横浜詩人会 神奈川新聞掲載の詩 「手紙の詩」「港の詩」

横浜詩人会会員による、神奈川新聞掲載の「港の詩」「手紙の詩」です。

手紙の詩81 / 「妹」雫石尚子

手紙の詩81

「妹
雫石尚子

 
 

ほっそりした肩が
水平線に 遠のいたり
     近づいたり
あれは妹
見おぼえのあるホクロも
遠のいたり
近づいたり
わたくしのそばを離れて
妹よ どこへ行ったの


(神奈川新聞掲載2015.7.12

手紙の詩80 / 「博物館で」徳弘康代

手紙の詩80

「博物館で
徳弘康代

 
 

これは何?
これは木簡だよ、四千年前の
木に字を書いて記録したんだ
これは何?
手紙だよ、二千年前の
紙に字を書いていたんだ
へえ、これ何?
ラブレターだよ、知らない?
その言葉は知ってるけど、
これが本物なの? 初めて見た


(神奈川新聞掲載2015.7.5

手紙の詩79 / 「生きる」森下久枝

手紙の詩79

「生きる
森下久枝

 
 

古い手紙の束にふれる
花びらがこぼれるように
匂やかに息をふきかえすたくさんの声
記憶のかなたに
埋もれていた言葉がたちあがり


極上の贈りものに守られている

歩いていく
言葉の杖をいただいて




(神奈川新聞掲載2015.6.28

手紙の詩78 / 「雁の使い」野島茂

手紙の詩78

「雁の使い
野島茂

 
 

あなたがこの世を立ち去って
四年目の水無月を迎えた
今年もあなたの好んだ牡丹が咲いて散った
映画『あなたへ』の主人公は
妻の骨を郷里長崎の海に散骨したが
わたしにはそれはできないので
父母の眠る寺の安らかな奥津城(おくつき)に納めた
可憐なあじさい色の雨が今日は降っている
過ぎ去った歳月はすべて美しく
妻の墓は静かに濡れているだろう




(神奈川新聞掲載2015.6.21

手紙の詩77 / 「返信」田中裕子

手紙の詩77

「返信
田中裕子

 
 

おしまいに さようならと
書かなくなったのはいつからだろう

手紙の底をぽんとたたくと
あなたの匂いがすると
あなたは知らないでしょう


決心のような切なさを押しやっては
実生のように結ぶ言葉を
探していた 待っていた



(神奈川新聞掲載2015.6.14

手紙の詩76 / 「初夏」宗田とも子

手紙の詩76

「初夏
宗田とも子

 
 

遠くから運ばれてきた氷にことづけを注ぐ
昼下がりの指先が凍えてきて
器の底からの
気ままな気泡を数粒はじいた
潜んでいたのは生まれたばかりの水の声
木立が濃くなった
水彩画のあなたの上に
隠れているわたしが溶けて
滲んだ
振り向いてはいけない



(神奈川新聞掲載2015.6.7

手紙の詩75 / 「手紙」堀口精一郎

手紙の詩75

「手紙
堀口精一郎

 
 

台風のまえぶれ 雨降りしきる玄関の土間
泥色にくすんだ馴染みの蝦嚢にぱったり
二年ぶりだな かすかに枯れた匂いを放つ
親父の死んだ日もこんなさびれた季節だった
手づかみでお骨をつかんでいると 何故か
寡黙だった親父の手紙の一節が浮かぶ
「日本刀が手に入ったよ 隊へ持ってゆくよ
特攻に志願したのか 犬死だけはするなよ」
しぶい愛借の言葉 いい親父だったな
冥土へ日本酒一本ぶらさげて会いにゆきたい




(神奈川新聞掲載2015.5.31

手紙の詩74 / 「返信」大鹿理恵

手紙の詩74

「返信
大鹿理恵

 
 

穴あきジーンズで通りを闊歩していた頃
星の数ほど 手紙を書いた
宛名のある物も ない物もあり
返信ありも 以後音信不通もあった
文字にならない返事があると知ったのは
いつのことだったろう
今朝 投函した便りが
オフィス街の夕陽の照り返しに変わる
夕べの 深い祈りが
窓辺に差し込む朝陽へと変わる




(神奈川新聞掲載2015.5.24

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