2021年01月25日 鍼灸 鍼灸院経営

不安をつくらない技術


臨床にデビューできる条件


ある鍼灸師から「研修した鍼灸師をデビューさせる時の基準ってなんですか?」と聞かれたとき、

「患者さんを不安にさせないレベルに達したら臨床でデビューさせます」

と答えました。

私を知っている人ほど意外な表情を浮かべます。普段セミナーで技術指導をしているので、技術を基準にした判断をしていると思われている気がします。

もちろん、技術レベルは大切にしています。でも、どんなに知識が豊富であっても、ツボの位置が正確にわかったとしても、患者さんが不安を感じていたら、よい結果にはなりません。

患者さんは、「体をあずけても大丈夫だろうか?」と判断するとき、術者の話し方や態度を見ています。それは理屈で説明しにくいかもしれません。人間も動物の一種として危険性を直感的に瞬時に判断する能力が備わっていますから、そんな機能が私たち鍼灸師に対しても使われているはずです。

ですから、技術的以外の部分も臨床で重要視しています。ですが、こういう部分にセミナーでフォーカスすることは滅多にありません。臨床ではとても大切なことではありますが、指導するとなったら欠点を指摘しなければなりません。きっと楽しいセミナーではなくなってしまいます。


不安をつくらないから安心が生まれる


この記事のタイトルをみて、なぜ「安心をつくる技術」ではなく「不安をつくらない技術」なのだろうかと思った方かもしれません。この記事で一番伝えたいことをタイトルにこめてみました。

日頃から臨床(施術)は、自分を含め減点方式で評価しています。なぜなら、臨床で加点しようとする心理は欲を生むからです。臨床では欲が敵になります。患者さんに「よくなってほしい」という気持ちだけで十分で、それ以上の感情は欲になってしまいます。

それは「よい評価を得たい」という感情であり、患者さんの気持ちに寄り添えなくなっている状態です。

がんばることもよくありません。臨床には用意してあるものしか持ち込めません。本番で120%の力が出るわけではありませんし、運良く出てもまぐれですから再現できません。そもそも臨床には減点要素がたくさんあって100点を取るのが難しいです。

臨床はいかに減点されないようにするかを考えています。

一番大きな減点要素は鍼灸師の健康状態です。どの仕事もそうですが、健康でなければよい仕事はできません。精神も安定しません。鍼灸師が不安定であれば患者さんに不安が生まれます。

次に、鍼灸師の言動です。私たちの発する言葉やしぐさ、すべて患者さんに伝わっています。ささいなことに発した「あっ」という言葉が患者さんを不安にさせてしまうこともあるでしょう。私も自分が気が付いていないだけで、患者さんを不安にさせてしまう言動をしているはずです。


行かない理由をつくらないという経営


鍼灸の効果はテレビやSNSを通じて拡散されているので、患者さんが鍼灸院に行かない理由は「不安だから」だと考えています。不安が期待を上回ってしまえば、鍼灸院に行くことはありません。

鍼灸院に足を運ぶ方も不安がないわけではないでしょう。「勇気を振り絞って来ました」という方が少なくありません。そういう方に「安心ですよ」と伝えても、あまり意味がありません。安心は売り込むものではなく、患者さん自身の中で生まれる感情ですから。

不安は不安材料があるから生まれます。私たちにできることは、その不安材料を丁寧に取っていくことだけです。不安材料が見当たらなくなった状態が「安心」です。安心づくりを、ケーキにデコレーションしていく作業のように考えないようにしています。

私は経営者でもあるので、利用してくださる方が多いほど嬉しいです。経営者としても重視しているのが「不安をつくらない」ことです。不安材料を探して削るようにしています。技術や鍼灸師の人柄はプラス要素ですが、いくらそこを磨いても、不安を感じる鍼灸師であったり鍼灸院であれば患者さんが来てくれません。


不安をつくらない技術


私が特に意識しているのは、目と声と間(ま)の3つです。

〔棔亡擬圓気鵑鮨燭団召宛る


「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、人は相手の目から多くの情報を読み取ることができます。技術的に向上しても、目が泳いでいれば「自信がないのかしら」と思われてしまいます。自信なさそうな鍼灸師に身をあずけたいと思う人はいません。

謙虚さは必要ですが影で必要な心構えであって、患者さんの前で出しすぎはよくないと思っています。「まだまだ未熟者なので…」という態度は患者さんを不安にさせてしまいます。どんなに技術を磨いても上には上がいるのが技術屋の世界です。最高は約束できません。

その時点におけるベストを尽くすしかないのですから「今ある技術を出し尽くします」というメッセージを患者さんに伝えるべきだと思います。患者さんの目をしっかり見ることで、その気持ちが伝わりやすくなります。

自信というのは「何でもできる」ことを根拠にするものではなく、「できること」の範囲を知ることで生まれる感覚だと考えています。つまり、「できること」と「できないこと」をしっかり区別できることが自信の根拠になるのです。


∪次砲呂辰りと発声し即答する


私は滑舌がよくないので、発声に気をつけています。モゴモゴしたしゃべり方では伝わりにくく、伝わらないということは不安になります。時には即答が難しい質問をいただくことがあります。

答え方に迷って考え込んだりゴニョゴニョと話してしまうと患者さんに余計な不安を与えてしまいます。私は、難しい質問だと感じたら、体裁よく答えようとせず「難しい質問ですね」と即答してしまいます。必ずしも、どんな質問に対しても手を動かしながら答える必要はないと思っています。

難しい質問への対策として私が推奨するのは、「はっきりと発声する」というルールを自分の中につくっておくことです。はっきりした言い方しか許されないと決めておくことで、わからないときは「わからない」と答えるしかありません。または「難しい質問なので時間をください」と言うこともできます。

私の経験では、答えられないことがあっても、それが理由で患者さんは離れていきません。しかし、不安を感じたら離れていきます。

自信ができたらはっきりと発声するようになると考えていたら、それまでの患者さんはその様子を見て不安になり離れていってしまいます。自信がつくどころか、自信がどんどん落ちていきます。はっきりと発声することで患者さんは安心し、施術を継続的に受けてくれるようになります。そうなると結果が出る機会も増えて自信がつきます。


4屐謀度な距離感


もっともセンスが問われるところかもしれません。「適度」としか表現できない距離感は、患者さんの性格にもよりますし、年齢によっても変わります。初回と2回目以降でも異なります。術者のキャラクターによっても異なります。総合的に判断してその時その時の距離感をつかむしかありません。

ここでいう距離感とは、患者さんとの物理的な距離だけでなく心理的な距離も含みます。近づきすぎて馴れ馴れしすぎたら「なにかあるのかしら」と不安になります。離れすぎていたら他人事のように扱っていると思われ「ちゃんと親身になって診てくれるのかしら」と不安になります。

考えてやることではないという意見もあるでしょう。できている人にとっては当たり前の感覚かもしれません。生まれ持ったセンスを否定できません。と言いつつも、普段から意識することで距離感は磨けるものと信じています。

日本語の「間」という言葉は本当に便利です。物理的な距離、心理的な距離、そしてタイミングまでを同時に含むからです。間を制する鍼灸師が臨床を制すると私は思っています。


twitterもよろしくお願いします。
https://twitter.com/kuri_suke

【よろしければ投票してください】
応援クリックありがとうございます(1日1クリック有効)。
ランキングサイトにエントリーしています。
  

yoki at 01:18│Comments(0)このエントリーをはてなブックマークに追加

月別アーカイブ
記事検索
全記事にコメント歓迎
これから読みたい本