横浜詩人会 神奈川新聞掲載の詩 「手紙の詩」「港の詩」

横浜詩人会会員による、神奈川新聞掲載の「港の詩」「手紙の詩」です。

手紙の詩57 / 「郵便!」平田好輝

手紙の詩57

「郵便!
平田好輝

 
 

間もなく 郵便がくる時刻だ
バイクを鳴らしてくるので
よく分かる
お向かいの松野老人は
もう玄関の三和土に片足を降ろしている
足が不自由なので
早くからスタンバイしているのだ

バイクの音が
だんだん近づいてくる




(神奈川新聞掲載2015.1.25

手紙の詩56 / 「十行のはじまりとおわり」今鹿仙

手紙の詩56

「十行のはじまりとおわり
今鹿仙

 
 

よい手紙を読んでいると
その人の語法、がしみてくる
ことがある
そこに空白の宇宙、が交じったり
故郷のボールをける、音だったり
沼のおもてだったり
人間が手紙になったあとも
続くといいな それなら
遠い列車に乗っていても
ずっとポストの中だ



(神奈川新聞掲載2015.1.18

手紙の詩55 / 「白い手紙」浅野言朗

手紙の詩55

「白い手紙
浅野言朗

 
 

その日を縁取る夕刻 白い手紙 白い手紙
白い手紙 届けられる白い手紙 白い手紙
白い手紙 白い手紙 手紙に何も書かない
白い手紙 白い手紙を投函する 白い手紙
街へと放たれる手紙 白い手紙 白い手紙
白い手紙 街を包んでゆく手紙 白い手紙
白い手紙 手紙を書くことに費やされる街
白い手紙 白い手紙 繋げられる白い手紙
白い手紙に専念する街の人たち 白い手紙
白い手紙へ白い返信 白い手紙 白い手紙


(神奈川新聞掲載2015.1.11

手紙の詩54 / 「赤い瓦の家からの便り」坂多螢子

手紙の詩54

「赤い瓦の家からの便り

坂多螢子

 
 

台所はにぎわっていた
こげつくよ こげつくよ
女たちが黒豆煮ている かまぼこ切ってる
だれもがみんな どこかしら似ていて
似ていてどんどん増えていき
海の音を聞きながら赤い瓦の家では大忙し
外は黒い夜 ほっこりと黒く暖かい夜を
あたしはくるくる巻いて重箱に入れる
ほら朝がきた
おめでとう おめでとう 新年


(神奈川新聞掲載2015.1.4

手紙の詩53 / 「冬の水位 祈りとしての」長田典子

手紙の詩53

「冬の水位 祈りとしての

長田典子

 
 

あなたたちの涙は とつぜん
冬の水位として移動する
伝えよ、と 頭蓋に滴るので
悲しみが込みあげてしまうのだ
寒いでしょう... 冷たいでしょう...
見る見えない津久井の山々
墓底の墓地に今も横たわる
置き去りにされねばならなかった
あなたたちのことを
伝えよ、と 冬の水位 滴るので



(神奈川新聞掲載2014.12.14

手紙の詩52 / 「朧月 ー亡父へー」荻悦子

手紙の詩52

「朧月 ー亡父へー

荻悦子

 
 

あなたが終末の床にあったのに
私はソプラノ歌手の歌を聞きに行きました
澄んだ甘美な歌曲に全身をひたし
どんな私も受け容れてくれたただ一人の人
あなたを失う悲しみにくれていました
この音楽のような清らかな時のうちにあなたが
苦痛から解かれますようにと祈りました
その夜遅くにあなたは逝きました 祥月と
私の誕生月が同じです 無に近づきながら
あなたも私も今月少し新たな存在になります



(神奈川新聞掲載2014.12.7

手紙の詩51 / 「海へ」桜井さざえ

手紙の詩51

「海へ

桜井さざえ

 
 

海へ帰る時 お母さんと一緒だよと書き
花に埋もれた息子の胸の上にそっと置く
逆縁の嘆きに寄り添う あなたの便りは
働き過ぎないよう 無理をしないよう
体を愛しみ 長生きしてください
「これは 私のお願いです」
血よりも濃いあなたの情愛があってこそ
愛しまれ 憎まれ それが血族
棘のないのは姪独り あなたと姪に
お願いされる私の命 満ち溢れて 海



(神奈川新聞掲載2014.11.30

手紙の詩50 / 「文通」保高一夫

手紙の詩50

「文通

保高一夫

 
 

少年の頃に文通した相手から
写真が送られてきて
あまりに想像と合致したので
ドキッとした


その生々しさに
その日限りで返信はしなかった


あれから五十五年
あの人はどうしているのかが気にかかった



(神奈川新聞掲載2012.7.22

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