2026年07月26日
肩こりを治すとは、どういうことか。

肩こりはありふれた症状です。だからでしょうか。
「肩こりなんて簡単ですよ」
こんな言葉を耳にすることがあります。私はこの言葉を否定したいわけではありません。ただ、一つだけ確認したいことがあります。
その人は、何をもって「肩こりを治した」と考えているのでしょうか。ここが曖昧なままでは、「肩こり治療は簡単か、難しいか」という議論は噛み合いません。
私は長年臨床を続けてきましたが、肩こりほど難しいものはないと思っています。その理由は技術力の問題ではありません。「肩こりを治す」という言葉の意味が、人によって違うからです。
肩こり治療には二つの考え方がある
肩が軽くなれば肩こりは治った。この考え方は間違いではありません。患者さんは楽になりますし、その変化には大きな価値があります。一方で、私はもう一つの考え方があると思っています。それは、「なぜその人の肩は凝るのか」という原因を見つけ、その原因を取り除くことです。同じ「肩こり治療」という言葉でも、目標が違えば治療そのものが変わってきます。
肩を軽くすることを目標にするのか。肩が凝る身体を変えることを目標にするのか。この違いは、とても大きいのです。
「肩こり」は状態ではなく感覚かもしれない
臨床を続けていると、色々な肩こりと出会います。肩が柔らかいのに「つらいです」と訴える患者さんがいます。反対に、驚くほど硬い肩をしているのに、「肩こりはありません」と答える人もいます。もし肩こりが「筋肉の硬さそのもの」であるなら、このようなことは説明できません。
つまり、肩こりとは筋肉の状態だけではなく、「肩が凝っていると感じる感覚」でもあるのです。この視点に立つと、肩を揉めば肩こりが治る、という単純な話ではなくなります。
肩こりで悩む患者さんを迎えるとき、「なぜこの人は肩こりを感じているのだろう」と考えます。その答えを探すことが、肩こり治療の面白さでもあります。
肩こりは肩だけの問題なのか
肩こりの原因を探していくと、肩から離れていく場合がほとんどです。凝ったところに鍼をしなくても、肩こりが改善することも珍しくありません。さらに、その結果として頭痛が楽になったり、耳鳴りや眼精疲労が改善したり、お腹の調子まで変わることがあります。もちろん、すべての肩こりがそうだと言いたいわけではありません。
ただ、こうした症例を何度も経験すると、肩こりは肩だけの問題ではないのではないか、と考えるようになります。肩こりは、身体全体のバランスの乱れを知らせる一つのサインなのかもしれません。
患者満足度と治療の質は一致しない
誤解を恐れずに書きます。患者さんが「やってもらった」と感じることは、とても大切です。安心感にもつながりますし、信頼関係を築くうえでも欠かせません。しかし、それと治療の質は別に考えた方がよいのです。
肩が凝っている場所に刺激をすると、多くの患者さんは「そこそこ」と反応します。その感覚は満足感につながります。仮に肩こりが十分に改善しなかったとしても、「私の肩は相当ひどかったんですね」と受け止めてもらえることがあります。すると、施術者は自分の施術を疑う機会を失います。
いったん満足度という評価軸から抜け出し、肩こりはなぜ起こっているのか、どうしたら肩こりが起こらない状態がつくれるか、という視点を持つことが本当のプロだと考えています。
だから肩こり治療は難しい
私は、「肩こり治療はできて当たり前だ」という言葉を聞くたびに違和感を覚えます。肩こりという現象は、それほど単純ではないと思っているからです。肩こりが難しいと思っている施術者ほど、肩こりを甘く見ていない。私はそんな印象を持っています。
原因を探し続けるから難しい。原因が一つではないことを知っているから難しい。だからこそ、もっと理解したいという探究心が生まれます。不思議なことですが、難しいと思えば思うほど、臨床は面白くなっていくのです。
身体には硬くならなければならない理由がある
「肩こりが治る」とは何でしょう。肩を軽くすることでしょうか。それとも、肩こりになりにくい身体をつくることでしょうか。
私は後者を目指しています。つい最近も勉強になる経験をしました。長年片側だけに肩こりで悩んでいる患者さんがいまして、見た目ですぐに左右差がわかり、触れてみると石のように筋肉がカチカチです。そこに鍼をすると、凝りに当たった気持ちよさとほぐれたようなすっきり感が出るのですが、カチカチはそのままです。
どんなに鍼をしてもカチカチのまま、という経験は駆け出しの頃から数え切れないほどあります。患者さんは「刺激が足りないからだ」と考えて、鍼の数を求めてきたり、太い鍼を求めてきたりすることがあります。しかし、望んだ結果にはなりません。カチカチになっている理由、つまりそこに力を入れないと困ってしまう事情を身体は抱えています。
最近の例で言うと、凝っている方と反対の坐骨(骨盤の最下部のでっぱり)の緊張を解いたら、カチカチが緩んできました。坐骨は座るときに椅子に触れるところです。その周辺が固くなっていることで、本能的に逆側の坐骨(肩こり側)に体重を乗せるクセがついていて、長年に渡って偏った座り方をしていたのです。
肩こりは姿勢が原因?
姿勢が悪いという一言で片付けることができない問題です。仮に左右の坐骨に均等に体重をかけようと思っても、均等にかけたら違和感が生じます。違和感がある状態で良い姿勢をし続けたら、その違和感を遠ざけようとまた別の問題が発生することがあります。
これは、肩こりの人は坐骨を見ましょう、というアドバイスではありません。抱えている問題は人によって異なります。患者さんがやってほしいと思うことが正解とは限らず、遠回りであるかのようなことが最短距離だったりします。患者さんの要望に従って、凝りに鍼をしたり灸をする方が楽で喜ばれるかもしれません。しかし、それは思考停止です。
肩こりは一生のテーマにできるくらい奥が深いものです。「肩こりを治すとはどういうことか」に答えが出ないところが面白いのです。
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