よなぷーの無駄喋り

2019年12月

遂にこの日が来た。

2019年大晦日、国立競技場。

日本国国王・志賀賢太郎様対、『火の玉ボーイ』五味隆典の一戦だ。

朝からFacebookもTwitterも、この究極の一戦に関する素人コメントで埋め尽くされていた。

会場には朝から長蛇の列が並び、当日券を買い求める客で一杯だ。

そんな中、志賀様が愛車であるフィアット500に乗って颯爽登場。

早速おひねりと声援の雨あられにあい、苦笑しながら手を振って応えていた。

その後、今度は五味隆典が到着。

一般客に電流爆破バットで殴りかかられそうになるところを、すんででかわす。

大・大ブーイングの中、逃げるように会場内に入った。

夜を迎え、国立競技場10万人の観客は世紀の一戦を前に前座を楽しんでいた。

セミファイナルの石井智宏対村田諒太が、石井の垂直落下式ブレーンバスターで決着すると、場内は暗転した。

ざわめきの中、まばゆいばかりのスポットライトがリングの上に集中する。

「本日のメインイベント、志賀賢太郎様対五味隆典、始めたいと思います」

リングアナの美声に酔いしれつつ、その内容に感激の拍手を惜しまない大観衆だった。

まずは弱い方の五味隆典から入場だ。

民謡『待ちぼうけ』をバックに、拳を突き合わせながらセコンド陣を引き連れて花道を歩く。

何か秘策でもあるのか、その表情は志賀様との闘いを前にしては落ち着き払っていた。

「くたばれ!」「ラ・スカ負けジム!」「脱糞野郎!」との観客からの罵声が飛び交う。

みかんの皮、トイレットペーパー、糞尿の詰まったジップロック、野球の硬球なとが、次々に投げつけられた。

しかし五味は動じることなくそれらをかわし、堂々リングイン。

やはり何か凄い作戦でもあるのだろう。

数日前の志賀様との記者会見では見せなかった、余裕たっぷりの態度だった。

続いて強い方の志賀様が入場だ。

名曲『TRADITION』をBGMに、ガウンをまとった志賀様が悠々花道を闊歩する。

「志賀様ー! こっち向いてー!」「ああ、たたずまいだけで最強過ぎる!」「いよっ、世界最強!」

悲鳴のような応援の声が国立競技場を席巻し、志賀様には暖かいおひねりが飛んだ。

グレート・ザ・サスケがそれを回収する。

やがて、志賀様もリングイン。

厳しい表情で対角線に立つ五味を睨みつけた。

世紀の一戦がいよいよ始まるんだ、という期待感に後押しされ、国立競技場はざわめきとどよめきが静まらない。

そんな中、志賀様と五味はリング中央でルール確認した。

レフェリーの和田京平の言葉にうなずく両者。

彼らの視線は真っ向から衝突していた。

不気味なのは五味の余裕である。

記者会見では恐怖のあまり失禁していたのだが、今日は秘策でもあるのか、醜態はさらさない。

両者が別れた。

期待感に背中を押され、大観衆が盛り上がる。

そして、20時ジャストにゴング。

遂に、伝説となって後の世に語られるであろう究極の闘いが始まったのだ。

志賀様はストレッチをして余裕を見せながら、五味を射殺すような視線を投げかける。

対する五味は、いきなりトランクスを脱いで全裸になると、早速虎の子の技を解禁した。

そう、脱糞の糞圧を推進力とした、補助器具なしの単独空中飛行だ。

ブバババ……という破裂音と共に、大量の糞を撒き散らしながら志賀様に迫る五味。

志賀様はしかし、直線的な動きを読み切って真横にかわした。

ここで五味の秘策が炸裂する。

何と五味は、志賀様に追いついて、その体に抱きついたのだ。

そして天高く舞い上がる。

これが五味隆典の考案した必勝法だった。

いくら格闘技の達人といえども、超高空からマットに叩きつけられれば、ダメージを負わずにはいられないであろう。

五味は志賀様を頭から落とすべく、身をひるがえしてもろとも落下した。

これは志賀様最大のピンチなのではないか――

観客が悲鳴を上げる中、抱き合う二人がマットへと突き刺さる。

刺さったのは――

五味隆典の方だ!

何と志賀様は墜落すれすれのところで、五味のホールドからタコのようにすり抜けたのだ。

五味は対応できず、自分一人で頭からマットに突っ込んだことになる。

墓標のように立つ五味の下半身に、和田京平レフェリーはカウントを数え始めた。

しかし、もちろん五味が立てるわけもない。

結局10カウントで五味のKO負けが宣せられた。

国立競技場を埋め尽くす10万人の大歓声が大爆発した。

「やっぱり志賀様には誰にも勝てないか……!」「脱糞マンも頑張ったけどねぇ」「良くやった、志賀様ぁっ!」

騒音と重低音ストンピングで、国立競技場が倒壊するのではないかと思われた。

それほどの観客の随喜、愉悦であった。

そんな中、糞まみれになったリング上で、志賀様がマイクを手にする。

会場が静まり返った。

志賀様がはにかんだ。

「本当はもっと長く戦って、皆さんを楽しませたかったんですが……。思ったより早く終わってしまいました」

観客大爆笑。

「2019年、ありがとうごさいました。来年はオリンピックイヤーです。より一層のご声援をよろしくお願い致します! まだまだ、プロレスリング・ノアも、志賀賢太郎も、プロレス道を邁進していきます! そして最後に一言! 世界中の誰でも、僕に勝てると思うやつは挑んで来てください! 以上! 良いお年を!」

パンパンに詰まった大観衆は、志賀様のマイクアピールに惚れ込んで手を打ち鳴らした。

志賀様が求める「最強への道のり」を支えることが出来る幸せ。

それを噛み締めながら、リング上の真格闘神に惜しみない拍手が送られ続けた。

やっぱり志賀様最強!

2020年も楽しみだ!

どこかでウグイスが鳴いている。

『60億分の1最弱』『氷の(ように砕け易い)拳』などの異名で知られるエメリヤーエンコ・ヒョードルが、ベラトールジャパンで日本最後となる試合に出場。

対戦相手のクイントン・ランペイジ・ジャクソンにノックアウト勝利した。

もちろん八百長である。

勝った試合は全て八百長、負けた試合は全てガチというヒョードルならではの結果だ。

今回は六本(6000万円)の金が動いたという。

ヒョードルが志賀様の対戦要求から逃げる形で「日本最後の試合」としたことは、既に各スポーツ紙が報じている通り。

志賀様は八百長を許さないため、ヒョードルが勝てる確率は1パーセントもない。

それは当人も重々承知していたということだ。

さらばエメリヤーエンコ・ヒョードル。

またいつの日か、共に。

三沢さんから逃げ回り続け、ノゲイラやミルコ相手に八百長勝利をあげてきたヒョードル。

せめて日本最後の試合ではガチで闘ってほしいと思う。

それか、占いババの力で一日だけ蘇った三沢さんと戦ってもいいし。

セガのメガドライブ用RPG『ヴァーミリオン』では、アーネスト・ホーストとエメリヤーエンコ・ヒョードルが活躍することが予言されていた(ガチ話)。

ヒョードルとしては、メガドライバーの熱い支持を受けているわけだから、ぜひともガチ勝利をあげてほしいと思う。

しかし相手がなぁ……

いやー、あと2日か。

相手はクイントン・ランペイジ・ジャクソン。

ベラトールのヘビー級GP決勝ライアン・ベイダー戦で見せた、超高速おじいちゃん式KO負けを期待したい。

なんにせよ、総合ウェルカムの三沢さんにビビって、対戦要求から逃げ回っていたヒョードル。

日本最後の試合となると、結果はどうであれ、やっぱり寂しいかな。

東京都内某高級ホテルにおいて、金屏風をバックに勇者二人が揃った。

もちろん一方は日本国国王・志賀賢太郎様であり、もう一方は『火の玉ボーイ』五味隆典だ。

大晦日、国立競技場での格闘技イベントで、一対一の決戦を行なう両者である。

カメラの砲列に激写されながら、彼らは二人並んでファイティングポーズを取った。

余裕の表情の志賀様に対し、五味は緊張のあまり失禁している。

五味の足元の水たまりがどんどん広がる中、フラッシュはいつ果てるともなく焚かれた。

やがて志賀様は尿への接触を避けてテーブルの椅子に座った。

五味も腰を下ろす。

一人の記者が志賀様に尋ねた。

「大晦日の対戦相手として、五味隆典。率直に言ってどうですか?」

志賀様は葉巻きに火をつけ、煙をくゆらせながら答える。

「彼には脱糞の糞圧を利した空中飛行があります。油断は出来ません。隙を見せぬよう近づき、詰めて倒したいと思います」

これを死刑宣告と受け取ったか、続いて質問を受けた五味は泡を吹いて失神しかけていた。

「俺は……俺こそは火の玉ボーイ……勝つ……絶対に勝つ……!」

もはや狂人のうわ言にしか聞こえないが、志賀様のオーラを前にこれだけ言えるのは立派というところか。

志賀様が葉巻きを吸いながら再びマイクを持つ。

「ただ、僕のパーフェクトホールド『志賀絞め』は披露できないでしょうね。脱糞には触れたくないので。当日は離れての打撃で仕留めたいと思っています」

時ならぬ噴水が上がった――と思ったら、それは五味の失禁が爆発的に増大しただけだった。

ズボンを破りながら小便が噴出する。

「勝つ……俺は五味……火の玉ボーイ……判定駄目だよ……KOじゃなきゃ……」

それだけ口にして、五味は恐怖のあまり気絶した。

大晦日の闘いの結末は、もう誰の目にも明らかだった……

やっぱり志賀様最強!

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