2024年06月06日 鍼灸 技術論

鍼灸師の呼吸

はじめに


私が臨床でもっとも気をつけていることは息の仕方です。とても重視しているのにこれまで一度もこのことに触れてこなかったかもしれません。理由は単純です。私が呼吸の専門家ではないからです。呼吸法を専門的に学んだわけではありません。ただ、ずっと気をつけていただけです。

ですから、これが正しい呼吸法ですよ、とアドバイスできません。ちゃんとした呼吸法を学びたい人は、先生を見つけて学んでいただくとして、ここでは、なぜ気をつけているのかという理由と、どう気をつけているのかを紹介しようと思います。


呼吸を気をつけている理由


心理を読まれたくないから


息には心理が出ます。「呼吸を読む」という言葉があるくらいですから。格闘技や武術をやっている人なら当たり前すぎる話かもしれません。逆に言えば、そうでない場合は気にしていない人もいるかもしれません。

施術中は、ポーカーフェイスならぬポーカーブレスを心がけています。施術中、患者さんの背後に位置取ることもあります。そういうときは表情が隠れます。その代わり息づかいが目立ちます。見えなければ視覚以外の方法で相手の情報を読み取ろうとするからです。

「なぜ心理を隠す必要なんてあるの?」と思われるかもしれません。それがあるのです。やましいものを隠したいからではありません。施術をするとき、患者さんの期待に応えたいという気持ちが溢れてきます。その感情は、同時に期待に答えられなかったらどうしようという不安も生み出してしまうのです。

「どうでしょう?」

と施術後の変化を聞いたとき、

「ぜんぜん変わっていません」

と言われて何とも思わない鍼灸師はいません。「効果を出せなかったら申し訳ない」という気持ちになります。代金をいただきにくいと思う人もいます。逆に、効果が出ているとは思えないのに、「少し良くなった気がします」と言われたら、気を遣わせてしまって申し訳ないと心が揺れ動きます。

患者さんとのコミュニケーションが大事と言っても、こうした私たちの動揺は必要のない情報です。あとで詳しく書くつもりですが、どんなときでも呼吸は一定です。

疲れないため


父は陸上で長距離をやっていたので、小学校のマラソン大会が近くなるとアドバイスをしてくれました。「スッスッ、ハッハッ」と呼吸を一定にするようにと。色々な呼吸スタイルがあると思うので、父の教えが正しかったかどうはさておき、呼吸を整えた方が疲れにくいことは初歩的な話です。

これは、鍼灸施術にも言えます。「マラソンみたいに心肺機能は使わないでしょ」って思われるかもしれません。確かにそうです。長距離選手のような負担がかかるわけではありません。でも、違った負担がかかります。すでに述べたように心の動きです。鍼灸施術は(真面目な鍼灸師であればあるほど)精神的な疲労が溜まりやすいのです。中には一日数人でヘトヘトになってしまう人もいます。

精神を安定させるため


心の動揺は呼吸に表れます。逆も言えて、呼吸を乱さなければ心が安定し精神が疲労しなくなります。精神が疲労してしまうと、この仕事が嫌になってしまいます。

「疲れるくらいちゃんと真面目にやって」と思われそうですが、午前で疲れ切ってしまえば午後の患者さんは疲れた顔でお迎えしなければなりません。どの時間帯にやってくる患者さんにも同じ質の施術を提供できることが大切ですから、疲れないように施術をすることは患者さんのためです。

それに、毎回の施術で疲れ切ってしまったら技術を高めようという意欲が湧いてきませんし、そもそも鍼灸師を続けていけなくなります。


施術中の呼吸


呼吸を整える理由として、/翰を読まれたくないから、疲れないため、と書きました。ここから、どのように気をつけているかという話です。冒頭に書いた通り、私は呼吸法をマスターした人間ではありませんから、個人的にこうしていますよという話なので参考程度の話です。あしからず。

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感情が動けば呼吸も変化します。患者さんの施術をしていて感情が動かないときはありません。触診で感じて、どういうことが起きているのかを常に考えて、患者さんの言葉に反応して、とやってれば感情も動きます。「良くなってほしい」と思うことも感情の一つです。

情報を激しく出入りさせながら、冷静で淡々としていることはむずかしいです。そこで呼吸です。呼吸というのは、自分である程度コントロールできます。だから呼吸法が成立するわけです。そのいっぽうで、何にも考えなくても呼吸は自動的に行われています。

呼吸は半分コントロールできるものです。その半分コントロールできるものは精神と深く関わっています。呼吸は「息」という漢字で表すこともできます。「息」という字は「自分の心」と書くところが本当に面白いです。このように考えると、呼吸は50%整えられるのだから、自分の精神も50%は整えられるだろうと思います。

50%というところが味噌です。100%は無理という割り切りも重要だと思うからです。それに、自由に遊ばせておく50%がないと機械のようです。最近のAIロボットに人間味で負けてしまいます。

呼吸を一定のリズムに保つようにしているということは、心の半分は一定に保ちたいからです。

もう少し説明しないと、この意義が伝わりにくいかもしれません。患者さんの前に出ると、よい施術をしようとテンションが上がってしまう人が多いのです。私にもそういう傾向があります。でも、その場でがんばったから結果が出るほどアマイものではありません。患者さんの前に出ていったときには、勝負は決まっています。できることは決まっているのです。

がんばるのは施術中ではなく準備です。施術中はがんばる意味がありません。がんばっているように見える駅伝も、本当にがんばっているのは日頃の練習です。心肺機能に負担がかかる競技であることと競技時間が長いことから、本番でがんばった選手が結果を出すのだと錯覚するだけで、実力は走る前にある程度決まっています。もし、本番だけいつもより頑張ってしまうと途中で失速します。

長距離がリズムやペースを大切にしているように、施術でも大切です。リズムとペースをコントロールすると疲れません。心の動きが穏やかになります。

鼻で静かに呼吸をする


鼻で呼吸をするようにしています。口から息を吐くとため息のようになってしまうので、そうならないように気をつけています。吸うのも吐くのも呼吸音が患者さんに伝わりにくいように気をつけています。

特に、私の臨床スタイルは患者さんの背後から頚や背中を診ることが多いので、息がかかることも含めて気をつける必要があります。

Bの裏を意識する


実際に行動や判断をする際に現実的であること、または現実に即した考え方を持つことを「地に足をつける」と表現されます。地に足をつけることは臨床でもっとも大切なことだと考えています。

不思議なことに足の裏を感じるようにすると、呼吸が深く吸い込めるようになります。深く息を吸うことを意識すると、不自然な呼吸になってしまい、それこそ患者さんに気づかれてしまいます。

足の裏を意識すれば、呼吸を意識することなく深い呼吸になります。


呼吸が手をつくる


私たちの業界には「手をつくる」という言葉があります。あたりのよい手や触診に有利な鋭敏な感覚を指します。私たち鍼灸師は手を褒められると嬉しいものです。

手の使い方や、指先の感覚を訓練で磨くことは大事なのですが、見落としがちなのは呼吸が手に表れることです。手のひらの汗は精神性ですし、精神が安定していないと湿りすぎた手になってしまいます。

また、気持ちが緊張しすぎると手に震えが出るように精神と手には密接な関係があります。

ですからよい手をつくるためには、よい呼吸をするのがよいと思うのです。


呼吸が上手さをつくる


数をこなして経験を積んだら上手になるという考えは、半分正しくて半分間違いです。上手さの基準をもっていなければ、経験をいくら積んでも慣れるか飽きるかのどちらかです。その基準に業界標準はありませんから、各々が自分の指標をつくるしかありません。

私にとっては呼吸が指標の一つです。どんなときも呼吸を乱さずに施術できるか、ということを常に念頭においています。セミナー講師でデモ施術をするときも同じです。たくさんの同業者に囲まれていても、呼吸さえ乱れなければ平常運転です。

どうしても上手く見せようという欲が生じます。私も例外ではありません。100%の力を出そうとしてしまいます。だからあえて70%くらいの力が出せたらOKと考えるようにしています。30%の余裕がいろいろな気づきを与えてくれて、結果的に平均点が高くなります。

今回は、呼吸の重要性について触れてみました。私自身が「もっと早く気がついていたらよかったのに」と思うような内容です。重要なのに、あまり触れられることがない接する技術。これも非言語系のコミュニケーションです。

6月30日のセミナー(東京)、私が担当するのは非言語系コミュニケーションです。実践的に詳しくやります。イレギュラーな企画ですから興味がありましたらこの機会にどうぞ。残席は5名となりました。お急ぎください。

こちらもよろしくお願いします。
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yoki at 07:00│Comments(0)

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