2024年01月03日
運動連鎖の鍼灸理論(身体の連動とツボの関係)

鍼灸師には色々なタイプがいます。私はどういうタイプかというと運動連鎖に関心が強く、鍼灸師が使える理論の構築に使命感を抱いています。今回は、専門家向けの内容に偏りますが、専門知識を持たない人でもわかるように努めて書いてみます。
運動連鎖を研究する意義は何なのか、鍼灸にどんなメリットをもたらすのか、丁寧に説明します。読み終わった頃には鍼灸のイメージが大きく変わるかもしれません。パラダイムシフトを目指して今年もがんばっていきます。
さっそくなのですが、昨年の年末ににX(旧ツイッター)投稿したポストをご覧ください。
こういう深層の筋肉の連動も考えていたら理論が膨れていった整動鍼。深部に鍼をしなくても連動で肩こりを解消できる。この事実はまだほとんどの鍼灸師が知らないし、知った鍼灸師が次々とハマっていく。pic.twitter.com/iGoIucWctJ
— クリ助@鍼灸師 (@kuri_suke) December 31, 2023
肩こりは多層構造
このCGを見るとわかるように、肩の筋肉は多層構造になっています。肩こりを招く筋肉の代表格として僧帽筋を取り上げる場合が多いのですが、僧帽筋だけで説明できるほど肩こりが簡単なものでないことが一目瞭然です。むしろ、僧帽筋に覆われた深層の筋肉こそ肩こり解消の鍵を握っています。
鍼は深いところに刺激が届くということで、しつこい肩こりに対して「マッサージより鍼の方が…」と鍼のメリットを唱える人もいます。確かに皮下に鍼先を届けられるのは鍼だからこそで否定しようのないメリットです。ただ、際限なく深く刺入できるわけではありません。
深く効かせるワザ
患者さんと話をしていて、深い鍼ができる鍼灸師の方が腕があると勘違いされていると思う場面があります。安全に深刺しできることも技術の一面ですが、そう簡単ではないところが鍼治療です。
鍼治療は痛い部分に直接鍼をするばかりではありません。ツボを利用して、深部に効果を届けることも鍼治療です。そうした知恵を集結したものがツボ理論があります。もっとも有名なものが経絡(けいらく)という学説です。
この学説は、たとえば手にあるツボを使って腸の働きを整えたりと刺鍼点とは離れたところに効果が及ぶことを説明するのに便利です。古典的な理論はこの経絡一択と言ってよいほど影響力を持っています。私たち鍼灸師は必ず学校で経絡学説を習っています。
鍼灸が発展してきたのは、紛れもなく経絡学説のおかげです。鍼治療は物理療法でありながら、物理療法を超えた方法であると言えます。
ここで伝えたいのは、ツボの遠隔作用を使えば深部の筋肉に効果を届けることができるということです。この作用を最大限に利用することが鍼灸師の面白さだと考えています。安全に深部に効果を届けることができます。もともと鍼灸の鍼は注射と比較すれば驚くほど細いのですが、浅めの刺鍼で済むならなおさら安全です。
経絡の限界
ただ、そう簡単にはいかないのです。なぜなら、経絡学説は筋肉を対象としたものではなく、内蔵を対象とした理論だからです。頚や背中の細かな筋肉に効果を届けようと思っても、経絡は筋肉に対して緻密ではありません。今風に言えば、筋肉に対しては解像度が粗すぎるのです。
経絡学説には欠陥があると言いたいのではありません。そもそも、経絡は筋肉系の学説ではなく、内臓系の学説なのです。ですから、関節や筋肉を得意とする鍼灸師の多くが経絡学説よりも解剖学を拠り所にしています。患部の筋肉や周辺の神経の走行を考えながら刺鍼点を決めています。
私の立場からも経絡は絶対的な学説とは言えません。鍼灸理論の発展を願うなら、経絡を尊重しつつその限界を探る姿勢が大切だと考えています。
運動連鎖を利用して筋肉と関節を整える
前置きが話が長くなってしまいましたが、鍼の最大のメリットは深部にある患部を直接刺激できることでなく、ツボの効果を利用して深い部分に作用を届けられることにあると考えています。頚や肩の深い筋肉に対しても、手や足など離れたところにあるツボからアプローチできます。
とはいえ、言うは易し行うは難しです。筋肉や関節を調整するための理論がないからです。ターゲットになる筋肉に作用するツボがどれになるのか、それを示す地図がありません。内蔵とツボの関係を示したのが2000年以上前に記されていた前述の経絡ですが、その後、筋肉とツボの関係を示した精微なものは出ていないのです。
そこで着手することにしたのです。それがおおよそ12年前です。その基本となる考えは連動です。この筋肉がはたらいているときは、どの筋肉が一緒にはたらくのだろうと考えていきます。細かなことを言えば、筋肉単位ではなくもっと細かな単位で調べていきます。
背中の筋肉に鍼をすると、頚の筋肉が柔らかくなるなどの変化が起こるのですが、その変化はピンポイントで出現します。その変化には規則性があって、その規則性を追っていくと、頚椎の◯番に出ている問題なら胸椎の◯番で調整できるといった具合に対照表をつくれます。
膨大な検証
この調査は時間もかかるし手間もかかります。孤独な作業です。その孤独を解消するために、成果を発表するセミナーを行うことにしました。私自身が何度も検証して再現できるものをセミナーで全国の鍼灸師と共有しました。私だけができるのと誰でもできるのでは意味も価値もまったく異なります。
誰でも再現可能という普遍性が評価され、続編を希望する声が高まりセミナーはシリーズ化していきました。それが整動鍼です。ありそうでなかったツボと動きの関係を解いた理論なのです。この理論を手にすることで、運動器疾患に対する手が広がります。
一見すると関係のないところに鍼をすると、肘や膝がよく曲がるようになったりするので患者さんが驚きます。動きがよくなると痛みも同時に軽減します。関節や筋肉の調和が取れて、筋肉や関節に余計な負荷がかからなくなるからです。
整動鍼の症例3000以上を無料公開
実際に出ている成果を示したのが「ツボネット」です。こちらのサイトには3000症例以上がアップロードされています。どんな症状に対してどんなツボを使ったのかわかります。
すぐにお気づきになると思いますが、症例は筋肉や関節の問題ばかりではありません。胃腸やメンタルのトラブルなども多数あります。筋肉や関節の状態は内臓の調子と深い関わりがあるため、整動鍼で胃腸やメンタルの調整もできます。

他にも、突発性難聴など顎関節の影響を受けやすい耳の症状なども整動鍼の守備範囲になってきます。筋肉や関節の状態は深く内臓と関わっているためです。これこそまさに経絡学説が示す鍼灸の効果です。つまり、整動鍼は従来の鍼灸の効果はそのまま活かしながら、動きとツボという新しい関係に挑戦し適応範囲を大きく広げることに成功したのです。
鍼だからできる緻密な調整
頚こりや肩こりも、結局は他の筋肉との調和が乱れてしまった結果です。腰との調和が乱れていたら腰にあるツボが決め手になります。腕との調和が乱れていたら腕にあるツボが決め手になります。
ポストの動画でご覧頂いたように、頚や肩の筋肉は何層にもなっていて緻密にはたらいています。この緻密さに対応するような緻密な連動が隠れています。こうした連動を理解すればするほど、緻密な調整ができるようになります。この緻密な調整は鍼だからこそ可能です。
「運動連鎖」という言葉からイメージするより、かなり細かいと思います。
学び始めると止まらない
同業の鍼灸師から「難しそう」と言われることもあります。1日でマスターできるほど簡単なものではありませんが、マスターしてしまえば難しい症状に対応できるようになります。テーマに分けてカリキュラムを用意しているので、段階的に連動を扱えるようになっていきます。
臨床で使ってみると面白くなって止まりません。
現在でも理論は発展していますが、カリキュラムが膨れすぎないように10編できたところでストップをかけました。流れに身をまかせて鍼灸師向けのセミナーをやってきましたが、これからのことを考えると、連動を緻密に調整できるからこその効果をもっとアピールしていくことが大切だと思っています。どうしたらアピールできるのかと考えたとき、やはり独自の効果があることを示していかなければならないと思うのです。
年末にも触れたのですが、理論と技術を具体的なサービスに昇華できるように努めていきます。もちろん従来の施術もやっていきますのでご安心ください。
最後になりますが、
整動鍼を学んでみたいと思った鍼灸師の方は、1月28日(日)の刺鍼即応編が手頃なので、ぜひご検討ください。残りわずかですのでお急ぎください。鍼灸の全く違う世界を案内します。
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こちらもよろしくお願いします。
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