2005年06月29日

ピンクのガーター・ベルト

b01bad42.jpg☆上はおそまつな黒っぽいセーター・スタイルなのに、私の中身はピンク色に輝き、おなかはたえず一人笑いをした。とくにトイレへ行くときがたのしみである。ぱっとスカートをめくると、たちまちピンクの世界が開ける。おしっこまでピンク色に染まっているようであった。☆ 『私は驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』より

私が鴨居羊子に興味を持つようになったきっかけのフレーズである。というか、このフレーズで私はたちまち鴨居羊子に夢中になり、彼女の著作を見つければ購入する、という日々が続くことになる。
その頃、鴨居羊子の本はもうすでに新刊では手に入らなかったので、古書店をのぞくたびに背表紙に彼女の名前を探した。見つかれば購入して、抱き締めるようにして持ち帰り、彼女の世界にどっぷりはまって読み耽ったものだ。
何て新鮮な人だろう。読むたびに私はそう思った。その頃、私は雑誌『オリーブ』に夢中だったのだが、この雑誌の新鮮さと彼女の新鮮さは、私の中で一本につながっていた。*オリーブが何故好きだったかというと、その理由の一つは、森茉莉、鴨居羊子、久坂葉子、武田百合子、城夏子、深尾須磨子・・・・・etc 大好きな作家たちが私の中でオリーブと何らかの線で結ばれていたからでもある。
とびっきり新鮮! この感覚で、私の中で鴨居羊子とオリーブはつながっていた。そして、実を言うと、もし私がオリーブの編集者なら、こういうかたちで鴨居羊子の特集を組みたい、という案まで心の中で出来上がっていた。笑っちゃうような話だけど。

新聞記者だった鴨居さんは、ある日、小さな店のケースの隅にひとひらの花びらにも似た小さなピンクのガーター・ベルトを発見した。ピンク色のナイロンシェアには小花のプリント、靴下つりのゴムも金具もピンク、そしておへそを祝うかのように細いレースが一面にちりばめられている。
「女のからだをむしったら、こんな一ひらがおちてくる。この一ひらは千五百円もした。思い切って買って胸に抱き締めて家へ帰った」
昭和27年、月17000円で親子三人が食べてゆけた時代の1500円である。
それを家に持ち帰った鴨居さんは、鏡の前で裸になって身につけてみる。
「鏡の前の裸の私は、ピンクのガーター・ベルトと黒い靴下のみをつけていた。髪の毛は若々しく真黒で、目の玉も黒、ヒフの色はピンク。お尻はふっくらしていたが、大柄の体は、少年のように骨張っていた」
脚を組んで煙草を吸ってみたりしながら、小さいピンクのガーター・ベルトと透明な黒のストッキングに包まれた肉体をとっくりと眺めてみる。その時、鴨居さんは大切なことを発見する。それは、女性の美しさは全体的に把握するもので、寸法で把握されるものではないということだ。
鴨居さんは買った翌日からそのガーター・ベルトを身につけて仕事に出かけた。おなかはピクピク動いて笑い出し、鴨居さんの「中身」はピンク色に輝いていた。
ああ、いいなあ! 何て新鮮なのだろう! 何度読み返しても、初めて鴨居さんを発見したときのときめきがよみがえってくる。 鴨居さんはピンクのガーター・ベルトを発見したが、私は鴨居羊子を発見し、出会った。このフレーズは私にとっての鴨居羊子の原点なのだ。

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Posted by yoko_kamoi at 10:16Comments(2)TrackBack(0)yoko kamoi | ピンクの言葉