2019年05月05日

『ツボがある本当の意味』を書いた意味

鍼灸師の間で賛否両論の『ツボがある本当の意味』


「経絡は信仰である」の真意


3月14日の出版した『ツボがある本当の意味』は重版を2回しました。おかげさまで売れています。鍼灸師の間でも話題になっています。一般の人には少し難しいところもありますが、鍼灸を受けている方であれば、興味を持ちながら読めると思います。



この本は「経絡は信仰である」と書き出しています。この一文は、私が意図的に仕掛けたものです。鍼灸師であるならば、誰もが「おや?」と思うでしょう。怒り出す鍼灸師もいます。鍼灸師を敵に回したいわけではないのです。

最初の一文で感情的になってしまうと、冷静に読めなくなってしまいます。本当に伝えたいメッセージが受け取れず誤解をすることになると思います。実際に、Amazonのレビューを読むと、それらしいものが含まれています。どのみち、賛否両論がある内容です。新しい視点を入れたので否定的意見が出るのは仕方ありません。

ここで、はっきり言っておきますが、私は経絡理論を否定していません。言いたいのは「経絡の存在が明らかでない現実を否定してはいけない」ということです。

「昔から言われているからある」とか「経絡を感じるからある」という理由は、存在の説明にはなりません。

存在していることも、存在していないことも、証明できていない現時点では、「経絡はあるかもしれないし、ないかもしれない」という他ありません

それを「ある」という前提で話が進んでしまうと、宗教と区別できません。誤解のないように補足しますと、宗教や信仰を否定したいのではありません。鍼灸を医学として発展させようとする意志があるならば、宗教的要素は除く必要があると考えているのです。

古代、医術と呪術の区別は曖昧でした。多くの専門家は、鍼灸は呪術から生まれたと説いています。私もそう思います。経験が蓄積され、ある時を境に呪術と決別します。そのきっかけをつくったのが経絡理論の可能性があるわけです。

経絡は実在感が高いからです。経絡の走行は、神経、血管、筋肉と重なる部分が多いため、感覚的に実在しているように感じます。私も、鍼された時に、経絡の走行に何かを感じることは多いです。

鍼をすると、神経、血管、筋肉の知見だけでは説明が難しい現象が数多く起きています。だから、何かあるのでしょう。信仰とは切り離し、起こる現象をできるだけ説明できるようにと考案された経絡。

だから、経絡の存在を盲信したり、『素問』や『霊枢』と行った古典を信仰することは逆戻りです。当時の科学的思考が生みだした書物だと思うのです。

月日は流れ、現代人が持つ知見は当時とは桁違いです。現代に生きる私たちは、私たちなりに科学的姿勢で鍼灸理論と向き合わなければならないはずです。

経絡は、2000年前に考案されたデザインであり、診察のガイドラインです。この理論に基づいて臨床を行うと、理論が示す通りの反応(身体変化)が見られます。だから、正しいかのように思うのですが、経絡理論に反した現象があることも忘れていけません。ここから目を背けていると、鍼灸は古いままです。


地動説と天動説


地動説と天動説の話をする前に、天動説からおさらいしておきましょう。

天動説は、「地球は宇宙の中心にあり静止しており、全ての天体が地球の周りを公転しているとする説(ウィキペディアから引用)」です。

(日本では)太陽は東から昇り、南の空を通過し西に沈みます。星空も太陽と方向に天空を移動します。だから、地球が止まっていて太陽や星が動いていると説明できます。しかし、星の動きを詳細に観察すると、矛盾が生じてきます。矛盾とは言わなくても、無理が生じてきます。

天動説の限界を破ったのは地動説です。現在では地動説が常識です。この常識がつくられたのは、コペルニクス(1473〜1543年)の地動説を受け継いだガリレオ・ガリレイ(1564〜1642年)が亡くなった後です。

コペルニクスとガリレオガリレイ


ひっそりと地動説を唱えたコペルニクスに対して、ガリレオ・ガリレイは、地動説を大々的に唱えたことで、カトリック教会から有罪判決を受けてしまいました。判決の誤りをローマ教皇が認めたのは、350年後の1992年です。とはいえ、今でも宗教的な理由から天動説を信じている人はいるようです。

調べていたら、地動説の原型はフィロラオス(紀元前470年頃 - 紀元前385年)まで溯ることを知りました。フィロラオスは、あのピタゴラスの定理で有名なピタゴラス(紀元前582年〜紀元前496年)の後継者の一人です。

鍼灸医学が生まれた中国の事情はどうだったのでしょうか。

ウィキペディアの情報では、「夫天地、空中一細物」(「われらがいる天地も、無限の宇宙空間のなかで見れば、ちっぽけな物にすぎない」)を例に挙げ、地動説の考え方を示していたのですが、続きの「有中之最巨者」(「握できる最大の存在でもある」)に目を向けると、地上に居る人の目線から宇宙を語っているように思えます。ですから、中国の地動説はよくわかりません。


鍼灸学の原典である『素問』『霊枢』が書かれた時代は2000年以上前です。少なくとも、コペルニクスが唱えたような地動説があった記録はありません。


経絡の矛盾を連想させる、天動説のCG


天動説は、星の動きをすべて説明しようとすると無理が生じますが、ある程度まで説明できます。経絡も人体に起こる反応をある程度までなら説明が付きます。ですから、天動説と経絡説は似ていいると言えます。

経絡も大きな目で見れば、理屈が通りそうでも、細かいところで奇妙な蛇行があります。拙著の中で記した豊隆というツボが典型です。

豊隆の蛇行


太陽系の惑星の動きを、天動説と地動説で比較すると一目瞭然です。

via GIFMAGAZINE


左が地動説(Heliocentrism)で、右が天動説(Geocentrism)です。

仮に、天動説(Geocentrism)しか見なかったら「こんなに複雑で奇妙な動きをするんだ」で落ち着く人がいるかもしれませんが、地動説(Heliocentrism)
を見たら、「こっちが正解だね」と直感的に思うはずです。

一言で言えば、天動説(Geocentrism)は不自然なのです。地球を中心に置くと、これほど複雑な軌跡になってしまうのです。エネルギーの無駄です。自然の摂理からして天動説はあり得ません。

人体はエネルギーを節約するように出来ています。人間に限らず生命は超省エネ機構です。無駄のないように出来ています。こういう目で経絡の走行を眺めると、細かい点で無駄があります。天動説のCGシミュレーションの惑星の奇妙さと同じものを感じるのです。


アイデンティティ化してしまう経絡


経絡はあるのかないのか、という議論は重要ではありません。重要なのは、経絡がもたらしてきた成果と、経絡が抱える限界です。

天動説によって、ある程度まで自然の摂理を把握できたように、経絡も人体の摂理を把握するのに役立っています。しかし、時代が変わる中で鍼灸にも変化が必要です。天文学が、天動説から地動説に移り変わったように、そろそろ鍼灸にもパラダイムシフトが必要なのではないでしょうか。

地動説のアイデアを生んだフィロラオスから数えると、地動説が受け入れられるまで、2000年以上かかっています。

天文学において、アリストレスやプトレマイオスが支配的だったように、鍼灸においては『素問』や『霊枢』の存在感が強く、新しいアイデアが認められにくい空気があったと考えても不思議ではありません。

ひょっとすると、鍼灸にも地動説に相当するものが考案されていたのかもしれません。歴史の中に埋もれてしまったなら、とても残念なことです。

心理学には「認知的不協和」という言葉があります。「これまでの情報と新しい情報の間に不一致が生じた時、不一致を軽減する行動が起こる」というものです。

いったん経絡理論があると信じてしまうと、それがアイデンティティとなり壊されることを恐れます。「経絡は信仰である」と言われて、「経絡はあるんだ!」と意地になるのは、まさに認知的不協和です。

誰でもいったん信じたものは、簡単にひっくり返したくありません。「信じる」ということは大きなエネルギーが必要だからです。

信じたものによって景色が変わります。だから、経絡を信じれば、体で起こる現象に経絡というフィルターがかかります。矛盾する現象は見えなくなってしまうのです。このように、経絡」という観念ができあがるのです。

やっかいなのは、ひとりひとり経験が異なるために、できあがる観念もひとりひとり違うものになります。「みんな違ってよい。それが鍼灸の魅力だ」という考えもありますが、鍼灸を医療と考えるなら、深刻な問題です。


鍼灸学の本質はツボにある


イメージの力は自分自身に対してだけでなく、他人も変えられるほど強力です。ですから、強力なイメージを持つ鍼灸師にはパワーやカリスマ性を感じます。

それも鍼灸師としての在り方ですが、イメージ力の勝負になりますので、鍼灸を使うことの意味が薄れていきます。実際に、鍼を使わなくなる鍼灸師は少なくありません。

「鍼灸学の本質は何か」

と問われたら、私は「ツボ」だと答えます。特定の位置(座標)がもたらす作用を観察して整理していくことが、鍼灸学の本質だと思っています。経絡も本質を追究して考案されたデザインであり、診察のガイドラインだと思います。ツボが先に研究され、研究の成果をまとめるために経絡が考案されたと考えるのが自然です。


お知らせ


2019年5月10日(金)から、毎週金曜日は品川のカポスにて施術を行います。予約の際には「栗原希望」と告げて下さい。

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yoki at 22:23│Comments(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 鍼灸 | ツボ(経穴)

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