横浜詩人会 神奈川新聞掲載の詩 「手紙の詩」「港の詩」

横浜詩人会会員による、神奈川新聞掲載の「港の詩」「手紙の詩」です。

2015年05月

手紙の詩75 / 「手紙」堀口精一郎

手紙の詩75

「手紙
堀口精一郎

 
 

台風のまえぶれ 雨降りしきる玄関の土間
泥色にくすんだ馴染みの蝦嚢にぱったり
二年ぶりだな かすかに枯れた匂いを放つ
親父の死んだ日もこんなさびれた季節だった
手づかみでお骨をつかんでいると 何故か
寡黙だった親父の手紙の一節が浮かぶ
「日本刀が手に入ったよ 隊へ持ってゆくよ
特攻に志願したのか 犬死だけはするなよ」
しぶい愛借の言葉 いい親父だったな
冥土へ日本酒一本ぶらさげて会いにゆきたい




(神奈川新聞掲載2015.5.31

手紙の詩74 / 「返信」大鹿理恵

手紙の詩74

「返信
大鹿理恵

 
 

穴あきジーンズで通りを闊歩していた頃
星の数ほど 手紙を書いた
宛名のある物も ない物もあり
返信ありも 以後音信不通もあった
文字にならない返事があると知ったのは
いつのことだったろう
今朝 投函した便りが
オフィス街の夕陽の照り返しに変わる
夕べの 深い祈りが
窓辺に差し込む朝陽へと変わる




(神奈川新聞掲載2015.5.24

手紙の詩73 / 「前略」下川敬明

手紙の詩73

「前略
下川敬明

 
 

ぼくは自己自身を折り畳まねばならない
そこで 己を一枚の真新しい紙にすることに
した 色は白 平凡だがぼくの真率な気持ち
を表明するのに最も相応しいはずだ 大きさ
は中くらい 読み書きに丁度良いほどの
 仕様(スペック)が決まれば後は簡単 ぼくは精神を集
中し呪文を唱える するとーー ぼくは見事
一枚の白紙になった 白紙? まずい! 何
か書かなくては だがもう時間だ 仕方ない
この呟きを記しておくことにしよう 草々


(神奈川新聞掲載2015.5.17

手紙の詩72 / 「ははへ」広瀬弓

手紙の詩72

「ははへ
広瀬弓

 
 

あなたを火葬した翌朝 雪が降りました
あなたの庭が白い炎に包まれ燃えて
葉を落した名も知らぬ庭木の
かぼそく優美な枝たちは
樹形の銀のオブジェになりました
雪の庭は活気あふれる無声映画のようで
わたしはいつまでも見入っていました
春 その枝に小さな鐘の形の
黄色い花が穂になって垂れています
とさ水木という名を知りました



(神奈川新聞掲載2015.5.10

手紙の詩71 / 「墨が舞う」堀井勉

手紙の詩71

「墨が舞う
堀井勉

 
 

文月 文箱 文机
文のつく語は奥ゆかしい

晩秋 庭に実ったハヤトウリを
知人にあげたら
その瓜を描いた絵手紙が届く

奥ゆかしさには程遠いが
存在感たっぷりの
墨の跡



(神奈川新聞掲載2015.5.3

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