2026年07月24日

患者さんを治そうと思うほど 鍼灸師は疲れていく

患者さんを治そうと思うほと鍼灸師は疲れていく

摩耗しない生き方


私が鍼灸師としてよい仕事をする条件は「摩耗しない」だと考えています。鍼灸師は長く続ければ続けるほど味が出てくる仕事ですので、始めたばかりで摩耗してしまったらもったいないのです。もちろん“患者さんのために”施術をするわけですが、同時に“自分のために”施術をしないと心がどんどんすり減ってしまうのです。これは金銭的な報酬の話ではありません。

施術をすることのどこかに「与える」という感覚があったら要注意なのです。与えるということは、自分の何かを減らすということです。「与える」という言葉の裏には「何かが減る」という感覚があります。これは物質的な話ではなく心理状態の話です。仕事をすればするほど何かが減損していく感覚は施術者を不幸にしていきます。

私たちは「施術をする」という表現をよく使います。「金品や援助を与える」という意味で「施す」を使うことがあるので、そっちに引っ張られてしまう場合もあるでしょう。ですから、私はあえていいます。「患者さんに何かを与える必要はない」と。こんな書き方をすると、これを読んだ患者さんはどんな気持ちになるんだろう、と想像すると、ちょっぴり怖いです。


分かち合うという感覚


摩耗しない感覚があるのです。それは「分かち合う」という感覚です。私たちが行う施術を喩えるなら、冷蔵庫に入っていたケーキを出して取り分ける作業に近いのです。すでに価値あるものが存在していて、それを必要な部分を切り分けているだけなのです。私たちの中から価値を放出するわけではないので、いくら切り分けても私たちは摩耗しないのです。

この感覚は私の中では極めて重要です。「最初から価値は存在している」と考えるだけで、不思議なように疲れなくなるのです。疲労はゼロではありませんが、感じるのは活動における純粋な疲れだけです。

これをもう少し詳しく説明しましょう。たとえば、患者さんの顔を見てから「がんばろう」と思ったのなら、その場で価値を生み出そうとしている証拠です。がんばれば疲れます。いつか、そのがんばりを続けられなくなります。


価値を知る


食べていける鍼灸師とそうでない鍼灸師には明確な違いがあります。その差は鍼灸の価値を知っているか否かです。学校でちゃんと勉強しなさいという話ではなく、体験から展開される感覚の話です。自分が受けた体験でも、患者さんに施術をしたときの体験、どっちであっても、記憶に残る体験がなければ感覚で価値を理解できません。

「価値を知る」というのは、言い換えれば「人類が鍼灸という有益なものを所有している」という認識が当たり前として存在している状態に近いです。価値を知る者にとって、施術はこの共有財産を分かち合う行為なのです。

自分の中に価値をつくったら、自分の一部を切り売りしなければなりません。疲れてしまうのは当然です。最初から存在する価値を分かち合うなら疲れません。


自然法則の介入


患者さんを「治そう」と思っている人は疲れて摩耗します。そもそも患者さんを治せるはずがないのです。「治した」というのは錯覚以外の何者でもありません。治癒力を施術者が生み出すことはできません。治癒力ははじめから存在していて、うまく機能していないときに私たちのところに訪れるのです。私たちがやっているのは、眠っている力を覚ましている程度のことで「治す」なんていう神がかりな行為とは程遠いのです。

どうでしょうか。つながってきたのではないでしょうか。鍼灸の価値が私たちの外にあるように、治癒力も私たちの外にあるのです。私たちを飲み込むように自然法則が在るのです。

臨床で摩耗する鍼灸師は、気が付かないうちに自然法則に逆おうとしているのです。超能力を発揮しようとしているようなものです。鍼灸というものは、本来「自然法則にぜんぶ任せちゃおう」というコンセプトなんだと思っています。その自然法則が人体にも適用されているよ、というのが東洋思想における身体観です。

患者さんと私たちの間に自然法則を置く、その行為が鍼灸施術なのです。このように考えたら鍼灸師が摩耗するのはおかしなことに思えてきますよね。

この自然法則を楽しむ“ために”鍼灸師をやっているのだと思います。結果、それが患者さんの“ために”なっています。



鍼灸のクリ助ch.(YouTube)
X(旧ツイッター)
インスタグラム(ほぼ趣味)
はりきゅう養気院(群馬県/伊勢崎市)
はりきゅうルーム カポス(東京/品川)
整動協会(鍼灸師のための臨床研究会)

yoki at 00:49│Comments(0) 仕事日記 | 鍼灸師の裏話

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
月別アーカイブ
記事検索
全記事にコメント歓迎
これから読みたい本