2024年01月22日

鍼灸の疲労回復効果

疲労回復力を高める


鍼灸師をやっていると、鍼灸の疲労回復効果がすさまじいと感じます。鍼灸は「自然回復力を高める」と表現されることもありますが、私個人の感覚では「疲労回復力を高める」の方がしっくりきます。

鍼灸の効果というものは疲労回復に集約されるのではないかと言ったら言い過ぎかもしれませんが、そう考えた方がすんなと現代社会のニーズの中に溶け込める気がするのです。

どういうことかと言うと、病気と鍼灸の関係で語ろうとすると制約が多いのですが、疲労回復と鍼灸の関係で語る場合、大きな制約がありません。このあたりを整理しながら、疲労回復において鍼灸が果たす役割について書いてみます。

疲労


医学の舞台から降ろされた鍼灸


もともと鍼灸は医学として始まっています。「病気を治したい」という願望や「長生きしたい」という欲望が元になって生まれています。鍼灸は2000年以上の歴史がありますが、古典に書いてあるのは主にこの2つです。

歴史的には医学であった鍼灸は、江戸時代が終わる頃から医学の中心から外れ、明治になる頃には舞台から降ろされてしまいました。昨今、鍼灸が見直されているとはいえ、免許制度のない整体と同じ「医業類似行為」に分類されることもあります。

鳥獣戯画

脳科学が拓く? 新しい鍼灸の舞台


個人的には、鍼灸が最先端医学として脚光を浴びる日が来ると信じているのですが、もう少し時間がかかるでしょう。。そういう時代がやってくるとしたら脳科学の分野から鍼灸が評価されるときだと思います。これまでの鍼灸の研究は、鍼を指した局所で起こる生理的な変化を追ってきたわけですが、鍼灸の本質は刺鍼した局所ではなく、身体全体を統合している脳の機能変化にあると思います。

足のツボに鍼をして、便秘や下痢が改善することを、刺鍼した局所の効果から説明するのはむずかしいです。それより「嫌なことが迫ってくると下痢をする」という反応に近いと考えています。

「鍼灸なんてプラセボでしょ」と揶揄する人もいますが、実は時代を先取りした称賛とも言えます。鍼灸ほどプラセボを上手に引き出せる方法はないかもしれません。この時代、プラセボをまやかしとして扱うのではなく、むしろ積極的に利用すべきだと考える時代です。

脳が証明する効果

なぜ自然治癒力ではなく疲労回復力なのか


自然治癒力を否定したいわけではなく、実感しやすいのはどっちだろうと考えたら疲労回復力の方ではないかと思うのです。それは鍼灸の現場でよく感じます。鍼を受けている最中に眠くなってしまう患者さんが本当に多いのです。鍼を刺したまま10分程度、施術用ベッドに横になっていただくことがありますが、眠ってしまう患者さんは珍しくありません。たった数分の睡眠なのに、1時間ほど寝ていたように感じる方もいらっしゃいます。

寝ることが、肉体的にも精神的にも疲労回復を促すことは説明するまでもありません。病気や怪我の回復も疲労回復が基礎になります。疲れきった状態のまま病気や怪我が速やかに治ることはありません。

厳密に言えば、しっかり疲労回復を定義する必要がありますが、話が複雑になるといけないので、あえて入り込むことはしません。雑な表現であることを承知でいえば、鍼または灸の施術を受けて病気や怪我が治っていくのは、体内に蓄積していた疲労が軽減するからと考えることができます。


疲労ポイントを探す


こうした前提に立てば、上手な鍼灸師は疲労ポイントを見つけられるのが上手いと言えるわけです。たとえば、身体に感じるコリも疲労感の一種と言えますし、そういう具体的な疲労の証拠を触れながらつかんでいくわけです。

疲れは自覚できているとは限りません。自覚のない疲れを見つけて軽減させるのが我々鍼灸師の仕事ということもできます。

発見

疲労回復と睡眠


鍼灸を受けると眠くなることからも、単純に睡眠の質が高まっていると想像できます。その睡眠の質とはなんだろうと考えたとき、その定義をするのは専門家でも難しいようです。

快眠の定義を生理学的な条件で考えると次のようになるそうです。

/臾加罎犯獣任任る脳波がでていること
▲好董璽N3と言われるレム睡眠がしっかりでていること
C翕啌仞辰ないこと

ただ、実際の「よく眠れた」という感覚とは一致しないこともあるそうで、一筋縄ではいかないのが睡眠。まだまだわかっていないことが多いようです。なんだか鍼灸とよく似ています。「効果の高い鍼灸」も定義がむずかしいのです。

質の高い睡眠ほど、疲労状態から回復させてくれることは明らかですから、鍼灸が質の高い睡眠を促すことが証明できたら、鍼灸の疲労回復効果も示せます。

疲労回復

睡眠と脳波


睡眠を改善させる技術が「スリープテック」と言われています。スマートウォッチなどで睡眠の状態を計測できるようになってきました。私もスマートフォンのアプリで自分の睡眠状態を調べてみたことがあります。ただ、その多くは睡眠の状態を推測しているだけで、きちんと調べようと思ったら睡眠中の脳波を調べなければならないそうです。

そこで、自宅で睡眠中の脳波を計測するプロジェクトを私が運営する団体(整動協会)で立ち上げました。睡眠中の脳波を鍼をする前と後で比較します。40症例を集める準備がすでに整っています。

睡眠と脳波

睡眠のツボ


「不眠症に効くツボはどこですか?」

いろいろな人から聞かれそうです。眠れない原因が一つであれば、どこか特定のツボが不眠症のツボになりますが、そんなことはありません。

「夜中に腰が痛くて目が覚めてしまう」という人であれば、腰の痛みを取ることが快眠への第一歩となるでしょうし、「耳鳴りが気になって眠れない」という人であれば、耳鳴りを取ることが第一歩になるでしょう。

人それぞれ眠りを誘うツボが違います。とはいえ、ある程度のパターンに収めることも可能だと思っています。そこで私が提唱しているのは「身体の置き場」という考え方です。

壺


睡眠と姿勢


たとえば、眠れないときほど枕が気になると思います。本当に眠いときはどんな枕でも眠れてしまいます。もちろん、枕が自分に合っているかどうかは大切ですが、身体が寝具に溶け込みやすい状態であるかが眠りの質を左右すると考えています。

こうして考えると、寝やすい姿勢を取れることが快眠の条件になります。姿勢は起きているときだけの話ではなく、寝ているときも大切です。

真っ直ぐな姿勢がよいという話は、姿勢の良し悪しを語る一つの側面でしかなく、本来は状況や環境に適応できている姿勢がよい姿勢であり、色々な姿勢を取れることが健康的です。

具体的な話をすると、寝やすい姿勢の基本になるのが、頭の置き場です。頚部の可動性に問題がなければ頭の置き場にも自由度がありますが、頚が動かないと頭の置き場が見つからず、合う枕も見つかりません。

頚の柔らかさを取り戻すことが、快眠への入り口になります。もちろん全員に当てはまるわけではありませんが、感覚的には9割の人には当てはまります。

頚の筋肉を柔らかくするツボが、結果的に不眠症に効くツボになります。

このような考え方を基にすれば、他にも肩関節や腰部の周辺を柔らかくするツボが、結果的に不眠症に効くツボになります。具体的なツボの話は専門的になりすぎるので、またの機会にしようと思います。

結論として、睡眠の質を高めて疲労回復を促すことは、どんな症状においても有効です。逆に言えば、睡眠の質を高めることができなければ、鍼灸の本来のポテンシャルを活かしきれないでしょう。

寝相

睡眠と呼吸


最後に呼吸について書きます。呼吸の状態は睡眠時も大切です。世の中には様々な呼吸法がありますが、睡眠中は呼吸をコントロールできませんので、身体のコンディションがそのまま出る時間です。

この呼吸においても鍼灸が有効です。呼吸に関わる筋肉や関節を整えると深い呼吸に導けます。これも色々な観点があるのですが、特に重視しているのが鎖骨です。息を吸ったり吐いたりするとき、鎖骨に触れてみると動いているのがわかります。

鎖骨の周りに鍼や灸をしたら鎖骨の動きがよくなるのかといえば、そんなに単純ではありません。鎖骨と連結している肩甲骨も考慮しなければなりませんし、頭蓋骨につながっていく胸鎖乳突筋も重要です。

寝息


やわらみ


このように、姿勢と呼吸は睡眠と密接に関わっています。この3つの視点から身体を整えることができると、病気や怪我が治りやすい条件が整います。どんな症状に対しても使える基本の考え方です。東洋医学の考え方とも、現代医学的な考えとも矛盾はしません。

姿勢、呼吸、睡眠が整った状態の身体を私は「やわらみ(柔身)」と表現しています。どんな症状であってもやわらみの方向を目指して調整をします。

私は整動鍼というコンセプトの理論と実践を提唱して、同業の鍼灸師の方々に伝えていますが、調整のベースとなる考え方はこのやわらみです。

この考え方と実践方法を一つのパッケージにして、新しいセミナーをつくってみました。すでに整動鍼を始められている方にとっては「腹背編」「身心和合編」「経絡原糸編」などで伝えている内容を初学者向けにわかりやすく噛み砕いたものとなります。整動鍼の入門版として提供することにしました。

学生や鍼灸師3年目くらいまでの方にとっては、わかりやすく使いやすい内容です。経絡も気も使いませんし、特別な手技も使いません。呼吸と姿勢に関わる重要ポイントを理解して正確な位置に鍼をするだけです。誰でも再現できる方法です。

呼吸、睡眠、姿勢

海外✕鍼灸


このやわらみは、これから海外で鍼灸をしたり、日本で外国人を相手に鍼灸をしたい鍼灸師に積極的に使ってもらいたいと思っています。英語教師の宮口一誠先生と「AcuEigo(アキュエイゴ)」というパッケージをつくってみました。詳しくはこちらをご覧ください。

AcuEigo

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yoki at 20:23│Comments(0) 鍼灸 | 技術論

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