遂にこの日が来た。
世界格闘技界の大御所でありエースでもある真格闘神・志賀賢太郎と、ボクシング界の無敗男・メイウェザーのエキシビション対戦が、いよいよ始まるのだ。
さいたまスーパーアリーナは超満員の観客で札止めとなった。皆、志賀が得意の右ストレートでメイウェザーを粉砕する場面を期待している。熱気は最高潮に達して、冬なのにカッカと汗を掻く観客は少なくなかった。
前座のドリフターズのコンサートが終わり、いよいよ両者が姿を現わす。
まずは弱い方のメイウェザーから入場だ。『ドリフ大爆笑』のオープニングソングをBGMに、「シッ! シッ!」とかぬかしながらシャドーを繰り返しつつ花道を行く。
観客に彼のファンは1人もいなかった。「八百長野郎」「キック1発5億円だなんてふざけるな」「何がエンターテイメントだこのハゲ」と、場内は罵声とブーイングの渦に飲み込まれた。
メイウェザー目掛けてトイレットペーパー、ミカンの皮、ホカホカのうんこが入ったジップロック、中身入り検尿コップ等が投げ込まれる。メイウェザーはそれらをスウェーやステップでかわしながら、とうとう入場路を踏破。リングに上がった。
続いて強い方の志賀賢太郎が入場だ。名曲『TRADITION』が流れる中、観客からは「殺しだけは勘弁してくれよ」「真格闘神最高」「世界に兄貴の実力を見せたれ」等、メイウェザーとはうって変わって暖かい言葉が投げかけられる。遂には大『志賀』コールまで発生し、会場は割れんばかりだ。おひねりが飛びまくり、志賀は矢沢永吉の一生分のお金をこの2秒で稼ぐ。
志賀がリングに上がった。いよいよ闘いが始まる。レッドシューズ海野レフェリーが四角いジャングルの中央で両者を引き合わせる。ルールチェックだ。
さすがは世界に名を知られたメイウェザーだ。目前に対峙した志賀の圧倒的な威圧感に、早くもちょっぴり失禁している。ハゲはハゲなりに相手の実力が多少は分かるということか。
海野が離れる。赤青両コーナーに志賀とメイウェザーが後退した。ゴングが鳴り響き、決闘の幕が上がる。この日一番の大歓声が両者を包み込んだ。
メイウェザーは軽いフットワークで素早くリング内を移動し始めた。中央に仁王立ちする志賀の周りに円を描く。届かないと分かりきっているジャブを出しながら、屁っぴり腰で早歩きするその様は、例えるなら惑星の周囲を回る衛星といったところか。そのまま1分が経過する。
ここで志賀が動いた。ガッチリ固めたガードでメイウェザーに肉薄すると、まずは挨拶がわりの左ボディーを炸裂させる。内臓が破裂でもしたのか、メイウェザーは泣き顔になって崩れ落ちた。場内はやんやの喝采だ。
海野レフェリーはしかし、ダウンを取らなかった。こんな、ただの一発で世紀の決戦を終わらせるわけにはいかないのだ。
海野はメイウェザーを羽交い締めして、無理矢理起こした。その泣きべそをかいた顔面へ、志賀の右ストレートが強烈に決まる。メイウェザーの鼻がひん曲がり、真っ赤な血しぶきが花のように咲いた。メイウェザーは再びリングに突っぷす。
だがこんな程度ではメイウェザーは許されない。何しろ真格闘神・志賀賢太郎に喧嘩を売ったのだ。最期はやはりこの技だ。
志賀がメイウェザーにSTFをかける。片羽締めに移行した。そのままもろとも裏返る。
皆んなが見たかった「パーフェクトホールド」、『志賀絞め』だ。メイウェザーは高速タップし、ギブアップを表明した。
志賀が技を解いて離れる。完全なる志賀の勝利だ。さいたまスーパーアリーナは蜂の巣をつついたような大騒ぎとなり、おひねりが豪雨のようにリングに投げ込まれた。ボロボロながらも命は取り止めたメイウェザーは、失禁と脱糞を同時に行ないながら、海野レフェリーのキックで場外に蹴り出される。
志賀がマイクを持った。ハスキーボイスで「次、誰でもいいぞ!」と叫ぶ。観客の大歓声、悲鳴、泣き声が混合し、場内は興奮のるつぼと化す。
やはり志賀は最強だった。彼こそは真格闘神だ。
こうして2018年の年末は楽しく暮れていくのだった。
どこかでウグイスが鳴いている。