのです。その日は、たまたま足を調整するツボを紹介する予定だったので、デモンストレーションの患者役は自ずと富田さんに決まりました。

富田さんの捻挫は、ちょっと足を捻ったくらい、という程度ではありません。靱帯を損傷している本物の捻挫です。受講者に囲まれる中、私はこの捻挫と真剣勝負することになってしまったのです。私自身、この捻挫に整動理論がどこまで及ぶのか興味がありました。

私が日頃診ている捻挫は慢性期ばかりです。捻挫したばかりの急性期を診る機会は少ないので、どうなるか楽しみでした(富田さん、ごめんなさい)。ただ、全然成果が出ないとセミナーのテンションを下げてしまうので、富田さんも私も崖っぷち状態。プレッシャーを感じながら施術に入りました。ギャラリーも複雑な心境だったと思います。これから習うツボの効果が不発するのは見たくないでしょうから。

その施術前の状態はこちら。これが“やらせ”ではないことは、あとでわかります。

<捻挫の治療前>


施術に入りました。もう逃げることはできません。実際の写真です。痛みは足首、鍼は膝に行いました。足首の動きは腓骨と連動しています。だから、腓骨を調整したのです。一見離れているようでも、動きは深く繋がっているのです。

整動鍼のデモンストレーション(捻挫の治療)


施術直後の動画は撮影していませんでした。
午後になって撮った動画がこちらです。

<捻挫の治療後>



この結果は、たまたまではないのか???

医学的に非常識なので、疑われても仕方ありません。こういう劇的な回復は、臨床に携わっている者なら誰でも経験があると思います。自分の実力と釣り合わない結果が時に出てしまいます。

この富田さんの症例も場の空気が後押しになったかもしれません。ただ、整動鍼では特別なことではありません。整動の常識を多くの鍼灸師に伝えたくてセミナーを全力で行っています。

セミナーに参加された鍼灸師が私と同じ結果、時にはそれ以上の結果を出されています。その報告を聞くのが楽しくて仕方ありません。他の鍼灸と比べて違っているのは、「整動」という、経絡に縛られない発想だけです。経絡から解放された時、驚く変化を目撃することができます。

まだまだ驚くことがあります。整動鍼で捻挫の治療をしたのが7月25日。その時はまだ内出血の様子は見られませんでしたが、その後、内出血が表に現れてきました。張本人の富田さんがしっかりと変遷を写真に残していました。


捻挫の内出血


もちろん、鍼の内出血ではありません。その時に鍼をしたのは膝にあるツボに鍼一本です。そもそも24日の夜、内出血するほど靱帯を損傷していたのです。

ここからわかるのは、出血していたにも関わらず、整動をしたら痛みが大幅に軽減したことです。内部の組織が壊れたら痛むのは当然ですが、この症例から痛みの原因はそればかりではないことがわかります。

動きに歪みが出ると痛みになるのです。

衝撃などで体の動きに歪みが生じると、その歪みで動きが制限され、痛みに発展するのです。肩こりも同じです。凝っているから動かないのではなく、動かないから凝り感を感じるのです。

2日後(7月27日)には、内出血の痕がありながらも、小走りが可能なところまで回復されました。ここまで詳細を残してくださった富田さんに感謝です。





この時の様子を同席されていた、谷地さんと渡邉さんがブログに記しています。ありがとうございます。この記事と内容と重なるところがありますが、それぞれの視点で書かれているのでぜひ。

2016年8月28日
◎「足首の捻挫と鍼治療(テーピング vs 整動鍼)」(谷地さんのブログ)
2016年8月29日
◎「整動鍼☆臨床実践編セミナ−の報告と足首の捻挫」(渡邉さんのブログ)


◎整動鍼を学ぶには
整動鍼セミナー 腹背編(2016年10月23日〜24日) 定員20名
整動鍼セミナー 四肢編(2016年11月20日〜21日) 定員20名

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