2017年08月18日 鍼灸 

前回の記事では、

^徒枌里聾斥佞砲呂任ないけれど、確実に存在している知識
形式知とはマニュアル化できる知識


を紹介し、鍼灸は暗黙知ばかりであることを疑問視して終わりました。

人口知能から少し脱線しますが必要な話です。


■共通言語を求める世界


伝えられない技術は共有できません。共通言語が生まれません。鍼灸にも共通言語はありますが、各々で指している意味が微妙に違ったり、時には大きく違っているため、完全な共通言語はありません。

最近、「中医学」という「中国で整理された近代版東洋医学」が、世界に普及しています。日本にも入ってきていて、その影響は日本の鍼灸にも大きな影響を与えています。

私も影響を受けた一人です。そもそもの話をすれば、私が鍼灸師になったのは中医学系の鍼を受けて感銘を受けたからです。鍼灸学校でも中医学を学び、学校以外でも中医学系の学術団体に所属し、知識や技能の習得に力を入れていました。

共通言語を中医学にしようという動きが盛んですが、それが正しいかどうかわかりません。なぜなら、2000年以上続いている鍼灸医学を一つの共通言語でまとめるのは無理があるからです。無理を承知で、それでも進めているわけです。

日本鍼灸のあるべき姿を追求している私にとって、中医学で鍼灸を染めることには(共通言語があって便利であっても)反対です。もう少し、日本人鍼灸師は、日本鍼灸の在り方を考える時間をもう少し持つべきです。
日本の鍼灸



■日本鍼灸の歴史


日本鍼灸は江戸でピークを迎えました。数多くの流儀書が残されています。しかし、明治維新の影響で鍼灸は衰退しました。復興運動が始まったのは昭和初期です。しかし、すぐに大きな戦争を経験し、GHQの占領下にあった時代が7年もありました(1945年〜1952年)。

明治以降、日本鍼灸がのびのびと成長できる環境はなかったのです。今でも保険はほんの一部に条件付きで適用されるのみです。国の医療制度に入れてもらえない状況が続いています(業界の努力不足では片付けられないほど歴史的・政治的な理由が大きいです)。

ここで言いたいのは、明治以降、日本人が日本の鍼灸を追求する時間は皆無に等しいのです。鍼灸師なら知らない人はいない、いわゆる「経絡(けいらく)治療」。日本鍼灸の代表のように誤解されがちですが、歴史的にみても日本の標準ではありません。柳谷素霊先生の門下生がつくった治療デザインです。昭和生まれの私から見れば、そんなに古くはありません。

何をもって日本鍼灸とするのか…

歴史的に、日本人は日本の鍼灸を全く追求していないのです。各人が、それぞれ自分の道を探してきた歴史しかありません。そんなタイミングで中医学(中国の近代版東洋医学)をそっくり受け入れてしまったら、日本人のアイデンティティは残りません。


■中医学に向かう理由


日本を含め、世界が中医学に傾倒するのには理由があります。理由は、東洋医学が形式知になっているからです。難解で複雑な東洋医学が理路整然とまとめられているのです。

日本の鍼灸師は、繊細な感覚を持っています。だからなのか、感じるニュアンスを言語化するのを嫌います。あいまいさを残したがります。

言語化することで失われるものは、間違いなくあります。実際に、中医学という名の形式知の裏で、失われた伝統医学があります。個人的な経験ですが、中医学だけでは役に立ちませんでした。机上の空論という言葉がピッタリ当てはまる状況となったのです。

形式知に依存し過ぎると、教科書の通りには効かない…という現実を招いてしまうのです。

だからといって形式知が悪いとは思いません。日本も中医学の形式知を見習うべきです。鍼灸はもっとマニュアル化されるべきです。ツボを探す感覚も、鍼をする感覚も、もっとマニュアル化できるはずです。日本の鍼灸は、あまりにも個性を尊重するあまり、誰が何をしているのか専門家同士が見てもよくわかりません。


■形式知の旨味をノンアルコールビールから学ぶ


通常のビールからアルコールを抜いたものがノンアルコール、であったのは一昔前の話です。聞くところによると、今は、ビール味の炭酸水を香料などを使ってつくっているそうです(この他、アルコールが生成されないようにビールつくる方法もあるようです)。

ノンアルコールビールはどうやってつくっているのだろう???


これは、味覚の研究の結晶です。味覚は一人一人違います。それでも、誰もがビールをビールと認識できるということは、ビールらしい味があるからです。ビールらしさを感じるのは暗黙知(言葉にはできないけれど、確実に存在している知識)です。

しかし、暗黙知に収まっていてはビールの味がする炭酸飲料は開発できません。ビールでないものをビールらしきにするには、形式知の集積が不可欠なはずです。味覚研究はメーカーの企業秘密でしょうから、本当のことはわかりませんが…。

鍼灸師が駆使している指先の感覚も、研究されれば秘密が明らかになっていくでしょう。「されれば...」の話です。ほとんどが個人事業主である鍼灸業界は、研究資金をまとめられません。個人では、研究にかかる費用を準備することも、回収することもできません。

ホンモノの鍼灸師であるならば、指先で「ツボらしき」を感じています。数量化が難しいと鍼灸師の誰もが思っている感覚です。

「ツボはどういう感じ?」

と問われても、数量化できないので、「ちょっと硬いかな〜」とか「ぷよぷよしているよ」と答えるしかありません。細かいことを言うと、ツボによってツボの顔や表情があります。

その違いを説明するには、ビールの味の違いを説明するように難しいのです。まさに暗黙知なのです。ビールの世界も最初は似たようなものだったはずです。人間の味覚のみが感知し、脳が創り出す「味」という感覚。それを数量化し、「味を感じるメカニズム」という形式知に仕立てたのです。これを見習わないわけにはいきません。

「ツボは鍼灸師それぞれが感じるもの。やっていればだんだんわかります。」

といつまでも言ってはいられません。

つづく…


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2017年08月04日 鍼灸 

■鍼灸のマニュアル化


前回の続きです。

前回の記事を読み「いやいや、機械に鍼灸はできないよ」と考えている方は次のように思ったかもしれません。

「人工知能やセンサーがいくら発展しても人間の感性や能力には及ばない。追いつけると考えるのは、あなたがその程度の鍼灸しかやっていないからですよ」

そうかもしれませんが、そういう方に対して言いたいことがあります。

「『コンピューターは人間に及ばない』という考えが許される時代は終わりましたよ」と。

実は、私も少し前まで人工知能や機械に鍼灸はできないと考えていた1人です。今はむしろ人工知能に鍼灸をさせるにはどうすればいいのか、と考えるようになっています。

人工知能を意識することで、鍼灸の技法に関する「形式知」の蓄積が加速し、鍼灸のレベルが上がることを期待しています。

はりきゅう取扱説明書


形式知とは簡単に言えばマニュアル化できる知識のことです。鍼灸が抱える大きな問題点は経験や感覚に頼り過ぎていることだと私は考えています。経験や感覚でなんとかなってしまう仕事だと考えている鍼灸師にとっては、それが魅力なのかもしれませんが…。

マニュアル人間は批判の対象になりがちですが、臨機応変に動けない一律さに対してのものです。今は、その話ではありません。良い鍼灸を言葉で説明できる力の話です。一言で言えば、技術の言語化です。


■理論と実践が一致していない


鍼灸師にも立派な理論があります。しかし、理論と実践が一致しない、つまり、理論通りにやってもその通りの効果が得られないということが頻繁にあります、切り出し方によっては机上の空論と言われても仕方ない状況です。

鍼灸の問題点は、形式知がないことではなく、理論と実践をひとまとめにした形式知がないことです。理論を教室で一緒に学んでも、各々に分かれた時に「結局は経験だよね」となってしまうのです。それぞれが、ぞれぞれに、経験を積み重ねていく。「鍼灸師によってツボの位置が違う」なんて、言い出す人までで出来てしまうのです。

鍼灸業界の中に「○○ワールド」が量産されていく構造。

自分を正解にしてしまったら進歩はありません。正解かどうかを決めるのは結果です。

患者さんでもありません。患者さんの「満足度(アンケート結果)」「リピート回数」は、鍼灸の技法や技能の評価と直結しているとは言えないからです。


技術があるのに


マーケティングの目線で言えば、たくさん売った人が正解です。「売れるものが良いモノ(売上はどれだけの人に幸せをもたらしたかを示す数)」と考えるからです。しかし、鍼灸の価値は、いったん商業的な事情と切り離し、客観的な事実だけで語る必要があります。

話はそれてしまいますが、世の中のサービスや品物に対して、お金を出す価値があるかどうかを人工知能が判断してくれる時代が来るでしょうね。書き込まれるクチコミも人工知能が判断して最終的な星の数は人工知能が決める、なんてことにも…。


■自転車の乗り方は説明できない


形式知に対する言葉は暗黙知です。言葉にはできないけれど確実に存在している知識です。たとえば、自転車の乗り方です。見本は見せられても、乗り方の説明は難しいです。説明を求められたら、

「やってみたらわかるよ」

と言いたくなるずです。確かに、乗ってみなければ乗れる時の感覚はわかりません。一度乗れてしまえば、どうやって乗っているのかなんて考えもせず、当たり前のように乗ることができます。

乗れる人は知っている自転車の乗り方


暗黙知は「当たり前」となって経験や感覚の中に封じ込まれ、表には出て来なくなります。

経験や感覚を否定するつもりはありませんが、説明出来ないことは、伝わらないのです。その人の中にあるだけです。

「鍼灸とはそういうものだ」

と考えている人から見れば、私の話は理屈っぽいでしょうね。暗黙知があれば、まだよいのです。暗黙知は誰も確認しようがないため、「ある」と言われたらその言葉を受け入れるしかありません。

これが自転車なら問題になりません。「乗れる」という事実から暗黙知の存在を確認できるからです。ただ、鍼灸では、自転車における「乗れる」を設定するのが難しいのです。つまり、事実確認がやりにくいのです。

「良くなった気がする」

という感想だけでは客観性がありません。しかしながら「気の持ちよう」であっても、元気になれたり、痛みが軽くなったりするのが人間です。それが商売になっているのは事実。「あの先生は良い人だから…」と人間性を見て判断している患者さんも少なくないと思います。

余裕がなければあちこちの鍼灸院を巡るわけにもいきませんし、そうすることが最善とは思いません。たいていは、通える範囲の中から数件を比べて「自分に合っている」と思う1件に通うことになります。そして「ここが一番だ」と自分に言い聞かせながら通うのです。

治っても、治った理由を患者さんも上手に説明できません。だから、「気のせいじゃない?」とか「たまたま治るタイミングだったんだよ」と言われてしまうことも多いのです。

鍼灸は、こんなにあやふやでよいのでしょうか?

つづく…「ツボらしき」は数量化できるのか?


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2017年07月28日 鍼灸 

人工知能と鍼灸(1)


■人工知能(AI)の時代を迎える


最近、AI(Artificial Intelligence)に関する情報が目立つようになってきました。ロボットや自動車の自動運転ばかりでなく、各分野で活用が始まっています。

ついに、あのAmazonがAIサービスを始めました。しかも無料で開始できます。もう、びっくりです。

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私は鍼灸師ですが人工知能に関心があります。むしろ、鍼灸師だからこそ関心があるんです。鍼灸も人工知能も、「人」を知ることで進歩する分野です。


■人工知能 vs ベテランの経験


先月、NHKで放送されていた『人工知能 天使か悪魔か 2017』は衝撃的な内容でした。



番組で印象的だったのは、タクシーで利用され始めていたことです。お客さん(タクシーに乗りたい人)が居そうな場所を人工知能が予想してドライバーに伝えるのです。

長年の経験や勘を頼りにやってきたベテランドライバーを人工知能が超えようとしています。新人かベテランかの違いは、運転技術だけになってしまいます。その運転技術も自動運転に代わろうとしているわけです。

人工知能を利用している感覚を持てるのは最初だけな気がします。

「タクシーを拾いたいなと思って通りに出たら、ちょうどタクシーが走っていた」というのは人間側の視点。人工知能から見たら、予測した通りに人間が行動しているのです。

もちろん、予測というのは確率の話です。だから完全に人の行動を予想しているわけではありません。しかしながら、対象が(人間の)集団になれば予測の精度は上がります。

人間(という集団)が人工知能に予測されるということは、管理されるという未来をほのめかしています。

人間の考えていることくらいわかるぜ!

という未来の足音が、もうだいぶ近づいて来ています。人間が利用していると思っているうちは天使ですが、利用されはじめたら悪魔ですね。映画で起きていることは現実に…。


■映画の中の人工知能


アラフォー世代の私の脳には、ターミネーターのシュワちゃんがしっかり刻み込まれています。2では新型ターミネーターの液体金属のCGが衝撃的でした。今年の夏3Dになって帰ってきます!

I'll be back.  は本当でした。




そしてマトリックス。



本題には関係ありませんが、この映画は映像に数々の革新をもたらしたことで有名です。メイキング映像の2分15秒あたりは、バレットタイム(タイムスライス、マシンガン撮影)という技術を使った有名なシーン。当時、みんなマネしてましたよね。

人工知能が映画制作に加わる日はすぐそこです。



■人工知能に鍼灸はできるか


ここから本題です。

鍼灸と人工知能の関係を探っていきましょう。そもそもから考えなければいけません。鍼灸って何でしょう。

「鍼灸は患者さんの体に触れた感覚から直感的にツボを選んでいくもの。」と考える鍼灸師。また、「鍼灸施術というものは再現ができない一期一会なもの」と考える鍼灸師。

どちらの立場も、「人体という名の複雑系に自らの感性で挑む」という認識です。こうした認識に対して私は思うところがあります。

もし、彼らが、

「人体は複雑だからコンピューターには無理」

と考えていたら、それは全くの逆だと言いたいです。対象が複雑だからこそ人工知能が力を発揮するのです。人工知能は将棋で名人に勝ちました(とてもショックでした)。

もちろん、人体は将棋とは比べものにならないくらい複雑です。今の人工知能に出来ることは限られているかもしれませんが、人工知能が人工知能を開発する時代に突入したら、これまでの常識は全く通用ないでしょう。

どんな職業を選ぼうとも人工知能をスルーできない時代が必ずやってきます。鍼灸も例外ではないでしょう。そうなれば「鍼灸は複雑で感覚的なものだから人工知能は役に立たない」なんて言ってはいられません。

「人工知能は問診ができても触診はできない」

という考えもアウトになるでしょう。触診マシンが開発される時代が来ます(誰かがその商業的な意義に気が付いた時)。

クルマは自動運転の時代に入ってしまいました。ナイトライダーが現実となってしまいました。センサー技術はとんでもないことになっています。

高度なセンサーが安価で手に入るようになれば、人間の指先感覚は再現できてしまうでしょう。開発に本気を出せば、今だってツボ探しマシンはできると思います。

人間のみが感受できると思っている雰囲気やニュアンスだって、きっとセンサーとアルゴリズム次第です。表情や声のトーンから感情まで読み取られてしまうでしょう。人生相談や占い師も人工知能が代わってできます。

次回は「気の世界」と「人工知能」について書きます。
予定を変更して「暗黙知」の話になりました。つづき…(自転車の乗り方を説明できない理由


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