よなぷーの無駄喋り

2019年09月

遂にこの日が来た。

日本国国王にしてプロレスリング・ノアの主――志賀賢太郎様と、八百長野郎エメリヤーエンコ・ヒョードルの実弟――アレキサンダーの一騎討ちである。

まずは志賀賢太郎様が後楽園ホールに到着。

愛車のカウンタックを執事に任せると、悠々建物に入っていく。

入り待ちをしていた志賀様臣民の数百名全員が、歓喜して万札のおひねりを投げ込んでいった。

もちろん平民のおひねりなど、億万長者である志賀様にはただのゴミでしかない。

それでも部下に命じて全部拾わせるのが、真格闘神・志賀様の流儀だった。

続いてその志賀さまと闘うことになるアレキサンダーが登場。

早くも小便を漏らしながら、「殺されてしまう」「お前らは俺の命などどうでもいいのか」などとわめいていた。

志賀様の入り待ちは誰一人として残っておらず、いやいや撮影するカメラマンたちがかろうじて格好をつけている始末だった。

ヒョードルの妻が緑色のスリッパで、暴れるアレキサンダーの後頭部を強打。

アレキサンダーは失神状態となり、何とか付き人たちの手で建物に担ぎ込まれた。

後楽園ホールは超満員札止めの大盛況。

あの志賀様が小さな会場で間近に観られるとあって、チケットの争奪戦は血で血を洗うものだった。

前座の「川田利明対パッキャオ」がジャンピングハイキックで川田の勝利に終わると、場内は暗転。

まずは弱い方のアレキサンダーから入場だ。

昏睡状態で担架に載せられたアレキサンダーが、ヒョードルたちゴロツキどもの手でリングへと搬入される。

入場曲はマイケル・ジャクソンの『ビート・イット』だった。

観客はトイレットペーパーやみかんの皮、鼻を拭いたばかりのティッシュなどを次々と投げつけた。

「志賀様の御手をわずらわせやがって」「兄弟揃って八百長か」「地獄に落ちろ!」などのヤジが飛び交う。

続いて強い方の志賀賢太郎様の入場だ。

『兄弟舟』が流れる中、周囲に手を振りつつ、確固たる足取りでリングに向かう。

「私と結婚して!」「いよっ、真格闘神!」「最強過ぎる!」などの声援が満場を埋め尽くし、温かいおひねりが宙を舞った。

かくしてスポットライトに照らされるリング内に、主役の二人が入っていった。

後楽園ホールは耳をつんざく志賀コールで揺動し、志賀様への憧憬の眼差しと、アレキサンダーへの蔑視とが入り交じる。

レフェリーの和田京平がリング中央で、闘う両者を引き合わせた。

ルール確認である。

志賀様の殺気に満ちた眼光を直視せず、下手くそな口笛を吹きながら横を向くアレキサンダー。

蛇口をひねった水道のように、その腰から小便が絶えることなく流れ落ちている。

やがて両者が左右に別れた。

闘いの幕開けを告げるゴングが、高らかに打ち鳴らされた。

アレキサンダーがしゃがみ込み、平手でマットを素早く叩く。

ギブアップの意思表示だ。

大怪我をするぐらいならさっさと負けた方がお得ということらしい。

神聖な決闘を汚し、観客の気持ちを無視する最低の行為である。

もちろん和田京平は認めない。

こんなことで試合を終わらせたら、まさに茶番ではないか。

アレキサンダーの恐怖感は分かるものの……

志賀様がダッシュし、アレキサンダーの顔面にビッグブーツを放った。

靴の裏の形状に陥没したアレキサンダーの顔から、早くも鼻血が噴出する。

志賀様は漏らし続ける敵に関節技を仕掛けるのは、さすがに衛生面で嫌だったらしい。

今度は倒れたアレキサンダーにストンピングの雨あられだ。

大興奮、大熱狂の中、アレキサンダーは体中の骨という骨を叩き折られた。

プロレスを、プロレスリング・ノアを舐めるな。

総合格闘技など、所詮相手ではないのだ。

観衆は拍手喝采で志賀様を支持。

和田京平は、さすがにこれ以上は無理だと悟ったのか、志賀様とアレキサンダーの間に割り込んでゴングを要請。

高らかに鐘の音が鳴り響く。

志賀賢太郎様のKO勝ちである。

実にあっという間の秒殺劇であった。

紙テープが八方からリングに投げ込まれ、祝福と感激の拍手が志賀様の頭上に降り注ぐ。

志賀様は付き人の丸藤正道と抱き合うと、マイクを手にした。

志賀様の貴重なお言葉が聞ける。

後楽園ホールは一瞬にして静まり返った。

志賀様が照れたように頬をかいた。

「すいません。また秒殺しちゃいました!」

爆笑が起こり、志賀様のおちゃめな一面に感動する人々多数。

「今回はヒョードル選手の弟、アレキサンダー君との試合でしたが、『志賀絞め』を披露出来なかったのは悔いの残るところです」

客席からは「あの漏らしっぷりじゃしょうがないですよ!」とのいたわりの声が飛んだ。

志賀様は天を指差し、宣言した。

「僕がプロレス界を守ります! 皆さん、信じてついてきてください!」

あまりの温かいお言葉を拝聴できて、女性客からは泣き出す者さえ続出した。

志賀様は、志賀賢太郎様は、今回も勝利した。

彼の快進撃を共有できることに、同じ時代に生まれたことに、感謝の祈りを捧ぐ者多数。

こうして後楽園ホールは史上最も素晴らしい一日を送ったのであった。

どこかでウグイスが鳴いている。

先日、日本国国王である志賀様への不敬罪で逮捕されたエメリヤーエンコ・アレキサンダー。

しかし、話を聞いた志賀様が特別に赦免。

アレキサンダーはシャバの空気を吸うこととなった。

アレキサンダー「いやあ、良かった良かった。志賀には礼を言っておきたいところだな」

記者「アレキサンダーさん、志賀様からあなたへ手紙です。どうぞ声に出して読んでみてください」

アレキサンダー「ええと、なになに……? 『プロレスリング・ノアの後楽園ホール大会で僕と闘いなさい。これは日本国国王としての下命である。逃げたら今度こそ不敬罪で逮捕されると思いなさい。ルールはあなたの得意な総合で構いません。では、対決を心より楽しみにしております』……!」

なんと、志賀様対アレキサンダー、電撃決定だ!

記者陣、一斉にカメラのフラッシュを炊く。

その光に猛爆されながら、アレキサンダーの顔色は真っ青になるのであった。

実兄エメリヤーエンコ・ヒョードルと『馬鹿の兄弟』なるユニットを結成している、エメリヤーエンコ・アレキサンダーがこの度逮捕された。

容疑は『志賀賢太郎国王様への不敬罪』。

何でもヒョードルの潰れかけのジム『レッドデビル・スポーツクラブ』で行なった記者会見において、以下のような問題発言を発したらしい。

馬鹿「志賀賢太郎は兄のヒョードルを倒したかも知れないが、弟の俺はKOも3カウントもギブアップもしていない。俺の方が強いということだし、志賀など恐れるに足らん」

この暴言が飛び出るやいなや、記者陣から「今のは不敬罪に当たるのではないか」「誰か警察に連絡を!」「やっちゃったな、アレキサンダー……」との声があいついだ。

アレキサンダーはいきなり騒然となったジム内の空気に酷くうろたえた。

そして、自分の放った台詞のまずさに思い至ったらしく、慌てて「そんな意見もあるということだ」と言い訳をする。

もちろんそんなものが通用するわけもない。

報道陣は今しがたの妄言を、レコーダーでバッチリ記録しているのだ。

10分ほど経過して警察が到着。

通報者からあらましを聞くと、アレキサンダーを後ろ手にして、その手首に手錠をかけてしまった。

警察「ご協力ありがとうございました」

こうしてアレキサンダーは不敬罪で署に連行されていった。

果たして彼の運命やいかに……!

どこかでウグイスが鳴いている。

最近はこれをよく遊ぶ。

スマートフォンで楽しめる、位置情報サービスを利用したゲームアプリ。

あんまり外出しないので、なかなか進まなかったりしている。

今んところ嬉しかったのは、メタルスライムを1匹倒したとき。

1500もの経験値が手に入り、一気に強くなったのだ。

また出ないかな……

というか、まだ2人パーティのままなのはまずい。

再びメタルスライムが出ても、殴れる回数が少ないからね。

というわけでイベントクエストは放っておいて、メインのクエストを進めていく。

どこかでウグイスが鳴いている。

スポーツ紙だけでなく、一般紙もこぞって取り上げた「志賀様激勝!」のニュース。

PRIDEの実力者であるヒョードルと、その弟アレキサンダーとを同時に叩きのめした志賀様の実力は、まさに日本国国王としての威厳を保つものだった。

本来敗者に対する配慮から、祝勝会は行なわないのが志賀賢太郎様の流儀。

しかし今回はプロレスリング・ノア社長の強い要請により、志賀様も重い腰をお上げくださった。

パーティーは横浜アリーナに関係者のみを集めて開催。

しかし人脈の広い志賀様である。

たちまち会場を埋め尽くさんばかりの招待者が急げや急げと集まったのだった。

志賀様が壇上に上がり、マイクを手にした。

「本日はお越しいただき誠にありがとうございました!」

参加者が盛大な拍手を無形の津波としてぶつけるのを、平然と受ける大人物・志賀様。

「試合後にも申し上げましたが、僕と彼らとの実力差が凄過ぎて、思ったより大分早い決着となってしまいました。もっと皆さんを楽しませたかったのに……。そこだけが悔いです」

場内から「そんなことないぞ!」「志賀様ありがとう!」との温かい野次が飛ぶ。

「皆さんが観たいのは、やっぱり最強対最強。僕と三沢光晴選手の一騎討ちだと思います」

横浜アリーナが縦に揺れた。

それだけ今の言葉は重大だったのだ。

もしや、格闘神対決実現か?

しかし志賀様はおっしゃった。

「でも、僕はまだまだ修行中です。その夢は、いつか実現させるにしても、今は時期尚早かと思います」

聴衆は残念というより納得の吐息を漏らした。

夢は、実現しないからこそ語れるのだ。

「今日は僕の格闘ロマンの出発点として、皆さんの笑顔と共に、胸の中に刻み込む所存です。プロレスリング・ノア最強! ありがとうございました!」

情熱に満ちた大歓声がシャワーのように志賀様の全身へ降り注がれる。

志賀様は大きく手を振ってそれに応えた。

こうしてパーティーは楽しく進んでいくのだった。

どこかでウグイスが鳴いている。

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