よなぷーの無駄喋り

2018年09月

ライザップといえば、太った人物が鼓舞するような音楽と共に紹介された後、一転華々しい曲になってマッチョになった姿を披露する――そんなCMでお馴染みの、結果にコミットする会社である。

だが、そんな『デブ→痩せ』という方向性に敢然と逆をいった漢がいた。

そう、超絶格闘神にして全宇宙の支配者である三沢光晴猊下――三沢さんである。

三沢さんは常々「理想のボディとは何か」を追求していた。

90年代から00年代初期にかけ、三沢さんはヘラクレスのようなマッチョボディを維持し、猛々しい試合を展開していた。

だが尊師はどこかで、何かが違う、何かが違うとお悩みであったようである。

理想の逆三角形体型。

しかし、三沢さんが求めてやまない究極ボディは、いつまで経っても手中には収まらなかった。

そこで三沢さんはライザップの逆を考えたのだ。

そう、『痩せ→デブ』という方向性である。

三沢さんは決意したら速かった。

煙草を吸うようになり、暴飲暴食。

その腹はみるみるうちに「妊娠?」と聞きたくなるほどの膨張を遂げた。

そうして出来上がったのが、そう、我々の知る『白タンクボディ』である。

兵法や格闘技に通じていない小物たちは、三沢さんの外見を嘲って笑った。

だが三沢さんの白タンクボディは、大木の幹のような安定感と重量感を彼に与え、たとえばエルボー一つとってみても倍以上のウェートが乗るようになった。

実際、三沢さんとドームのメインで闘った川田利明は、試合後「エルボーが重かった」と口にしている。

ライザップの痩せマッチョ製造技術は、確かに素晴らしいだろう。

これからも結果にコミットしていってもらいたいものである。

だが、我々がゆめゆめ忘れてはならないのは、『格闘神は逆をいった』――このことである。

記者「最近、三沢さんに対して『いくらなんでもカッコ良すぎる』との非難の声が上がっています」

三沢さん「それ、誰が言ってんの?」

記者「ロシアの彼です」

三沢さん「彼ね(笑)」

記者「彼です(笑)」

エメリヤーエンコ・ヒョードルことお馬鹿さんから、マスコミ各社に向けて、『ハリウッドに進出した』とのFAXが届いた。

貴重な時間を割かれる恨みを抱きながら、報道陣はいやいやヒョードルの潰れかけのジム『レッドデビル』に足を運んだ。

ヒョードルは白ブリーフ一丁の姿で、背中にロウソクの垂れた跡を多数残したまま現れた。

今まで何をしていたんだ?

ヒョードル「皆さんよくぞお越しいただきました。わたくしヒョードルは、この度、ハリウッドに進出します!」

記者陣、「マジかよ」とざわめく。

記者「一体何という映画ですか? タイトルを教えてください!」

ヒョードルは2時間ほどもったいぶった後、疲労と怒りで声も出なくなったマスコミ陣に発表した。

ヒョードル「『スターウォーズ9』です! 死んだトルーパー役で出演します!」

トルーパーって、あの全身武装した白い兵士のこと?

じゃあ中身、誰が演じても同じじゃないか?

その瞬間だった。

ジムの壁を突き破り、緑色の弾丸――三沢さんが、エルボースイシーダで突入してきたのは。

三沢さんの右肘がヒョードルの左顔面に炸裂する。

ヒョードルは吹っ飛び、反対側の壁をぶち壊して夜空の彼方へ消えていった。

三沢さん「はっきりいってヒョードル君が本当に出演したかどうか、確認する術がないよね。というか、多分彼の持つ負のオーラにあてられて、監督はカットしてしまうだろうけれどね、ぶっちゃけ」

報道陣、感動。

記者「あの、三沢さん。取材、いいですか?」

三沢さん「(ぶ)はははっ! いいね、行こう! 行きつけのストリップ劇場があるんだ」

三沢さんを先頭に、記者たちはゾロゾロとジムを後にした。

どこかでウグイスが鳴いている。

やっぱり三沢さん最強!

稀勢の里の「鶴竜を倒した程度でうぬぼれるな。三沢さんなんて弱っちい。最強はこの俺」という発言を受けて、三沢さんが激怒した。
「はっきり言って、闘わずしてそんなこと言われても参っちゃうよね。なら俺の対戦要求、受けてくれるよね、ぶっちゃけ」
これには稀勢の里もエキサイト。マスコミを通じて「よし、相撲ルールで勝負だ!」と、恥ずかしいアピールを行なった。三沢さんの得意なMMAルールでなく、自分に有利な土俵を選ぶ辺り、格闘家としてナンセンス過ぎる。
だが三沢さんは「構わないよね、はっきり言って」と受諾。ここに三沢さんvs稀勢の里の相撲対決が電撃決定した。

そして勝負の時はきた。千秋楽の後に組まれたスペシャルワンマッチは、多くのカメラマン、観衆の視線が注がれる中で始まった。
まずは弱い方の稀勢の里から入場だ。安室奈美恵のキャンユーセレブレートがかかる中、「引っ込めカス!」「三沢さんの足の裏を舐めろ!」「また休場する気だろ?」との罵声が飛び交った。猫の糞や入れ歯、ミカンの皮にポップコーンの空き箱が、続々と稀勢の里に命中する。
それでも稀勢の里は、相変わらずの無表情で土俵に上がった。図太い性根が見て取れる。
続いて強い方の三沢さんが入場する。『スパルタンX』の旋律が流れると、超満員札止めの大観衆は大『三沢』コール。三沢さんは緑のタイツの上に、黒いまわしを穿いて堂々歩いてきた。「よっ、最強!」「最強性が高い!」「格闘神様っ!」と、やや当たり前過ぎる声が投げかけられる。それらに片手を挙げることで応えながら、三沢さんは土俵へ上った。
行事である和田京平レフェリーが両者を土俵中央へ呼び寄せ、ルールを確認する。やがて2人は左右に分かれ、同時に屈み込んだ。行事が軍配を返す。いよいよ、三沢さんと稀勢の里の一騎討ちが始まるのだ!
稀勢の里が両手をついた。三沢さんも前にかがみ、慎重に手を下ろす。
それが接地した、次の瞬間。
稀勢の里はなんと張り差しで立ち会ったのだ。この無礼者が、何様のつもりで三沢神の頰を張るか――そう観客が怒り心頭に発したとき。
三沢さんの張り手が物凄いスピードで、稀勢の里の頰下駄を粉砕していた。稀勢の里はペチッと三沢さんの鎖骨辺りをビンタしながら、膝から土俵へ崩れ落ちた。ピクリとも動かない。
三沢さんの勝利だ!
会場は割れんばかりの大歓声が乱舞し、渦を巻くように人々の鼓膜を攻めた。その大熱狂の中、和田京平が三沢さんに懸賞5億円を渡す。片手でそれを掴んだ三沢さんは、稀勢の里が死んでいないことを確かめると、観客たちによく見えるように高々と掲げた。
今場所は三沢さんの優勝だ。誰もがその思いを等しくした。格闘神が優勝じゃなくて、誰が代わりとなるのか。その願いである。
かくして賜杯まで手にした三沢さんは、最後にマイクを握って絶叫した。
「次、白鵬!」
三沢さんと最強横綱の対決は黄金カードとなるだろう。今から実現が楽しみで仕方ない。
観客たちは大満足で万歳三唱するのだった。
やっぱり三沢さん最強!

第2巻買ったよん。

原作はしろまんた先生のWeb漫画で、『次にくるマンガ大賞2018』Web部門1位!

この結果でだいぶ長く楽しめるようになるのかと思うと、喜びもひとしおです。

内容はデカくてゴツい先輩・武田(男)と、小さくて意固地な後輩・五十嵐(女)の2人を中心とした社会人コメディ。

ほぼカラーページなので厚さの割りにちょっとお値段がかかるんですが、癒される内容で不満も帳消し。

ぜひ一家に一冊、置かれてみてはいかがでしょうか。

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