2024年04月15日

鍼灸師が理解しておくべきコミュニケーションの基礎の基礎

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鍼灸師はコミュニケーションが極めて重要です。異論がある人はすくないのではないでしょうか。患者さんもしっかり話を聞いてくれる鍼灸師の方が安心できると思います。こうしたコミュニケーションの重要性は鍼灸師側もかなり意識していますし、話題になることが多いです。

ただ気になる傾向があって、コミュニケーションが話題になるのは経営が話題になっているときが多いのです。売上を伸ばすためにはコミュニケーション能力を高めましょう、という流れです。

「技術だけではだめです。コミュニケーションも大事ですよ」

こんな台詞、鍼灸師ならどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。

現実としてコミュニケーション能力が高い人の方が売り上げているのかもしれませんし、SNSで目立つ鍼灸師もコミュニケーション能力が高いように見えます。

私はこういう話題を目にすると胸がざわざわします。どちらの言い方も、技術とは別にコミュニケーションがあるように聞こえます。

技術の中にコミュニケーションがあると考えた方がよいです。技術と切り離したコミュニケーション術は、鍼灸師が養うべきものとは違うように思います。

技術に勝るマーケティングはない


確かな技術は人を集める力があります。一人で鍼灸院を経営する小規模事業を想定した場合、確かな技術力に勝るマーケティングはないと思います。

コミュニケーションが技術力の幹であると考えています。その幹が太ければ太いほど、学んだ知識や、修練した技を活かしやすいのです。こうして考えれば、コミュニケーション能力が高い人に患者さんが集まることが自然に理解できます。

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ただし、私がここで言っているコミュニケーションとは雑談力や説明力、そして傾聴力のことではありません。では、ここからコミュニケーションを整理して、どのように取り組んでいけばよいのか考えていきましょう。

技術の幹となり得るコミュニケーションには、言語系と非言語系があります。それぞれについて詳しく説明します。ここから臨床がすごく楽になる考え方を書きますので、現場で悩んでいる鍼灸師がいましたら参考にしてください。そうでない方も頭がスッキリするはずです。ぜひ、最後までお付き合いください。


コミュニケーションの目的


幹の説明をする前に、コミュニケーションの目的をはっきりさせておいた方がよいでしょう。正解をひとつに決めることはできませんが、私の意見としては「安心感をつくること」だけを考えておけばよいと思います。

はじめての患者さんが鍼灸院にやってきて、一番最初に欲しいものってなんでしょう。もし私が患者ならダントツで安心感です。鍼灸師のすべらない話とか求めていないわけです。だから、コミュニケーションの目的を、安心感に全フリしてしまえというのが私の方針です。

「すべては安心感のために」

ということです。どういう情報のやりとりが安心感をもたらすのだろう、常に考えながら行動することです。これが正解とは言えませんが、これを目的と決めたなら、すべての言動がこの目的と合致するようにします。少なくとも矛盾しないようにします。

そして作り出された安心感が施術の土俵になります。上手なコミュニケーションは、施術の土俵として機能する安心感を生み出してくれます。では、ここから具体的に言語系と非言語系に分けてコミュニケーションの幹を考えていきましょう。


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言語系コミュニケーションの幹


相手が何を言っているか以前に、相手の声からいろいろ感じとります。同じ言葉を発しても、励ましになることもあれば嫌味になることもあります。「それはすごいですね」で試してみてください。たとえばこんな感じに。

「そりゃ、スゴいっスね〜!」

「そ、れ、は、すごいですねぇ」

演技力のある人ならなおさら言いわけられると思います。


ところで『はぁって言うゲーム』をご存知でしょうか。

今言った「はぁ」は、怒ってる「はぁ」? とぼけてる「はぁ」? それとも、感心してる「はぁ」?
与えられたお題を、声と表情だけで演じて当て合うカードゲーム!

各プレイヤーは共通の台詞を与えられたシチュエーションで演じ、他のプレイヤーはそれぞれ何を演じているかを当てます。身振り手振りは禁止、声と表情だけで表現しましょう。大盛り上がりのコミュニケーションゲームです。 


内容一式(軽)
オフィシャルサイトより)

声の出し方を表情でどんな意味なのか当てるゲームです。社内研修の晩に遊ぶ定番のゲームになっています。このゲームは、まさにコミュニケーションの本質をついています。何を言うかではなく、どう言うかがコミュニケーションなんだと笑いながら学べます。

やってみるとわかるのですが、演じるのは恥ずかしいものです。言葉に感情を乗せるからです。逆の言い方をすれば、感情を抜いた言葉は恥ずかしくないのです。

人は恥じらいを隠すために平常は無感情を演じているのです。ですから、平常のまま患者さんと接してしまうと「何を考えているのかわからない怖い人」になってしまいます。対人において普通にしていることは「得体の知れない怖い人」を演じてしまっているのです。

ですから、患者さんを普通に迎えてしまうと相手は怖いのです。安心感のためには「あなたを歓迎しています」という感情をしっかり乗せた「こんにちは」が必要です。対面だけでなく電話でも同じです。

このとき、「あなたを歓迎しています」という本物の感情がなければ、わざとらしく見抜かれてしまいますので、実際に感情をつくることが必要です。

私自身、このスイッチを入れるために、「今日も大好きな鍼灸師をしていられるのはあなたのおかげです。両親に反対され諦めなければならなかった時期、仕事がなくて食えない時期もあった。でも今は毎日のように必要とされて幸せ」という感情を一瞬にして引き出せるようにしてあります。

みんなそれぞれ感情の引き出し方があると思いますので、私の例を参考にして探してみてください。

ということで、言語系のコミュニケーションの幹は感情です。

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非言語系コミュニケーションの幹


これから説明する非言語系コミュニケーションの幹も感情です。感情は表情に出ます。先ほどと同じ理由で平時の顔は「得体の知れない怖い人」です。表情や視線も言葉を交わす際に意識されるので言語系に入ると思います。

ここから観点を変えていきます。

トイレをきれいにしているかどうか、トイレをきれいにつかってもらえているかも非言語系のコミュニケーションだと言えます。清潔なトイレを使ってほしいという感情が患者さんに届き、きれいに使ってもらえると、私たちも大切にされていると感じます。これって十分すぎるコミュニケーションですよね。

部屋の温度や照明の明るさも情報です。こうしたものを一言で表すなら配慮です。清潔感が大切というのも、こうして考えるとコミュニケーションの重要な一部だからです。

ということで、非言語系コミュニケーションの幹は配慮です。

ここまでの話をまとめると、感情が乗っていない言葉をいくら並べたとしても、配慮に欠けた状況でいくら説明したとしても、相手には伝わりません。私自身も改善の余地がたくさんあります。人のことを言う前に改めるべきところはたくさんあります。


施術における言語系と非言語系


ここまでの言語系と非言語系を踏まえた上で、施術中のコミュニケーションを言語系と非言語系で考えてみます。鍼灸師ならではのコミュニケーションを展開できるかどうかが分かれ道になります。

ここまで読んでいただいた方はお分かりだと思いますが、施術に上手なトークなんて必要ありません。ニュースやSNSでネタとなる情報を集める必要もありません。施術におけるコミュニケーションの本質さえおさえてしまえばよいのです。

軸になるのが触診です。

臨床で苦戦する鍼灸師に見られるのが、触診を「患者さんの体から情報を得る行為」と捉えていることです。皮膚や筋肉に触れて状態を探っているとき、相手も探られていることを感じています。つまり、触診というのは情報を得る行為でありながら「どんなふうに触れているのか」という情報を与える行為です。

頭で理解しても強く意識しておかないと、触れた瞬間に医学知識を照合する作業に没頭してしまうのです。自然にできるようになるには練習と時間が必要です。

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触診をコミュニケーション化できるのは鍼灸師の特徴です。言ってしまえば、触診によるコミュニケーションこそ鍼灸の核心ではないでしょうか。このように、触診はコミュニケーションであると再設定すると、さまざまな課題が浮かび上がってきます。

鍼灸師は施術中に多くの言葉を発する必要がないこともわかってきます。「目は口ほどに物を言う」という言葉がありますが、手は口ほどに物を言うのです。それは、鍼灸院において患者さんが求めている会話の形だと思います。少なくとも、私はそういう鍼灸院で十分と考えて経営しています。


しゃべらなくてもいい


私たち鍼灸師は、学生の頃から患者さんとの会話が大切であると習います。そういう話をしてくれる先生はたいてい話が上手ですから、後進にも同じように会話を磨いてほしいと考えるのは自然です。

でも、あえて言います。話し上手になる必要はありませんし、トークを磨く必要もありません。無理してしゃべらなくてもよいのです。

施術に必要なことだけ端的に伝えるだけで十分です。世間話はしなくてもよいです。新人が疲れるのは施術そのものではなく、会話をしなければというプレッシャーからだったりするのです。

触診をするときは、確認の意味で「ココとココを比べたらどうでしょうか?」などという言葉がけが必要です。ネタを用意して話すわけではないので、ハードルはとても低いです。

触診に伴う会話にも上手下手は生まれます。とはいえ、クリエイティブな発想が必要ではなく、もともと用意してある言葉をタイミングよく発するだけですから、ルールさえ守れば大きな差になることはありません。


説明をがんばってもリピートしない


私たち鍼灸師の間で共有されることがある「2回目の予約がないんです…」という悩み。こういうとき、技術が足りないのか、説明が足りないのか、という思考に陥りやすいです。どっちも違うと思います。「不足」が招いているのではないと思います。

基本的に患者さんは話を聞きに来ているわけではないので、施術者がしゃべるほど違うものを提供されているような気分になります。

「しゃべってよいのは患者さんだけ。私たちは必要なこと以外はしゃべってはならない」

これくらいに思っておいた方がよいです。

極端に思えるかもしれませんが、しゃべりが上手でなければいけないという思い込みをぶち壊すにはこれくらいでちょうどよいです。

患者さんとの間で必要なコミュニケーションは「おしゃべり」の中にはありません。むしろ、施術中は余計なことを言わないことに細心の注意を払うべきです。ついつい、自分がしゃべりたいことをしゃべってしまうものです。

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患者さんを迷わせないための言葉


患者さんは常に迷っています。藁にもすがる思いでやってくる人が多いです。「本当に鍼灸で治るのだろうか」「私と同じような人は通っているのだろうか」「何回くらいで治るのだろうか」「鍼は痛くないだろうか」、こんなふうに患者さんはいつも迷いの中です。

私は、どうしたら患者さんが迷わないだろうか、という視点から言葉を選ぶようにしています。施術中だけではありません。はじめての方がやってきたときは、まずどこに行けばよいのか、何をすればよいのか、何をされるのかわかりません。その迷いの時間が短くなるように心がけています。

キョロキョロされる前に「そちらにおかけください」と言いますし、座ってから「どうするんだろう?」と思った瞬間には「こちらの問診票に記入をお願いできますか」と声をかけられるようにします。

もちろん、こんなことは当たり前と言えば当たり前ですが、受付担当がトイレに行っていているときや、電話中に新規の方がお見えになったときなど、イレギュラーな場面は必ずありますから、普段から準備しておかないと的確な言葉は出てきません。

施術のときも、患者さんは迷っています。鍼をされたところが痛い気がするけど我慢した方がいいのか言った方がいいのか、わかりません。痛いとしても、問題のない痛みで10秒だけとわかっていたら我慢できるかもしれません。

あまり痛くなくても、それがいつまで続くのかわからなければ不安になって我慢できないかもしれません。
痛くない方が患者さんが安心するとは限らないわけで、どういう意味を持つのかわからないことが嫌われるのです。

患者さんは、鍼をされたときの違和感が気になっているのに、ツボの効果の話をされたら、その説明がいくら正しく有益な情報だとしても、二度目は遠慮したくなるでしょう。

このように考えているので、私は「患者さんを迷わせないように」というルールから出てくる言葉を最優先にしています。

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マッサージが上手だと触診も上手なのか


鍼灸師の間でも答えは真っ二つに分かれているので、ここには私の意見を書きます。私は、マッサージが上手だからといって鍼の触診が上手とは言えないと考えています。

人の体に触れたことがない人よりも、マッサージ経験がある人の方が触れることに慣れているというのはあります。また、マッサージを受ける人が気持ちよく感じているか、相手から好まれるような圧やリズムを意識しているので、それも好印象になると思います。

私は鍼灸師向けの勉強会を10年以上も続けていますが、その経験から確かだと思うことがあります。普段から業務でマッサージしている鍼灸師は、触診のときに揉むような動きが入りやすくなります。この無意識の動きがツボを探すときに邪魔になってしまうことがあります。

鍼灸における触診とは、刺鍼をする前のシミュレーションでもあります。刺した鍼は内部で自発的に動くことはありません。指でモゾモゾするように鍼が動くことは絶対にないわけです。触診と事前の触診は、同質なものでなければなりません。これが私の意見です。

鍼には鍼の手の使い方があります。ただ、それを教えてくれる先生は少なく「鍼が上手くなりたかったら、とにかく揉め」とアドバイスされてしまいます。いろいろな考え方があるので間違いとは言い切れませんが、私は、鍼灸師は鍼灸に特化した手の使い方を追求した方が近道だと思います。マッサージの練習をしていれば鍼が勝手に上手くなるというのは本当に幻想です。

具体的なところは動画でなければお伝えするのが難しいので、ここではここまでにしておきます。



コミュニケーションが苦手なのは勘違い


会話が苦手な鍼灸師もいます。「なんで鍼灸師になったんだよ?」と言わないでください。困っている人の助けになりたいと知識を蓄えながら、技術を磨いているのです。実際、すごく真面目で優しくて気遣いもできるのに、人気のない鍼灸師がいたりします。原因はちょっとコミュニケーションが残念なだけです。

何を隠そう、私自身が会話が苦手なタイプです。鍼灸師だから患者さんと会話ができるだけです。言ってみれば、鍼灸師という立場とスキルを使ってコミュニケーションができるように振る舞っているだけです。

たとえば、患者さんの背中側に立てば、患者さんと目を合わせずに会話ができます。頚や肩を触診しながら話をすれば自然です。美容師さんと似ていますが、正面に鏡がないので目が合うことがありません。患者さんが目を合わせられないシャイな人なら、私の方から背中に回って触診しながら話を続けるなんてこともあります。

また、この記事に書いてきたように会話上手を目指す必要はありません。施術に必要な意思疎通ができればよいのですから。ここでもう一つ大事な概念をお伝えすると心理的安全性です。患者さんが抱く「ここなら安心」という感覚であったり、鍼灸師の心の余裕のことです。

余裕というのは心の強さではなく設定で変わります。幅50cmの板の上は普通に歩けるのに、100mの高さに渡された幅50cmの板の上を汗一つかかず歩ける人はほとんどいません。幅50cmと条件は同じでも、設置してある場所が違うという設定を変えるだけで、できることが突然できなくなります。

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コミュニケーションも同じです。苦手意識がある人は設定が適切ではないのです。だから、設定を変えたらコミュニケーションが突然上手くなります。

こうした設定を学べる機会を作りました。最後の告知をさせてください。コミュニケーションのセミナーに参加することに抵抗がある人には特におすすめです。

詳しくはこちらをご覧ください。
特別セミナー『鍼灸師のコミュ力の高め方

日時:6月30日(日) 東京/御茶ノ水
講師:松浦哲也、栗原誠

鍼灸師のコミュニケーション能力を高める方法


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yoki at 23:19│Comments(0) 技術論 | セミナー

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