2015年12月26日

なぜ逆子に至陰が使われるのか

■なぜ至陰? なぜ三陰交?

逆子と言えば、「至陰(しいん)」と「三陰交(さいいんこう)」。

鍼灸師の標準知識と言っても過言でないくらい有名です。臨床経験がない鍼灸師も「逆子のツボ」としてこの2つのツボは知っています。

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ただ、なぜ至陰と三陰交なのかを説明できる鍼灸師は少ないのではないでしょうか。

「そういうふうに教わったから」
「みんなそうしているから」
「え、それ以外あるの?」

という空気を感じています。

原典を知らないまま、ツボの効用だけが有名になっていることに違和感と危機感を覚えます。鍼灸学と妊婦さんに真摯に向き合う気があるなら、その背景にも目を向けるのが本当のはずです。私自身にも言えることです。だから、自戒の念を込めて、出典に触れていきます。今回の主役は至陰です。

話を進める前に、そもそもの話として「逆子に鍼灸が本当に効くのか」と疑問を投げかける人がいます。鍼灸治療を受けたことがない人が「ツボくらいで逆子が直るわけがない」と決めつける様子は容易に想像できます。疑問を抱き、それを口にする人は、悪意でそうしているわけでなく「真っ当な医療を受けてほしい」という正義感だということも想像できます。

しかし、無責任な正義感というのも存在するわけで…。

現場で試行錯誤している立場から言わせていただくと、「せめて一度くらいは鍼灸を受けから言ったらどうか」と思うのです。きちんとした意見を出すなら、いくつもの鍼灸院を巡り、その経験を踏まえてから言葉をつくって頂きたいです。ラーメンを食べもせず「ラーメンとは」を語って欲しくないラーメン好きと同じ感情だと思います。


■誰が最初に至陰を使い出したのか

歴史的に、逆子のツボが最初に登場したのは至陰です。浅川要先生の『続・針師のお守り』に歴史的背景がまとまっていますので、興味のある方は一読されることをおすすめします。P.87の「至陰の灸」です。

続・針師のお守り


失礼ながらポイントを掻い摘んでしまうと、古典における至陰は次のように扱われているようです。

鍼灸甲乙経』 … 婦人科や産科に関する記載なし
黄帝明堂灸経』 … 張文仲が横産で至陰に灸をしたいう記録を転載
鍼灸資生経』 … 張文仲の経験を記した部分を丸写し
鍼灸大成』 … 張文仲の経験という記載が消え、横産に効くという記載のみ
医宗金艦』 … 張文仲の経験という記載が消え、横産に効くという記載のみ

浅川先生は、この著書の中でとても重要な指摘をされています。「上述の針灸書はどれも無批判に張文仲の経験を掲載している」と。同感です。

これは、東洋医学における「あるある」事件です。伝統を受け継ぐことは、思考を停止させて模倣することではありません。その裏側にある意味を正しく理解することです。

「良いと言われていることをまずは使ってみる」という素直な姿勢は大事だと思うのですが、この素直さが必ずしも伝統を受け継ぐことにはなりません。批判的精神も必要だと思います。もちろん、貴むが故の精神であって、蔑みから出る批判とは別物です。

東洋医学の古典は、どこの誰が書いたのかよく分からないものが多いため、ややもすれば神格化されてしまいます。でも、よくよく考えれば「古典に書いてあるから」という理由は、自分と身内にしか通用しないのです。強引に患者さんにその理屈を押しつけることはできません。

古典に記されたツボの効用は、当時権威があった誰かの経験でしかありません。それを理解した上で、ツボを使うのが本筋であろうと考えています。

私が重要だと思うのは、至陰がもたらす身体の変化です。至陰に灸をすると「どこでどんな変化が観察できるのか」がもっとも重要です。その上で「至陰に灸をすれば逆子が直る」と語るのが、本当なのだろうと思います。

そうは言っても、簡単なことではありません。研究費をもらえるわけではありませんから、鍼灸師それぞれが臨床という本番の中で気が付いていかなければなりません。集中力と根気が必要です。


■逆子が直る考え方

逆子を直すために必要なのは、丸いお腹です。どこにも余分な緊張がない状態です。風船が膨らむように内圧でキレイに膨らめば丸くなります。子宮の壁は筋肉(平滑筋)ですから、その筋肉は過度に緊張していると膨らみが歪(いびつ)になります。丸くない状態では、赤ちゃんは向きを変えられません。

逆子は頭が上(胃)の方にある状態です。このままですと、母胎から出る際に頭から子宮口に入ることができず、困ることになります。お産のリスクが高まるために最近ではほとんど帝王切開です。

頭が下(膀胱)の方にある方が、頭から子宮口を通れるので出やすくなります。この状態を自然だと考えます。逆子は病気ではないので、あえて「治る」ではなく「直る」という言葉を選んでいます。「向きが自然な方に直る」と解釈しています。

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■こんな逆子の直し方には疑問

逆子を直したい時は、赤ちゃんに働きかけるのではなく、お母さんの体を「自然な状態」にすることを考えます。だから、不自然な方法は理屈からして間違っています。つまるところ、逆子の治療は“ふつう”を目指せばよいのです。“ふつう”から外れていることを“ふつう”に戻すことが治療です。

こうした意味からして次のような対策は疑問です。

 1.逆子体操
   → 苦しい姿勢なのでNG

 2.寝る向き(赤ちゃんの顔が下になるように)
   → ずっと同じ姿勢でいたら体が痛くなるのでNG

 3.語りかける
   → 気持ちが内向的になるのでNG

特に2の寝る向きを頑張っている妊婦さん。真面目で忍耐強い方ほど、状況を悪化させています。一晩、同じ姿勢でいられるはずがないのに、朝起きて規定の向きでなければ罪悪感を覚えています。「私のせいで直らない…」と。いえいえ、そもそも一晩同じ向きで寝るなんて無理ですから。

逆子体操と寝る向きがどれほど、妊婦さんを苦しめていることか…。

「逆子のツボ」という話の前に、妊婦さんに「自分を責めるストイックな生活」から抜け出してもらうことが最優先です。ネットを徘徊すれば、1〜3で直ったという話は出てきます。でも、やらなかったらどうなっていたのかは誰もわかりません。直った人だけ情報発信しているかもしれませんし、そうした体験談に統計的な力はありません。

それを言うのであれば、鍼灸も同じです。直った人の話の裏には直らなかった話があります。鍼灸の効果を誰もが認めるようになるには、もう少し時間が必要です。今は準備段階です。鍼灸院で逆子が直ったという体験を1つでも増やすように努めることです。至陰や三陰交への固執を解けば、逆子治療の成果はもっと上がるようになるでしょう。


■クリ助の方法

私も、逆子に至陰を使うことがあります。でも、数ある選択肢の1つでしかありません。至陰を使わずとも、逆子が直る症例を見続けているうちに「“逆子だから至陰”というのはもうやめませんか」と思うようになっています。浅川先生が著書で指摘されたように「張文仲が横産に使ったことがあるよ」という記載でしかないのですから。

重要なのは、お腹(子宮)とその周辺をどのように整えたら逆子が直るのかを議論することです。逆子になりやすい人(お母さん)に共通する身体的な特徴(癖)があるはずです。ここを見つけられるか、そしてそこをどうにかする方法を持っているか、これが全てです。

最初の一歩は「お腹を丸くする」ことです。ふわふわのお腹にするだけで直ってしまうことがあります。お腹が硬くなる原因として、特に重要なのが胃腸の調子です。胃腸が子宮の周りを囲っているからです。胃腸の自覚症状があるなしに関わらず、胃腸を整えます。使用するツボは、足の陽明経、足の太陰経の属するものが多くなります。

お腹とセットで考えるのが背中です。背中にあるいわゆる「背部兪穴」は内臓の調子がダイレクトに投影される場所です。食べすぎると背中が張るというのは典型例です。赤ちゃんが宿っているお腹は触診がしづらいので、背中の触診で情報を得ることが多いです。

次に、冷えとのぼせも問題にします。どちらも重要ですが、最近の傾向としてはのぼせを重視しています。のぼせを解決する意味でも、胃腸を整えることが役立ちます。胃腸は口から肛門まで、上から下に一方向の流れです。この流れによって、体内で上から下への大きな流れがつくられています。このおかげで、(もともと昇りやすい性質の)熱が適度に降りてくれます。

他にのぼせを解決させる方法として、頚や肩に注目します。特に頚のチェックは重要視しています。頚の緊張が解けるように、骨盤の動き、そして肩甲骨の動きを整える鍼を行っています。この辺りの技術では整動という手法がたいへん役立ちます。

結局のところ、内臓機能と骨格筋の働きは連係していますから、内臓の問題のように見えるものでも整動という発想が役立ちます。現在も技術を整理している最中ですので、いずれ具体的な方法に触れることができると思います。「逆子には至陰と三陰交」のアンチテーゼになるわけですから、慎重に行います。

整動と整流の概念



■合穴の謎解き

現状で言えるのは、お腹を整えるには「合穴」という種類のツボが決め手になることです。この合穴は、数ある経穴の中でも原始的なポジションにあると考えています。経絡ができる前から多用されていたツボだと考えています。

最近の見解では「経絡を先に発見して、それから経穴(ツボ)が発見された」となってしまっていますが、それは発掘された物から判断しているだけに過ぎず、合穴の作用と古典に記載された経緯を推理すると、穴(ツボ)が先に運用されていて、後に経絡がデザインされたと考えざるを得ません。

この謎に迫っていくのが整動鍼の腹背編です。実用的な内容の中にミステリーの謎解きのようなエッセンスを入れてあります。最後の募集なので、興味のある方はご参加ください。もちろん、逆子の治療にも役立ちます。運動器疾患においても、体幹の安定を手法として重要な位置づけとなっています。

 ◆整動鍼<腹背編> 2016年1月24日〜25日(月)

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yoki at 01:32│Comments(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 鍼灸 | ツボ(経穴)

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