2024年10月14日

鍼灸師をやめるという選択

鍼灸師をやめるという選択

鍼灸師の悲劇


こんにちは。氷河期世代の鍼灸師、クリ助です。悲劇というのはそこではなくて鍼灸師という名称がそもそも悲劇を生んでいるという話です。

いったいどういうことか、ほとんどの人が心当たりがないと思いますのできちんと説明します。鍼灸師の人も、鍼灸師でない人も耳を傾けてほしいです。

鍼灸師をやっているといろいろな人から言われます。「鍼灸って何に効くの?」と。すでに受けている方であっても、完全に理解していないと思います。実は鍼灸師の私たちでさえ全貌がわからないのです。

そう考えると美容鍼は革命的です。今では当たり前となっている美容鍼ですが、少し前まで顔のケアに鍼を使う鍼灸師はほとんどいませんでした。Googleのトレンドを調べてみると、美容鍼という言葉が認知され始めたのは2006年です。まだ20年経っていません。

私が開業した頃(2003年)は誰も美容鍼という用語を使っていませんでした。ある時現れて瞬く間に広がっていったのです。なんとなく生まれたものではなく、この分野を開拓するために仕掛けた鍼灸師がいるのです。美容鍼という用語が広まると同時に「私が最初です」という鍼灸師が次々と現れ、あっという間に春秋戦国時代に突入していきました。未だに統一されていません。



あの先生は、なぜ商標を取らなかったのかと後悔しているのか、それとも申請したけれど蹴られてしまったのか、想像を巡らせるのだけで精一杯です。いずれにしても、美容鍼が一気に普及したのは「美容鍼」という呼称が大きく関わっていたと考えるわけです。


鍼灸は道具の名称


鍼灸は道具の名称でしかありません。整備士をスパナ師というようなものです。

美容鍼は、この短い言葉の中に「美容に鍼はいいんだね」というメッセージが含まれるのです。きれいになりたい人が目をとめる理由ができているのです。

「鍼灸」という文字から頭に浮かぶのは痛そうな鍼と熱そうな灸です。ネガティブなイメージばかりで、ベネフィットが伝わりませんせ。つまり、鍼灸師という肩書が相手に与える情報は「痛い鍼と熱い灸をする人」なわけです。

「そんなことはないです。ちゃんと興味を持ってもらえます。」と言われてしまうかもしれませんが、それはどこかでちゃんとベネフィットの情報を得ている人です。NHKで特集番組が組まれたあと、問い合わせが増えるのは(うちは増えませんが…)、ベネフィットを視聴者に伝えているからです。だんだんと鍼灸の効果が知られるようになり、この20年で状況は大きく変わってきました。

私が駆け出しの頃は、通院して症状が大幅に改善しているにも関わらず、医師から「鍼灸を受けるのをやめなさい」と言われて通院をやめてしまう人もいました。鍼灸は、まじないやオカルト的なものと認識されていたのだと思います。鍼灸師が国家資格であることを医師が知らない時代が長く続いていました。

最近では医師が鍼灸院に通院しますし、医師の紹介で患者さんがやってくることもあります。鍼の技術セミナーに医師が参加されたりと、本当に時代は変わりました。

改めて言いますが、鍼灸は道具の名称でしかありません。鍼灸師も使う道具を言っているだけの名称です。「こいつら何モンだ?アヤシイぞ」となるのは当然です。だから鍼灸師という呼称が嫌いなのです。でも、そう名乗るしかないのです。


鍼灸師のスキル


鍼灸師という呼称は、効果が伝わらないという他に、スキルに対しても大きな誤解を生んでいまいます。たとえば、「上手い鍼灸師は太い鍼を短時間でたくさん刺せる」というように、施術のボリュームが評価対象になってしまうのです。

私個人としては、鍼灸師の本質は「ツボの専門家」と思っていますから、いかにツボの効果を引き出せるかが鍼灸師の腕の差だと思っています。ですから、細くて柔らかい鍼を必要なところだけに絞り込んで行うことの方が重要です。

SNSで鍼灸師でもない人がツボの専門家を名乗って、根拠がどこにあるのかわからない情報(〇〇のツボは〇〇)を発信してバズっているのを見ると複雑な気持ちになります。


商業的な鍼灸


商業的というとイメージが悪いかもしれませんが、現実として患者さんが受けられるのはほぼ商業的な鍼灸です。商業的に成り立っている鍼灸院しか存在していませんから。

鍼灸師は国家免許が必要な医療系職業であるにも関わらず、医療制度から距離を置かれています。キレイゴトを並べても資本主義の海の中で泳げなければ溺れてしまいます。商業的な思考がなければ鍼灸院を経営できません。

だいぶ前ですが「あなたのブログも結局は商売が目的でしょ」と揶揄するようなコメントをいただいたことを思い出しました。揶揄されたところで全くその通りなので、

「はい、商売で書いています」

と返答するだけです。

このブログも仕事として書いています。原稿料をもらえるわけではないので、この記事がいつのタイミングで収入になるかわかりません。確かなのは「ブログを読みました」という人と数え切れないほど出会ってきたことです。ブログは出会いをもたらしてくれるのです。患者さんになったり、セミナーの受講者になったり、ビジネスパートナーになったり、いろいろです。

私が何者であるかを発信するツールがブログです。「鍼灸師」という肩書きでは伝わらないから、自分の説明をしています。SNSや動画が主流の時代になりましたが、やっぱり私にはブログが性に合っているようです。じっくり考えて時間をかけて書く。時間が経ってもあせない内容を心がけています。


鍼灸師をやめて成功する人


整体師と聞いてどういうイメージを持つでしょうか。考えるまでもなく「身体を整える専門家」ですよね。羨ましくて仕方ありません。免許を取るために学校に通う必要もなく国家試験を受けることもなく「身体を整える専門家」の称号を手に入れることができるからです。

私のところで症状が軽くなった人にこんなふうに言われたことがあります。「あとは整体に行って根本から治してもらった方がいいですよね」と。「どうしてですか?」と返すと、「鍼灸は痛みを一時的にごまかしているだけなので、根本的に治すには整体に行った方がいいいんですよね?」と戻ってきて驚きました。

こんなやり取りを経験すると、私たちは「鍼灸も使える整体師」と名乗った方がよいのではないかと冗談ではなく思ってきます。鍼灸によって体を整えているのですから、鍼灸師は全員整体師です。

まじめに言いますが、鍼灸師が行う鍼灸は、整体鍼もしくは整体灸です。

色々な人がいて、鍼灸師であるにも関わらず、整体師を名乗って活動している者もいます。「なんてもったいないことを」と思いますが、彼らにしてみれば、正しく認識されずに損が確定している鍼灸師を名乗る方がもったいないのでしょう。


鍼灸×〇〇


若い世代の鍼灸師からこのような表現が発信されることが増えました。鍼灸の枠にこだわらずに他のスキルと積極的に掛け合わせて鍼灸師の可能性を広げようということだろうと思います。つまり、〇〇を入口にして鍼灸のファンになってもらおうという戦略なわけです。それか単に鍼灸にこだわるのはダサいというだけかもしれません。

いずれにしても、鍼灸が正しく理解され、今後の発展を願うなら「鍼灸師」という呼称を克服していかなければならないのは確かです。

最後の手段は「◯◯」のみで勝負することです。この「〇〇」は「鍼灸」以外なら何でもよいのです。肩書きの上では鍼灸師をやめるのですから勇気が必要です。お金も時間もかけて取った免許をしまい込むのですから。

実は、私は「あん摩マッサージ指圧師」の免許を表に出していません。せっかく取ったけれど、表に出さない方が(私にとっては)得だろうと判断してそうしています。鍼灸師だけで十分です。いや、鍼師だけでも支障ないかもしれません。灸をすえる場面がやってきたら「ちゃんと免許はありますよ」と証拠を見せたら済む話ですから。

この考えを延長していくと鍼師もいらなくなってくるのです。極端ですか?

その方が鍼灸の可能性を引き出せるなら別にかまわないと本気で思っています。私のモチベーションは、ツボを通じて人体に潜む法則性を探ることにあるので、今の私にふさわしい肩書きが見つかれば乗り換えます。それまでは鍼灸師を名乗っていきますが。


ソッカル


一つの試みとして準備しているのが、足専門のコンディショニングです。これまで「足のトラブルにも鍼がいいですよ」と言ってきたわけですが、「痛いところに鍼をすることもできますよ」と、刺激の一種として鍼もお考えくださいというメッセージになってしまいます。実際は、足の痛いところに鍼をするわけではなく背中などのツボを使って足のアライメントを整えて、痛みを取るだけでなく、可動性を改善させていきます。

ベースとしているのは整動鍼です。「ツボと動きの関係」をコンセプトにした新しい理論です。この理論を使えば、足の動きを改善させることができます。鍼治療でも足の動きを改善できますよ、という回り道はしたくないのでサービス名をつくることにしました。

しばらくは鍼灸院の中でやっていくことになりますが、鍼灸院という箱でやる必要はありません。鍼灸院という箱を外すことによって「鍼灸にできること」の一つとして説明する必要がなくなります。ダイレクトに「足のコンディショニングができます」と伝えられます。幸いなことに私のチームには人材が豊富ですから、任せていける体制をつくっていく予定です。



先日、足のコンディショニングを表す「ソッカル」を商標登録申請をしました。一応、「足が軽くなる」という意味です。「即軽くなる」でもあります。

当面、鍼灸師という免許の呼称が変更になることはないでしょう。このままでも、情報発信によって鍼灸の効果を誰もが当たり前に知ることができる時代がやってくるかもしれません。本当はそんな未来の方が楽でよいのです。


ツボネット(鍼灸の症例検索サイト)


鍼灸の可能性を知る意味でアクセスしてほしいサイトがあります。ツボネットです。私のチームで運営しています。3500以上の症例が登録され、鍼灸が何に効果があるのか実際の症例から探ることができるようになっています。また、どのツボがどの症状に使われているのか、データとして蓄積されています。

ツボネット

現在、月に40万ほどのアクセスがあります。このサイトを見た方から予約をいただくので、優れた集客ツールにもなっています。1万症例を目標にがんばっています。

こちらもよろしくお願いします。
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はりきゅう養気院(群馬県/伊勢崎市)
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yoki at 16:02│Comments(0) 仕事日記 | 鍼灸院経営

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