ホームセンター戦記(完結)

ホームセンターの裏側、ドタバタコメディーです。
最初から読む

最終話  ホームセンター戦士

「本日より4日間は創業祭です。ライバル店グッドライフもこれに

ポイント5倍セールをぶつけてきています。

ぜひ、当店に足を運んでいただくよう、皆さん一丸となって

接客中心で本日はお願いいたします。

今日も一日、がんばりましょう!」

店長の挨拶とともに、それぞれが持ち場についた。

「佐久間さん、最近、水戸さん、元気ないっすね。」

矢口が言った。

「そっか?まあ、いろいろあるんだろ。よく知らないけど。」

本当は知っている。たぶん結婚するなら仕事を辞めろと言われたことを

ずっと悩んでいるんだろう。

「水戸さんって、元々はよその会社で事務員さんしてたらしいですね。」

「ああ、短大卒業して、地元でもそこそこの会社だと聞いたな。」

「なんで、辞めてここでパートで働いてるんでしょうかね?」

「うーん、噂なんだけど、どうやらセクハラを受けたらしい。」

「え、あの水戸さんが?」

「うん。なんか若い子だったら誰でもセクハラしちゃうようなスケベ上司だったらしい。

で、水戸は、セクハラするんだったら人を見てやれよ、空気読めよとかなんとか言って

その上司の向こう脛を蹴ったらしい。」

「えー、そんなのでクビになったんですか?それって明らかに上司が悪いじゃないですか!」

「うんにゃ、水戸から辞めたらしい。こんなアホ上司と仕事なんかできん、ってw

らしいよな、なんか。」

「それで就職にあぶれて、とりあえずここでアルバイトからパートってわけか。」

「そそ。でも、いずれは正社員にしてもらえるんじゃないかな、たぶん。

そういう話もチラホラ出てるらしいから。」

「水戸さん、ああ見えて一生懸命仕事しますもんね。割と臨機応変だし。」

「まあね。店長もいろいろ言っても水戸を認めてはいるんだよ。」

「結婚したら、仕事辞めるのかなあ、水戸さん。

結構いじり甲斐があったのになあ。あの人。」

「いじり甲斐ってwまあ、天然だからね、あいつは。」

佐久間は少し寂しそうに笑った。

その日は、怒涛のように忙しくなった。

「ただいまより、タイムセールを行いまーす。」

そう言いながら水戸が鐘をカランカランと鳴らすと、特設会場のワゴンに

どっと人が押し寄せた。

「ただいまより1時間、ワゴン内のものが全品半額ー、全品半額となっておりまーす。

ぜひ、お買い求めくださーい。」

水戸の大きな声が響く。

もうすぐこの声も聞けなくなるのかな。

佐久間はそんなことを思いながらも、一緒に声を張り上げた。

「お買い得商品満載でーす。ぜひお立ち寄りくださーい。」

水戸は佐久間の後姿を見て、ある決意をしていた。


あくる日の朝、佐久間がぼんやり駐車場を歩いていると

後ろから背中をバンと叩かれた。

びっくりして振り向くと、満面の笑みを浮かべた水戸が立っていた。

「なんだ、脅かすなよ。」

「おいっす!今日も元気かね!」

「ていうか、元気だな、お前。」

「うん、すっきりしたからね。」

「は?何が?ウンコでも出たのかよ。」

「バカ!小坊か、お前は!えーっとね、バイバイしちゃった。敦さんと。」

「え?なんで?」

「やっぱ、仕事したいからねー。」

「そんなことで別れたのか?そんなに理解ないのか、そいつは。」

「敦さんを悪く言わないで。私が優柔不断だったのが悪いのだから。

それに、さよならって言ったのは私のほうだから・・・・。」

「は?なんで。バカじゃね?玉の輿、フイにしてまでしがみつくような場所かよ。

いつ正社員にしてもらえるかもわかんない会社に。」

「うーん、まあ仕事のことだけじゃないんだけどね。」

「何かあったのか?」

佐久間が心配顔になった。

「内緒w」

「・・・・?意味わかんね。」


でもまあ、水戸が決めたことだから。

なんだか本当にすっきりした顔してるし。


その様子を後ろから店長と副店長が見ていた。

「なーんか、もどかしいねえ、あの二人は。」

副店長が言うと

「ホント、俺、イライラするわ。」

と店長が言った。

「お互いが鈍だからねえ、あいつら。」

「そうですねえ。」


佐久間は帰りがけに店長に呼び出された。

「これ、やるわ。」

「何ですか?これ。映画の券じゃないですか。」

「息子と行こうと思ってたんだけど、行けなくなったから。」

「2枚ありますね。じゃあ、矢口君でも誘うかな。」

「水戸を誘え。」

「え?なんでですか?誰でもいいでしょ?」

「お前なあ、いい加減気付け。自分に正直に生きろ。」

そう言われて初めて意図がわかり、佐久間は赤面した。

「べ、別に、僕は、水戸のことなんて。。。。」

「いいから!店長命令だ!」

無理やり手渡された。


佐久間は、戸惑っていた。

どうしよう。

その時、後ろから水戸が走ってきて体をぶつけてきた。

「おっつかれー。今日は忙しかったねえ!明後日からも頑張ろうぜい!」

そう言って走り去ろうとしたのを呼び止めた。

「あ、待って。明日、暇かな?休みだろ?」

水戸はキョトンとした。

佐久間の顔が赤い。

「ぜーんぜん暇っすよ?」

「こ、これ。一緒に観に行かないか?」

店長と副店長が陰からガッツポーズを送ってきた。

「ガンダムじゃん!観たかったんだよね、これ!

でも、矢口君誘わなくていいの?3人で行く?」

店長と副店長はガクっと肩を落とした。

こいつも、クソ鈍い。

「なんでやねん。二人で行きたいって言え!」

陰からジェスチャーで一生懸命佐久間に伝える。

佐久間はしどろもどろになった。

「いやさ、店長がさ、息子さんと行けなくなったから、

俺に水戸と行けって言うからさ。」

店長は頭に手を当てて「あっちゃー」というジェスチャーをした。

それを見て、佐久間は汗だくになった。

「えー、なんで店長そんなことを?」

「じゃ、なくて!俺が水戸と映画に行きたいんだ!」

言った、ついに言った。

よっしゃあ!と店長と副店長がガッツポーズをした。

水戸はみるみる耳たぶまで真っ赤になった。

「うん、じゃあ一緒に。」



数ヵ月後、水戸に辞令が下りた。

「水戸奈津子を4月付けで正社員に昇格」


「やったあ!今日から私も佐久間と同じ正社員だよ!」

「良かったな。これからもよろしくな。がんばろうぜ。」


今日もホームセンター ナイスは朝から喧騒に溢れている。

「お客様、申し訳ありません。お待たせしております。」

「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。」

この喧騒と戦いながらも、私はこの喧騒を愛している。

ホームセンターはお客様の暮らしを豊かにし、

お客様のニーズに答え、日々精進していくのだ。

私、水戸奈津子は、ホームセンターが大好きだ。

第九話  仕事と恋愛、どっちが大事?

私、水戸奈津子は、今幸せの絶頂にあります。

母にすすめられて会ったお見合いの相手、高田敦さんは

イケメンで大人で優しくて、最高の男性。

その最高の男性から、会ったその日に気に入られて

現在交際中。

たまに幸せすぎて、明日死ぬんじゃないか、とか思っちゃいます。

今日も仕事が終わって夜は彼の車でディナーへ。

そして夜景の見える山へドライブ。最高!

私がバックヤードで、踊っていると後ろから声を掛けられた。

「やけにご機嫌じゃねーか。いいことあったか?」

「あ、店長!聞いて聞いて、今日、仕事終わったらデートなんですぅ。」

私は腰に手を当ててスキップした。

「嬉しいのはわかるけど、浮かれすぎて失敗するんじゃねえぞ。」

ふん、何とでもお言い。最強幸せ水戸ちゃんには、今はどんな言葉も

受け流せる余裕があるわ。

仕事が終わり、帰ってすぐにシャワーを浴びて、デートに来ていく服を

クローゼットの中から引っ張り出して選んでいた。

やっぱり敦さんに合わせて、ちょっと大人っぽい装いにしないとねー。

ウフフフン♪

夕方7時に彼が迎えに来た。

そして、家族では決して行かないような、おしゃれな隠れ家的なお店で

上品なディナー。

ファミレスみたいに、いっぺんにごっちゃり料理が並ぶわけじゃない。

一品ずつ運んで来られるので、あまりにも腹ペコで行くと恥をかく。

がっつくようなお店ではないので、多少家でつまみ食いしておいた。

「ねえ、奈津子さん。僕は君と結婚を前提にお付き合いしているつもりなんだ。」

敦さんが急に真剣な目で私にそう言ってきた。

私はドキドキして、赤面してしまった。

「僕と結婚したら、君には家に居てほしいんだ。経済的に決して君を困らせないから。」

そう言われて、私は一瞬はっとした。

私が、仕事を辞めて専業主婦で家に居る。

なんとなく、あまりピンと来なかった。

私が黙っていると

「ちょっと早まりすぎたかな。いいんだ、ゆっくり考えて。」

敦さんがそう言った。私は何故戸惑っているんだろう。

次の日、私はぼんやりと昨日の敦さんの言葉を考えていた。

すると後ろからバンと背中を叩かれた。

びっくりして振り返ると佐久間が立っていた。

「おはよう。何ぼんやり突っ立ってるんだ?」

「ああ、ちょっと考え事を・・・。」

佐久間がキョトンとした。

「なんか元気ないな。今、ラブラブ交際中なのに、何か悩みでもあるのか?」

私は黙り込んだ。ちょっと間をおいて

「実はね、敦さんが、結婚したら仕事は辞めて家に居て欲しいって言うの。」

と言った。佐久間は、そっか、と言ってしばらく気まずい間があった。

「で?水戸はどうしたいの?」

「えっ?私?」

「そうだよ。ようは水戸がどうしたいか、だろう?」

「わ、私は・・・・。」

「なんか水戸らしくないな。歯切れが悪い。

要するに、自分がどうしたいかだよ。

お前の人生だろ?他に誰が決めるの?」

「私は、この仕事が好き。本当は辞めたくない。」

「じゃ、決まり。彼氏に仕事続けたい、って言えばいいだけの話だ。」

佐久間が笑った。

今までのどんな笑顔よりも素敵だった。

私はなんだか、ドキドキしてしまった。

なんでドキドキするんだよ。私の彼は、敦さんだろ。

なんか、今日の佐久間、かっこいい。

次の日、敦さんに仕事を続けたいという旨を伝えたけど

話は平行線を辿った。

敦さんが、私が家に居ることにこだわり続けるのは

自分が幼い頃、母がいつも仕事に追われ忙しくて

寂しい思いをしたから、だそうだ。

子供にはそんな思いをして欲しくないということだった。

私はやはり、仕事を続けたい。

二人の間に少し溝ができてしまった。

そして、あろうことか、私はあの佐久間に相談した日から

佐久間の姿ばかり目で追ってしまうのだ。

これはいったい、どうしたことだ。

私、どうかしてる?


第八話  水戸のお見合い

「えー、お見合い?なにそれ。」

私は母ちゃんに向かって、おせんべいをかじったまま言った。

「なにそれ、ってアンタ、ろくな職にもつけてないのに。

もうとっとと嫁にでも行きなさいよ。ほれ、写真、見れ。」

「ひどーい、ろくな職にもつけてないって。いずれ正社員にしてもらえるってばさ。」

「いつ?何月何日何時何分何秒?」

「そういう小学生みたいなこと、言わないのー。大人の癖に。」

私はブーっとふくれた。

テーブルの上に差し出されたスナップ写真を見た。

お見合いの写真ってのはもっとごっつい額みたいなものに入ってるんじゃないの?

どうせお見合いで付き合おうっていうんだから、ハゲでデブのオッサンだろう。

そういう思いで、興味ないけど一応建前上拝むことにした。

写真を見て、私はおせんべいを噛み砕き、ソファーから立ち上がってしまった。

「・・・・かっこいい。」

思わずおせんべいを食べていることを忘れてしまった。

お行儀の悪い娘をヤレヤレと見ながらも、母ちゃんがニヤニヤしている。

「かっこいいだろー。年は35歳だけど、見えないでしょ?」

何故か母ちゃんがドヤ顔だ。

「会ってみるだけ会ってみる?付き合うかどうかは、それからでもいいじゃん?」

オトメンがタイプなんだけど、イケメンもいい。

私は、忘れていた咀嚼した物をゴクリと飲み込んだ。

「う、うん・・・・・・・。」

母ちゃんのニヤニヤが止まらない。


「え?水戸がお見合い?」

佐久間は飲んでいたコーヒーを噴出してしまった。

「うん、今度の日曜日らしいよ。」

矢口が言う。

「へー、あの腐女子がねえ。相手は?」

「ナンでも、35のオッサンらしい。」

「オッサンかあ。まあ、見合いだからな。」

「どうせ、ハゲデブだよ。水戸さん、断るんかな。」

「案外、オタクだったりして。話が合うかもよ。」

矢口と佐久間は笑った。


日曜日、お見合いの日が来た。

私、水戸奈津子、マックス緊張中。

写真より、マジでかっこいい。

私とお見合いで、がっかりだろうな。

いろんな思いと葛藤で頭の中がグルグル回っている。

いつもの頭の中身垂れ流しの私が、言葉が出ない。

お相手は、高田敦さん、35歳。見た目はどう見ても20代後半。

この年で地元企業の社長さんらしい。いわゆる2代目というやつだ。

方や、しがないホームセンターのパートタイマーで腐女子。

釣りあう筈ないだろう。

「奈津子さん、そんなに緊張しないで。僕だって若い女の子と会うのだから。

すごく緊張してるんだよ。」

なんだ、相手も緊張してるのか。

そう思うと少し気が楽になり、笑顔が出た。

いつもの私に戻れた。

高田さんは大人の男性だった。

私の話を楽しそうに、うんうんと聞いてくれた。

ついつい自分の話ばかりしているのに気付き、慌てて相手のことを聞いたりした。

食事の後、そのまま何か見たい映画ある?と聞かれ、恥ずかしかったけど

アニメ映画の名前を出してしまった。

きっと幼稚な女と思われるだろう。

「面白かったね、映画。たまにはアニメもいいなあ。」

お世辞で合わせてるのではなく、心底面白かったという表情だった。

高田さんの車で家まで送ってもらい、別れ際

「今日はすごく楽しかった。もしよければ、また会ってください。

僕とお付き合いしていただけますか?」

と言われ、

「あの、本当に私でいいんですか?」

と答えると

「何故?奈津子さんは、すごくかわいいし、楽しい人だよ?

とても魅力的でチャーミングだ。」

そう言ってくれた。

「でも、高田さん、かっこいいし、モテそう。」

高田さんは笑った。

「モテないよw オジサンだしね。ていうか、高田さんは堅苦しいから

敦って呼んでよ。」

私、水戸奈津子、今が最高のモテ期かもしれません。

舞い上がった気分のまま、次のデートの約束をした。


「最近、水戸、妙に浮かれて気持ち悪くね?」

佐久間が外の喫煙所でタバコを吸いながら言った。

「それがさ、水戸さん、この間のお見合いの相手と

付き合うことになったらしいよ?」

矢口が言った。

「マジでか?まさかのハゲデブフェチ。」

佐久間が驚く。

「いや、それが、イケメンらしいんすよ。

しかも二代目社長らしい。

水戸さん、やりましたねえ。すぐ寿退社したりしてー。」

矢口がニヤニヤ笑う。



佐久間は無言で、タバコを落ち着きなく

何度も速い速度で吹かした。
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

メッセージ
アーカイブ
  • ライブドアブログ