妊婦・出産・逆子
2017年06月23日
(5)のつづき
第三子となる次男が産まれてから2週間が経ちました。出生届けも出して保険証もやってきました。おかげさまで正式に我が家の一員となりました。
入院は最短コースの5日間でした。出産の翌朝から、妻はスタスタと普通に歩けるほど回復は順調でした(無理に歩かせてはいません)。会陰切開もせずに済んだので痛みもないようです。
活法やツボ刺激のおかげ!?
赤ちゃんは本当にかわいいもので、このかわいさを表現できる言葉は見つかりません。自宅に帰ると真っ先に息子の顔を見に行ってしまいます。
今回は、このシリーズの締めくくりとして、日頃から妊婦さんを診ている鍼灸師として、そして子供を3人授かったパパとしてお産と骨盤について書きます。
「産んだ後は骨盤が閉じるように調整しなければいけない」と、巷では語られているようですが、それについては思うところがあります。
「産後は骨盤が必ず歪む」と断言しているところも。考えなければいけないのは、「歪む」の定義です。
骨盤が歪むって何だろう・・・
これは骨盤が傾いた状態。「歪み」と言えば歪み…。
そもそも、なぜ、産後に「骨盤の歪み」が取り上げられることが多いのか。それは、お産では産道を開かせるために骨盤が開きます。恥骨結合という靱帯で出来ているつなぎ目がリラキシンというホルモンの働きでゆっくり緩みます。
安産を考える時には、赤ちゃんの通り道をつくってくれる恥骨結合の緩みがとても大事です。ただ、ずっと緩んだままでは骨盤が不安定です。安定して立つことができません。骨盤が定まっていないので、これも「歪み」と言えば歪みです。
産後は、リラキシンが分泌されなくなり、恥骨結合の靱帯は徐々に元通り縮んで硬くなります。それに伴って恥骨結合も締まります。完全に元通りになるには時間がかかるので、産んだ後しばらくは不安定な状態が続きます。踏ん張りが利かず歩行も安定しません。重い荷物を持つような負荷は苦手です。産褥期と言われる、産後6〜8週間の時期は安静が勧められるのはそのためです。
ネットでこんな言葉を見つけました。
「つけなかったせいで」という表現がとても気になります。骨盤ベルトはあくまでも補助ですから、つけないと弊害が出るというものではありません。それに「骨盤が開いたまま」というのも、意味不明です。時間が経てば恥骨結合は締まっていき、開いたままになることはありません。
産後の腰痛や体型変化(脂肪増加)の原因を「骨盤の歪み」と言う人もいます。医学的な視点というよりは、マーケティングのトレンドです。そもそも「骨盤の歪み」の定義があいまいです。
産後ケア用の骨盤ベルトは、あちこちのメーカーから販売されています。それらに共通するのは「骨盤を締める」ということ。装着するときには、大転子の辺りから巻きます。すると、恥骨結合が締まる方向に圧が加わって、靱帯が緩んでいる状態でも骨盤が安定します。
では、骨盤ベルトをしないと恥骨結合が元に戻らないのでしょうか。だいじょうぶです。「骨盤ベルトをしなかったせいで骨盤が開いたままに…」なんてことはありません。骨盤ベルトは、恥骨結合が元に戻るまでの間、骨盤を補助するものです。
産後は骨盤が不安定です。骨盤が安定しないまま、体に負荷をかけてしまうと、仙腸関節、腰椎、股関節にも普段以上の負荷がかかります。この過剰な負荷が二次的問題を引き起こして、痛みなどの不調をまねくのです。
つまり、骨盤が緩んでいる間は、無防備な状態です。この時期を守るという意味でベルトは一役買ってくれますが、絶対に必要かと言えば疑問です。私の妻は三度の出産で一度も使用していませんが、使わなかった弊害は確認できません。
もし、腰痛になって骨盤ケアをしている整体院にでも行ったら「骨盤の歪みが原因ですね」と言われるかもしれません。産後でも産後でなくても、「骨盤が歪みが腰痛や体の不調の原因」というレトリック(セールストーク)は見かけます。
体の不均衡を探そうと思えば、いくらでもリストアップできます。左右を比べればどこかに差は見つかります。それと不調が関係しているとは限りません。もし、不均衡を「歪み」と定義するのであれば、歪みのない体は存在しないことになります。
完璧な環境などありませんから、いつも適応して生きているのです。
クルマが、傾斜している道路で真っ直ぐに進むためには、ハンドルを軽く切っておかなければなりません。そのハンドルの角度は、歪みとは言えません。むしろ、それは適応です。
本当に問題なのは、必要な角度にハンドルを切れないことです。体で言えば、必要な方向に微調整できない体が問題です。私は、こうした不適応状態を歪みと定義しています。
お産で考えても、お産に必要な微調整ができないことが問題であり、それが歪みです。「歪み」という字は「正しからず」と読めます。
「歪み」とは「何かが正しくないこと」です。
冷静になれば実に曖昧ですよね。各々の各々の目的で自由に(都合よく)使える言葉です。私も都合よく使っている一人です。
患者さんは「○○は歪みが原因」という言い回しを好みます。それだけに使いすぎは禁物です。ただ個人的に思うのは、「鍼灸」と「歪み」は相性がよくありません。
お産から話がそれますが、こんな言葉の実験をしたことがあります。
鍼灸師の私が鍼や灸をしながら、「この痛みは歪みが原因ですね〜」という言い方をすると、患者さんは、「じゃあ、整体に行った方がいいですか?」と聞いてきます。
根底に「鍼では歪みがなくならない」というイメージがあるのだと思います。そして、整体には「歪みをとるところ」というイメージがあるのでしょう。「歪み」に公式な定義がないように、「整体」にも公式な定義はありません。
やっていることを「○○整体」と名付ければ、それは整体です。これもイメージの問題です。
プロの視点から患者さんにアドバイスしたいのは、腰が痛くて整体に行くなら、整体の結果、腰の痛みが取れるかどうか、または再発しにくい体になるか、がもっとも重要です。歪みを取っているはずなのに、「腰痛がぜんぜん治らない」ということであれば、そこで言う「歪み」と腰痛は関係ないのかもしれません。
私の結論を書いて終わりにします。
一番何が大事なのかと考えると、「痛み」ではないでしょうか。
患者さんは、痛みがあるから「どうにかしなければ…」と思うわけで、痛みがなければ鍼灸にだって整体にだって行こうとは思いません。いつの間にか、どこかで「この歪みを放っておいたら10年後たいへんなことになりますよ!」なんて脅されて、痛みが取れたあとも「歪み」の問題が心に残ってしまうのです。
なぜ、痛いのでしょうか。
最新の脳科学では興味深いことが指摘されています。それは「動けないと痛くなる」ということです。これまでの常識では「痛いから動けないのだ」と誰もが思っていましたが、実際には違うようです。
心よりも動きが先にある、ことが多くの実験で証明されています。少し専門的な本ですが、興味のある方はこちらの方がおすすめです。
そして、動きやすい体は何かと考えると「よい姿勢」という概念と結びつきます。ここでも重要な指摘をしなければなりません。
よい姿勢だから動きやすいのではなく、動きやすい体がよい姿勢と言えるのです。
動物である人間は、動くことで危険から回避し、動くことで食べ物を手に入れることができます。生存できるかどうかで重要なのは、見た目より動けることです。このように考えると、人の脳は、「よく動く体」を見て「よい姿勢だ!」と認識するようにできているはずです。
また、動きが不自由になると、心も不自由になる、ということも数々の実験で証明されています。動きが自由になると心の動きも良くなるのです。産後うつも、体の動きに解決にヒントがあります。
実際の施術をする際には、「動き」を指標にします。患者さんと術者、双方が確認できるので、歪みを視覚化できるというメリットがあります。
さらにいえば、動きをつくる筋肉と内臓も常に信号を送り合っているので、動きが改善すると、内臓の働きもよくなるのです。筋肉、精神、内臓、この3つは切り離せない関係にあります。
このように、「動き」を中心に身心を調整することを「整動」と呼んでいます。整動という概念は、もともと「活法(かっぽう)」にありました。これを鍼灸で行うのが「整動鍼」です。鍼灸の世界では最近になって出てきた新しい考え方です。鍼灸も脳科学的に考える時代に突入しているようです。
出産に立ち合うことで、普段の臨床では見えない命の姿を見ることができました。こうした機会に恵まれたことに感謝しています。お産の周りには、いろいろな価値観が取り巻いています。どれが正しくてどれが間違っているのか、わからないことだらけです。
時代のトレンドもありますし、産科の都合も入り込みます。宣伝なのか、医学情報なのか、区別できないものも多いです。この記事も例外ではありません。だから、自分で経験している範囲で書くように決めています。
今回のお産の報告は、Facebookでもさせて頂きました。たくさんの方からお祝いのお言葉を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!
お産シリーズは、この3章がたぶん最後です。
ブログはもちろん続けます!
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第三子となる次男が産まれてから2週間が経ちました。出生届けも出して保険証もやってきました。おかげさまで正式に我が家の一員となりました。
入院は最短コースの5日間でした。出産の翌朝から、妻はスタスタと普通に歩けるほど回復は順調でした(無理に歩かせてはいません)。会陰切開もせずに済んだので痛みもないようです。
活法やツボ刺激のおかげ!?
赤ちゃんは本当にかわいいもので、このかわいさを表現できる言葉は見つかりません。自宅に帰ると真っ先に息子の顔を見に行ってしまいます。
今回は、このシリーズの締めくくりとして、日頃から妊婦さんを診ている鍼灸師として、そして子供を3人授かったパパとしてお産と骨盤について書きます。
■産後の骨盤の歪みって!?
「産んだ後は骨盤が閉じるように調整しなければいけない」と、巷では語られているようですが、それについては思うところがあります。
「産後は骨盤が必ず歪む」と断言しているところも。考えなければいけないのは、「歪む」の定義です。
骨盤が歪むって何だろう・・・
これは骨盤が傾いた状態。「歪み」と言えば歪み…。
そもそも、なぜ、産後に「骨盤の歪み」が取り上げられることが多いのか。それは、お産では産道を開かせるために骨盤が開きます。恥骨結合という靱帯で出来ているつなぎ目がリラキシンというホルモンの働きでゆっくり緩みます。
安産を考える時には、赤ちゃんの通り道をつくってくれる恥骨結合の緩みがとても大事です。ただ、ずっと緩んだままでは骨盤が不安定です。安定して立つことができません。骨盤が定まっていないので、これも「歪み」と言えば歪みです。
産後は、リラキシンが分泌されなくなり、恥骨結合の靱帯は徐々に元通り縮んで硬くなります。それに伴って恥骨結合も締まります。完全に元通りになるには時間がかかるので、産んだ後しばらくは不安定な状態が続きます。踏ん張りが利かず歩行も安定しません。重い荷物を持つような負荷は苦手です。産褥期と言われる、産後6〜8週間の時期は安静が勧められるのはそのためです。
■骨盤ベルトの役割
ネットでこんな言葉を見つけました。
産後骨盤ベルトつけなかったせいで、骨盤が開いたまま歪んでしまったらしく、ベルトつけて直しています。
「つけなかったせいで」という表現がとても気になります。骨盤ベルトはあくまでも補助ですから、つけないと弊害が出るというものではありません。それに「骨盤が開いたまま」というのも、意味不明です。時間が経てば恥骨結合は締まっていき、開いたままになることはありません。
産後の腰痛や体型変化(脂肪増加)の原因を「骨盤の歪み」と言う人もいます。医学的な視点というよりは、マーケティングのトレンドです。そもそも「骨盤の歪み」の定義があいまいです。
産後ケア用の骨盤ベルトは、あちこちのメーカーから販売されています。それらに共通するのは「骨盤を締める」ということ。装着するときには、大転子の辺りから巻きます。すると、恥骨結合が締まる方向に圧が加わって、靱帯が緩んでいる状態でも骨盤が安定します。
では、骨盤ベルトをしないと恥骨結合が元に戻らないのでしょうか。だいじょうぶです。「骨盤ベルトをしなかったせいで骨盤が開いたままに…」なんてことはありません。骨盤ベルトは、恥骨結合が元に戻るまでの間、骨盤を補助するものです。
産後は骨盤が不安定です。骨盤が安定しないまま、体に負荷をかけてしまうと、仙腸関節、腰椎、股関節にも普段以上の負荷がかかります。この過剰な負荷が二次的問題を引き起こして、痛みなどの不調をまねくのです。
つまり、骨盤が緩んでいる間は、無防備な状態です。この時期を守るという意味でベルトは一役買ってくれますが、絶対に必要かと言えば疑問です。私の妻は三度の出産で一度も使用していませんが、使わなかった弊害は確認できません。
もし、腰痛になって骨盤ケアをしている整体院にでも行ったら「骨盤の歪みが原因ですね」と言われるかもしれません。産後でも産後でなくても、「骨盤が歪みが腰痛や体の不調の原因」というレトリック(セールストーク)は見かけます。
■歪みの本当の意味
体の不均衡を探そうと思えば、いくらでもリストアップできます。左右を比べればどこかに差は見つかります。それと不調が関係しているとは限りません。もし、不均衡を「歪み」と定義するのであれば、歪みのない体は存在しないことになります。
完璧な環境などありませんから、いつも適応して生きているのです。
クルマが、傾斜している道路で真っ直ぐに進むためには、ハンドルを軽く切っておかなければなりません。そのハンドルの角度は、歪みとは言えません。むしろ、それは適応です。
本当に問題なのは、必要な角度にハンドルを切れないことです。体で言えば、必要な方向に微調整できない体が問題です。私は、こうした不適応状態を歪みと定義しています。
お産で考えても、お産に必要な微調整ができないことが問題であり、それが歪みです。「歪み」という字は「正しからず」と読めます。
「歪み」とは「何かが正しくないこと」です。
冷静になれば実に曖昧ですよね。各々の各々の目的で自由に(都合よく)使える言葉です。私も都合よく使っている一人です。
■「整体」と「歪み」
患者さんは「○○は歪みが原因」という言い回しを好みます。それだけに使いすぎは禁物です。ただ個人的に思うのは、「鍼灸」と「歪み」は相性がよくありません。
お産から話がそれますが、こんな言葉の実験をしたことがあります。
鍼灸師の私が鍼や灸をしながら、「この痛みは歪みが原因ですね〜」という言い方をすると、患者さんは、「じゃあ、整体に行った方がいいですか?」と聞いてきます。
根底に「鍼では歪みがなくならない」というイメージがあるのだと思います。そして、整体には「歪みをとるところ」というイメージがあるのでしょう。「歪み」に公式な定義がないように、「整体」にも公式な定義はありません。
やっていることを「○○整体」と名付ければ、それは整体です。これもイメージの問題です。
プロの視点から患者さんにアドバイスしたいのは、腰が痛くて整体に行くなら、整体の結果、腰の痛みが取れるかどうか、または再発しにくい体になるか、がもっとも重要です。歪みを取っているはずなのに、「腰痛がぜんぜん治らない」ということであれば、そこで言う「歪み」と腰痛は関係ないのかもしれません。
■「歪み」と「痛み」 と「動き」
私の結論を書いて終わりにします。
一番何が大事なのかと考えると、「痛み」ではないでしょうか。
患者さんは、痛みがあるから「どうにかしなければ…」と思うわけで、痛みがなければ鍼灸にだって整体にだって行こうとは思いません。いつの間にか、どこかで「この歪みを放っておいたら10年後たいへんなことになりますよ!」なんて脅されて、痛みが取れたあとも「歪み」の問題が心に残ってしまうのです。
なぜ、痛いのでしょうか。
最新の脳科学では興味深いことが指摘されています。それは「動けないと痛くなる」ということです。これまでの常識では「痛いから動けないのだ」と誰もが思っていましたが、実際には違うようです。
心よりも動きが先にある、ことが多くの実験で証明されています。少し専門的な本ですが、興味のある方はこちらの方がおすすめです。
そして、動きやすい体は何かと考えると「よい姿勢」という概念と結びつきます。ここでも重要な指摘をしなければなりません。
よい姿勢だから動きやすいのではなく、動きやすい体がよい姿勢と言えるのです。
動物である人間は、動くことで危険から回避し、動くことで食べ物を手に入れることができます。生存できるかどうかで重要なのは、見た目より動けることです。このように考えると、人の脳は、「よく動く体」を見て「よい姿勢だ!」と認識するようにできているはずです。
また、動きが不自由になると、心も不自由になる、ということも数々の実験で証明されています。動きが自由になると心の動きも良くなるのです。産後うつも、体の動きに解決にヒントがあります。
実際の施術をする際には、「動き」を指標にします。患者さんと術者、双方が確認できるので、歪みを視覚化できるというメリットがあります。
さらにいえば、動きをつくる筋肉と内臓も常に信号を送り合っているので、動きが改善すると、内臓の働きもよくなるのです。筋肉、精神、内臓、この3つは切り離せない関係にあります。
このように、「動き」を中心に身心を調整することを「整動」と呼んでいます。整動という概念は、もともと「活法(かっぽう)」にありました。これを鍼灸で行うのが「整動鍼」です。鍼灸の世界では最近になって出てきた新しい考え方です。鍼灸も脳科学的に考える時代に突入しているようです。
■終わりに
出産に立ち合うことで、普段の臨床では見えない命の姿を見ることができました。こうした機会に恵まれたことに感謝しています。お産の周りには、いろいろな価値観が取り巻いています。どれが正しくてどれが間違っているのか、わからないことだらけです。
時代のトレンドもありますし、産科の都合も入り込みます。宣伝なのか、医学情報なのか、区別できないものも多いです。この記事も例外ではありません。だから、自分で経験している範囲で書くように決めています。
今回のお産の報告は、Facebookでもさせて頂きました。たくさんの方からお祝いのお言葉を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!
お産シリーズは、この3章がたぶん最後です。
ブログはもちろん続けます!
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◆関連記事
・鍼灸師とお産(1)
・鍼灸師とお産−第2章(1)
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2017年06月15日
(4)のつづき
いよいよ分娩室です。何度も入れるところではないので貴重な経験です。
三度目の出産ですが、分娩室に入るのは初。これまではフリースタイル出産だったので、普通の部屋っぽい雰囲気になっていました。
今回は、この台の上で産むのか〜。
ノンストレステスト(NST)の機械。
左側の赤い数字が赤ちゃんの心拍数で、右側の緑の数字が子宮の収縮レベル。
陣痛が強くなる時は、一瞬90を越えました。20以下くらいだと普通に会話できる程度です。お産の時は、緑色の数字が跳ね上がるようですが、それまでに外されました。
今回のお産では鍼治療の許可を取っていないので(つまり、今回が初めての“鍼なし”のお産)、指のツボ刺激と活法(かっぽう)になりました。
まずは指で足のツボを刺激。大腰筋の働きがよいと産道が開きやすいという助産師さんの情報に素直に従って、大腰筋に作用させるツボを刺激します。
妻のクリ子の足元に腰掛けてツボ刺激しているのですが、長男が撮ってくれたのですが何しているのか見えません。
足元はこんな感じです。
太衝(たいしょう)というツボがありますが、その近くにあるツボで大腰筋に作用するツボです。力は入れず指が気持ちよく沈む程度に。
次に活法(かっぽう)。
新潟の助産師さんがお産の時に多用していた大腰筋の調整。脚を軽い力でピョンと引っ張るだけのワザ。もちろんコツがあって、ただ引っ張るだけではありません。
分娩台はリクライニングができて、背もたれが少し起きていたので大腰筋に刺激が入るように引っ張れたかわかりません。
産まれるまでもう少し時間がある(とは言っても来てから1時間も経っていない)と思ったら、お腹が空いてきたので、コンビニに夕食を買いに出かけました。職場からそのまま出てきてたので、何も食べていなかったのです。
サッと買い物を済ませて産院に戻ると、入口が閉められていて中に入れなくなっていました。明かりも消されています。
まさかっ!
とネタになるよな展開を想像しながら、慌ててお義母さんに電話して事情を説明しました。助産師さんがドアを開けに来てくれました。どうやらちょうど消灯のタイミングで外に出てしまったようです。
分娩室に戻ると、まだ産まれていませんでした。ネタにならなくてよかったです。
もう仕掛けは終わっているので後は待つだけ。とりあず、食堂に行って買ってきたコロッケを食べようとすると「お腹空いた」と言う娘に取られてしまいました。残ったおにぎりを食べ終わった頃、分娩室の方が慌ただしくなってきました。
21時20分頃です。
中に入ると、緊張感が漂っています。コンビニに行く前とは雰囲気が違います。
「産まれますよ〜」
今度は、本当の本当の産まれる合図です。コンビニでコロッケ買っている時間でなくてよかったです。大腰筋の刺激に鍼を使っていたら間に合わなかった可能性も…。
21時半を過ぎた頃、助産師さんが「全開でーす!」と声を出しました。子宮口が全開。あとは、出るだけです。
「頭が見えてきたよ〜」
黒いものが出て来ました〜。髪の毛です。頭です!
落ち着いた様子の助産師さんは、赤ちゃんに手を添えながら出てくるのを待っています。引き出すというわけでもなく、受けるという感じ。私なら完全にパニックです。
にゅる〜ぅ!
私にはこんな感じに見えました。出て数秒もしないうちに、
オギャー、オギャーと泣き声が!
おおぅ!
午後9時43分、感動の場面です。よくやったぞ、クリ子! そして息子よ!
3Dエコーではたいそうブサイクな顔が写っていたので心配していましたが、親にしてこの子、と相応の顔をしていました(奇跡は起こりませんでした)。長男と長女とそっくりです。3Dエコーは罪だなぁ〜。
手と足が青くて、ちょっとビビりましたが、話題にしていないので問題なさそうです。長男と長女の時はこんなに明るくなかったので、色はこれほどわかりませんでした。
助産師さんは休みません。間髪いれずに身長と体重を計りに行きました。オムツを着けたら胸まで。予定日の2週間前に産まれたこともあり2515gと小柄。
さあ、ご対面!
写真を撮っていたら22時を越えそうになりました。立ち合い人は院を出るように促され、妻をろくに労いもせず帰り支度。長男と長女の時は、同じ部屋に居られたので今回もそのつもりでいただけに残念でした。
次回はシリーズの完結…つづく。
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■分娩室に立ち入る!
いよいよ分娩室です。何度も入れるところではないので貴重な経験です。
三度目の出産ですが、分娩室に入るのは初。これまではフリースタイル出産だったので、普通の部屋っぽい雰囲気になっていました。
今回は、この台の上で産むのか〜。
ノンストレステスト(NST)の機械。
左側の赤い数字が赤ちゃんの心拍数で、右側の緑の数字が子宮の収縮レベル。
陣痛が強くなる時は、一瞬90を越えました。20以下くらいだと普通に会話できる程度です。お産の時は、緑色の数字が跳ね上がるようですが、それまでに外されました。
■お産のツボと活法(かっぽう)
今回のお産では鍼治療の許可を取っていないので(つまり、今回が初めての“鍼なし”のお産)、指のツボ刺激と活法(かっぽう)になりました。
まずは指で足のツボを刺激。大腰筋の働きがよいと産道が開きやすいという助産師さんの情報に素直に従って、大腰筋に作用させるツボを刺激します。
妻のクリ子の足元に腰掛けてツボ刺激しているのですが、長男が撮ってくれたのですが何しているのか見えません。
足元はこんな感じです。
太衝(たいしょう)というツボがありますが、その近くにあるツボで大腰筋に作用するツボです。力は入れず指が気持ちよく沈む程度に。
次に活法(かっぽう)。
新潟の助産師さんがお産の時に多用していた大腰筋の調整。脚を軽い力でピョンと引っ張るだけのワザ。もちろんコツがあって、ただ引っ張るだけではありません。
分娩台はリクライニングができて、背もたれが少し起きていたので大腰筋に刺激が入るように引っ張れたかわかりません。
■油断
産まれるまでもう少し時間がある(とは言っても来てから1時間も経っていない)と思ったら、お腹が空いてきたので、コンビニに夕食を買いに出かけました。職場からそのまま出てきてたので、何も食べていなかったのです。
サッと買い物を済ませて産院に戻ると、入口が閉められていて中に入れなくなっていました。明かりも消されています。
まさかっ!
とネタになるよな展開を想像しながら、慌ててお義母さんに電話して事情を説明しました。助産師さんがドアを開けに来てくれました。どうやらちょうど消灯のタイミングで外に出てしまったようです。
分娩室に戻ると、まだ産まれていませんでした。ネタにならなくてよかったです。
もう仕掛けは終わっているので後は待つだけ。とりあず、食堂に行って買ってきたコロッケを食べようとすると「お腹空いた」と言う娘に取られてしまいました。残ったおにぎりを食べ終わった頃、分娩室の方が慌ただしくなってきました。
21時20分頃です。
中に入ると、緊張感が漂っています。コンビニに行く前とは雰囲気が違います。
「産まれますよ〜」
今度は、本当の本当の産まれる合図です。コンビニでコロッケ買っている時間でなくてよかったです。大腰筋の刺激に鍼を使っていたら間に合わなかった可能性も…。
■その時、子宮口が開いた!
21時半を過ぎた頃、助産師さんが「全開でーす!」と声を出しました。子宮口が全開。あとは、出るだけです。
「頭が見えてきたよ〜」
黒いものが出て来ました〜。髪の毛です。頭です!
落ち着いた様子の助産師さんは、赤ちゃんに手を添えながら出てくるのを待っています。引き出すというわけでもなく、受けるという感じ。私なら完全にパニックです。
にゅる〜ぅ!
私にはこんな感じに見えました。出て数秒もしないうちに、
オギャー、オギャーと泣き声が!
おおぅ!
午後9時43分、感動の場面です。よくやったぞ、クリ子! そして息子よ!
■不安と安堵
3Dエコーではたいそうブサイクな顔が写っていたので心配していましたが、親にしてこの子、と相応の顔をしていました(奇跡は起こりませんでした)。長男と長女とそっくりです。3Dエコーは罪だなぁ〜。
手と足が青くて、ちょっとビビりましたが、話題にしていないので問題なさそうです。長男と長女の時はこんなに明るくなかったので、色はこれほどわかりませんでした。
助産師さんは休みません。間髪いれずに身長と体重を計りに行きました。オムツを着けたら胸まで。予定日の2週間前に産まれたこともあり2515gと小柄。
さあ、ご対面!
写真を撮っていたら22時を越えそうになりました。立ち合い人は院を出るように促され、妻をろくに労いもせず帰り支度。長男と長女の時は、同じ部屋に居られたので今回もそのつもりでいただけに残念でした。
次回はシリーズの完結…つづく。
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yoki at 18:22│Comments(0)│
2017年06月13日
(3)のつづき
お腹の中で赤ちゃんは、どうやって出てくる時期を決めているのでしょうか? 自分にもその頃があったわけですが全く覚えていません。不思議です。本能としか言いようがありません。
人間、何でも知識で動いているように勘違いしやすいのですが、本能に支えられて生きています。お産は、出す方も出る方も本能。お産では、人間が人間である以前の姿が見えます。
「生きる」
ということを感覚的に理解できる瞬間です。男性はお産に立ち会えるなら立ち会っておいた方がいいな、と強く思います。ただし、覚悟を決めてから(笑)
長男11歳と長女6歳も立ち合いを望んでいます(長男は長女の出産に立ち合っています)。
立ち会いを強く望んでいても、タイミングが合わなければ無理です。日中は職場である鍼灸院で患者さんを診ています。よほどの緊急でなければ、抜け出して…というわけには行きません。
自ずとベストな曜日と時間が割り出されます。それは、水曜日の午後9時です。患者さんが終わった頃に産院に連れて行って産むというパターンです。この時間帯なら長男と長女も起きていて立ち合いに連れて行けます。
しかも、翌日の木曜日は休診なので時間の使い方が自由です。そして金曜日、土曜日と2日間患者さんを診て(東京出張を入れていない)日曜日です。
今回は、そのベストがやってきたのです。
当日の午後2時過ぎから怪しい痛みが出始めてきました。この時点では、「かもしれない」程度です。前回の出産から6年空いているので、陣痛がどんな感じだったか覚えていない様子。それともお産に伴う幸福感が痛みの記憶を消してしまうのでしょうか…。
かもしれない陣痛を頭の片隅に追いやり、普段通りに仕事をしていました。合間があるたびにLINEのチェック。なぜか産む時間の調整に挑戦し始めているクリ子。
「この日だといいな」と思って、最後の一枠はあえて空けておきました。だから19:05の患者さんが最終でした。予約時間の5分前にやってきた患者さん(ありがたい!)。すぐに施術室に案内して早めの施術スタート。
あとで知ることになりますが、この時点で陣痛は10分間隔になっていました。知らなくてよかったと思います。19:30に患者さんがお帰りになると、ダッシュでクリ子の元へ(自宅は鍼灸院から近いのです)。
後片付けは、スタッフの光山くんに完全に丸投げ。
「行ってきまーす!」
と鍼灸院を出ました。クリ子、そして長男、長女、そしてお義母さんを乗せたのが19:45分頃。遠足前のように出かける準備が完璧でした。ここから産院まで25分くらいです。
車内で陣痛の間隔がどんどん狭くなってきました。
しかし、不思議と車の中は落ち着いています。妻の精神状態もいいし、私も普段と何ら変わりません。3人目だからかもしれません。これまでの経験が安定を生んでいました。
逆に言えば、初めてのお産だったらこんなに落ち着けません。実際、一人目の時などクリ子は車内で「産まれそぉー!!」と叫んでいたのです。私もブログを書くテンションが違う気がします。今回はどことなく大人。
無事に産院に到着すると、クリ子はいきなり分娩室に連れて行かれました(20:10頃)。残された者は食堂で待機。
弟が産まれてくることに興奮を隠せない長女6歳。
20分くらいすると、助産師さんから「産まれるよ〜」の声。
「え、もうですか!?」
心の準備はまだですよ〜。
つづく…(5)
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■夫が出産に立ち合う理由
お腹の中で赤ちゃんは、どうやって出てくる時期を決めているのでしょうか? 自分にもその頃があったわけですが全く覚えていません。不思議です。本能としか言いようがありません。
人間、何でも知識で動いているように勘違いしやすいのですが、本能に支えられて生きています。お産は、出す方も出る方も本能。お産では、人間が人間である以前の姿が見えます。
「生きる」
ということを感覚的に理解できる瞬間です。男性はお産に立ち会えるなら立ち会っておいた方がいいな、と強く思います。ただし、覚悟を決めてから(笑)
長男11歳と長女6歳も立ち合いを望んでいます(長男は長女の出産に立ち合っています)。
立ち会いを強く望んでいても、タイミングが合わなければ無理です。日中は職場である鍼灸院で患者さんを診ています。よほどの緊急でなければ、抜け出して…というわけには行きません。
■計算が本能を越えた
自ずとベストな曜日と時間が割り出されます。それは、水曜日の午後9時です。患者さんが終わった頃に産院に連れて行って産むというパターンです。この時間帯なら長男と長女も起きていて立ち合いに連れて行けます。
しかも、翌日の木曜日は休診なので時間の使い方が自由です。そして金曜日、土曜日と2日間患者さんを診て(東京出張を入れていない)日曜日です。
今回は、そのベストがやってきたのです。
当日の午後2時過ぎから怪しい痛みが出始めてきました。この時点では、「かもしれない」程度です。前回の出産から6年空いているので、陣痛がどんな感じだったか覚えていない様子。それともお産に伴う幸福感が痛みの記憶を消してしまうのでしょうか…。
■夜に本陣痛がくるようにがんばる
かもしれない陣痛を頭の片隅に追いやり、普段通りに仕事をしていました。合間があるたびにLINEのチェック。なぜか産む時間の調整に挑戦し始めているクリ子。
「この日だといいな」と思って、最後の一枠はあえて空けておきました。だから19:05の患者さんが最終でした。予約時間の5分前にやってきた患者さん(ありがたい!)。すぐに施術室に案内して早めの施術スタート。
あとで知ることになりますが、この時点で陣痛は10分間隔になっていました。知らなくてよかったと思います。19:30に患者さんがお帰りになると、ダッシュでクリ子の元へ(自宅は鍼灸院から近いのです)。
後片付けは、スタッフの光山くんに完全に丸投げ。
「行ってきまーす!」
と鍼灸院を出ました。クリ子、そして長男、長女、そしてお義母さんを乗せたのが19:45分頃。遠足前のように出かける準備が完璧でした。ここから産院まで25分くらいです。
車内で陣痛の間隔がどんどん狭くなってきました。
しかし、不思議と車の中は落ち着いています。妻の精神状態もいいし、私も普段と何ら変わりません。3人目だからかもしれません。これまでの経験が安定を生んでいました。
逆に言えば、初めてのお産だったらこんなに落ち着けません。実際、一人目の時などクリ子は車内で「産まれそぉー!!」と叫んでいたのです。私もブログを書くテンションが違う気がします。今回はどことなく大人。
無事に産院に到着すると、クリ子はいきなり分娩室に連れて行かれました(20:10頃)。残された者は食堂で待機。
弟が産まれてくることに興奮を隠せない長女6歳。
20分くらいすると、助産師さんから「産まれるよ〜」の声。
「え、もうですか!?」
心の準備はまだですよ〜。
つづく…(5)
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・鍼灸師とお産−第2章(1)
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2017年06月12日
(2)のつづき
出産は命がけです。
医療が進歩して、どこかに「命は大丈夫」という心に隙があります。私も例外ではありません。お産を限りなく安全なものに近づけている産科関係者に感謝します。
いっぽうで、妊娠しているというだけで、何にでも警戒してしまったり、また特別感が度を超えて神聖化させてしまう傾向もあるように思います。背景に、「人間だけが特別」という価値観があるのかもしれません。
私はシンプルに考えています。人間はほ乳類だから犬や猫と基本的には同じだと思います。「完全に同じ」と言ってしまうと、お産の専門家からお叱りを受けると思うので「基本的には」にとどめておきます。
お産は理性が先行したらできないと思います。妻を見ていても、「産む」という内に秘めるエネルギーを使っているのであって、頭では産んでいません。
妊娠すると、産院でいろいろな知識を授けてくれます。ネットからもいろいろな情報を得ることができます。確かに知識は大事。
ただ、「股から人間を出す」という部分は知識ではないと思うのです。もう、そこはほ乳類の本能。母である前に人間であり、人間である前に動物です。
安産を願うとき、私がすべきことは本能の活性化です。簡単に言えば、安産の必要条件とは「産むという運動」を本能に任せてできる状態ということになります。
一つ付け加えると「産道が開く」という変化も大事です。必要な変化を助けて産むという運動を助ける、ということをどうやるかです。
「安産のため」としてよく知られているツボがあります。たとえば「三陰交(さんいんこう)」というツボはどこを見ても紹介されています。「三陰交が安産にいいらしい」という話を知識で得たとしても、「産む」という運動における位置づけがわかっていないと、儀礼的な使い方になってしまいます。
このように「お産」を運動の一つと考えるようになったのは、活法の影響です。普段の施術でも、ツボを選ぶ際にはどんな運動(動き)に関わりがあるのか、と考えるようになりました。
「本能」をキーワードに語ってきましたが、活法はまさに本能の活性化するものです。人間が本来持っている力をどんどん引き出すことができます。
たとえば、筋肉が凝り固まって動かないのも、本来の筋力が出せない状態です。パワーだけでなく素早く滑らかに動くこともできません。こんな時は迅速かつ柔軟に対応できないので、怪我をしやすくなります。
見方を変えると、脳が筋肉に余計な制限をかけている状態です。制限は秩序を保つために必要ですが過剰になると動きを渋くしてしまいます。本来よりも動けない状態になります。そんな時は「動ける」という信号を脳に積極的に送り込むことで、本来の動きを取り戻すことができます。活法は、その具体的な方法の宝庫です。
実は、お産において特に注目している筋肉があります。それは大腰筋です。
腰椎から股関節の内側をつなぐ長い筋肉です。この筋肉の働きに制限がかかっている時は、子宮口が開きにくくなるようです。
助産師さんと交流が盛んな時期があって、活法をお産の現場に利用できないかと試行錯誤していました。活法による大腰筋の調整で、開きにくい子宮口が開きやすくなってという報告を何度も頂きました。「助産師+活法」という組み合わせが少ないので、エビデンスの話はできませんが、直感に相関関係はあります。
参考)産婆たけちゃんの活動日記
写真では、脚を引っ張っているだけのように見えますが、大腰筋が牽引されています(大腰筋の牽引)。
これは仙腸関節をゆっくり伸ばして緊張を解いています(骨盤はがし)。
内股を緩める効果が高い「昇り龍」というワザです。股関節の柔軟性が出るので、安産効果があると見込んでやりました。
これらの施術は当日の朝です。お産のだいたい12時間前です。
(ちなみにこの時は腎盂腎炎はすっかり治っています)
よい機会なので、スタッフの光山くんに、どれくらい変化するのか確認してもらいました。「こんなに変わるんですね!」と驚いた様子が印象的でした。
「産まれる直前のお腹なんて、何度も触れるものではないから触っておいた方がいいよ」と言ってみましたが、本当に直前のお腹となりました。
「お産の専門家でない鍼灸師が妊婦に触れても大丈夫なのか?」と思われるかもしれません。
もちろん、助産ができるほどの知識は鍼灸師にはありません。対象にしているのは、お産がしやすい筋肉のコンディションです。
子宮は体のあちこちから影響を受けています。精神的に緊張しただけでも子宮は張ってきます。腰痛がある人も子宮は硬くなります。子宮は筋肉なので、全身の骨格筋に合わせるように緊張します。
肩こりや腰痛を改善させると、子宮は柔らかく優しくなります。モーツァルトもいいけれど、その肩こりと腰痛では…と思うことがあります。
肩こりや腰痛も知れば知るほど奧が深く、内臓との関わりも肝心なのです。筋肉は内臓のコンディションを表しています。内臓も筋肉のコンディションに左右されています。
こうした部分は、産院では注目されません。だから、筋肉ケアがどれほど子宮ケアに直結するのか、お産に関わる方に伝えたくて仕方ありません。ただ、今はそれを軸に仕事をしていないので、静かにしています。
活法のような整体を使えば、股関節、仙腸関節、恥骨などのお産に直接関わる関節のケアが低刺激(歩行より低負荷・低刺激)でできます。またツボを利用すれば、手足からこれらの関節を調整することもできます。
こうして考えると、もっともリスク少なく妊婦さんのケアをできる職業だと言えます。もちろん、最低限の知識があることが条件になります。
次回は、分娩台での話になります。
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安産のための身体
出産は命がけです。
医療が進歩して、どこかに「命は大丈夫」という心に隙があります。私も例外ではありません。お産を限りなく安全なものに近づけている産科関係者に感謝します。
いっぽうで、妊娠しているというだけで、何にでも警戒してしまったり、また特別感が度を超えて神聖化させてしまう傾向もあるように思います。背景に、「人間だけが特別」という価値観があるのかもしれません。
私はシンプルに考えています。人間はほ乳類だから犬や猫と基本的には同じだと思います。「完全に同じ」と言ってしまうと、お産の専門家からお叱りを受けると思うので「基本的には」にとどめておきます。
お産は理性が先行したらできないと思います。妻を見ていても、「産む」という内に秘めるエネルギーを使っているのであって、頭では産んでいません。
妊娠すると、産院でいろいろな知識を授けてくれます。ネットからもいろいろな情報を得ることができます。確かに知識は大事。
ただ、「股から人間を出す」という部分は知識ではないと思うのです。もう、そこはほ乳類の本能。母である前に人間であり、人間である前に動物です。
安産を願うとき、私がすべきことは本能の活性化です。簡単に言えば、安産の必要条件とは「産むという運動」を本能に任せてできる状態ということになります。
一つ付け加えると「産道が開く」という変化も大事です。必要な変化を助けて産むという運動を助ける、ということをどうやるかです。
「安産のため」としてよく知られているツボがあります。たとえば「三陰交(さんいんこう)」というツボはどこを見ても紹介されています。「三陰交が安産にいいらしい」という話を知識で得たとしても、「産む」という運動における位置づけがわかっていないと、儀礼的な使い方になってしまいます。
このように「お産」を運動の一つと考えるようになったのは、活法の影響です。普段の施術でも、ツボを選ぶ際にはどんな運動(動き)に関わりがあるのか、と考えるようになりました。
安産の活法(かっぽう)
「本能」をキーワードに語ってきましたが、活法はまさに本能の活性化するものです。人間が本来持っている力をどんどん引き出すことができます。
たとえば、筋肉が凝り固まって動かないのも、本来の筋力が出せない状態です。パワーだけでなく素早く滑らかに動くこともできません。こんな時は迅速かつ柔軟に対応できないので、怪我をしやすくなります。
見方を変えると、脳が筋肉に余計な制限をかけている状態です。制限は秩序を保つために必要ですが過剰になると動きを渋くしてしまいます。本来よりも動けない状態になります。そんな時は「動ける」という信号を脳に積極的に送り込むことで、本来の動きを取り戻すことができます。活法は、その具体的な方法の宝庫です。
実は、お産において特に注目している筋肉があります。それは大腰筋です。
腰椎から股関節の内側をつなぐ長い筋肉です。この筋肉の働きに制限がかかっている時は、子宮口が開きにくくなるようです。
助産師さんと交流が盛んな時期があって、活法をお産の現場に利用できないかと試行錯誤していました。活法による大腰筋の調整で、開きにくい子宮口が開きやすくなってという報告を何度も頂きました。「助産師+活法」という組み合わせが少ないので、エビデンスの話はできませんが、直感に相関関係はあります。
参考)産婆たけちゃんの活動日記
写真では、脚を引っ張っているだけのように見えますが、大腰筋が牽引されています(大腰筋の牽引)。
これは仙腸関節をゆっくり伸ばして緊張を解いています(骨盤はがし)。
内股を緩める効果が高い「昇り龍」というワザです。股関節の柔軟性が出るので、安産効果があると見込んでやりました。
これらの施術は当日の朝です。お産のだいたい12時間前です。
(ちなみにこの時は腎盂腎炎はすっかり治っています)
よい機会なので、スタッフの光山くんに、どれくらい変化するのか確認してもらいました。「こんなに変わるんですね!」と驚いた様子が印象的でした。
「産まれる直前のお腹なんて、何度も触れるものではないから触っておいた方がいいよ」と言ってみましたが、本当に直前のお腹となりました。
子宮に触れない子宮ケア
「お産の専門家でない鍼灸師が妊婦に触れても大丈夫なのか?」と思われるかもしれません。
もちろん、助産ができるほどの知識は鍼灸師にはありません。対象にしているのは、お産がしやすい筋肉のコンディションです。
子宮は体のあちこちから影響を受けています。精神的に緊張しただけでも子宮は張ってきます。腰痛がある人も子宮は硬くなります。子宮は筋肉なので、全身の骨格筋に合わせるように緊張します。
肩こりや腰痛を改善させると、子宮は柔らかく優しくなります。モーツァルトもいいけれど、その肩こりと腰痛では…と思うことがあります。
肩こりや腰痛も知れば知るほど奧が深く、内臓との関わりも肝心なのです。筋肉は内臓のコンディションを表しています。内臓も筋肉のコンディションに左右されています。
こうした部分は、産院では注目されません。だから、筋肉ケアがどれほど子宮ケアに直結するのか、お産に関わる方に伝えたくて仕方ありません。ただ、今はそれを軸に仕事をしていないので、静かにしています。
活法のような整体を使えば、股関節、仙腸関節、恥骨などのお産に直接関わる関節のケアが低刺激(歩行より低負荷・低刺激)でできます。またツボを利用すれば、手足からこれらの関節を調整することもできます。
こうして考えると、もっともリスク少なく妊婦さんのケアをできる職業だと言えます。もちろん、最低限の知識があることが条件になります。
次回は、分娩台での話になります。
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2017年06月10日
(1)のつづき
6月2日の金曜日に、強い腰痛が出て歩くこともできないほど悪化しました。同時に寒気と熱気が交互に出てきたのです。熱は一時的に38℃を越えました。
結果的にお産の5日前だったわけですが、この時点では「風邪かな?」「お産が近いのかな?」とぼんやりと考えていました。妊娠してからも腰痛は時々出ていていたので、今回もそうかなと思いました。熱は疲れているので体温調整ができないのかな、という程度。
深刻に考えておらず、普段通りに、腰痛と発熱冷ましの鍼治療をしました。歩けないほどの腰痛は解消され普通に歩けるようになりました。熱も数時間後には下がっていきました。体調が普通程度まで回復したのです。
翌朝も体調は良かったので、治療の効果ありと判断しました。
ただ、良い状態は1日持ちませんでした。再び発熱と腰痛…。
その頃のやりとりが残っています。
6月2日(金)の19:30頃(私が仕事中)にメッセージが届きました。
その晩に治療したわけです。これでいったん症状が治まりました。
翌日に昼になって再び同じ症状。心配になってもう一度鍼治療を提案。ただ、患者さんを診なければならなかったので、すぐには実行できず。その間にクリ子は自分の症状を検索したら、ある症状とピタリ一致していることに気が付きました。
「腎盂腎炎かもしれない」
と言ってきました。それを聞いてハッとしました。確かに可能性が濃厚。ツボを腎盂腎炎用に切り替えて治療すると、かなり痛がっていた腰痛はスッと引いていきました。これで完全に治まるとは限りません。ここは慎重になった方がいいと思いました。
すぐに産院に行きました。私が連れて行けないので母にお願いしました。
診察を受けると、妻が推測した通り腎盂腎炎でした。入院も提案されましたが、状況からみて自宅安静でも良さそうなので、注射(たぶん抗生物質)をしてもらって帰ってきました。
残っていた腰痛は鍼治療の直後にスッと軽くなり消えました。発熱も落ち着いていましたが完全ではないまま翌日の日曜日に。
クリ子は2回目の注射のために産院へ行くことに。そんな状況のクリ子を残し私は東京へ。心配だったのは腎盂腎炎が治まらないうちに陣痛が始まることでした。雰囲気として「近い」と感じていたからです。実際にお産はその3日後だったので、その勘は当たっていたわけです。
東京から群馬の自宅に戻り、帰宅後も鍼治療。
翌日の月曜日には体調がだいぶ安定してきました。この日が最後の注射となりました。腎盂腎炎、お産の2日前に終焉。ギリギリでした。
腎盂腎炎の原因の多くは、尿が逆流して細菌が腎臓の腎盂という部分に侵入して起こります。
腎盂腎炎は妊娠中に起こりやすい病気です。妻の例は軽く済んだので、アッサリな印象になっていますが、これを標準と思わないでください。一週間以上入院することも珍しくないようです。
38℃を越える熱と、動かなくても痛む強い腰痛が特徴です。疑わしいと思ったら、すぐに病院に相談することをおすすめします。
腰痛の特徴を詳しく説明します。
なったことがない私は自分の言葉で表現できませんが、痛みは背中に近い上の方にあります。動けないほど痛いのです。痛む位置も背中に近い腰です。実際、妻が痛がっていた場所も腰の上の方でした。ここには、腎兪(じんゆ)というツボがあります。その周辺です。仙腸関節がある骨盤の方で痛むものと様子が違います。背中の下の方が痛む、という解釈でもよいです。
鍼治療する際には、腎兪を対象に行うことが大事です。腎兪そのものを使っても効果が見込めると思いますが、私は背中のツボから腎兪に作用させました。症例がこの一例なので、詳細を紹介するのは自粛します。
鍼治療に手応えはありましたが、効果は症状の重さや環境に左右されますから、鍼治療だけに依存するのはリスクがあると思います。術者の腕や判断力の差も出るところなので、慎重であるべきでしょう。もちろん、私も自分の腕を信じすぎないように慎重になっていました。
腎盂腎炎の治療をするのは、これが初めてでした。一週間の入院が必要なこともある病気が2〜3日で完全に回復してしまったことを考えると、鍼治療に可能性を感じました。
理論的には見込みがあっても、腎盂腎炎の治療を真正面からやるのは初でした。鍼灸師としても貴重な体験となりました。腎盂腎炎に限らず、臨床の現場ではいろいろな症状に出会います。重症度や緊急度をしっかり鑑別し、自分の領分を越えないことだと思います。
お産まであと2日です。つづく…(3)
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■発熱と腰痛
6月2日の金曜日に、強い腰痛が出て歩くこともできないほど悪化しました。同時に寒気と熱気が交互に出てきたのです。熱は一時的に38℃を越えました。
結果的にお産の5日前だったわけですが、この時点では「風邪かな?」「お産が近いのかな?」とぼんやりと考えていました。妊娠してからも腰痛は時々出ていていたので、今回もそうかなと思いました。熱は疲れているので体温調整ができないのかな、という程度。
深刻に考えておらず、普段通りに、腰痛と発熱冷ましの鍼治療をしました。歩けないほどの腰痛は解消され普通に歩けるようになりました。熱も数時間後には下がっていきました。体調が普通程度まで回復したのです。
翌朝も体調は良かったので、治療の効果ありと判断しました。
ただ、良い状態は1日持ちませんでした。再び発熱と腰痛…。
その頃のやりとりが残っています。
6月2日(金)の19:30頃(私が仕事中)にメッセージが届きました。
その晩に治療したわけです。これでいったん症状が治まりました。
翌日に昼になって再び同じ症状。心配になってもう一度鍼治療を提案。ただ、患者さんを診なければならなかったので、すぐには実行できず。その間にクリ子は自分の症状を検索したら、ある症状とピタリ一致していることに気が付きました。
「腎盂腎炎かもしれない」
と言ってきました。それを聞いてハッとしました。確かに可能性が濃厚。ツボを腎盂腎炎用に切り替えて治療すると、かなり痛がっていた腰痛はスッと引いていきました。これで完全に治まるとは限りません。ここは慎重になった方がいいと思いました。
すぐに産院に行きました。私が連れて行けないので母にお願いしました。
診察を受けると、妻が推測した通り腎盂腎炎でした。入院も提案されましたが、状況からみて自宅安静でも良さそうなので、注射(たぶん抗生物質)をしてもらって帰ってきました。
残っていた腰痛は鍼治療の直後にスッと軽くなり消えました。発熱も落ち着いていましたが完全ではないまま翌日の日曜日に。
クリ子は2回目の注射のために産院へ行くことに。そんな状況のクリ子を残し私は東京へ。心配だったのは腎盂腎炎が治まらないうちに陣痛が始まることでした。雰囲気として「近い」と感じていたからです。実際にお産はその3日後だったので、その勘は当たっていたわけです。
東京から群馬の自宅に戻り、帰宅後も鍼治療。
翌日の月曜日には体調がだいぶ安定してきました。この日が最後の注射となりました。腎盂腎炎、お産の2日前に終焉。ギリギリでした。
■腎盂腎炎の原因
腎盂腎炎の原因の多くは、尿が逆流して細菌が腎臓の腎盂という部分に侵入して起こります。
腎盂腎炎は妊娠中に起こりやすい病気です。妻の例は軽く済んだので、アッサリな印象になっていますが、これを標準と思わないでください。一週間以上入院することも珍しくないようです。
38℃を越える熱と、動かなくても痛む強い腰痛が特徴です。疑わしいと思ったら、すぐに病院に相談することをおすすめします。
腰痛の特徴を詳しく説明します。
なったことがない私は自分の言葉で表現できませんが、痛みは背中に近い上の方にあります。動けないほど痛いのです。痛む位置も背中に近い腰です。実際、妻が痛がっていた場所も腰の上の方でした。ここには、腎兪(じんゆ)というツボがあります。その周辺です。仙腸関節がある骨盤の方で痛むものと様子が違います。背中の下の方が痛む、という解釈でもよいです。
■腎盂腎炎の鍼治療
鍼治療する際には、腎兪を対象に行うことが大事です。腎兪そのものを使っても効果が見込めると思いますが、私は背中のツボから腎兪に作用させました。症例がこの一例なので、詳細を紹介するのは自粛します。
鍼治療に手応えはありましたが、効果は症状の重さや環境に左右されますから、鍼治療だけに依存するのはリスクがあると思います。術者の腕や判断力の差も出るところなので、慎重であるべきでしょう。もちろん、私も自分の腕を信じすぎないように慎重になっていました。
腎盂腎炎の治療をするのは、これが初めてでした。一週間の入院が必要なこともある病気が2〜3日で完全に回復してしまったことを考えると、鍼治療に可能性を感じました。
理論的には見込みがあっても、腎盂腎炎の治療を真正面からやるのは初でした。鍼灸師としても貴重な体験となりました。腎盂腎炎に限らず、臨床の現場ではいろいろな症状に出会います。重症度や緊急度をしっかり鑑別し、自分の領分を越えないことだと思います。
お産まであと2日です。つづく…(3)
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