横浜詩人会 神奈川新聞掲載の詩 「手紙の詩」「港の詩」

横浜詩人会会員による、神奈川新聞掲載の「港の詩」「手紙の詩」です。

手紙の詩65 / 「記憶」仁科理

手紙の詩65

「記憶
仁科理

 
 

つつまれたあたたかさで
あるいてきた
ときに
そのいっぽへと
おしだしたりもした
ちんもくのたしかさと
まんげきょうのうつくしさで
つたえるものをつたえてきた
ちちの ははの
そこにつづく 手




(神奈川新聞掲載2015.3.22

手紙の詩64 / 「雁信」田村雅之

手紙の詩64

「雁信
田村雅之

 
 

桃廼家の屋号を持ったその屋敷から
関八洲を轟きわたる春雷のように
青光りが天に向かって逆一筋
あれはたぶん
草莽のこころざしを身にまとった
亡き人へ宛てた魚雁
あの獣めいた生臭い吐息こそが
モリアオガエルの宇宙に向けて
精魂込めて伝え放った
雁信なのだ



(神奈川新聞掲載2015.3.15

手紙の詩63 / 「行方」小林妙子

手紙の詩63

「行方
小林妙子

 
 

なんの間違いだろう
積み重ねた本のあいだに
挟まっていた
取り出すと
元気かと聞いている
元気だと答える
つながっていく沢山の言葉
それは隠されていた年月の息
覚えのある手紙が一通
こんなところに



(神奈川新聞掲載2015.3.8

手紙の詩62 / 「消息」黒岩隆

手紙の詩62

「消息
黒岩隆

 
 

朝の公園のベンチで眺めていた
鳰が一羽 水輪の下に消えたきり
何時まで待っても浮いてこない
だんだんこころのほうが波立ってくる
間違えて 昨日や明日に
遠い見知らぬ街の公園や水面にでも
ぬっと 顔を出したのか
水仙の乱れ咲く朝のベンチには
とうに会えなくなったあなたがいて
あっ と小さく呟いたか



(神奈川新聞掲載2015.3.1

手紙の詩61 / 「メール・手紙・文」絹川早苗

手紙の詩61

「メール・手紙・文
絹川早苗

 
 

メールより手紙の方が好きだけれど
これも 郵便制度が出来てからの
新しい言葉 古くは文と言われていて
森鴎外の短編『文づかひ』も
郵便配達では味わいや香りが失われ
君の悪い甲虫の幼虫でも「落とし文」
と呼ばれると 親しみがわく
そんな典雅な文、恋文を一度ぐらい
誰かからもらってみたいもの…
わたしの誕生月 文月にでもー




(神奈川新聞掲載2015.2.22

手紙の詩60 / 「一通の手紙」木島章

手紙の詩60

「一通の手紙
木島章

 
 

不意にやってくる一通の手紙が
若者たちに殺し殺されることを強いていた
たった七〇年しかたっていないのに
そんな時代を美しいと懐かしむ人がいる
手紙の向こうで
若者の美しい四肢はみじめに切り裂かれ
愛し愛された者たちの運命といっしょに
累々と横たわっていることを
だから手紙が真っ赤に染まっていることを
差出人は知らない




(神奈川新聞掲載2015.2.15

手紙の詩59 / 「手紙」今泉協子

手紙の詩59

「手紙
今泉協子

 
 

カリブの人を知ったのは昨年の講演を聞いた
時だ。十九世紀にアフリカ人は巾をきかせて
いたイギリス人に奴隷にされたという。虐げ
られた人々は迸る思いを秀れた詩に託し、末
裔の人々が東京にやってきた。彼等の言葉は
手紙のように私に伝わる。つぶやくようにイ
ギリス人は語りかける。「役立たずを連れて
おいで。銃で殺してあげる。」子供達は男を
吊した木の下で石けりをしている。投げださ
れた人の心が今も世界に漂う。



(神奈川新聞掲載2015.2.8

手紙の詩58 / 「便り」西村富枝

手紙の詩58

「便り
西村富枝

 
 

今日、義和さんがそちらへいきました
上海談義にでも花を咲かせて下さい
晴れた空に向き合って
みごとな紅葉でしたが
今は路面に静かに積もっています
敦煌の郊外の楓の枯葉も
砂に埋もれた頃でしょうか
いずれそちらで出会うものでしょうから
悲しみはしませんが
思い出を風に載せて送りつづけます





(神奈川新聞掲載2015.2.1

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