鍼灸

2024年01月22日

疲労回復力を高める


鍼灸師をやっていると、鍼灸の疲労回復効果がすさまじいと感じます。鍼灸は「自然回復力を高める」と表現されることもありますが、私個人の感覚では「疲労回復力を高める」の方がしっくりきます。

鍼灸の効果というものは疲労回復に集約されるのではないかと言ったら言い過ぎかもしれませんが、そう考えた方がすんなと現代社会のニーズの中に溶け込める気がするのです。

どういうことかと言うと、病気と鍼灸の関係で語ろうとすると制約が多いのですが、疲労回復と鍼灸の関係で語る場合、大きな制約がありません。このあたりを整理しながら、疲労回復において鍼灸が果たす役割について書いてみます。

疲労


医学の舞台から降ろされた鍼灸


もともと鍼灸は医学として始まっています。「病気を治したい」という願望や「長生きしたい」という欲望が元になって生まれています。鍼灸は2000年以上の歴史がありますが、古典に書いてあるのは主にこの2つです。

歴史的には医学であった鍼灸は、江戸時代が終わる頃から医学の中心から外れ、明治になる頃には舞台から降ろされてしまいました。昨今、鍼灸が見直されているとはいえ、免許制度のない整体と同じ「医業類似行為」に分類されることもあります。

鳥獣戯画

脳科学が拓く? 新しい鍼灸の舞台


個人的には、鍼灸が最先端医学として脚光を浴びる日が来ると信じているのですが、もう少し時間がかかるでしょう。。そういう時代がやってくるとしたら脳科学の分野から鍼灸が評価されるときだと思います。これまでの鍼灸の研究は、鍼を指した局所で起こる生理的な変化を追ってきたわけですが、鍼灸の本質は刺鍼した局所ではなく、身体全体を統合している脳の機能変化にあると思います。

足のツボに鍼をして、便秘や下痢が改善することを、刺鍼した局所の効果から説明するのはむずかしいです。それより「嫌なことが迫ってくると下痢をする」という反応に近いと考えています。

「鍼灸なんてプラセボでしょ」と揶揄する人もいますが、実は時代を先取りした称賛とも言えます。鍼灸ほどプラセボを上手に引き出せる方法はないかもしれません。この時代、プラセボをまやかしとして扱うのではなく、むしろ積極的に利用すべきだと考える時代です。

脳が証明する効果

なぜ自然治癒力ではなく疲労回復力なのか


自然治癒力を否定したいわけではなく、実感しやすいのはどっちだろうと考えたら疲労回復力の方ではないかと思うのです。それは鍼灸の現場でよく感じます。鍼を受けている最中に眠くなってしまう患者さんが本当に多いのです。鍼を刺したまま10分程度、施術用ベッドに横になっていただくことがありますが、眠ってしまう患者さんは珍しくありません。たった数分の睡眠なのに、1時間ほど寝ていたように感じる方もいらっしゃいます。

寝ることが、肉体的にも精神的にも疲労回復を促すことは説明するまでもありません。病気や怪我の回復も疲労回復が基礎になります。疲れきった状態のまま病気や怪我が速やかに治ることはありません。

厳密に言えば、しっかり疲労回復を定義する必要がありますが、話が複雑になるといけないので、あえて入り込むことはしません。雑な表現であることを承知でいえば、鍼または灸の施術を受けて病気や怪我が治っていくのは、体内に蓄積していた疲労が軽減するからと考えることができます。


疲労ポイントを探す


こうした前提に立てば、上手な鍼灸師は疲労ポイントを見つけられるのが上手いと言えるわけです。たとえば、身体に感じるコリも疲労感の一種と言えますし、そういう具体的な疲労の証拠を触れながらつかんでいくわけです。

疲れは自覚できているとは限りません。自覚のない疲れを見つけて軽減させるのが我々鍼灸師の仕事ということもできます。

発見

疲労回復と睡眠


鍼灸を受けると眠くなることからも、単純に睡眠の質が高まっていると想像できます。その睡眠の質とはなんだろうと考えたとき、その定義をするのは専門家でも難しいようです。

快眠の定義を生理学的な条件で考えると次のようになるそうです。

/臾加罎犯獣任任る脳波がでていること
▲好董璽N3と言われるレム睡眠がしっかりでていること
C翕啌仞辰ないこと

ただ、実際の「よく眠れた」という感覚とは一致しないこともあるそうで、一筋縄ではいかないのが睡眠。まだまだわかっていないことが多いようです。なんだか鍼灸とよく似ています。「効果の高い鍼灸」も定義がむずかしいのです。

質の高い睡眠ほど、疲労状態から回復させてくれることは明らかですから、鍼灸が質の高い睡眠を促すことが証明できたら、鍼灸の疲労回復効果も示せます。

疲労回復

睡眠と脳波


睡眠を改善させる技術が「スリープテック」と言われています。スマートウォッチなどで睡眠の状態を計測できるようになってきました。私もスマートフォンのアプリで自分の睡眠状態を調べてみたことがあります。ただ、その多くは睡眠の状態を推測しているだけで、きちんと調べようと思ったら睡眠中の脳波を調べなければならないそうです。

そこで、自宅で睡眠中の脳波を計測するプロジェクトを私が運営する団体(整動協会)で立ち上げました。睡眠中の脳波を鍼をする前と後で比較します。40症例を集める準備がすでに整っています。

睡眠と脳波

睡眠のツボ


「不眠症に効くツボはどこですか?」

いろいろな人から聞かれそうです。眠れない原因が一つであれば、どこか特定のツボが不眠症のツボになりますが、そんなことはありません。

「夜中に腰が痛くて目が覚めてしまう」という人であれば、腰の痛みを取ることが快眠への第一歩となるでしょうし、「耳鳴りが気になって眠れない」という人であれば、耳鳴りを取ることが第一歩になるでしょう。

人それぞれ眠りを誘うツボが違います。とはいえ、ある程度のパターンに収めることも可能だと思っています。そこで私が提唱しているのは「身体の置き場」という考え方です。

壺


睡眠と姿勢


たとえば、眠れないときほど枕が気になると思います。本当に眠いときはどんな枕でも眠れてしまいます。もちろん、枕が自分に合っているかどうかは大切ですが、身体が寝具に溶け込みやすい状態であるかが眠りの質を左右すると考えています。

こうして考えると、寝やすい姿勢を取れることが快眠の条件になります。姿勢は起きているときだけの話ではなく、寝ているときも大切です。

真っ直ぐな姿勢がよいという話は、姿勢の良し悪しを語る一つの側面でしかなく、本来は状況や環境に適応できている姿勢がよい姿勢であり、色々な姿勢を取れることが健康的です。

具体的な話をすると、寝やすい姿勢の基本になるのが、頭の置き場です。頚部の可動性に問題がなければ頭の置き場にも自由度がありますが、頚が動かないと頭の置き場が見つからず、合う枕も見つかりません。

頚の柔らかさを取り戻すことが、快眠への入り口になります。もちろん全員に当てはまるわけではありませんが、感覚的には9割の人には当てはまります。

頚の筋肉を柔らかくするツボが、結果的に不眠症に効くツボになります。

このような考え方を基にすれば、他にも肩関節や腰部の周辺を柔らかくするツボが、結果的に不眠症に効くツボになります。具体的なツボの話は専門的になりすぎるので、またの機会にしようと思います。

結論として、睡眠の質を高めて疲労回復を促すことは、どんな症状においても有効です。逆に言えば、睡眠の質を高めることができなければ、鍼灸の本来のポテンシャルを活かしきれないでしょう。

寝相

睡眠と呼吸


最後に呼吸について書きます。呼吸の状態は睡眠時も大切です。世の中には様々な呼吸法がありますが、睡眠中は呼吸をコントロールできませんので、身体のコンディションがそのまま出る時間です。

この呼吸においても鍼灸が有効です。呼吸に関わる筋肉や関節を整えると深い呼吸に導けます。これも色々な観点があるのですが、特に重視しているのが鎖骨です。息を吸ったり吐いたりするとき、鎖骨に触れてみると動いているのがわかります。

鎖骨の周りに鍼や灸をしたら鎖骨の動きがよくなるのかといえば、そんなに単純ではありません。鎖骨と連結している肩甲骨も考慮しなければなりませんし、頭蓋骨につながっていく胸鎖乳突筋も重要です。

寝息


やわらみ


このように、姿勢と呼吸は睡眠と密接に関わっています。この3つの視点から身体を整えることができると、病気や怪我が治りやすい条件が整います。どんな症状に対しても使える基本の考え方です。東洋医学の考え方とも、現代医学的な考えとも矛盾はしません。

姿勢、呼吸、睡眠が整った状態の身体を私は「やわらみ(柔身)」と表現しています。どんな症状であってもやわらみの方向を目指して調整をします。

私は整動鍼というコンセプトの理論と実践を提唱して、同業の鍼灸師の方々に伝えていますが、調整のベースとなる考え方はこのやわらみです。

この考え方と実践方法を一つのパッケージにして、新しいセミナーをつくってみました。すでに整動鍼を始められている方にとっては「腹背編」「身心和合編」「経絡原糸編」などで伝えている内容を初学者向けにわかりやすく噛み砕いたものとなります。整動鍼の入門版として提供することにしました。

学生や鍼灸師3年目くらいまでの方にとっては、わかりやすく使いやすい内容です。経絡も気も使いませんし、特別な手技も使いません。呼吸と姿勢に関わる重要ポイントを理解して正確な位置に鍼をするだけです。誰でも再現できる方法です。

呼吸、睡眠、姿勢

海外✕鍼灸


このやわらみは、これから海外で鍼灸をしたり、日本で外国人を相手に鍼灸をしたい鍼灸師に積極的に使ってもらいたいと思っています。英語教師の宮口一誠先生と「AcuEigo(アキュエイゴ)」というパッケージをつくってみました。詳しくはこちらをご覧ください。

AcuEigo

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yoki at 20:23│Comments(0)

2024年01月03日

運動連鎖の鍼灸理論とは何か

鍼灸師には色々なタイプがいます。私はどういうタイプかというと運動連鎖に関心が強く、鍼灸師が使える理論の構築に使命感を抱いています。今回は、専門家向けの内容に偏りますが、専門知識を持たない人でもわかるように努めて書いてみます。

運動連鎖を研究する意義は何なのか、鍼灸にどんなメリットをもたらすのか、丁寧に説明します。読み終わった頃には鍼灸のイメージが大きく変わるかもしれません。パラダイムシフトを目指して今年もがんばっていきます。

さっそくなのですが、昨年の年末ににX(旧ツイッター)投稿したポストをご覧ください。



肩こりは多層構造


このCGを見るとわかるように、肩の筋肉は多層構造になっています。肩こりを招く筋肉の代表格として僧帽筋を取り上げる場合が多いのですが、僧帽筋だけで説明できるほど肩こりが簡単なものでないことが一目瞭然です。むしろ、僧帽筋に覆われた深層の筋肉こそ肩こり解消の鍵を握っています。

鍼は深いところに刺激が届くということで、しつこい肩こりに対して「マッサージより鍼の方が…」と鍼のメリットを唱える人もいます。確かに皮下に鍼先を届けられるのは鍼だからこそで否定しようのないメリットです。ただ、際限なく深く刺入できるわけではありません。


深く効かせるワザ


患者さんと話をしていて、深い鍼ができる鍼灸師の方が腕があると勘違いされていると思う場面があります。安全に深刺しできることも技術の一面ですが、そう簡単ではないところが鍼治療です。

鍼治療は痛い部分に直接鍼をするばかりではありません。ツボを利用して、深部に効果を届けることも鍼治療です。そうした知恵を集結したものがツボ理論があります。もっとも有名なものが経絡(けいらく)という学説です。

この学説は、たとえば手にあるツボを使って腸の働きを整えたりと刺鍼点とは離れたところに効果が及ぶことを説明するのに便利です。古典的な理論はこの経絡一択と言ってよいほど影響力を持っています。私たち鍼灸師は必ず学校で経絡学説を習っています。

鍼灸が発展してきたのは、紛れもなく経絡学説のおかげです。鍼治療は物理療法でありながら、物理療法を超えた方法であると言えます。

ここで伝えたいのは、ツボの遠隔作用を使えば深部の筋肉に効果を届けることができるということです。この作用を最大限に利用することが鍼灸師の面白さだと考えています。安全に深部に効果を届けることができます。もともと鍼灸の鍼は注射と比較すれば驚くほど細いのですが、浅めの刺鍼で済むならなおさら安全です。


経絡の限界


ただ、そう簡単にはいかないのです。なぜなら、経絡学説は筋肉を対象としたものではなく、内蔵を対象とした理論だからです。頚や背中の細かな筋肉に効果を届けようと思っても、経絡は筋肉に対して緻密ではありません。今風に言えば、筋肉に対しては解像度が粗すぎるのです。

経絡学説には欠陥があると言いたいのではありません。そもそも、経絡は筋肉系の学説ではなく、内臓系の学説なのです。ですから、関節や筋肉を得意とする鍼灸師の多くが経絡学説よりも解剖学を拠り所にしています。患部の筋肉や周辺の神経の走行を考えながら刺鍼点を決めています。

私の立場からも経絡は絶対的な学説とは言えません。鍼灸理論の発展を願うなら、経絡を尊重しつつその限界を探る姿勢が大切だと考えています。


運動連鎖を利用して筋肉と関節を整える


前置きが話が長くなってしまいましたが、鍼の最大のメリットは深部にある患部を直接刺激できることでなく、ツボの効果を利用して深い部分に作用を届けられることにあると考えています。頚や肩の深い筋肉に対しても、手や足など離れたところにあるツボからアプローチできます。

とはいえ、言うは易し行うは難しです。筋肉や関節を調整するための理論がないからです。ターゲットになる筋肉に作用するツボがどれになるのか、それを示す地図がありません。内蔵とツボの関係を示したのが2000年以上前に記されていた前述の経絡ですが、その後、筋肉とツボの関係を示した精微なものは出ていないのです。

そこで着手することにしたのです。それがおおよそ12年前です。その基本となる考えは連動です。この筋肉がはたらいているときは、どの筋肉が一緒にはたらくのだろうと考えていきます。細かなことを言えば、筋肉単位ではなくもっと細かな単位で調べていきます。

背中の筋肉に鍼をすると、頚の筋肉が柔らかくなるなどの変化が起こるのですが、その変化はピンポイントで出現します。その変化には規則性があって、その規則性を追っていくと、頚椎の◯番に出ている問題なら胸椎の◯番で調整できるといった具合に対照表をつくれます。


膨大な検証


この調査は時間もかかるし手間もかかります。孤独な作業です。その孤独を解消するために、成果を発表するセミナーを行うことにしました。私自身が何度も検証して再現できるものをセミナーで全国の鍼灸師と共有しました。私だけができるのと誰でもできるのでは意味も価値もまったく異なります。

誰でも再現可能という普遍性が評価され、続編を希望する声が高まりセミナーはシリーズ化していきました。それが整動鍼です。ありそうでなかったツボと動きの関係を解いた理論なのです。この理論を手にすることで、運動器疾患に対する手が広がります。

一見すると関係のないところに鍼をすると、肘や膝がよく曲がるようになったりするので患者さんが驚きます。動きがよくなると痛みも同時に軽減します。関節や筋肉の調和が取れて、筋肉や関節に余計な負荷がかからなくなるからです。


整動鍼の症例3000以上を無料公開


実際に出ている成果を示したのが「ツボネット」です。こちらのサイトには3000症例以上がアップロードされています。どんな症状に対してどんなツボを使ったのかわかります。

すぐにお気づきになると思いますが、症例は筋肉や関節の問題ばかりではありません。胃腸やメンタルのトラブルなども多数あります。筋肉や関節の状態は内臓の調子と深い関わりがあるため、整動鍼で胃腸やメンタルの調整もできます。

ツボネットの症例は3000以上

他にも、突発性難聴など顎関節の影響を受けやすい耳の症状なども整動鍼の守備範囲になってきます。筋肉や関節の状態は深く内臓と関わっているためです。これこそまさに経絡学説が示す鍼灸の効果です。つまり、整動鍼は従来の鍼灸の効果はそのまま活かしながら、動きとツボという新しい関係に挑戦し適応範囲を大きく広げることに成功したのです。


鍼だからできる緻密な調整


頚こりや肩こりも、結局は他の筋肉との調和が乱れてしまった結果です。腰との調和が乱れていたら腰にあるツボが決め手になります。腕との調和が乱れていたら腕にあるツボが決め手になります。

ポストの動画でご覧頂いたように、頚や肩の筋肉は何層にもなっていて緻密にはたらいています。この緻密さに対応するような緻密な連動が隠れています。こうした連動を理解すればするほど、緻密な調整ができるようになります。この緻密な調整は鍼だからこそ可能です。

「運動連鎖」という言葉からイメージするより、かなり細かいと思います。


学び始めると止まらない


同業の鍼灸師から「難しそう」と言われることもあります。1日でマスターできるほど簡単なものではありませんが、マスターしてしまえば難しい症状に対応できるようになります。テーマに分けてカリキュラムを用意しているので、段階的に連動を扱えるようになっていきます。

臨床で使ってみると面白くなって止まりません。

現在でも理論は発展していますが、カリキュラムが膨れすぎないように10編できたところでストップをかけました。流れに身をまかせて鍼灸師向けのセミナーをやってきましたが、これからのことを考えると、連動を緻密に調整できるからこその効果をもっとアピールしていくことが大切だと思っています。どうしたらアピールできるのかと考えたとき、やはり独自の効果があることを示していかなければならないと思うのです。

年末にも触れたのですが、理論と技術を具体的なサービスに昇華できるように努めていきます。もちろん従来の施術もやっていきますのでご安心ください。

最後になりますが、

整動鍼を学んでみたいと思った鍼灸師の方は、1月28日(日)の刺鍼即応編が手頃なので、ぜひご検討ください。残りわずかですのでお急ぎください。鍼灸の全く違う世界を案内します。

▶詳しくはこちら

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yoki at 21:52│Comments(0)

2023年12月02日

前回の記事と一部重なりますが、今年は鍼灸師人生で大きな節目ということで現在の気持ちを残す意味で意味で改めて違った角度から書きます(10年後、自分が書いた記事を読むのが面白い)。

今年が節目となる理由は整動鍼のカリキュラムが完成したからです。10年かけて10編をリリースしました。と言っても、この記事で私のことを知った人は何のことやらとなっていると思いますので、私の活動と経歴を簡単に説明します。


人生を変えた活法


鍼灸院は開業したのは20年ほど前です。そして14年ほど前になりますが2009年にセミナーを事業として始めました。最初は活法(かっぽう)という古武術由来の整体からでした。この技術の出会いと伝えるという経験が私の鍼灸師人生を大きく変えることになりました。

「なぜ鍼灸師なのに整体?」と思われるかもしれませんが、当時、技術の伸びに不安を抱えていた私は整体にヒントを求めに行ったのです。私が担当している患者さんは、私が今も整体の講師をしていることを知らないので「整体にも行って歪みを直してもらった方がいいですか?」などと聞いてきます。

臨床の現場では話が長くならないように「整体もできるんですよ」と口にすることはありません。本当は「鍼や灸で整体をしている」と言いたいのですが、混乱させてしまうことを懸念して飲み込んでいます。

整体を定義するのは難しいのですが、「骨の位置を直す」のが整体だと認識されている方が多いです。うちの鍼灸院で「整体にも行った方がいいですか?」と尋ねてくる患者さんは、鍼灸で痛みやしびれが取れても、ちゃんと骨格を直さないと根本治療にはならないのではないか、と考えているように思います。

鍼灸では整体のように骨格の調整ができないというのは誤解です。本当は「そもそも整体とは」という話をしなければいけないのですが、早く本題に入りたいので割愛します。鍼灸が骨格に作用しているという話をしようと思います。


ツボと連動


活法という整体を通じて身体の連動を学びました。一見関係なさそうなところが関係しているなんてことがたくさんあるのです。鍼灸学校で解剖学や運動生理学は勉強するのですが「連動」に着目しません。トレーナー志望の学生が自主的に学んでいたという印象です。

ですから、たいていの鍼灸師にとって「連動」という視点は馴染みがありません。ですが、ツボに鍼をすると連動に変化が起こるのです。連動しているところは刺激したツボから離れていても変化が起こるのです。

意識をせずとも、鍼灸師がツボに鍼灸で刺激をすると動きが変わっているのです。ただ、多くの鍼灸師がそこに注目していませんでした。せっかくのツボの効果に気づかず素通りしている状況にあったのです。

私の中に使命感のようなものが芽生えました。

ツボと動きの関係を明らかにするというテーマが目の前に現れたのです。活法で起こる変化を鍼で再現できないかと考えながら施術をするようになったのです。


「古武術鍼法」改め「整動鍼」に


得られた知見は、古武術へのリスペクトから「古武術鍼法」と名付けたのですが、古武術の印象が強すぎて、本来伝えたい「ツボと動きの関係」が隠れてしまうので翌年には「整動鍼(せいどうしん)」と呼ぶようにしました。

「体を整える」という意味の「整体」になぞらえて「整動」を採用し、鍼を中心に使うので「整動鍼」と名付けました。説明しなくても「動きを整える鍼」とわかるようになりました。

2014年、今から9年前のことです。


脊柱を軸に理論を組み立てる


この整動鍼は、理論の軸を脊柱に設定しました。脊柱が自由に動く状態が健康であるという基準をつくりました。真っ直ぐか曲がっているかより、可動性を重視します。曲がっているように見えても不自由なく動けば問題なしと考え、逆に真っ直ぐに見えても動かなければ問題ありと考えるのです。

四肢(腕や脚)の動きは、脊柱と連動しているのだから問題が生じれば脊柱に現れるとシンプルに考えます。このシンプルな考え方から出発し、どことどこが関係しているのかを調べ続けて、テーマごとにまとめました。それが整動鍼のカリキュラムで10年続けてきたものです。

鍼は連動を探すには最高のツールです。極点を刺激できるので、その刺激の応答が極めてシャープに現れるのです。変化したところがピンポイントでわかるということです。

鍼でなくても手を使って周辺の筋肉を揉みほぐしても変化は出るのですが、変化が出るところが広くなるので、どこに作用しているのか、その一点を知ることが難しいのです。

鍼は点で効くので点で変化が起こります。

点しか変化しないことが臨床でのデメリットにならないように、動きの起点になるところを対象にします。簡単にいえば、動き始めで重要なところを狙うのです。初動が良くなると周辺に波及していきます。

こうした動きの調整を経験的にされている鍼灸師はたくさんいると思います。整動鍼のみが動きを整えられると言いたいのではありません。ツボが本来持っている「動きが整う効果」を探し出して整理したに過ぎません。


動くから痛みが取れる


患者さんが求めているのは、動きの改善より痛みの軽減だと言われることがあります。興味深いことに、動きが整うと関節や筋肉の負担が減るため痛みも軽減します。整動鍼は痛みを軽減させるという目的においても高い効果を示してくれます。

というより、痛みの改善が得意な方法なのです。整動鍼は、関節や筋肉を整えて痛みまで軽減させるという、患者さんが思い描いている整体そのものです。

この着眼点と実際の効果に多くの鍼灸師が興味を示してくれるようになりました。セミナーは初年度から満席になるほど大盛況。

コロナ禍という苦しい時期もありましたが、セミナーも10年続けてくることができました。最初は、1編しかなかったカリキュラムも今年で10編になりました。色々なテーマでやってきて、ようやく整動鍼の全体像を明らかにできました。


ツボとツボとのつながりを地図にする


整動鍼の理論は簡単に言えば、ツボとツボのつながりです。あるツボに鍼をすると、別のあるところに変化が生じます。さらにそこから変化が別にツボに伝わっていきます。連動の経路があるのです。よく知られた経絡(けいらく)とは、完全に別のルートです。つまり、ツボと動きの関係は経絡では説明できないのです。

整動鍼は経絡とは全く異なる理論です。整動鍼の理論を知っている鍼灸師にしか引き出せないツボの効果があります。この整動鍼ならではの部分に魅力を感じる鍼灸師に整動鍼を伝えてきました。
整動鍼の理論に着手してからゴールは経絡と決めていました。


整動鍼を通じて経絡の始まりを探る


たまに誤解されるのですが、私の目的は経絡を否定することではありません。整動理論を経絡より優れていると言いたいわけでもありません。まだ見ぬツボの効果に出会いたいだけなのです。

同じ身体を観ているのだから、異なる視点で追求していても出会うことになるだろうと、ぼんやりと思っていました。整動鍼に理論の始まりがあったように、経絡にも理論の始まりがあったはずです。

古代の人は、何かを観て経絡学説を仕立たのです。整動鍼を追求しているうちに、彼らが観たものと同じものに立ち会っているような感覚が芽生えてきました。何を観て経絡という発想に至ったのか、理論の始まりとなる原糸のようなものに興味が湧いてきました。

「経絡原糸編」と名付けた整動鍼の十番目。経絡をつくった鍼灸家の意識に触れることができるかもしれません。

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(2023年11月26日撮影)


カリキュラムは一区切りとなりますが、終わりではありません。むしろ、十の編を練り上げていくという仕事が始まります。また、臨床家として整動鍼を使いこなすという課題は存続します。理論をつくったからと言って使いこなせるわけではありません。むしろ、私より上手に使いこなす鍼灸師がこれからどんどん出てくるはずです。楽しみです。

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yoki at 23:48│Comments(2)

2023年11月12日

本日、2年ぶりに新しいカリキュラムをリリースしました。2日間のセミナーでシェアしていきます。1日目を終えて宿泊の部屋で一息ついているところです。気持ち的に落ち着いたものですから、今の心境を残してから床に入ろうと思います。



セミナーを事業として始めたのは2009年ですから、もうずいぶん昔の話です。最初は、活法(かっぽう)という古武術由来の整体を教えていました。「鍼灸師なのに整体?」と思われるかもしれませんが、巷の整体から学べるものはたくさんあるのです。

私はあん摩マッサージ指圧の免許ももっているのですが、こうした技術に含まれないテクニックが数え切れないほどあります。特に活法はその宝庫だと感じました。現に私の鍼灸師人生を大きく変えるきっかけとなりました。出会っていなければセミナー事業を始めることもなかったですし、「整動鍼」という新しいコンセプトを提唱することもありませんでした。

整動鍼セミナー

整動鍼を初めて世に出したのは2014年。従来の鍼灸とは違う考え方をするので、最初は批判的な意見もありましたが最近は肯定的な意見ばかりです。続けてきて本当によかったです。とはいえ批判を受けてこそ成長するものですから、今もご意見から目を背けないようにしています。

誤解されがちなので補足すると、整動鍼は流派ではありません。ですから習いに来てくれる鍼灸師は門下生ではありません。言うなれば整動鍼というコンセプトの賛同者たちです。

そのコンセプトは「ツボとツボの間には張力のネットワークがある」というものです。ツボとツボは人体が力学的なバランスを取るために必要な要所であると捉えています。いっぽう、従来のものは「ツボはエネルギーが流れる通り道にある」と考えています。



受講者さんたちに繰り返し言っているのは「従来の考え方が全てだと信じてしまうと得られる恩恵が減ってしまう」という話です。従来の考え方では理解できない現象が新しい考え方で理解できるのです。

従来の鍼灸を一言で表せば「経絡(けいらく)」という言葉で表すことができます。経絡とは体内に流れるエネルギーの通り道です。この経絡は実体が明らかになっておらず、鍼灸業界のミステリーです。否定する鍼灸師もいます。

私は推測や願望を入れたくないので「実体は見つかっていないが、鍼灸師のガイドラインの一つとして機能しているもの」であると考えています。

「一つとして」の部分が肝です。他にもあると考えているからです。一番もったいないのは、経絡を唯一のものであると信じてしまうことです。人体で起こる現象を経絡で説明することには限界があります。対応できる症状が限られてしまうのです。

鍼灸は不思議なもので、解剖学では説明できないことばかりが起こるのです。医学部を出ている医師でも不思議がります。不思議なところばかりに目を向けるとスピリチュアルな世界に引き込まれやすくなりますが、解剖学から完全に離れてしまうのは危険です。

整動鍼セミナー

鍼灸師のポジション取りはむずかしく、解剖学に偏りすぎたら鍼灸独自の効果を見逃してしまい、スピリチュアルに偏りすぎると科学から離れて根拠を示せなくなります。うまくポジション取りができずに悩んでいる鍼灸師も少なくありません。私もその一人でした。

そこから抜け出すためにもがいて到達したのが「整動鍼」というコンセプトなのです。整動鍼は解剖学的な知見を尊重しつつも、そこからはみ出てしまう現象を何とか説明しようと試みています。そのアイデアとして「張力」を用いています。

張力はゴムを引っ張ったら縮むアレです。人体にも伸び縮みする筋肉があって、その筋肉が生み出す収縮力を利用して動いているわけですから張力が発生しています。その張力の起点にツボがあると仮定して理論を展開しているのです。

解剖学では、筋肉の構造で人体を理解するので筋肉が実際に繋がっているかどうかが重要ですが、整動鍼では実際の構造がどうであれ、変化を観察できたなら何かしらの関係が存在していると見なします。もちろん再現できるものだけしか採用しません。

再現できているかどうかは、関節の可動域の変化やツボの触診で確認しています。最初は私自身が再現できるかどうかを試し、次に近くにいるスタッフが試します。それで再現ができればセミナーに持ち込みます。そして受講者の鍼灸師がそれぞれの現場で試すという流れです。

整動鍼セミナー

受講者さんにまで試させているのかとお叱りを受けるかもしれませんが、受講者さんは私が何十回、何百回、時には何年もかけて検証をしているのを知っているので、セミナーに持ち込まれるものは相当再現性が高いと信じてくれています。その上で検証に参加してくれているのです。

鍼灸には古典がありますが、伝統は「昔の人が書いたものは正しい」と信じることではありません。検証を積み重ねたものが伝統になっていくと考えています。

整動鍼セミナー

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2022年10月15日

整動鍼_基礎_取穴復習編_2022年10月2日〜3日


取穴だけのセミナーは他では聞きません。たぶんうちだけだと思います。

この取穴だけのセミナーは何年も前からやっていますが、すぐに満席になってしまう人気セミナーです。内容が地味なので、初めて企画したときはこんなに集まるとは思っていなかったので、このセミナーが必要とされている理由を考えてみました。


鍼灸師の技術差


鍼灸師はツボのプロとはいえ…ツボが完全にわかるわけではありません。野球で考えるとよくわかります。野球選手は、投げたボールを打つバッティングのプロですが、10割ではありません。もちろん、素人からみたらものすごい技術を持っているのですが完璧でなく、プロによって技術差があります。

鍼灸師も同じです。ツボを取るプロとはいえ鍼灸師によって技術差があります。私も発展途上。完璧からは程遠い状態です。鍼灸師になるには最低3年の専門教育が必要ですが、本当にツボを使いこなすには、実務経験が不可欠です。不思議なことにツボは使えば使うほど奥深さに気がついて、わからなくなります。学び始めた学生のときの方が、ツボがわかるような気がして幸せだったかもしれません。

このセミナーにやってくる鍼灸師たちは、実務の中でツボの奥深さに気がついてしまったのです。ツボの位置や深さを丁寧に探ってみると、今までとは違う別次元の効果を知ることになります。カルテに記載されたツボは同じでも効果が全く別モノになってしまいます。


鍼灸の本質はツボの探求


私は、鍼灸の本質はツボの探求だと考えています。そうでないと、金属が体内に入ったときの反応(鍼)、皮膚上で植物が燃えた時の反応(灸)となってしまいます。鍼灸というのは、鍼が効くわけでも、灸が効くわけでもなく、ツボが効いているのです。

ツボが300以上あるので、鍼灸師はそれをすべて覚えなければいけません。「大変ですね」と言われることがありますが、それは大変ではありません。たいへんなのは、ツボ一つひとつの効果を引き出すことです。顔と出身地を知っているからといって、信頼関係ができるわけではありませんよね。ツボも同じです。ツボの性格や特技を知った上で、使い手も技能をさらけ出す必要があります。ツボの能力を引き出すには、何にも増してツボの正確な位置が重要です。


ツボの正確な位置


ツボの正確な位置は、経験豊かな鍼灸師が決めるわけではありません。そうであれば、経験で担保されているものはなにか、という話になってしまいます。それに経験豊かな鍼灸師が同じ位置に落ち着くわけではありません。

このような理由から、私はツボの位置を定めるにあたって経験的要素を排除しました。そのツボに効果があるならば、何らかの変化が起きるわけですから、その変化をキャッチできるところ、もしくはその変化が最大化するところをツボと定めるのです。

誰もがその変化を共有できるところのみをツボと定めるのです。実務経験の長い人もそうでない人も、ツボの前では平等です。鍼灸師がどこをツボだと思うかではなく、変化を根拠にツボの位置を推定します。

鍼灸師が一人で鍼灸院をやっていると、自分が思う位置が正しいと思いがちです。ある意味、自信を持って施術しなければいけませんから「いいのかな…」と思ってばかりでは患者さんが不安になります。とはいえ、自分だけの世界で正しさを決める危うさを無視できません。

鍼灸師が集まって、正しさを検証するという機会が大切です。交流によって鍼灸師の技能は高まると信じています。ですから、私も積極的に多くの鍼灸師と交流を持つように努めています。

このセミナーでは検証して結果が出るところを扱っています。私が中心となって正しさを定めていますが「こっちの方が…」というところが見つかったら修正を行う予定です。

ときに学校で教えるツボの位置と違うこともあり「勝手に…」と批判をされることもありますが、鍼灸師個人が臨床の場で、勝手に正解を決めないための取り組みとして私たちは考えています。もちろん、一人ひとり鍼灸師の完成は違いますがツボの位置は人によって異なることはありません。ですので、鍼灸師の方が自身の感性をチューニングすることによって、同じ位置に定めることは可能です。

ツボの位置がミリ単位で統一できれば、「○○というツボを使って○○が改善した」という情報を共有できるようになります。鍼灸師にとって大きなメリットですし、症例の蓄積した症例の価値も高くなります。


独りでがんばる限界


鍼灸師一人ひとりの努力は大切なのですが、技術交流を断って努力すると我流になる可能性があります。もし、名人芸に発展したとしても言語化していなければ後を継ぐことができないので一代で終わります。鍼灸が発展していくためには、がんばりの成果を共有する意識と仕組みが必要です。一翼を担えればという気持ちで活動しています。

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はりきゅう養気院(群馬県/伊勢崎市)
はりきゅうルーム カポス(東京/品川)
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yoki at 17:54│Comments(0)
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