横浜詩人会 神奈川新聞掲載の詩 「手紙の詩」「港の詩」

横浜詩人会会員による、神奈川新聞掲載の「港の詩」「手紙の詩」です。

な行の詩人

手紙の詩78 / 「雁の使い」野島茂

手紙の詩78

「雁の使い
野島茂

 
 

あなたがこの世を立ち去って
四年目の水無月を迎えた
今年もあなたの好んだ牡丹が咲いて散った
映画『あなたへ』の主人公は
妻の骨を郷里長崎の海に散骨したが
わたしにはそれはできないので
父母の眠る寺の安らかな奥津城(おくつき)に納めた
可憐なあじさい色の雨が今日は降っている
過ぎ去った歳月はすべて美しく
妻の墓は静かに濡れているだろう




(神奈川新聞掲載2015.6.21

手紙の詩65 / 「記憶」仁科理

手紙の詩65

「記憶
仁科理

 
 

つつまれたあたたかさで
あるいてきた
ときに
そのいっぽへと
おしだしたりもした
ちんもくのたしかさと
まんげきょうのうつくしさで
つたえるものをつたえてきた
ちちの ははの
そこにつづく 手




(神奈川新聞掲載2015.3.22

手紙の詩58 / 「便り」西村富枝

手紙の詩58

「便り
西村富枝

 
 

今日、義和さんがそちらへいきました
上海談義にでも花を咲かせて下さい
晴れた空に向き合って
みごとな紅葉でしたが
今は路面に静かに積もっています
敦煌の郊外の楓の枯葉も
砂に埋もれた頃でしょうか
いずれそちらで出会うものでしょうから
悲しみはしませんが
思い出を風に載せて送りつづけます





(神奈川新聞掲載2015.2.1

手紙の詩53 / 「冬の水位 祈りとしての」長田典子

手紙の詩53

「冬の水位 祈りとしての

長田典子

 
 

あなたたちの涙は とつぜん
冬の水位として移動する
伝えよ、と 頭蓋に滴るので
悲しみが込みあげてしまうのだ
寒いでしょう... 冷たいでしょう...
見る見えない津久井の山々
墓底の墓地に今も横たわる
置き去りにされねばならなかった
あなたたちのことを
伝えよ、と 冬の水位 滴るので



(神奈川新聞掲載2014.12.14

手紙の詩33/「憲亮(けんすけ)へ―あなたの六歳の誕生日に―」中村純

手紙の詩33

「憲亮(けんすけ)へ―あなたの六歳の誕生日に―

中村純

 

憲亮のけんは憲法のけん。憲法は、
この国がもう戦争をしない、こど
もが大切にされる、自分の考えて
いること、大切なこと、いやなこ
とを言ってもいい、という約束の
こと。男も女も、目の見えない友
達も、韓国語を話す人も英語を話
す人も、同じように大事にされる、
という約束です。憲亮へ、一緒に
生きていきましょう。ママより。



(神奈川新聞掲載

手紙の詩1 / 「友への手紙の詩 川端進さんに」中上哲夫

手紙の詩1

友への手紙の詩

川端進さんに

中上 哲夫
 

もしも生まれ変わることができるなら

製材所のような騒々しい町なかではなくて

無口な川のほとりでひっそりと暮らしたいと

たとえば映画『四万十川』のように

足先もさだかでないうちから

川原に降りて行って

仕掛けておいた置き針をぐいと引き上げる

すると

金色の腹の鰻がきらきらと上がってくるのだ

なんてったって母親が樋口可南子なんだぜ



(神奈川新聞掲載2011.9.11

港の詩108 / 「航海日誌の欄外に 細野豊さんに」中上哲夫

港の詩108
航海日誌の欄外に 細野豊さんに

中上 哲夫
 

岸壁につながれた長方形の容器を
もはや船とは呼ばない
旅に出ない者を詩人と呼ばないように
酒と喧嘩とカンテラとラ・クンパルシータと
(地球の裏側まで出かけていったものさ)
ぶどう酒色の夜明けを待たずして
男は額の白髪をかきあげながら決意する
ふたたび旅に出ようと
荒くれのガウチョのように
陽気などさ周りの一座のように


(神奈川新聞掲載2011.9.4

港の詩86 / 「港のひと」廿楽順治

港の詩86
港のひと
廿楽 順治
 

   ひとの後頭部に舟がへばりついている
生き物だからぶかっこうなのはやむをえない
  (きのうの豚屋の火事はすごかったな)
 舟をぶつけあって夜通しこうふんしていた
          沖では死んだものらが
    今でも空への水揚げをおこたらない
    (もりのこかげでどんじゃらほい)
どこにも行かなくたってよい時代があった
          微妙な時代であった
みんなが沈みながら無口な舟を出していた
(神奈川新聞掲載2011.3.13

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