2023年08月31日

ジョジョ立ちはなぜ気持ち悪いのか−骨盤の機能から考察

鍼灸師から見たジョジョ立ち


ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるキャラたちの個性的な立ち方を「ジョジョ立ち」と言います。ちゃんと定義があって「手足の関節をひねった独特な立ち方」とされています。『現代用語の基礎知識』にも掲載されているれっきとした日本語です。知らない人は、この機会に覚えておきましょう。

さあ、ご一緒に、ジョジョ立ち!

ジョジョ立ち
出典:https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1616405773

『ジョジョの奇妙な冒険』を知らない人でも、この立ち姿に見覚えがあるのではないでしょうか。「あの絵、苦手」という声もたくさん聞きます。実は、私も最初は気持ち悪い絵だなぁと思っていたのですが、ある時期を境にジョジョ立ちが極めて優秀な表現であることに気が付きました。

骨盤の表現が気持ち悪いほどリアルなのです。

ジョジョ立ちについて詳しく知りたい方は、恐ろしいほど完璧に解説しているページを見つけたのでこちらをご覧ください。

「ジョジョ立ち」の意味とは?元ネタから立ち方まで一覧で解説

とりあえず先に進ましょう。

このジョジョ立ちは奇妙な立ち方でありながら、リアリティがあるのです。実際、ちゃんとマネができる姿勢なのです。ただし若さがないとむずかしい姿勢です。

だから、読者は無意識にジョジョ立ちしているキャラクターに若さを感じるのです。その理由に迫るのが今回の目的です。


ジョジョ立ちはイタリア生まれ?


そもそも、作者の荒木飛呂彦先生は、何からヒントを得てジョジョ立ちを思いついたのでしょうか。幸いなことに荒木先生の著作『荒木飛呂彦の漫画術』の中でエピソードが記されています。

517BG+BlauL

連載前のイタリア旅行がきっかけだったとあります。ローマのボルゲーゼ美術館の「アプロとダフネ」を見て、漫画で描けたらいいなぁと思ったそうです。

これを読んで、改めて「やっちまたぁ」と思いました。実は新婚旅行でイタリアに行ったときに「アプロとダフネ」を観に行くはずだったのですが、その日の朝は寝坊をして行けなかったという苦い思い出があるのです。すぐ近くまで行っておきながら逃すという痛恨のミス。

証拠の記事)ボルゲーゼ美術館に寝坊して行けなかった話

制作したベルニーニはバロック芸術の巨匠でベルニーニは「ローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」と言われているほど。ベルニーニがジョジョ立ちが生まれるきっかけになっているなんて。驚きを隠せません。

Apollo_and_Daphne_(Bernini)_(cropped)

出典:Wikipedia

石から削り出したことを疑いたくなるほどの肉体の滑らかさ。そして緻密で繊細な植物の表現。ミスが絶対に許されない仕事です。絵と違って下書きができません。こんなの人間業とは思えません。本当に人間なんですか?


ジョジョ立ちの秘密は骨盤にあり


荒木先生は著書の中で、ベルニーニの「アプロとダフネ」の螺旋状に回転して上昇するようなポーズに心を奪われたことを記しています。

ジョジョ立ち
(C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

ここで改めてジョジョ立ちを見てみましょう。ご覧の通り、ジョジョ立ちにはいくつもパターンがあり、どれもジョジョ立ちです。この特徴は身体の螺旋表現にあるわけですが、身体の専門家として考察しジョジョ立ちに本質に迫っていこうと思います。

『荒木飛呂彦の漫画術』に次のようにあります。

実際にポージングを描くときに気をつけねばならないのは、人体骨格の構造と動きを正しく把握する、ということです。ただねじっていればいいわけではなく、腰を出すときに足がどうなるか、膝がどの位置にきて、肩がどんな動きをするか、すべてがつながって流れがありますから、そこを理解しなければポージングは描けません

これを読んで改めて漫画家はすごいなと思いました。人体をちゃんと調べているのです。加えて興味深い一文がこれです。

『ジョジョ』では人体骨格の限界まで追求したポージングをしています

確かに、がんばればなんとか真似できるポーズなのです。個性的でありながら、構造的な破綻がないのでリアリティを感じるのです。年齢を重ねるときついポーズでもあります。


ジョジョはなぜ気持ち悪いのか?


ジョジョ立ちから得る印象はさまざまだと思います。「気持ち悪い」という感想も少なくありませんが、その気持ち悪さは色気の一種ではないでしょうか。この色気は骨盤の傾きから生まれると仮定して話を展開することにします。

ジョジョ立ちそれぞれの骨盤を見てください。真っ直ぐなものが見当たりませんよね。どの漫画家の絵も骨盤を感じるかといえばそうではありません。個人の感想になりますが、ジョジョほど骨盤を感じられる漫画を他に知りません。

荒木先生が骨盤を強く意識していることは、荒木先生の言葉からも間違いありません。先程の文章の中にちゃんと証拠があります。

「腰を出すときに足がどうなるか、膝がどの位置にきて、肩がどんな動きをするか」

まず骨盤の位置を設定し、そこからポーズの詳細をつくっていく手順が想像できます。骨盤の方向が決まると、その骨盤に応じた姿勢が生まれます。そこから胸の向き、膝の向き、顔の向きを決めていくのでしょう。

ジョジョのキャラクターたちが今にも動き出しそうなのは、リアルな骨盤描写が躍動感を生み出しているからでしょう。ジョジョ立ちをしているキャラクターが細身であることも骨盤表現を引き立てています。


骨盤は本当に歪むのか?


整体院などでよく使われる「骨盤の歪み」という表現。この意味を深く考えている人は多くありません。腰に痛みや違和感があると、どこかにズレがあるかもしれないと理解したような気分になっていないでしょうか。

実は、プロでも意見が分かれるほど難しい話なのです。骨盤がどのように動くのか、その詳細は謎に包まれています。骨盤の仙腸関節と言われる関節は強靭な靭帯に包まれているので、動くはずもなければ歪むはずもないと考える医療者もいます。



ここでジョジョ立ちに戻ってみましょう。

骨盤の方向を決めているのは股関節と腰椎です。股関節と腰椎の柔軟性がなければ骨盤の方向を自由に決めることはできません。ですから骨盤が歪むと聞いたときは、股関節と腰椎の可動性も考える必要があるのです。

股関節と腰椎の広い可動域は、若さの象徴でもあります。ジョジョのキャラクターたちが、生き生きと見えるのは、若さ特有の可動性を無意識に感じ取っているからでしょう。

完成度は別として、腰に痛みや重さがない人ほど真似しやすいはずです。逆に、激しい痛みがあればジョジョ立ちどころではありません。骨盤を自由に動かしやすいときほど、コンディションがよいと感じているわけです。


骨盤の歪みと痛みは関係ない


これを踏まえて、一般的な骨盤の歪みについて考えます。多くの場合、止まった姿勢(立っているか、寝ているか)で歪みを判断することが多いです。身体が真っ直ぐであるかどうかを判断するためです。

臨床にたずさわっている人であれば、真っ直ぐだから痛みがないとは限らないことを知っています。逆も言えます。曲がっているのに痛みがないことも珍しくありません。

真っ直ぐであるか否かのチェックでは、痛みがあるなしはよくわからないのです。つまり、歪んでいるように見えるのに痛くないというケースや、歪んでいないのに痛むケースと遭遇します。

「歪んでいるから痛いんです」と言われたら納得したくなるのですが、現実はそうではありません。

臨床で重視すべきは可動性です。痛みがある人は例外なく可動性が低下しています。動かない方向があります。ですから動ける方向ばかりに姿勢が偏るのです。これが本当の歪みです。

姿勢というのは運動の一部を切り抜いたものです。寝かされた状態、立たされた状態というのは、運動の一部とは言い難いわけですから、姿勢と呼べるかどうか疑問です。

ジョジョ立ちを改めて見てください。動きの一瞬を切り取ったものに見えます。ジョジョ立ちを見たときに、無意識にその瞬間の前後の風景を想像してしまうのです。ジョジョ立ちには時間軸を生み出す効果があります。

image2-1
出典:にじめん

この時間軸の話は鍼灸治療と深い関係があります。患者さんの身体を観るときに止めて観るのか。それとも動きの一部を切り抜いて観るのかで、大きな違いになります。

私は「骨盤の歪み」という表現を使いませんが、腰痛であったならできない動作を探します。その動作ができるように身体を調整します。こうした視点で鍼治療を行うことを「整動(せいどう)」と呼んでいます。

鍼は鎮痛するだけと思っている患者さんもいますから、ときどき、

「痛みが取れたけれど、ちゃんと治すには整体院で歪みを取っておいたほうがいいですか?」

なんて質問されるわけですが、私としては「やりづらい動き(=歪み)」を取っているので、「あ、それはですね…」と返答につまるのです。世間に流れている鍼灸のイメージというものに困惑することがあります。


仙腸関節は動いている


骨盤の位置を決めているのは、股関節や腰椎ばかりではありません。仙腸関節が関わっています。この仙腸関節については専門家でも意見が分かれるところです。

仙腸関節は体表から触れることができないばかりか、動きがとても小さいのでどんなふうに機能しているのか謎に包まれているのです。わずかな動きには機能的な意味がないと考えて「動かない」と主張する人たちがいます。

私は逆の立場です。そのわずかな動きが仙腸関節の役割なのだと考えて「動いている」と考えています。動いていることに意味がないのであれば関節になっている理由がありません。

わずかでも動くことまではわかっているのだから、その役割を探すのがアカデミックな態度であると信じています。仙腸関節はわずかな動きであっても制限されてしまうと腰痛などの症状の原因になると考えています。

しかし、触れることができない関節ですから検証がむずかしいのです。動くようになったら症状が軽くなるという仮説の上で鍼治療を行って成果を出しています。仙腸関節に鍼を届かせるのはむずかしいので、周辺や脊柱を介してアプローチしています。


仙腸関節は全身の関節のハブ(中継装置)


私は、仙腸関節を全身の関節のハブ(中継装置)のように考えています。とはいえ、やはり謎に包まれている仙腸関節ですから、そういう仮説のもとで施術をするしかありません。成果を出すことで妥当性を確認しています。

本当のところは何かわからないと諦めていたところ、その謎を唯一解いた男が日本にいました。少なくとも、これまで私が目にした説明の中でもっとも理に適っている理論です。その男は、仙腸関節の形状から「こう動いているに違いないだろう」というところまで、まるで連立方程式を解くような流れで説明するのです。

その男は、山梨県を拠点に施術と研究を行っている柔道整復師の吉岡一貴先生のことです。今年の7月、直接指導を受ける機会に恵まれました。

吉岡一貴先生の骨盤塾で骨盤を持つクリ助

その詳細を語る時期がいずれやってきます。ここでは簡単に紹介します。


仙腸関節が姿勢を決める


吉岡先生によると仙腸関節は姿勢に大きく関与しているとのことです。わずかな動きに役割があると考えています。私の見解と全く同じでした。

ただ、ここから先がすごかったのです。仙腸関節の形状が、機能的左右差(利き手、利き足)を作っているという、私の想像を超える理論を展開しています。

身体に潜んでいる左右差には意味があると考えているのです。むしろ、左右差があった方がエネルギー的にロスが少ないというのです。目からウロコが何度も落ちました。



仙腸関節が機能していないと、ジョジョ立ちはむずかしくなります。ですから、ジョジョ立ちから仙腸関節の健全な動きを読み取れるのです。


ジョジョ立ちを演出する骨盤内の大腰筋


まずはこの見事なジョジョ立ちご覧ください。ジョジョ立ちの多くに、この腰を突き出したようなポーズが多く見られます。

吉良吉影のジョジョ立ち
出典:Amazon

きれいなジョジョ立ちに欠かせないのは大腰筋です。大腰筋は、腰椎と股関節を結ぶように通っている長い筋肉です。

大腰筋

ジョジョ立ちがきれいなのは、上半身と下半身を結ぶきれいな曲線があるからです。

このポーズは腰を突き出しているというより、右脚を後方に伸ばしながら引いているのです。別のキャラクターでも同じ特徴が見られます。

ョジョ立ちに表れる特徴的なライン

脚を後方に伸ばしながら引くという動きに、大腰筋が腰の深いところで関わっています。

一般的に大腰筋は、股関節を曲げる作用があると説明されているのですが、正確ではないと考えています。脚を後方に引いたとき、その脚が前方に戻ろうとする力となっています。

引いた脚が元に戻る力です。その力をイメージするのは簡単です。ベッドの上で横向きに寝たときのことを想像してください。海老反りは続けられませんが、お腹を包み込むように丸まった姿勢は続けられますよね。

この大腰筋の柔軟性が低下して伸びなくなると脚を後方に引けなくなります。歩くときの歩幅が小さくなります。

そうなったときすぐに調整したいところですが、残念ながら大腰筋は表面から触れることができない深い位置にあるためマッサージができません。意識することも難しいのです。唯一意識できるのがジョジョ立ちかもしれません。半分冗談で半分まじめです。

この大腰筋は高齢者になると、柔軟性が低下してくるので年齢を重ねるほどジョジョ立ちが難しくなります。ジョジョ立ちに若々しさを感じるのは私たちが無意識に健全な大腰筋を感じているからなのです。


大腰筋に作用するツボ


この大腰筋は鍼で働きを回復させることができます。説明した通り深い位置にある筋肉なのでリスクが高いので、鍼で当てることに積極的になる必要はありません。

足のツボを利用します。その名も「大腰」です。古典的な経穴「太衝」に近い位置にあります。なぜ、大腰筋を調整するツボがこんなところにあるのでしょうか。私がこのツボの作用に気がついたのは、ジョジョ立ちで大腰筋のラインをきれいに作ろうとするとき、足の親指を意識して伸ばす必要があると気がついたからです。

ツボネット(大腰)


出典:ツボネット 

親指を意識しながら後方に引こうとすると、股関節が内旋して大腰筋が伸ばされます(腰椎の辺りに緊張が入る感じ)。逆に小指側を意識すると股関節は外旋して股関節の外側の中殿筋という筋肉に力が入ります。

歩行時は、足の親指の方が小指をよりも形状的に長いので自然に親指が後ろ引かれます。何も意識することなく大腰筋にテンションがかかるのです。その後、引かれた脚が自然に前に戻ってくるのは、伸びた大腰筋が縮もうとするからです。



このCGアニメーションでは、大腰筋と腸骨筋の連動を表しています。脚が後ろに引けたときに黄色く光っています。もっと緻密にCGをつくるなら、脚が後ろに引けたとき腰椎が前弯します。腰椎を弓のようにしならせるはたらきもあるのです。


ツボで動きを整える


このように動きの本質を考えると、ツボで調整できるようになります。筋肉と筋肉のつながりを解剖学として理解することは大切ですが、同時に力の流れを考える必要があります。力の流れが見えないと、使うツボが見えてきません。

かくいう私が常に見えるわけではありません。ジョジョ立ちを考察したように、日々の臨床の中で考えながら少しずつ目を養い知見を蓄えているにすぎません。

ツボにはまると、動きが見違えるように変わります。大腰によって大腰筋が整うと、歩幅が広がります。股関節の可動域が広がるのがわかります。スマホの万歩計機能で実際に歩数が変わったことを報告してくださった方も。

慢性的な腰痛や高齢者の腰痛において著効を示すこともあります。

こうした視点からツボを選ぶ鍼治療は、これからの鍼灸にとって必要なものだと考えています。一般的なイメージに寄り添って表現するなら鍼とツボで行う整体です。

こうしたコンセプトが鍼灸に普及していけば、「歪みは鍼で直らないから整体でポキポキしてもらっています」という方が減るはずです。

歪(ゆが)みを歪(いび)つな動きと定義するなら、鍼で歪みを直していくことができるのです。姿勢は動きの切り抜きですから、もちろん姿勢もよくなります。

鍼灸の世界において、こうした取り組みはは始まったばかりです。ツボと動きの関係の探求は鍼灸師でなければむずかしいでしょう。鍼灸と鍼灸師の可能性を広げるために「整動鍼」という呼び名を付け普及活動を行っています。


おまけ


ネオが弾丸を避けるシーン。若い人は知らないかな…。
マトリックス_ネオが弾丸を避けるアクション
出典:Netflix JAPAN

これは大腰筋がはたらいている動きではありません。
膝です。

yoki at 19:08│Comments(0) ツボ(経穴) | 技術論

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
月別アーカイブ
記事検索
全記事にコメント歓迎
これから読みたい本